コラム

2021.05.13 06:00

福祉・介護業界における変革のすすめ マーケティング編 

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この記事に書いてあること

皆さん、こんにちは。

本コラムは、福祉・介護業界の経営者、もしくは経営者候補(2代目や施設長など)を対象にしています。

今回は、福祉・介護業界におけるマーケティングについてお話したいと思います。マーケティングを活用することにより、自らが経営する会社や施設、団体を持続させ、さらには成長・発展させるために何から取り組めばよいかについて考えていきましょう。

お客様は誰なのか?

はじめに質問です。皆さまの施設のお客様は誰でしょうか?

何を当たり前のことを聞いているのかと思われたかもしれません。例えば、入所者や利用者がお客様と答えた方が多かったのではないでしょうか。しかし、よく考えてみてください。確かに施設を利用しているのは入所者や利用者です。

しかし、施設を利用するためにお金を払っているのはどなたでしょう。

多くは、入所者や利用者の子供世代を中心としたご家族・ご親族ではないでしょうか。もっと大きくとらえると、介護保険や年金などを支払っている国民ということもできそうです。

このように考えると、施設のお客様とは複数の存在を考える必要がありそうです。たとえば、入所者や利用者のご家族と言っても、お孫さんやひ孫まで含まれるかもしれません。

他にも、国や地方自治体の担当者もお客様と言えそうです。入所者や利用者のケアや、処置していただくという面からは医師や看護師もお客様と言えそうです。

また忘れてはならないのは、従業員もお客様の一員としてとらえる必要があることです。

なぜならば、施設を入所や利用してくださるか否かは、従業員の働きぶりが影響するためです。従業員が、施設の入所者や利用者に対してサービスを提供し、その対価としてお金をいただくのが福祉・介護業界の仕組みです。優良なサービスを提供できるか否かは従業員にかかっているといっても過言ではありません。採用面からいっても従業員の候補者が施設を選んでくれなければ始まりません。よって、従業員もお客様の一員と考えることも、マーケティングの一部となります。

どこを向いてサービスを提供するか?

マーケティングとは、単に売り込みや広告・宣伝を指す言葉ではありません。

マーケティングとは、経営戦略を実現するために、お客様が求める商品やサービスを生み出すことや、それをお客様へ提供する方法を考え、お客様が喜んでお金を払ってくださる仕組みをデザインすることです。

そこで考えなければならないのは、どこを(誰に)向いてサービスを提供するかです。

上記でお話ししたように、お客様とは色々な立場の方がいることがおわかりいただけたと思います。

マーケティングでは、「どこを(誰に)」を考えることが重要です。ここがブレると、よいサービス提供を行うことができず、お客様の満足度は高まらないということになります。

たとえば、入所者や利用者が求める水準でサービスを提供し続けることを考えてみましょう。

一人ひとり状況や事情が異なる入所者や利用者にあわせて、求められる水準のサービスを完璧に提供することは、一人の入所者や利用者に対して複数人の従業員を割り当てないと実現できないのではないでしょうか。また、これを実現するためには多額のコストがかかり、サービスを利用する入所者や利用者(そのご家族などの費用を支払う方を含む)は多額の支払いをする必要が出てくると思います。

この場合、入所者や利用者(そのご家族など)の満足度は低くなってしまいます。また、従業員の負担が高くなり、業務に対する不満が高まる結果、離職につながってしまうのではないでしょうか。

そこで経営者としては、どこを(誰に)向いてサービスを提供するかを考えなければなりません。具体的に、誰に対して、どのような商品やサービスを、どのようなサービス水準で提供するかを定めることが必要です。

入所者や利用者、そのご家族などが求めるサービス水準は、どの程度かを知ることからはじめます。マーケティングの用語では、消費者ニーズの発掘と言ったりします。地域の状況や事情に合わせて最適なサービス水準を探る必要があります。たとえば、高額所得者や資産家に特化して、最上級のサービスを心行くまま提供するというのもひとつの方法です。

逆に、一人暮らしで寂しい思いを抱えている方に対して、家族のように親身になってお話しできる場を提供するというのも立派なサービスの方法です。

どこを(誰に)を明確にすることで、サービス水準が定まってきます。サービス水準が定まると、従業員もどの程度の品質で、商品やサービスを提供すればよいのかが理解できるようになります。また、他の施設との違いが明確になり、入所者や利用者、そのご家族などが施設を選択する基準となります。

誰がサービスを提供するか?

