コラム

2021.01.29 06:00

CSRとSDGsブームから始まる中小企業改革

第5回 坂口孝則の今伝えたい経済トレンド
関連記事のお知らせを受け取る

Index

坂口孝則氏の顔写真

執筆者

坂口 孝則

未来調達研究所株式会社所属。経営コンサルタント。コスト削減・原価・仕入れ等の専門家として企業向けコンサルティングや講演を行い、日本テレビ「スッキリ」などテレビ・ラジオ等にも出演。著書は34冊を超える。近著に『未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019-2038』(幻冬舎刊)など。

本気を出してきた大企業たち

「100万円を払えといわれたよ」

先日、中堅企業の役員と話していたときのことだ。

取引先の大企業からの依頼という。その中堅企業では技能実習生を採用している。彼らは母国で100万円ほどの費用を支払って日本にやってきている。

もちろん、実習生たちは自由意志に基づいて日本にやってきているが、日本で技能を学ぶという本来の目的とは異なるものになっている技能実習生という仕組みは 一掃したほうが良いと迫っているのだ。大企業は自社だけではなく、取引先にも同様の倫理的クリーンさや貧困撲滅に動いている。大企業は自社だけではなく、取引先にも同様の倫理的クリーンさや貧困撲滅に動いている

発端となったのは、90年代後半のナイキ不買運動だろう。同社自身ではなく、取引先の海外工場で労働者の低賃金、強制労働、児童労働が発覚した。あくまで取引先の不祥事であったものの、ナイキ自体の責任を問われた。そこから同社はきわめて先進的な取り組みを進めてきた。

アップルも取引先の労務状況などをチェックしているし、ファーストリテイリングも取引先工場リストを公開することで、透明性を高めようとしている。

とくにアパレル企業は、縫製など工程の性質上、安価な労働力を求めて新興国に依存してきた。そうなると、どうしても不当な環境で働かざるを得ない労働者も増えてくる。2013年のバングラディシュ、劣悪な環境で労働者たちが密集していたビルが崩壊。1000人以上の死者を出した事件は衝撃を与えた。

大企業は自社のブランドイメージの低下にもつながるとして本気にならざるをえなかった側面がある。

企業のCSRとSDGs対応

「マジすか?こんなの企業のイメージ戦略でしょう」

10年ほど前。私は企業の調達部門に属していた。持続可能な社会の実現に向けて、取引先の実態調査を行うことになった。

カーボン・フットプリントといって、原材料からリサイクルにいたるまでの全工程における温室効果ガスの排出量を調べることになった。計測方法も厳密さを欠いているし、私にとっては「やっている感」を出すだけにしか映らなかった。しかし、私の認識こそ甘かったようだ。

なぜなら、企業イメージだけではなく、消費者の嗜好も変化していた。エコ消費、サステナビリティ、フェアトレード、エシカル消費。それまで地球環境のためには消費総量自体を減らすのが主たる手段だったが、消費者はむしろこれらの活動に積極的な企業を選択したら大丈夫なのだと転換を図る思想運動だった。

CSR(企業の社会的責任)を求める声は大きくなり、それはSDGs(持続可能な開発目標)の実践につながっていく。SDGsは貧困撲滅、クリーンエネルギー、気候変動対応、不平等撤廃、ジェンダー平等など17項目にいたる。

もちろん、EV(電気自動車)とハイブリッド車のどちらが地球環境的に優れているかという議論はある。日本で化石燃料を使う火力発電所が増設されると、発電過程を含めるとハイブリッド車の優位性になるのではないかと。計算の前提にもよる。しかし、EVのもつクリーンイメージは強く企業は実利的に対応せざるをえないだろう。

CSRとSDGsを使ったPR戦略を

つまり、企業は消費者に先進性を伝え、取引先を含めた改善に取り組むのが、最高のPR手段にもなる時代になった。もちろん、それを偽善と呼ぶ人もいるかもしれないが、すくなくとも世界中の労働環境が向上するのは望ましい。

社会全体の潮流を嗅ぎ取って、徹底的に追求する企業もいる。企業によっては違法伐採などを禁じるだけではなく、人工衛星を使って監視している。違う企業は、労働者を低賃金かつ劣悪な労働条件で働かせる 搾取工場と取引しないように、おなじく衛星画像でトラックの往来を調査しているほどだ。

やりすぎと感じるかもしれないが、アパレルブランドのEVERLANEはなんと商品の原価を細かく公開して透明性を図っている。

資本主義はその性質上、どうしても拡大再生産の傾向をもつ。もっと売上を、もっと利益を、もっとシェアを。そうしないと株主が逃げていく。お金を留保していれば有効に使えといわれる。その過程で無茶も繰り返してきた。資本主義はやめられないが、時代は再考を促している。

怒られるかもしれないが、功利的に書く。社員の扱いは平等、限られた資源で生産し、豪華なオフィスも使わず質素に生きる。これは日本の中小企業そのものではないか。いまやっていることを喧伝し、世界へアピールするべきだ。使えるものは何でも使う。

私は冒頭の役員に言ってみた。「払ったんだったら、ちゃんと技能実習生の待遇を改めてガンガンにアピールしましょうよ。それだけSDGsを実践している企業だと」。先方は苦笑いしていたが、私は本気だ。

関連記事のお知らせを受け取る