事例集

2021.04.19 06:00

クラウド導入を機に総務・経理系ソフトを一新 毎月の“決算残業”の大幅削減が可能に 豊和建設(新潟県)

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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


新潟は日本一の米どころだ。作付面積、収穫量、産出額ともに全国1位。魚沼産のコシヒカリをはじめブランド価値の高い米を数多く生産する。米作りに適した土壌と気候、豊富な雪解け水、そして、長年にわたり培った生産者の栽培技術がおいしい米を育んでいる。

豊和建設は、新潟の農業を陰で支える建設会社だ。1993年の会社設立以来、農業土木を得意とし、農地を大規模化する圃場(ほじょう)整備やかんがい排水の整備、土地改良などの農業土木を手掛けてきた。

圃場(ほじょう)整備や土地改良、持続可能な農業の実現に貢献


「農業の生産性の向上に寄与する事業です。高齢化や後継者難で担い手が減少する中、食と農を守るうえで、非常に意義の深い仕事だと自負しています」と上村敏一社長は胸を張った。

圃場整備は畦道(あぜみち)で区切られた狭い区画の複数の田んぼを1ヘクタール以上の大区画の農地にまとめ上げる。広い田んぼにすることで、大型の農業機械で一気に作業ができるようになり、農作業の効率化、生産性の向上が可能になる。このほかにも農地の隅々まで水が行き届くよう用排水路を整備したり、農作業車が安全に通行できるよう狭いあぜ道を広げたりと安全で持続可能な農業の実現に役立つ事業を展開している。

レーザープラウ、レーザーレベラーを使用した圃場(ほ場)整備

レーザープラウ、レーザーレベラーを使用した圃場(ほ場)整備


「農業土木を手掛ける建設会社は全国的にも数がそう多くはありません。軟弱な地盤の田んぼを整備するには通常とは異なる特別な重機が必要になります。こうした重機を扱うのにも技術が求められます。このため、地元の新潟県だけでなく、全国各地からいろいろな相談が寄せられます」と上村社長は説明してくれた。

自治体からの受注を有利に 新潟に会社を設立


上村社長が農業土木を志したのは学生時代からだ。地元の新潟・糸魚川の出身。「子供のころから外を駆け回ることが好きで事務仕事は向かない」と感じ、東京の大学で農業土木を学んだ。在学中に父の知人から静岡県に拠点を持つ建設土木会社の紹介を受けた。その会社の社長に会うと、「大学なんか行かなくていいから、早くうちで働きなさい」と言われ、そのまま卒業せずに就職したという。「昭和の時代はそういうこともよくあったんですよ」と笑った。

豊和建設本社

豊和建設本社


その会社での勤続が20年を経過したころ、上村社長は郷里の新潟支店に配属された。だが、公共事業の受注では地元の建設業者との競争で苦戦することが多かったという。地方の自治体が公共事業で地元業者を優遇する政策を打ち出した時期とも重なっていた。「他県の会社の支店では、受注を勝ち取るのは難しい。そこで、新潟に本社がある新しい会社を設立しようということになったんです」。上村社長は会社設立に名乗りを上げ、協力会社として独立。社長に就任した。

「地元の会社」になったことで、受注の壁がなくなり、事業の幅は大きく広がった。圃場整備だけでなく、港湾の護岸や道路、下水道など幅広い土木工事を請け負えるようになったという。一方で、主力である圃場整備などの農業土木事業は、時の政府の政策にも大きく左右させるデメリットもある。上村社長は安定した経営を目指し、M&A(事業の合併・買収)を実施して新たに住宅事業にも参入。「地元の業界からは、『社長、どうかしちゃったんじゃないか』って言われていますが、会社を支える事業に育てていきたい」と意気込みをみせた。

業務システムのマンネリ打破、クラウドを積極活用で大幅負担減


事業の再構築に取り組む豊和建設だが、ICTの活用による業務の効率化にも力を入れている。2018年にクラウドシステムを導入。それに合わせて、2020年4月から、原価管理や給与、勤怠管理などのシステムを一気に新しくした。

