事例集

2023.12.06 06:00

水のように柔軟に、激しく大胆に。時代の変化に飲まれず生き残り、ICTを活用した環境ビジネスにも挑む 篠﨑精機(栃木県)

水のように柔軟に、激しく大胆に。時代の変化に飲まれず生き残り、ICTを活用した環境ビジネスにも挑む 篠﨑精機(栃木県)
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グローバルサプライチェーンに依存し、多層構造で成り立つ製造業は世界動向に左右されやすい業界だ。世界で何か事が起これば少なからず影響を受けるのは、この数年間の感染症の流行やロシアの軍事侵攻などに際して明らかだ。「ものづくり県」と自称し、数多くの中小製造業が存在する栃木県でも困難に直面した企業は多い。今回の事例、真岡市の有限会社篠﨑精機もその一つだ。東日本大震災、リーマン・ショック、ウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症など、今世紀に入って数多くの困難に翻弄されながらも、したたかに生き抜いてきた篠﨑精機。そんな同社の最大の武器は「人」だという。試練にもまれながらもたくましく生き抜いてきた同社はいかにして人材を最大限に活用し、生き残ってきたのだろうか。製造業がこれからを生き抜くヒントがここにある。(TOP写真:検査・組立業務を主な事業とする篠﨑精機の業務風景)

主軸は自動車部品の検査組立業務。変化が激しい分野だからこそ、長く生き残れる企業を目指してきた

組立・検品作業に従事するのは100%女性スタッフ。きめ細やかで忍耐強い女性の特質が最大限に発揮されているという

組立・検品作業に従事するのは100%女性スタッフ。きめ細やかで忍耐強い女性の特質が最大限に発揮されているという

1977年に栃木県真岡市で設立した篠﨑精機。当初はカメラ部品の組立作業からスタートし、その後プリンターや電子部品のコネクターの検査・組立を経て会社は成長。本社のほか、第2工場、第3工場を擁するまでになり、現在は自動車部品の検査・組立が事業の中核となっている。

「検査と組立作業が中心なので、材料は全支給。設備投資の必要がありません」と話す篠﨑社長。これまで時流の変化に柔軟に応じて扱う品目は変遷してきたが、在庫を持たないビジネスモデルは一貫している。また、取引先の拡大に伴い、検査製品の品質保証を目的にISO9001を2019年に取得した。

そんな篠﨑精機を2006年から代表として引っ張ってきた篠﨑社長のモットーは「水のような男になる」。それは、普段は穏やかでありながら、時に濁流のように激しく流れる川のように、変化に対して柔軟に応じていく心構えでもあるという。その言葉通り、同社は自然災害や感染症など大きな出来事が相次いで起こった激動の2000年代を粘り強く乗り越えてきた。

「全員女性」が最大の強み。女性の特性を生かして新人教育と働きやすい勤務体系の整備、環境改善を常に行っている

篠﨑精機を率いる篠﨑邦之代表取締役。「水のように柔軟に、大胆に激しく」を信条とする生き方を貫く。

篠﨑精機を率いる篠﨑邦之代表取締役。「水のように柔軟に、大胆に激しく」を信条とする生き方を貫く。

製造業といえば、ほぼ無人のスマート工場が昨今の時流である。しかし、篠﨑精機の工場にはたくさんの女性たちがずらりと並び、黙々と作業を行っている。検査・組立ロボットこそないものの、マルチタスクのスキルを持つ女性たちがさまざまなオーダーに応じられる。それが同社の最大の特徴であり強みであるという。

「うちの武器は女性たちです。ものづくりには彼女たちの細やかで丁寧な仕事ぶりが最大限に発揮されます」と話す篠﨑邦之社長。篠﨑社長は女性の能力を最大限に発揮すべく、入社したばかりの従業員でもすぐに働ける新人教育体制の構築や、さまざまな仕事に適応できるリーダーの育成にも熱心に取り組む。さらに家庭重視をモットーに、家庭環境に応じた勤務体系や子連れ出勤も可能な社内環境の整備など、女性が働きやすい職場環境づくりによって長期雇用も実現。結果的に人材雇用に要する経費削減にもつながっている。

