事例集

2024.04.25 06:00

非効率だった在庫管理をICTで見える化 働きがいのある会社で若い人材獲得 10年ビジョンを実現へ 相模カラーフォーム工業(神奈川県)

非効率だった在庫管理をICTで見える化 働きがいのある会社で若い人材獲得 10年ビジョンを実現へ 相模カラーフォーム工業(神奈川県)
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スポンジ材料をさまざまな形に加工・販売する相模カラーフォーム工業株式会社(神奈川県相模原市)。5代目社長の下で2023年7月、10年後の経営ビジョンを発表したばかりだ。非効率だった在庫管理のデータをICTの導入により社内で共有化し、若い世代の人材育成に力を入れるなど、「働きがいのある会社」を目指す。(TOP写真:2017年には、マスクのひもを首の周囲にかけることで、長時間マスクをつけた時の耳の痛みをなくしたヒット製品「くびにかけるくん」を開発した。相模カラーフォーム工業ホームページより)

10年ビジョン策定 宇宙開発の夢の実現に向け幸先良いスタート

10年ビジョンについて語る甲斐社長

10年ビジョンについて語る甲斐社長

相模カラーフォーム工業の甲斐大輔代表取締役社長が10年後の経営ビジョンを社員に発表したのは、2023年7月のことだ。全社員を社員食堂に集めて経営理念やビジョンをまとめた冊子を配り、会社や社員が10年後にどうなっているかを熱く語った。社員からは「会社の考えを聞けてよかった」「がんばります」という感想が次々にあがった。

甲斐社長は2022年4月、創業一族から全株式を取得して5代目社長に就任した。取引先や銀行などからの期待が大きい中での経営ビジョンの発表だったが、甲斐社長は「自分がこうありたい、こうあってほしいものを思い描き、それを達成するために5年後、3年後、1年後と目標を設定した」と振り返った。

10年後の目標の一つが宇宙産業への進出。相模原市には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)相模原キャンパスがあり、宇宙を身近に感じられる環境だ。高温や騒音に耐えることができ難燃性のあるフッ素ゴムスポンジなど、宇宙空間におけるスポンジ素材はなくてはならない存在といえ、相模カラーフォーム工業の事業と親和性が高い。甲斐社長は「スポンジはさまざまな業界で使われ、目に見えないところで使われる縁の下の力持ち。スポンジの可能性をもっと表に出した商品開発、市場開拓に力を入れたかった」と考え、JAXAとの取引を初期の目標に掲げた。

甲斐社長の行動は素早かった。相模原市役所や取引先銀行、地元の商工会議所などで宇宙産業への進出への思いを語っていたところ、JAXA施設内で展示されているロケットと土台との隙間をスポンジで埋める仕事が舞い込んだのだ。宇宙で使用できるようなスポンジ製品の開発はまだまだ夢の段階だが、幸先良いスタートとなった。

ロケットと土台の隙間を黒色のスポンジ素材で埋めた(説明書の上側の黒い帯が相模カラーフォーム工業のスポンジ)

ロケットと土台の隙間を黒色のスポンジ素材で埋めた(説明書の上側の黒い帯が相模カラーフォーム工業のスポンジ)

「不便なことをメモに」スポンジ新製品を開発、ネット通販でヒット商品に

大ヒット商品になった「くびにかけるくん」

大ヒット商品になった「くびにかけるくん」

甲斐社長は、粘着加工メーカーに7年間務めた後、2008年に相模カラーフォーム工業に入社。主に営業畑を歩んできた。「日頃から不便なことを手帳に書き溜めている」(甲斐社長)研究熱心さで、アイデア商品を次々と開発している。

2017年には、マスクのひもを首の周囲にかけることで、長時間マスクをつけた時の耳の痛みをなくしたヒット製品「くびにかけるくん」を開発した。当時の相模カラーフォーム工業は自社開発製品がなく、売上は自動車部品関係が多かった。毎年のようにメーカーから値下げ要望があり、粗利を悪化させていた。

スポンジ素材のメリットを活用した新製品を売り出したいと考えていた甲斐社長。周囲から「マスクをしていると耳が痛い」という不満を聞いて製品開発を思いついた。マスクのゴムひもにスポンジを巻いたところ痛みは軽減されるが、すでに同様の製品が売り出されていた。そこで、「耳につけるのではなく、首の周りでひっかけるようにすればいいのでは」と考え、自らスポンジ素材の選定、形状などについて試行錯誤し、U字状の形やサイズの調整ができるなどの工夫を凝らした製品の発売にこぎつけた。

「くびにかけるくん」は、マスメディアで取り上げられて大ヒット。いったんは売上が落ち着いたものの、新型コロナウイルス感染予防対策としてマスクの需要が急増したことをきっかけに再びブレイク。コロナ禍で会社全体の受注が激減した中、「くびにかけるくん」を増産するために社員が休日出勤して対応したほどだった。マスク関連では、マスクがずれないためのマジックテープを裏側に装着する「マスクにはるこちゃん」を発売。いずれも、本格参入した自社のネット通販サイトで人気製品となった。

強みは加工の精度 薄くスライス、においのないアイデア商品を次々と開発

相模カラーフォーム工業の工場ではスポンジ素材をあらゆる形に加工できる

相模カラーフォーム工業の工場ではスポンジ素材をあらゆる形に加工できる

自社の強みを生かしたアイデア製品の開発にも余念がない。スポンジ素材を厚さ0.5ミリにカットできる工作機械の導入をきっかけに、薄いスポンジ素材の活用法に着目。優れた緩衝性や浮揚性のあるポリエチレンフォームを厚さ1ミリにカットして花の形に加工した製品「エアリーフラワー」を東京都内の会社と共同開発し、2021年10月に実用新案を登録した。ポリエチレンフォームで作った花は、紙で作られた花に比べて薄く長持ちし、水面に浮く。屋外でも使用できる。甲斐社長は「結婚式場などの施設でニーズがあるのでは」と期待する。