全員でクラウドシステムに取り組む

全員でクラウドシステムに取り組む


「結構早い段階から総務・経理系のソフトを入れていたのですが、働き方改革で勤怠管理が義務化され、その対応も必要でした。それまで使っていた原価管理のソフトの使い勝手に“マンネリ感”がでてきた時期でもありました。切り替えにはいいタイミングと判断しました」

従来のソフトでは、伝票などのデータ入力をいったん表計算ソフトに集計してから原価管理ソフトに入力する手順だった。使い方に慣れており、作業に特に支障があるわけでもなかった。「マンネリ」と上村社長が表現したのは、使い続けてきた「慣れ」の一方で、「もっと使い勝手のいいソフトがあるのではないか」という不満が生まれていた。タイミングに合わせてソフトを刷新すると、その不満は期待通りに解消された。クラウド上で運用できるようにすると、驚くほど大きな効果が表れた。

伝票などへの金額の入力は、営業などの現場が直接ソフトに入力するため、以前のように総務・経理部門が表計算ソフトに集計する作業がなくなった。勤怠の記録も、これまでは手書きで記載した勤務表を提出する形式だったが、パソコン上の勤怠ソフトに社員が入力して報告する形になった。年末調整や所得税の源泉徴収票などの法定調書もクラウド上で処理できるようになり、総務・経理担当の負担は大幅に軽減された。

コロナ禍での働き方改革をスムーズに実行

働き方改革を推進する上村敏一社長

働き方改革を推進する上村敏一社長


「総務・経理は毎月月例で決算業務を行うのですが、だいたい締め切りの1週間くらい前から残業していました。しかし、ソフトを導入して、担当者の残業時間は半分に減りましたね。導入から半年以上過ぎて、担当者も操作に慣れてきました」と目を細めた。

豊和建設では2010年4月に環境マネジメントシステムのISO14001を取得。環境負荷の少ない企業経営に取り組んでいるが、今回のソフトの一新で、大幅なペーパーレス化を実現させた。「環境経営を進めるうえで、ペーパーレス化は大きなテーマ。今回の実績を踏まえて、さらに上の目標を設定し、環境にやさしい職場にしていきたい」と話す。

一方、クラウドの導入は、新型コロナウイルス対策にも大きな効果を上げている。 緊急事態宣言が全国に拡大されたことを受けて、2020年5月の連休明けから総務・経理担当者の在宅勤務を実施した。処理能力の高いノートパソコンを新たに導入し、4人の担当者を2週間交代で在宅での事務作業を実施。上村社長は、「データをクラウド上で操作できる環境を整えていたため、在宅勤務を迅速に行うことができました」と喜びを語った。

「「i-Construction(アイ・コンストラクション)」に積極的に取り組む


農業の高齢化が進んでいるが、圃場整備の技術者の高齢化も進んでいることに上村社長は危機感をあらわにする。豊和建設で圃場整備の技術を持った従業員の平均年齢は68歳。若手の採用の一方で、作業現場へのICTの活用も視野に入れている。「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の導入は上村社長の目下の課題だ。

建設機械に設計データを取り込み、衛星からの位置情報をもとに自動運転で作業する。オペレーターの作業負担が減少し、省力化に大きな効果があるという。上村社長は「4~5年もすると、それなりにオペレーターと同じ技術をICTがこなせるようになるかもしれない」と予測。「政府や自治体の補助金が使えるところは活用して、新しいものを積極的に導入していきたい」としていた。

新型コロナウイルスや高齢化、慢性的な人手不足…。日本全体に広がるリスクを、個別の企業をじわじわと痛めつけている。その中で、豊和建設は先手を打つようにICTを活用して、将来のリスクに対応している。

会社概要

会社名

豊和建設株式会社

本社

新潟県新潟市中央区一番堀通町5938-30

電話

025-265-5654

設立

1993年 2月

従業員数

29人

事業内容

一般土木事業、農業土木事業、区画拡大事業、建築事業など

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