「働きやすい職場環境と、人材の育成が要です」と話す篠﨑社長は、自分の担当のみでなく、全ての持ち場を担える「マルチタスク」な人材の育成を目指しているという。

多様な勤務体系に応じた勤怠管理は必須。しかし、以前は勤怠管理の属人化による弊害が発生していた

比較的若い世代の従業員が多いため、子育て中の人に対しても柔軟な勤務体系で応じている

比較的若い世代の従業員が多いため、子育て中の人に対しても柔軟な勤務体系で応じている

若手世代の女性が多くを占める同社では子育て中の従業員も多い。だからこそ、家庭環境に応じた多様な勤務体系があることは女性にとってありがたい限りだ。それは裏を返せば、複雑な勤務形態を正確に管理する勤怠管理が求められるといえるだろう。

しかし、一人ひとり異なる勤務形態の従業員のほか出向の従業員もいるため、以前は勤怠管理に多大な労力が生じていた。タイムカードを使った従前の勤怠管理では打刻忘れが度々生じ、その度に個別の確認に手間と時間を要した。さらに、給与計算ソフトに手作業で入力をしていたため給与計算には2〜3週間を要しており、経理担当者が一人で作業を抱え込んでいたことも課題となっていた。

「作業の属人化、特に経理においてそれは避けたいと思っていましたので、改善を図りました」と振り返る篠﨑社長。また、従業員の勤務状況の正しい把握は人繰りにも関わるため、生産効率向上のためにも勤怠管理システムの刷新を断行することにした。

勤怠管理システムの導入により、2~3週間かかった給与計算が2~3日で完了。給与の資金調達に早めに動けてノーストレスに

現在はタイムカードの打刻は廃止し、従業員全員がIDカードによって出退勤を記録。情報はクラウドで一元管理され、多様な勤務体系に応じた勤怠管理がスムーズに行われている

現在はタイムカードの打刻は廃止し、従業員全員がIDカードによって出退勤を記録。情報はクラウドで一元管理され、多様な勤務体系に応じた勤怠管理がスムーズに行われている

新たな勤怠管理システムは2022年に導入された。まずは従業員一人ひとりにIDカードを支給し、出勤・退勤時にはカードを認証機にタッチすることで個別の勤務時間を確実に記録。さらにその記録はクラウド上に自動的に集約され、勤怠管理を一元的に行うことができるようになった。また、災害など社屋に不測の事態があってもデータの滅失は避けられることもメリットだ。システム導入後、これまで確認や集計作業で2〜3週間を要していた給与計算は2〜3日で完了するまでにスピードアップした。

「給与計算については以前と比べて1/3の労力に減りました。私としては給与の資金調達は早めにしたいので、見通しが早めにつくようになってストレスから解放されましたね」と話す篠﨑社長。作業効率が上がり、先が見通せることで余裕を持って対応できるようになったことは最大のメリットだった。

ICTの導入によって製造管理や勤怠管理を「見える化」 試練を教訓に、幅広い分野を視野に入れて時代の動向に即応

県内外の取引先とのWeb会議も頻繁に行われている

県内外の取引先とのWeb会議も頻繁に行われている

同社は篠﨑社長が専務時代の2003年にサーバーを導入して以降、積極的にデジタル化を推進してきた。2019年にはISO9001を取得し、ICTを活用した生産管理システムも導入。勤怠管理システムにおいても、今後は従業員にスマートフォンを支給して休暇申請もオンラインでできるようにしたいと、さらなるアップデートを目指している。

このように、生産管理や勤怠管理にICTを活用することで業務が「見える化」されれば、生産効率が上がり、人材の有効活用や評価にもつながる。同社では時間あたりの生産量に応じて、2023年10月から給与のベースアップを果たしている。さらに毎月、生産量の高かった従業員10名に商品券をプレゼントしているという。それは、その人がどれだけの仕事をこなしたかという正しい記録がなければできないことだ。「人が宝=人財」と語る篠﨑社長にとって、生産・勤怠管理はまさに重要な基盤づくりだった。

