コラム

2021.05.27 06:00

福祉・介護業界における変革のすすめ 経営戦略編

福祉・介護業界における変革のすすめ 経営戦略編
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この記事に書いてあること

皆さん、こんにちは。

本コラムは、福祉・介護業界の経営者、もしくは経営者候補(2代目や施設長など)を対象にしています。自らが経営する会社や施設、団体を持続させ、さらには成長・発展させるために何から取り組めばよいかについて考えていきましょう。

経営者の役割

はじめに質問です。経営者の役割は何でしょうか?

様々なお答えがあるかと思います。ここでは、下記の3つを経営者の役割として示します。その理由は、経営者にしかできず替えが効かない役割だからです。

①夢のある中長期のゴール設定

②経営資源の配分

③従業員の後押し

それでは、ひとつずつ考えていきましょう。

①夢のある中長期のゴール設定

「入所者や利用者の満足度を高める」といった目標も高いゴール設定だと考えます。しかし、このような目先のゴールではなく、経営者は夢のある中長期のゴールを設定しなければなりません。たとえば、ゴールに到達した暁には、どのような状態になっているかを考えていただくとよいと思います。仲間の協力を得ながらゴールを達成するために、夢のある中長期のゴール設定を行うのは経営者の役割です。

その理由は、経営者が船長となり、多くの仲間の協力を得ながら、目標地点(ゴール)に向かうことが求められるためです。組織という大きな船に乗りこみ目標地点に向かうためには、乗組員である仲間に「誰と、何を目的に、いつまでに、なぜ到着したいのか」などが共有されていなければなりません。目標地点がはっきりしており、乗組員も船長の考えに共感した場合に、船長と協力し目標地点に進んで行こうと思っていただけます。

会社や施設、団体などは、いずれも大きな船といえます。先行きが見通せない荒波の中を進んで行くために「夢のある中長期のゴール設定」が必要です。どこに向かえばいいのかわからない乗組員は路頭に迷い、組織内の協力の和が乱れます。ゴールが不明確や、共有されていないと、大きな船は旋回にも時間がかかるため、目標達成が遅くなってしまいます。

②経営資源の配分

上記の①でゴールを定めた後は、経営者の責任で経営資源の配分を行わなければなりません。経営資源(リソース)は、ヒト・モノ・カネに代表される組織運営で活用する戦力をいつ・どこに・どれくらい投入するかを決めることです。

組織には、やるべきことが山のようにあります。たとえば、「入所者や利用者を増やしたい」、「入所者や利用者の家族にも喜んでもらいたい」、「施設に〇〇の設備を導入したい」、「従業員の給料を増やしてあげたい」など、いくらでも思いつくと思います。しかし、できることには限りがあります。限られた範囲の中で、何を成し遂げるのかを決めるのは経営者の役割です。

経営資源を配分するコツは、「選択と集中」です。あれもこれもと経営資源を分散させてしまっては、なにひとつゴールに到達できません。いつまでに、どこに到達したいかをゴールから逆算して考え、それを実現するのに必要な人選(ヒト)、設備や商品・サービスの配分(モノ)、予算や費用の配分(カネ)を割り当てます。

この3つがそろって配分されない場合、ゴールに到達することは難しくなります。例えば、人選(ヒト)のみを行い、他を割り当てない場合は、選ばれた人の努力に頼ることになります。この場合、選ばれた人は疲弊してしまい退職してしまうこともあるでしょう。貴重な戦力である仲間に見捨てられる状態では、ゴールに到達することなど考えられません。

③従業員の後押し

経営者の役割として、上記①でゴールを定め、②で経営資源を投入することを決めた後は、仲間である従業員が働きやすい環境を整え、その活動を後押しすることです。

ゴールを与え、経営資源を与え、あとは人任せといった態度では、誰も経営者の想いに共感して共にゴールを目指したいとは思いません。仲間が活動する先には、様々な苦労や困難が待ち受けているのですから、「あなたならできる」といった心からの応援や、「あなただからここまでできた、ありがとう」といった感謝の気持ち、「私も〇〇の部分を支援する」といった意識や言動、態度が求められます。

