事例集

2024.03.15 06:00

不可能を可能にする「食卓から宇宙まで」高品質の印刷・粘着加工品や精密加工品を生産する サニー・シーリング(宮崎県)

不可能を可能にする「食卓から宇宙まで」高品質の印刷・粘着加工品や精密加工品を生産する サニー・シーリング(宮崎県)
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未来の猫型ロボットが活躍する「ドラえもん」は、主人公がお腹の「四次元ポケット」から、不可能を可能にするさまざまな道具を取り出してみせる。そんな夢のある人気アニメにちなんだ「四次元ポケットカンパニー」を標榜するのが、宮崎県都城市にある株式会社サニー・シーリングだ。

取引先から相談を受けたらどんなことでも「やってみよう」というのが創業以来の社内精神。1997年に入社、会社の急速な成長期を知る久野康之常務取締役によると、当時の社長(創業社長、後述)は取引先に「こんな製品ができるか?」と問われると、決まって「できますよ」と答えたという。従業員が後で「大丈夫ですか」と聞くと、社長はいつも「今から考える」。そんなやり取りを重ね、従業員たちは顧客の要望に対して、常に「どうにかして形にする」ことを考え、様々な技術を探し改良、なければ自分たちで開発して成功させてきた。その結果生まれた、複合加工や精密スリット技術、超低温(マイナス200℃)や有機溶剤でも剥がれないシールなどの新しい技術と製品は、取引先を「まるでドラえもんのポケットだ」と驚かせた。サニー・シーリングの従業員はそうやって鍛えられ、たくましく成長してきた。(TOP写真=単純なシール・ラベルの製造から、地道に創意工夫を重ねて技術集積を図ってきたサニー・シーリングの製造現場。全製造部門にクリーンルームが完備されている)

取引先のどんな要請にも何とか応えようとする創業以来の精神が、取引先を驚かせる新しい技術と製品に結びつく

創業したのは窪田祐一代表取締役社長の父親・次生氏(故人)で、島根県のシール会社で副社長を務めていた。窪田社長によると「当時、シール事業は非常に利益率が高かったとのこと。父は、学生時代から起業家になるのが夢であったこともあり、独立を決断。母(次生氏の妻)の実家があり縁者も多い都城市を選んだようです」。

窪田社長が、2代目社長の冨吉博文氏(現代表取締役会長)のあとの3代目社長に就任したのは2016年。以来、窪田社長は「無くてはならない企業」との経営理念を掲げ、最新技術の開発努力とともに、品質向上・業務のスピードアップと見える化による顧客対応力の強化のための社内ICT化を精力的に進めている。

「創業精神を受け継ぎ“無くてはならない企業”を目指す」と話す窪田祐一社長と「創業者の“何でも形にする”という執念はすごかった」と振り返る久野康之常務(左)

「創業精神を受け継ぎ“無くてはならない企業”を目指す」と話す窪田祐一社長と「創業者の“何でも形にする”という執念はすごかった」と振り返る久野康之常務(左)

「不適合件数0.06%未満」の高品質を誇る製品群は、超低温や有機溶剤の中でも剝がれないラベルなど多彩

サニー・シーリングの事業の全容を一言で説明することは難しい。窪田社長は「食卓から宇宙まで、幅広い分野のニーズに対応できる印刷・粘着加工技術を持つ会社」と表現する。「ラベル印刷」が創業以来の主力事業であるが、そこから派生したフィルム・テープ加工やスリット加工などの「精密加工」も、今や二本目、三本目の柱となっている。食料品のラベルから、医療、航空宇宙分野の特殊製品まで、加工法も難度も全く異なる製品を幅広く手掛けている。

主力製品であるシールやラベルの「印刷加工品」を進化させたのが、自社開発の「機能性ラベル製品」だ。例えば、マイナス200℃前後の超低温や有機溶剤の中でも、容器にぴったり貼りついて剝がれないラベル。今では得意分野となっており、製品は大学病院をはじめとした医療現場等で使われている。「ニッチな市場なので生産額は小さいですが、私たちの製品が医療事故防止に少しでも役立っているならば、投資していく価値は十分あります」と窪田社長は言う。「汎用品をコスト競争でひたすら安く作るのではなく、単価は高くても本当に必要とされる製品を開発し、社会に提供していきたいのです」

