コラム

2023.06.06 06:00

IT導入補助金の「デジタル化基盤導入枠」とは?

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2023年度版 IT導入補助金 類型判別早見表

【2023年度版】IT導入補助金 類型判別早見表

類型ごとの条件や考えられる活用方法、補助金額、注意点などを一覧でまとめました。補助金申請の参考にしてください。

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※本記事の内容は、記事作成日(20236月)時点の情報に基づいています。最新の情報は各施策の公式サイトなどをご参照ください。

中小企業が一定のITシステムを導入する際に、申請により補助金を受けられる可能性がある「IT導入補助金」。幅広いシステムの導入に対応しており、また申請のハードルも比較的低いため、使いやすい補助金として人気があります。

IT導入補助金は、毎年少しずつ制度内容が変更されています。2021年度は、通常枠(A類型、B類型)の他に、新型コロナウィルス感染症対応の「低感染リスク型ビジネス枠」が設定されていました。2022年度には同枠が廃止され、代わって「デジタル化基盤導入枠」として、デジタル化基盤導入類型、および複数社連携IT導入類型の2つの類型が通常枠に加えて設定され、さらに、セキュリティ対策推進枠も設定されました。2023年にも、それらの枠・類型はそのまま継続していますが、補助額などの内容が若干変更になっています。

本記事では、「デジタル化基盤導入枠」の内容や特徴、および、通常枠(A類型、B類型)との使い分けなどについて解説します。あわせて、スムーズな申請をおこなうための注意点などにも触れていきます。

IT導入補助金の基本と、通常枠の概要

IT導入補助金は、正式には「サービス等生産性向上IT導入支援事業」といいます。

IT導入補助金は、企業が「生産性向上(業務効率化)」に役立つITツールを導入する際に、その導入金額の一部分を国に補助してもらえる制度です。

バックオフィス業務の効率化や新たな顧客獲得など「付加価値向上」につながるITツールの導入を支援するための支援事業です。

中小企業にこんなに使いやすい!IT導入補助金をご存じですか

「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業(ものづくり補助金)」「小規模事業者持続的発展支援事業(持続化補助金)」と並び、「中小企業生産性革命推進事業」の一環として実施されている中小企業支援施策です。

通常枠とその他の枠

今年のIT導入補助金では、

  • 通常枠(A類型、B類型)
  • セキュリティ対策推進枠
  • デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型、複数社連携IT導入類型)

の、3枠が設定されています。

申請の際には、自社のやりたいことに適しているのがどの類型なのかを理解し、それにあった類型で申請をしなければなりません。

インボイス制度と地域DXを見据えて設定された「デジタル化基盤導入枠」

「デジタル化基盤導入枠」には、「デジタル化基盤導入類型」と「複数社連携IT導入類型」の2つの類型(申請コース)が設けられています。

名前からもわかるように、デジタル化基盤導入類型は1社単独での申請、複数社連携IT導入類型は複数者(会社、個人事業主)でコンソーシアムを組んでの申請に、それぞれ対応しています。

インボイス制度への対応のため会計システムの更新が迫られる

デジタル化基盤導入類型については、主に、2023年10月から開始予定の税制改正である「インボイス制度」を見据えて設けられたものだといわれています。

インボイス制度については、まだ詳細な内容をご存じない方も多いかもしれません。

本記事のテーマからは外れるのでごく簡単にだけ説明しますが、インボイス制度は、事業者が消費税の仕入れ額控除をおこなうために、あらかじめ適格請求書発行事業者として登録をした上で、「インボイス」と呼ばれる定められた記載内容の請求書(適格請求書)を発行しなければならない仕組みです。詳細はこちらのコラムをご覧ください。

また、これまで消費税の免税事業者だった小規模事業者は、新たに課税事業者にならないと適格請求書の発行ができません。

このように、インボイス制度スタートにともなって事業者の会計業務や決済業務に変更が求められるため、デジタル化によりその対応をサポートすることが、今回のデジタル化基盤導入枠(特にデジタル化基盤導入類型)の政策的な狙いというわけです。