エアリーフラワーのリーフレット

エアリーフラワーのリーフレット

2024年4月1日には、「168(いろは)バッカー」を発売した。建築物の防水、壁と壁の間、窓のすきまや底から水が入らないようにシーリング材を挿入するが、「168バッカー」はそこに使われるバックアップ材となる。従来製品と比べて、硬さは同じで軽量化を実現し、鼻をつく嫌なにおいがしないことが特徴だ。DIY製品としての需要も期待されている。

2024年4月に新発売した「168バッカー」

2024年4月に新発売した「168バッカー」

ICT導入で伝票・帳票類の発行を克服 棚卸の精度が向上

加藤専務(右)と談笑する甲斐社長(左)

加藤専務(右)と談笑する甲斐社長(左)

製品群が多様化してくると、避けられないのは在庫管理だ。相模カラーフォーム工業は2018年に新たな販売管理システムを導入。社員の経験に頼っていた在庫や顧客情報のデータ、現場への作業指示のための伝票・帳票類の発行を効率化するのが狙いだ。

従来の販売管理システムでは入力できる情報が限られており、発行担当者と加工担当者との迅速なやり取りができなかったという。加藤進司専務取締役によると、「事務所に隣接する工場の担当者に対し、顧客から受注したスポンジ材料や分量、加工方法などを記載した帳票を発行するのだが、パソコンに入力できない情報については印刷した帳票に手書きで付け足していた」という。また、伝票帳票類は各部署の従業員がそれぞれのやり方で自分のパソコンに入力・管理しており、担当者が異動した場合の引き継ぎがうまくいかなかった。事業拡大に伴って取り扱うスポンジ素材が数百種類に増えたことで、受注内容に応じた素材の選択、使用量などの取引履歴を探す手間がかかっていた。仕入から売上、受発注、在庫までの情報をトータルで管理する仕組みが求められたのだ。

新たな販売管理システムなら、過去の見積データや取引データを簡単に検索でき、入力作業を最小限に抑えられる。新たな販売管理システムで作成した請求書は、紙やPDFでの出力はもちろん、CSVに出力して各種サービスに送信することができる。仕入先からの請求データを取り込み、仕入伝票を自動入力することも可能で、請求書の発行や仕入伝票入力時の手間を大幅に削減できる。

新たな販売管理システムのパソコン画面

新たな販売管理システムのパソコン画面

相模カラーフォーム工業が新たな販売管理システムを導入した結果、材料名、発注先などが番号で管理されているのですぐにパソコンで読み込むことができ、そのままプリントして発行できるため、業務時間の短縮に貢献した。導入後の支援会社のサポートもきめ細やかで、数ヶ月後には社員がシステムを使いこなすことができた。課題だった在庫管理について、甲斐社長は「毎月行っている棚卸の精度が上がってきている。もっと上げたい」と話す。

今後は、クラウドプラットフォームと呼ばれる業務アプリを構築できるサービスを導入し、スマートフォンやタブレット端末でリアルタイムに在庫状況を共有することも検討している。

社風づくりにも腐心 YouTube、SNSで若い社員に呼び掛け

おしゃれなデニム生地の作業服を着た社員

おしゃれなデニム生地の作業服を着た社員

甲斐社長が今最も力を入れているのは、若い世代の人材育成だ。相模カラーフォーム工業の管理職は50代が多く、30代から40代の社員を育てることが必須といえる。YouTubeやSNSを活用した情報発信にも余念がない。「『この会社、面白いことをやっているな』と若者に知ってもらいたい」(甲斐社長)。X(エックス)のフォロワーが約3,000人おり、素材の紹介、工場での加工風景の動画などの反応が上々だという。2024年4月からは、SNSの発信をする社員を専属で配置する。作業服もデニム生地のおしゃれなデザインを採用しており、相模カラーフォーム工業のローマ字の最初の文字「SCF」を使ったロングTシャツをつくり、外部にも販売しようと企画している。

お得なクーポン情報や会社情報などのつぶやきがアップされる相模カラーフォーム工業の公式X

お得なクーポン情報や会社情報などのつぶやきがアップされる相模カラーフォーム工業の公式X

甲斐社長は「人材採用がカギで、人を確保している会社が生き残れる、同じ給料待遇の中でうちを選んでもらえるために、どんな未来があるんだろうと想像できるような情報を発信している」と話す。

社風づくりでは、「挨拶ができる」「チャレンジ精神」などの目標を掲げた。経験、年代に関係なく誰でもすぐに取り組めることを考えたという。2023年からは、管理職とキャップ(主任)クラスの社員を対象にした社員研修制度を採り入れ、「考える」「実践する」「行動が変わる」ことを意識づけた。甲斐社長は「社員への浸透はまだできていないが、挨拶が積極的にできるようになるなど、会社の雰囲気が良くなった。正しい目標を示せば、従業員はついてきてくれる」と振り返る。

今後の展開について、甲斐社長は「利益を出して社員に還元したい。そこから先、豊かな生活をしてもらいたい。スポンジ加工業界は競争が厳しい。コストを下げるという手段もあるが、私たちは付加価値をつけて適正な価格で売りたい」と話している。

相模カラーフォーム工業本社

相模カラーフォーム工業本社

企業概要

法人名

相模カラーフォーム工業株式会社

住所

神奈川県相模原市中央区上溝292-1

HP

https://s-foam.com

電話

042-778-0288

設立

1970年5月

従業員数

30人

事業内容

パッキング材・クッション材・吸音材・断熱材・シール材の加工と販売

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