事例集

2020.10.01 06:00

できることからコツコツと 小さな工場が始めたICT経営

群馬県高崎市に本社を持つ中川商工は、パッキンやガスケットを中心とした産業用部品を加工・製造している。
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この記事に書いてあること

執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。



現社長の田村武志氏は、祖父が創業した中川商工にアパレルの会社から転身したのが2005年。「社内にパソコンが1台もなく、パソコンを使える人もいない。まるで、置き忘れた過去にタイムスリップしたかのようでした」

以前は上記の本社で全て行っていた。

伝票や台帳の作成などの事務作業はすべて手書き。見積もりや売り上げなどは電卓片手に計算する状態。製造現場は、従業員の技術や経験が頼りにされていた。生産のスケジュールも現場にゆだねられ、経営する側が明確には把握できていない状況だった。おまけに高齢化が進んでいた。

「これでは会社の将来はなく若い人にとっても魅力のある会社になってない。そのためには、会社のICT化を行い、会社の仕事の見える化を進めて若い人に魅力のある会社にしようと、決意しました」

リコージャパンと二人三脚でICT化

しかし、古株の人たちの持つ固有の技術、顧客とのパイプは、会社にとっての財産でもある。なかなか一気にICT化への道が開けなかった。それに、小さな会社には社内にICTの専門家を求めるは無理だった。

「そんな時、前職の先輩からリコージャパンさんを紹介していただき、前担当の山口さん、現担当の清水さんに折に触れて相談に乗ってくれたり、私が関心のありそうなセミナーの案内をもらったりしながら、社内ICT化を進めていきました。当初は販売情報と在庫情報の紐付けのため製造業に特化した販売管理アプリを導入、最も効果を発揮したのは、納期を『見える化』する事で、何を優先すべきかがわかり、みんなが納得する形で作業の優先順位が出来ました」

ICT化のおかげで若手社員への移行ができた

2014年に田村氏は、代表取締役に就任。

「経営者としてうれしかったのは管理する作業が減ってお客様に向き合う時間が増えたことです。ICT化を進める事で若手の採用が進みました。10年以上かかりましたが、確実に進化している、という実感が持てました」

リコージャパンのコンサルタントにアドバイスをもらって、製品の品質向上を最優先課題として取り組み、品質マネジメントシステムのISO9001を取得。ボトムアップ型の品質向上も進み、社員の意識も変わり、顧客からの信頼もアップした。

新社屋に、ほとんどの人が働いている。

また、社屋も老朽化し手狭になったときに、ちょうどよい売却工場が見つかり、経理・総務といった本社機能以外の部門(製造・営業)を段階的に移転した。
あらたな事業所が本社と車で20分ほどの距離にあり、本社の棚に保管している文書等の閲覧がすぐにはできないため、複合機で紙文書をサーバーに保管することで、ネットワーク経由で新しい事業所でもすぐ見る事ができるようになった。

2017年からは、生産部門へのICT活用にも乗り出した。

2017年には受注から納品までのスケジュールや原材料の在庫の管理などを一元的に管理するシステムを新たに導入した。「経験豊かな従業員の技術は会社の宝ですが、その従業員がいなくなってしまえば、あとに引き継がれません。それでは会社の存続も危うい。作業の工程などをしっかりと記録して、誰もわかるようにしたいと考えました」と田村氏は語る。本社工場と新工場との連携に加え、従業員の高齢化に伴う技術の継承という課題の解消を目指した。

 担当する従業員が個人的に管理していた製品一つ一つに商品コードを付けるところからスタート。作業工程などのデータを入力した。田村氏が入社当時、一台もなかったパソコンは、今では10台に増えた。従業員が日々の作業の進捗を製造現場でソフトに入力している。

コロナ禍の中で商工の力とICTの力が発揮できた

そんな中、新型コロナウイルス感染拡大の影響で製造の注文がバッタリと止まってしまった。ところが社名でもわかる通り、中川商工は、製造だけでなく安全具、工業資材の卸も行っている。

「アルコール消毒液を探してほしい、手袋が欲しい、様々な依頼が入って来ましたが、流通で信頼関係を築いた取引先をあたり、気持ちよく協力いただいて何とか調達しました」。製造部門と比べると利益率は低いのですが、小さいながらも複合経営の威力を発揮。 コロナ禍では、取引先と会うことも躊躇する状況になり、Web会議にも取り組み、大企業からは好評で信頼感が増したという。

中小企業のICT活用、まずはできるところからチャレンジ

少子高齢化を背景に労働力不足が深刻化の一途をたどり、中小企業を脅かしている。ここ数年、人材不足が原因で存続が危ぶまれる企業も増加。ICTを活用した生産性の向上は中小企業にとって喫緊の課題だ。

中小企業のICT活用が叫ばれて久しいが、導入は遅々として進んでいないのが実情だ。全国中小企業取引振興協会が2016年にまとめたアンケート調査によると、中川商工が導入したような販売管理、計算管理などの業務基幹系ソフトを活用している中小企業の割合は20%ほどにとどまっている。

中小企業経営者がICTの利活用に踏み切れない理由として挙げるのが、「導入コストの高さ」「導入の効果が不透明」「ICTを利用できる社員がいない」といったものだ。

だが、ここ数年、クラウドの普及や通信速度の高速化で低価格で利用できるサービスも増えている。

中川商工は、ソフトを導入して、すぐにすべての機能を利用したわけではなく、伝票の管理からスタートして徐々に使える機能を増やし、ICT化の果実を享受している。パソコン・ゼロだった会社も従業員もパソコンを使いこなすようになり、会社の生産性の向上に大きな役割を果たしている。中川商工の取り組みをみると、ICT化にしり込みする中小企業経営者の心配は杞憂のように思えてくる。

「できることからコツコツと」。ICTの利活用に踏み切れない経営者は、すぐに成果を求めるのではなく、そんな心持ちでチャレンジしてみてはどうだろうか。

会社情報

会社名

中川商工株式会社

本社

群馬県高崎市末広町87番地

電話

027-322-0944

設立

1953年12月

従業員数

12人

事業内容

ゴム板・ジョイントシール・オイルシート・フェルト・内枠などの打ち抜き加工・工業用製品の販売

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