シール業界で先駆けとなった自慢のクリーンルームは、電子デバイス、光学製品用部材、医療系部材など超精密機器の製造も担う

精密機器の部品製造、検査はハイクラスのクリーンルームで行われている

精密機器の部品製造、検査はハイクラスのクリーンルームで行われている

創業から10年後の1992年、シール業界ではかなり早い時期にクリーンルームを設置した。半導体工場向けのラベル製造を始めたのがきっかけだった。2000年代に入り、携帯電話が爆発的に普及、液晶やカメラ周りのフィルムなど部材加工のニーズが高まった。しかし、製品に1000分の数十ミリの異物・ごみが付着しても不良品となるなど、求められる精度、品質は極めて高かった。研究を重ね、ラベル製造用よりもランクが数段上のクリーンルームを増築した。その後、プロジェクターや医療用カメラなどに使われる光学製品のため、より高いクリーン度の製造環境を構築。徐々に事業の幅を広げて行った。

精度の高いクリーンルーム内での検査環境を構築

精度の高いクリーンルーム内での検査環境を構築

生産現場の強みの一つが「不適合件数0.06%未満」という品質管理。久野康之常務は「さらに不良ゼロを目指すため、属人化しない自動化システムを構築中です」と胸を張る。ICTで人的エラーを可能な限り排除する取り組みだ。その中で大きな結果を出しているのが、シール印刷部門で2年前に導入した「インライン画像検査システム」。従来、前工程の印刷段階は担当者が目視点検を進めるものの、高速で稼働するため、どうしても不良品の見落としがあり、後工程の画像検査で発見されるケースがあった。そこで、ラベル印刷設備の中にカメラを搭載し、印刷加工と同時に画像検査も可能にした。これによって印刷中の不良検出が誰にでも容易になり、劇的な効率改善につながった。今後、データを蓄積することで、不具合の頻度、傾向など品質情報分析も可能になるという。

印刷中の不良検出が容易で劇的な効率改善につながった「インライン画像検査システム」

印刷中の不良検出が容易で劇的な効率改善につながった「インライン画像検査システム」

ICT推進はコロナ禍で強みを発揮。導入成功の鍵は、従業員が使い勝手の良さと効率改善を体感できたこと

社内業務分野のICT化も進んでいる。特に2017年にノーコードのクラウド型業務支援システムを導入してからは、「書類の電子化」が進み、仕事のやり方が大きく変わった。久野常務によると、2015〜2016年ごろ、社内横断的なデータ分析・活用のニーズが高まってきた。ところが人によってデータ形式はバラバラ。そこで誰もが簡単にデータの活用ができて、共有のアプリケーションも作れるクラウド型業務支援システムの導入に至った。

クラウド型業務支援システム導入に当たってまず始めたのが、クラウドで情報を共有するメリットを従業員にわかってもらうこと。経営管理室システム課が中心となり、まずは「要チェックマニュアル管理アプリ」を作成した。このアプリは各部署で十数年来作ってきた作業手順・マニュアルをクラウド型業務支援システム上で検索する単純なものだが、従来は共有サーバー内の1,000件を超える文書の中からそれぞれがフォルダをたぐって手作業で探していた。

それがアプリ化により、テキストだけでなく写真や添付ファイルも含めてすぐに検索・閲覧できるようになった。経営企画室システム課の水流(つる)博文課長は「従業員が使い勝手の良さと大幅なスピードアップと正確さを体感できたことで、クラウド型業務支援システム導入に弾みがつきました。現在では各部門・部署間での指示、確認、連絡のコミュニケーションツールとしても活用の場が広がっています。情報の見える化が進み、今や社内業務の効率改善の中心となるシステムになったと感じています」。

社内のICT化推進で「仕事のやり方が大きく変わった」と話す経営企画室システム課のスタッフ(右から水流博文課長、増田幹也主任、渡邊慎也さん)

社内のICT化推進で「仕事のやり方が大きく変わった」と話す経営企画室システム課のスタッフ(右から水流博文課長、増田幹也主任、渡邊慎也さん)