人は、一人ではできることが限られています。大きな目標(ゴール)に到達したいのであれば、仲間の協力は不可欠です。仲間の力を結集してこそ、「夢のある中長期のゴール」に到達することができるのです。皆でゴールに到達できたら素敵だと思いませんか。

経営変革

経営者の役割を理解していただいたので、次は経営変革についてです。ここでは、経営戦略=経営変革の連続ということをお話しします。

経営戦略は、経営者だけの考えや、会社や施設、団体などの考えだけで決定することはできません。たとえば、サービスを充実するために従業員を増やしたいと考えていても、人手不足の福祉・介護業界のなかで人を採用することは難しいという現状があります。

経営戦略は、こうありたいという姿(経営理念や社是などに記載されている)や、自社の保有する経営資源(ヒト・モノ・カネ)の状況、入所者や利用者の状況、近隣の競合施設の状況、法律や政策の状況など、様々な要因を踏まえたうえで立案することになります。また、ありたい姿以外の要因は、すべて流動的で激しく変化しています。

このように変化が激しい中で立案し、実行するのが経営戦略です。ですから、経営戦略=経営変革の連続といえます。注目していただきたい点は、「変革の連続」という部分です。一度変革すれば完了するのではなく、常に変革が求められるということです。

近年DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が頻繁に使われています。TVや新聞などでもよく目にしているという方も多いと思います。よくある誤解として、DX=IT導入と考えていらっしゃる方もいますが、これは誤った認識です。デジタル(ITなど)を活用した経営変革(経営のトランスフォーメーション)を指した言葉がDXです。よって、DX=経営変革が正しい認識です。もっと言うと、経営変革を成し遂げるためにデジタル(ITなど)の力を活用することがDXです。目的が経営変革の実現で、その手段がデジタル(ITなど)の活用となります。

何か新しいことに着手したいと考えていても、現状の従業員の負担を考えると何から手を付けたらよいのかと、悩んでいる方も多いと思います。上記の経営資源の配分としてヒトについてお話ししました。何をするにしても従業員の負担を軽減しないことには、何か新しいことに取り組むことはできません。まずは、従業員の負担を減らし、新しい取り組みに着手するための環境整備から始めましょう。

従業員の負担となっていることとしては、 ①施設内の見回り、②頻繁な清掃や消毒、③手書きでの書類作成、④書類の印刷と保管、紙の書類の検索、⑤全員が顔を合わせた会議、⓺紙で作成しているシフト表など、様々な業務が考えられます。ここで着目していただきたいのは、これらの業務は、入所者や利用者の満足度とは直接関係ないということです。

入所者や利用者の満足度が高まるのは、温かみのあるサービスを受けることや、親身になって話を聞いてくれることなど、だと思います。福祉・介護業界で経営変革を考える場合は、いかにして入所者や利用者と、従業員の接点を増やすかが、カギではないでしょうか。

そのためには、以下の解決法などで従業員の負担軽減を進めることをおすすめします。

① 施設内の見回りに関しては、監視カメラやベッドの着圧センサーでの代用

② 頻繁な清掃や消毒に関しては、ロボットの活用

③ 手書きでの書類作成に関しては、RPAの活用

④ 書類の印刷と保管や紙の書類の検索に関しては、ペーパーレス化の推進

⑤ 全員が顔を合わせた会議に関しては、Web会議システムの導入

⑥ 紙で作成しているシフト表に関しては、勤怠管理システムの導入 など

まとめ

今回は、経営者の役割と、経営変革についてお話してきました。経営者としての役割を果たし、仲間である従業員と共に「夢のある中長期のゴール」の達成に向かい行動することが、経営変革を実現することになります。また、常に経営変革を行える強い組織を手に入れることになります。

常に経営変革が行える強い組織は、他の事業者との違いが明確になり、入所者や利用者、またその家族から選んでいただける存在になると考えます。

参考文献

・経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

・経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html

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執筆者

髙橋 潤(たかはし じゅん)

東京都中小企業診断士協会城南支部所属。中小企業診断士、MBA、ITコーディネータ、PMP。事業構想、新規事業企画・開発、マーケティングなど、ビジネスモデルの創出から上市まで顧客に寄りそった伴走型の支援や、企業変革・経営変革の支援を得意とする。ITやWebの利活用、データ分析、IoT、RPAなどデジタル領域の支援にも精通している。

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