篠﨑社長が「人財」の活用にこだわるのは、過去の試練にもよるだろう。「東日本大震災では、幸い工場の建屋は被災しませんでしたが電気が止まり、部品が来なくて製造が完全に止まりました。これを機に発電機を導入しました」

とりわけ新型コロナウイルス感染症の拡大においては大きなダメージを受けたという。「自動車業界の経営不振の余波を受けて、営業利益が大幅に減少しました。さらに従業員の感染も相次いで、雇用を守れるかどうかの不安を抱えながら、目に見えぬウイルスに脅かされて出口の見えない戦いでした」と振り返る篠﨑社長。

「しかし、私には従業員とその家族を守る使命があります。経営者として立ち止まるわけにはいきません」。そう腹を据えた篠﨑社長は情勢を見据えつつ、現在の事業内容に固執することなく新たなビジネス展開を行った。その例が、関連会社で展開しているパワーストーン販売や焼き芋事業だ。パワーストーンは篠﨑社長の趣味から始めたものの、商圏にライバルが少ないことや知識豊富なスタッフがいることからリピート客も増え、固定客もついている。また地域の祭りなどへの出店も積極的に行い、地域活動への貢献にもつながっているという。

グループ会社では新たなビジネスの種まき。カーボンニュートラルにも取り組み、ICTを活用した環境ビジネスにも参入したい

グループ会社の株式会社オレンジで販売を手掛ける焼き芋「スイーツ焼き」は特殊な焼成技術を駆使した商品

グループ会社の株式会社オレンジで販売を手掛ける焼き芋「スイーツ焼き」は特殊な焼成技術を駆使した商品

ユニークなのが「スイーツ焼き」という焼き芋の販売だ。焼成時に使用する特殊な石が焼き芋の糖度を高める効果があり、まさに「スイーツ」そのものというべき焼き芋となっている。事業を始めて2023年で3年目だが、食べやすいサイズ感や保管方法にも工夫を重ね、最近ではメディアにも取り上げられるなど話題を呼んでいる。

「コロナ禍の売上減少の歯止めになれば、と始めた焼き芋事業でしたので不安しかありませんでしたが、仕入や保管、製造と年々精度を上げていくことができました」(篠﨑社長)

さらに篠﨑社長は、国が目指す2050年度までのカーボンニュートラルに照準を合わせ、今後は環境分野に向けたビジネスを構想中だ。

「製造業は日本の温室効果ガスの3割を占める大きな分野です。まずは自社の排出量を正確に把握し、その削減に向けた取り組みを行います。それと並行して自社をモデルにした中小企業のカーボンニュートラル化事業を立ち上げ、排出量のデータ分析やCO2排出削減に向けた取り組みの提案、環境配慮に寄与する製品の導入といった環境事業への参入を行っていきます」と意欲を示す篠﨑社長。環境マネジメントシステムに関する国際規格ISO14001の取得も目指しており、事業化においてはICTのソリューションを最大限に活用していく構えだ。

「我々に起こった困難はその先の世の中の変化への警告」

「我々に起こった困難はその先の世の変化への警告だと思っています。起こった出来事に嘆くだけでなく、そこで得たものを糧にしてさらなる経験値を上げること、一人の人間として成長・進化することが会社の発展への近道ではないかと考えます」と結ぶ篠﨑社長。

「水のような男になる」をモットーに掲げ、何ごともポジティブかつ柔軟に構える篠﨑精機にとって、ICTのソリューションは強力な武器となることだろう。

企業概要

会社名

有限会社篠﨑精機

所在地

栃木県真岡市八木岡486-5

HP

https://shinozakiseiki.co.jp

電話

0285-84-4811

設立

1977年2月

従業員数

80人(パート含む)

事業内容

電子部品、自動車部品等の検査・組立

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