さて、サービスは誰が提供しているのでしょうか。言わずもがなですが、従業員を通して商品やサービスを提供しています。つまり、従業員が、お客様や仕事、業務に対して満足していないと、高い水準のサービスは提供されません。従業員が、お客様に対して高い水準でサービスを提供し続けられる仕組みを考えることも、マーケティングの一環です。

では、従業員はどうすれば、また何があれば、高い水準でサービスを提供し続けられるのでしょうか。たとえば、働きやすさや感謝がもらえる、成長実感が得られるなどがあれば、率先してよいサービスを提供しようと思うのではないでしょうか。

一方で、給料を支払っているのだから、よいサービスを提供して当然であるとか、プロとして働いているのだから、与えた目標を達成するのは当然と考えた場合は、どうでしょうか。おそらく、短期的に従業員が入れ替わり、ギスギスとした風土がまん延してしまうことになるのではないでしょうか。

プロ野球選手は、多額の報酬を得ているからよいパフォーマンスを発揮するのではありません。

事前に合意した目標があり、その高い目標を達成するために準備し、よいパフォーマンスを発揮し、その結果として多額の報酬を得ているのです。

皆さまの職場においても、この仕組みは同様だと思います。従業員のボランティア精神に依存するのではなく、よいパフォーマンスを発揮し、入所者や利用者(その家族など)に喜んでいただけるようサービスを提供する体制や仕組みをデザインしていきましょう。

従業員の働きやすさとは何か?

働きやすさは職場全体で作り上げるものです。大きく分けて3つの要素が関係しています。

①よい組織風土

②働きやすい基盤

③成長実感が味わえる

それではひとつずつ見ていきましょう。

①よい組織風土

よい組織風土は、一人で作り上げることはできません。同じ職場で働く仲間と共に働く喜びが得られることや、組織運営に関わっていると感じられる経営実感などがあると、よい組織風土が醸成されていきます。反対に悪い組織風土は、職場で協力関係がなく、足の引っ張り合いが目立つことや、指示されたことしか実施しないなどがあると、ギスギスした職場環境になります。

②働きやすい基盤

まず、働きにくさは、たとえば更衣室や個人ロッカーがなく安心して働くことができない環境や、手書きでの書類作成が多く、何度も同じ内容のことを書かなくてはならないこと、やるべきことが山ほどあるのに、自動化などの効率化が全く行われないことなどがあります。このような環境では、働きにくさばかりが目立ち、近隣の条件の良い施設に転職してしまう方も増えてしまうでしょう。安心して働くための職場環境や、事務作業の負担軽減、自動化による業務の置き換えなどが少しずつでも変化している施設では、働きやすい基盤が整っていると感じます。

働きやすさを醸成していくために、デジタル(ITなど)の活用を検討することがおすすめです。繰り返し同じような文章を作成しなければならない場合にはRPAの導入や、現場作業では手書きで書類を作成し後でパソコンに入力しなおしている場合はタブレット端末の導入など、現場作業を効率化するためのデジタル(ITなど)の活用を検討することで、働きやすい職場環境をつくっていくことができます。

③成長実感が味わえる

よい組織風土の中で、働く基盤が整っているだけでは、働きやすさは片手落ちの状態です。人は誰もが、昨日よりもうまくできたという感覚や、新しい知識を身に着けることができたといった成長実感があると、働く喜びにつながります。このように成長している実感が味わえる職場であると、働きやすいと感じます。

まとめ

福祉・介護業界は、従業員がお客様に対してサービスを提供するお仕事です。従業員が働きやすいと感じる職場環境をつくりだすのは、経営者の仕事です。働きやすい職場では、従業員の満足度(ES:従業員満足度)が高く、リファーラル採用などでよい人材の紹介が得られるといったメリットも享受できます。

今回はマーケティングについて、お話してきました。お客様とは誰を指すのか、どこを向いてサービスを提供するのか、誰がサービスを提供しているのかということを踏まえ、よい商品・サービスを提供し続けていく仕組みつくりが大切です。

髙橋潤氏の顔写真

執筆者

髙橋 潤(たかはし じゅん)

東京都中小企業診断士協会城南支部所属。中小企業診断士、MBA、ITコーディネータ、PMP。事業構想、新規事業企画・開発、マーケティングなど、ビジネスモデルの創出から上市まで顧客に寄りそった伴走型の支援や、企業変革・経営変革の支援を得意とする。ITやWebの利活用、データ分析、IoT、RPAなどデジタル領域の支援にも精通している。

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