インボイス制度対応のための会計・決済系システムと、連携での生産性向上システム

通常枠においては、補助の対象となるソフトウェアは、基幹業務システムから、生産管理、人事管理、顧客管理、さらにはCADなどの業務特化ソフトまで、広範囲に設定されていました。

一方、デジタル化基盤導入類型においては、インボイス対応を主目的としているところから、「会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフト」、およびそれを使うためのハードウェアに補助対象が限定されています。

また、複数社連携IT導入類型については、上記と同様のインボイス対応に加えて、さらにデジタル化データを複数社で連携しながら活用し、地域DXを推進して生産性の向上を図るシステムも対象になっています。

デジタル化基盤導入枠

では、デジタル化基盤導入枠の2類型について具体的に見ていきましょう。まず、1社単独で申請できる「デジタル化基盤導入類型」の概要から確認します。

デジタル化基盤導入類型の概要

【補助対象者】
中小企業、または小規模事業者(個人事業者を含む)。
中小企業の定義は、商業・サービス業建設業、運輸業では、資本金3億円以下または常勤従業員300名以下、サービス業では、資本金5,000万円以下または常勤従業員300名以下、など。小規模事業者の定義は、製造業その他では、常勤従業員20名以下など。

【補助対象となる経費】
(1)ソフトウェア
・会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトのいずれかの、ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、導入関連費

(2)ハードウェア
・PC、タブレット、プリンター、スキャナーおよびそれらの複合機器、POSレジ、モバイルPOSレジ、券売機等の購入費用、設置費用
・ハードウェアは、それぞれのカテゴリーに対応するソフトウェアに付加して導入する場合のみ、対象となる。ハードウェアのみでの導入は対象外。

【補助額、補助率】
(1)ソフトウェア
補助額:350万円以下
補助率:50万円以下部分は3/4以内。50万円超~350万円までの部分は、2/3以内。

(2)ハードウェア
補助額:PC、タブレット、プリンタ、スキャナ・複合機等の購入費用:補助上限額10万円、補助率1/2以内
・レジ、券売機等の購入費用:補助上限額20万円、補助率1/2以内

【その他の要件など】
・賃上げ目標の設定は不要。(ただし設定すれば加点項目にはなる)

デジタル化基盤導入類型の特徴、メリット、デメリット

【メリット】
補助額が通常枠A類型と比べて大きく、さらに補助率も3/4または2/3までと、通常枠よりも多くの補助を得ることができることが、この類型のメリットです。

また、通常枠では対象外となっているハードウェアの導入費用も補助を受けられることも、それが必要な事業者にとっては嬉しい特徴でしょう。インボイス対応を機に、レジやPCなどのハードウェアも含めて、会計・決済系のシステムを一新したいと考える事業者であれば、ぜひ利用を検討したいところです。

さらに、通常枠では加点(A類型)または必須(B類型)の要素となっている「賃上げ目標」の設定をしなくていいという点も、通常枠より負担を軽くしてくるメリットとなります。

【デメリット】
一方、すでに触れたように、インボイス制度に対応を主目的としたシステムの導入が前提になっているため、対象となるソフトウェアが、会計・決済系のものに限られていることがデメリットです。

インボイス対応のソフトウェアとは?

