事例集

2020.09.24 06:00

営業マンの日報は「情報の宝庫」。クラウドによる「見える化」で新たな取り組み

山清電気は、長野県の日本アルプスのふもとにある。
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この記事に書いてあること

執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

伊藤恭彦社長

社員が1日の業務内容を会社に報告する「日報」には、ビジネスチャンスを生むさまざまなヒントが隠されている。取引先のニーズや生産工程の課題など日報の内容を分析し、改善することで、受注率のアップや生産性の向上につなげることも可能だ。

水道の凍結防止ヒーターを製造する山清電気(本社・長野県安曇野市)は、営業部門や生産部門の日報をクラウド上で管理するサービスを2017年に導入した。社員の業務活動を「見える化」することで、社員の意識の向上や受注の拡大だけでなく、在庫管理など生産分野にも効果を上げるようになったという。

営業マンの情報を在庫管理の効率化につなげたい

冬に氷点下まで気温が下がる寒冷地では、水道管が凍結して水が出なくなるトラブルがよく発生する。最悪の場合、水道管が破裂してしまうこともある。このため、寒冷地の多くの住宅では、水道管にヒーターを設置して、凍結を防ぐ工夫が施されている。

山清電気は、昭和49年の創業以来、施工性と省エネ性に優れた水道凍結ヒーターを開発するなど業界でもトップクラスの技術を誇り、水道の凍結防止用のヒーターや融雪機器などを製造販売し、寒冷地の快適な住環境づくりに貢献している。同社が製造した商品は長野県内だけでなく、東北や九州の山間地など全国に広がり、水道配管業者や住設業者では、知る人ぞ知る企業だ。


「凍結防止ヒーターは季節性の強い商品です。冬直前に受注のピークが来るのですが、暖冬や寒波によって受注が大きく変動してしまいます。暖冬になると、在庫が余ってしまったり、寒波で生産が間に合わず、欠品になってしまったり…。こうした状況を改善することは会社の長年の課題でした」と伊藤恭彦社長は語る。

ライバル会社との競争も激しく、取引先から注文を受けても欠品していると、取引先は別のメーカーに発注してしまう。せっかくの販売機会を失ってしまうことも少なくない。そこでチャレンジしたのが、営業社員から取引先の情報を集め、在庫管理につなげる取り組みだ。  

伊藤恭彦社長(右)と木下正和専務(左)の二人三脚で進める社内改革

「日報の作成をこれまでも行っていましたが、徹底はしていませんでした。営業部門では、報告が口頭で終わってしまい、書いたり、書かなかったり、後回ししてしまったり。もともと社内的にも日報をチェックして活用するという意識もあまりありませんでした」と木下正和専務。そこで、日報の作成をルーティン化し、有効活用できるようにインターネットを通じてクラウド上で業務支援を行うサービスを導入した。


このサービスでは、インターネット上に業務用のホームページを作成。そのホームページを通じてさまざまな業務ができる。サービスを活用して、業務に合わせた日報用のフォームを作成。これまで手書きで行っていた日報作成がパソコン上で入力できるようにした。社員が日報を作成しやすい環境を整えた。作成された日報はクラウド上で管理されるため情報の共有も可能だ。

「ここの地域では秋口から気温が低くてヒーターの引き合いが増えている」「最近は、この地域でも暖冬でヒーターを導入する動きが鈍くなってきた」。地域によっても異なる天候の状況も現場に近い取引先は敏感だ。競合企業の動きなど商談の合間の雑談から出てきた声などを日報に記載。市場の動向を分析しながら、ヒーター生産の見極めに取り組んでいる。

「まだ、生産管理に十分な効果を上げているところまではきていませんが、データを積み重ねながら、効率的な在庫管理につなげていきたい」と伊藤社長は、将来的には日報の中に隠されたヒントから新商品の開発にも役立てることも考えている。

日報はビジネスのヒントや課題の顕在化

社員に対して、日報の作成を促している企業は少なくない。だが、日報を有効活用している企業はどれくらいあるだろうか。日々の業務に追い立てられながら日報の作成に時間を要しては、社員にとっては重い負荷になってしまう。有効活用されてこそ、作成される意味がある。


「日報」が持つメリットは、その日の仕事の成果や課題などを書き記すことで、明日以降の仕事に役立てることができる。仕事の進行状況を確かめながら、目標の達成に向けた意識を高めることに役立つ。上司や同僚と共有することで、直面する課題に対して、チームで連携して対応し、スピーディーな課題の解決につなげることも可能だ。

もちろん、山清電気も生産管理への活用だけでなく、日報の情報を上司と共有して商談の進行度をきめ細かくチェック。受注獲得に向けた営業戦略づくりに活用している。また、顧客からのクレーム情報を共有し、クレーム対応にも成果を上げている。「どういった内容のクレームで、どういうことでクレームに発展したか、クレームをされたお客様の印象などを記入し、社内で共有することで、同様のクレームがきた場合の対応に役立っています」と伊藤社長は評価する。手書きで日報を作成していた時に比べて、社員の負担も軽減され、残業代削減の効果も表れているそうだ。

地球温暖化を背景に業界を取り巻く環境は厳しさを増す。その中で、主力事業にとらわれず、新たな事業分野の開拓への意欲をみせている。また、テレビ会議にも積極的に取り組み、東京などの遠隔地の取引先とのコミュニケーションも、今まで足を運んでいたのが、お互いにテレビ会議でコミュニケーションが取れるため、商談のスピードアップや現場と連携したその場での対応にも役立っている。山清電気の今後の取り組みに注目したい。

企業情報

会社名

山清電気株式会社

所在地

長野県安曇野市

電話

0263-82-8007

設立

1974年

従業員数

42名

事業内容

水道凍結防止器、各種電熱器具の製造・販売

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