新ツールの使い勝手の良さが認識されると、経営管理室システム課にはアプリ作成の要望が殺到した。従来は1ヶ月ほどかかったアプリ作成作業が、数日でプロトタイプを作成できるまでになった。増田幹也主任は「アプリがもうできたの?と驚かれることもしばしばで、今では200以上のアプリが立ち上がっています」。コロナ禍での業務にもICT化のメリットは如実に表れた。渡邊慎也さんも「従業員が時間や場所にとらわれず在宅でも仕事ができることから、事務所の分散や在宅勤務にスムーズに移行できました。自宅から現場と連絡や業務調整ができるところに新アプリの効果を感じました」と当時を振り返る。

その他のシステム改革もここ数年でかなり進んだ。2021年に採用したビジネスチャットでは、社内の情報伝達手段がメールからほぼ置き換わり、従来の内線電話や顔を合わせての打ち合わせが大幅に減少、コミュニケーションスピードが劇的に向上した。顧客対策では、AIによる問い合わせ対応の強化も模索中で、久野常務は「AIがチャットボットなどで当社の過去の技術知見を元に的確な回答ができれば、必ず新規顧客獲得の後押しになる」と考えている。

休みを増やして「生きがい・やりがい・働きがい」を大切にし、合わせて「誰が休んでも大丈夫」な柔軟な組織づくり

サニー・シーリングは地方都市のハンディキャップをものともせず、品質と技術で「世界水準」をうたう。都城盆地の社屋からは遠くに霧島連山が望める。

サニー・シーリングは地方都市のハンディキャップをものともせず、品質と技術で「世界水準」をうたう。都城盆地の社屋からは遠くに霧島連山が望める。

サニー・シーリングの経営理念には、冒頭に紹介した「無くてはならない企業」のほかに、もう一つ「生きがい・やりがい・働きがい」がある。窪田社長は「一緒に仕事をする仲間には生き生きとしていてほしい。そのために先を見据えた会社づくりを進めてきました」とも話す。例えば福利厚生分野では、早い段階から休みを増やしてきたといい、男性従業員の育児休暇はこれまで5人が取得し、育休取得率100%。「中には半年間取得した者もいましたよ」と笑う。ただ、休みを増やした理由は「柔軟な組織づくり」のためでもある。「人は往々にして『今の仕事は自分にしかできない』と思い込み、仕事を抱え込みがちです。だから誰が休んでも大丈夫なように、リフレッシュ休暇を設けるなど休みを増やし、職場のフォロー態勢を柔軟にしたのです」と説明する。

職場のICT化は、業務の効率化だけではなく、人的ミスを避ける手段の一つであり、組織の硬直化を防ぐ手段でもあった。ICT導入について窪田社長は「分からないからやめておこう、ではなく、分からないからやってみよう、が大事です」と話している。

南九州地域へのお役立ち、そして都城から全国、世界へ独自技術発信

「都城の地から全国、世界へ技術を発信していきたい」と語る窪田社長

「都城の地から全国、世界へ技術を発信していきたい」と語る窪田社長

これだけの技術力がある会社であれば、もっと多くの仕事がある都市への進出や移転も考えるのでは?という問いに窪田社長は、「この地から離れることはありません。ここから全国、世界に発信していきます。生まれ育った都城への恩返しと地元愛です」と答えた。

折しも車で2時間の場所(熊本県)に台湾のTSMCが大規模な半導体工場を建設し、2024年秋には本格稼働を予定している。そこには関連の会社や取引先、そして技術者が集まってくる。周辺に新たなビジネスが生まれる可能性が高い。

また、食の分野でも、ネット販売やスーパーを通じて全国各地の新鮮な食材を求める層が増えている。鮮度を保つための超冷凍技術の普及が進み、産地でのパッケージ技術が進む。そういう意味でもサニー・シーリングは、実力だけでなく運も持った会社かもしれない。

企業概要

会社名

株式会社サニー・シーリング

本社

宮崎県都城市志比田町3744-1

HP

https://sunnysealing.jp/

電話

0986-23-9364

設立

1982年9月

従業員数

104人

事業内容

ラベル、シール等粘着加工製品の製造販売/精密型抜き製品/光学ユニット関連保護・固定フィルム加工

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