なお、インボイス制度への対応をおこなうツールとは、たとえば、会計ソフトであれば、インボイス制度において仕入税額控除の要件となる次の①~④の事項を記載した帳簿および請求書等の保存が可能であるもの、または電磁的記録による保存が可能であるものです。

  • ① 課税仕入れの相手方の氏名または名称
  • ② 取引年月日
  • ③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  • ④ 対価の額

複数社連携IT導入類型

次に、「複数社連携IT導入類型」の概要を見ていきましょう。こちらは、10者以上の事業者が連携した団体として申請する方式になっています。補助対象となる経費は「基盤導入経費」と、「消費動向等分析経費」とにわかれています。

複数社連携IT導入類型の概要

【補助対象者】
通常枠と同様の事業者が10者以上参加する商工団体、まちづくり団体、コンソーシアムなど。

【補助対象となる経費】
(1)基盤導入経費
・デジタル化基盤導入類型に掲げられているソフトウェア、ハードウェアと同様。

(2)消費動向等分析経費
・消費動向分析システム、経営分析システム、需要予測システム、電子地域通貨システム、キャッシュレスシステム、生体認証決済システム 等の購入、導入関連費
・ハードウェア:AIカメラ、ビーコン、デジタルサイネージ 等の購入、設置費

(3)補助事業者が参画事業者をとりまとめるために要した事務費
・団体の取りまとめに必要な事務関連の費用

【補助対象ハードウェア購入費】
・PC、タブレット、プリンター、スキャナーおよびそれらの複合機器
・レジ、券売機等
・ハードウェアは、それぞれのカテゴリーに対応するソフトウェアに付加して導入する場合に対象となる。ハードウェアのみでの導入は対象外。

【補助額、補助率】
(1)基盤導入経費
・デジタル化基盤導入類型に掲げられている補助額、補助率と同じ。

(2)消費動向等分析経費
・50万円×参加事業者数。補助率は2/3以内。

なお、補助上限額は、(1)と(2)をあわせて3,000万円です。

(3)補助事業者が参画事業者をとりまとめるために要した事務費
・(1)+(2)×10%。補助率は2/3以内。補助上限額は200万円です。

【その他、主な要件など】
・賃上げ目標は不要。

複数社連携IT導入類型の特徴、メリット、デメリット

デジタル化基盤導入類型と同様の、会計・決済系システムの導入に加えて、複数者が連携して消費動向分析などをおこない、いわゆるDXを進めて生産性向上に資するソフトウェア、ハードウェアへの補助も受けられることが特徴です。

たとえば、商店街にAIカメラを導入し、参加者店舗のPOSデータと結びつけた分析をするとか、電子地域通貨を発行して参加店舗に分析アプリを導入する、センサー技術とAIにより、天気や交通量から需要予測をおこない、参加各店舗の発注予測に役立てるなど、商業地域全体でのDXを促すものが対象となります。

【メリット】
最大3,000万円の補助が受けられ、個別の店舗や事業者だけでは困難な大規模なDXシステムの導入が可能になることがこの類型のメリットです。
なお、賃上げ目標が不要であることは、デジタル化基盤導入類型と同様にメリットです。

【デメリット】
まず、デジタル化基盤導入類型で触れたデメリットは、こちらにもそのまま当てはまります。
また、10者以上の参加者が必要となり、それだけの参加者がいなければ利用できないことも難点でしょう。さらに、これだけの参加者をまとめて意思決定をするには、時間と手間がかかると思われます。

そのため、もともと商店会や商工会のような形で組織活動をおこなっていた団体であれば、利用しやすいのではないでしょうか。新たに組織化をする場合は、コンソーシアムなどの形態を取ることになるでしょう。

類型の選び方と、申請を検討する際の注意点

最後に、類型の選び方、また申請の注意点などについてまとめておきます。

通常枠の概要

まず、「通常枠」と呼ばれる、A類型、B類型の概要を簡単に確認しておきましょう。

【補助対象者】
上記、デジタル化基盤導入枠の補助対象者と同じ。

【補助対象となる経費】
・あらかじめIT導入支援事業者がIT導入補助金事務局に登録し、認定を受けたITツールのソフトウェア費、導入関連費など。
・ソフトウェア費用のみ、ハードウェアは対象外

【補助額、補助率】
・A類型:5万円~150万円未満(補助率1/2以内)
・B類型:150万円~450万円以下(補助率1/2以内)

補助額の違いが、A類型とB類型の主な違いです。なお、補助率とは購入費等として支払った費用のうちどれくらいの割合を補助してもらえるかで、100万円の購入費で補助率1/2なら、50万円を補助額になるということです。

【その他の要件など】
・A類型:賃上げ目標は加点項目(必須ではないが、あれば審査において有利となる)
・B類型:賃上げ目標は必須項目(賃上げ目標を設定する。ただし、企業規模などによる例外規定あり)

通常枠にするか、デジタル化基盤導入枠にするか

単独での導入申請をする場合、通常枠とデジタル化基盤導入枠のどちらを選べばいいのか、迷うかもしれません。

これは、導入したいソフトウェアの種類によって決めるのがよいでしょう。つまり、会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトのいずれかを導入したいのであれば、デジタル化基盤導入類型を選んだほうが、補助率が高いので一般的には有利となる場合が多いでしょう。

逆に、上記の分類には入らない生産管理、給与管理など、会計・決済系以外のシステムを導入したいのであれば、通常枠のA類型かB類型を利用するしかありません。

通常枠とデジタル化基盤導入枠の併用申請は可能

通常枠とデジタル化基盤導入枠の併用申請は可能です。
たとえば、会計システムについてはXベンダーが提供するソフトをデジタル化基盤導入枠で申請し、人事管理システムについては、Yベンダーが提供するソフトを通常枠で申請する、ということも可能です(ベンダーは、同じでもかまいません)。

ただし、後から申請したほうは、併用していることが減点対象になります。そのため、必要性が高い方を先に申請にすることが、併用申請のコツとなります。

なお、この減点措置については、不採択の場合は、リセットされます。(再申請でどちらか1つの枠のみに申請するなら減点されない、ということです)。

どのようなソフトウェアが選べるかは、IT導入補助金ホームページでわかる

通常枠、デジタル化基盤導入枠のそれぞれにおいて、どのようなソフトウェアが選択できるのかは、IT導入補助金ホームページに掲載され、検索できるようになる予定です。

まず、利用したいソフトウェア(デジタル化基盤導入枠の場合はハードウェアも)を選び、そこからそれらを扱っているITベンダーを、導入支援事業者として選ぶことが、申請の第一歩です。

もちろん、すでに付き合いのあるITベンダーがいるのなら、相談してみるのもよい方法です。

GビズID(gBizID)は早めに登録しておく

IT導入補助金の申請には、行政システムの利用に際しての共通認証システムである、「GビズID(gBizID)」の取得が必要です。GビズIDには「プライム、メンバー、エントリー」という3種類のアカウントがありますが、このうち「プライム」を取得しなければならず、「メンバー、エントリー」ではIT導入補助金の申請には利用できない点に注意してください。

GビズIDの取得は、通常期なら2週間程度で可能ですが、混雑期には最長で1か月近くかかる場合もあるので、申請を検討している方は、早めに取得しておくことをおすすめします。

自社にあった類型を選ぶための無料ダウンロード資料

それぞれの類型について、補助率や対象ツール、活用法などを早見表としてまとめたダウンロード資料をご用意しました。お手元に置きながら、どの類型にするかを検討することができます。ぜひご活用ください。

※本記事の内容は、記事作成日(20236月)時点の情報に基づいています。最新の情報はIT導入補助金の公式サイト(https://www.it-hojo.jp/)などをご参照ください。

井浪竜馬氏の顔写真

取材協力

井浪竜馬(いなみ たつま)

行政書士、宅地建物取引士。新宿、秋葉原、名古屋、大阪に拠点を構える日本最大級の行政書士法人である「サポート行政書士法人」所属。各種許認可、ビザ、補助金等幅広く手掛ける。補助金申請は法人全体で年間2,000件以上の実績を持つ。

中小企業応援サイトロゴ

記事執筆

中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営

全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報はFacebookにてお知らせいたします。

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