事例集

2023.12.19 06:00

マンションの大規模修繕専業という独自のビジネスモデルで成長。通信インフラを増強し、働き方改革を視野にDX推進に本腰を入れる 株式会社 大和 (神奈川県)

マンションの大規模修繕専業という独自のビジネスモデルで成長。通信インフラを増強し、働き方改革を視野にDX推進に本腰を入れる 株式会社 大和 (神奈川県)
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株式会社大和(ダイワ)の前身、有限会社大和塗装工芸社が設立されたのは、わが国の高度経済成長期にあって岩戸景気真っ只中の1960年。東京オリンピック開催を控え設備投資は旺盛で、建設会社も急増。関連事業の裾野も拡大し始めた時代だった。当初は社名が示すようにビルの塗装や看板制作が事業の中心で、ゼネコンや工務店の下請けが中心だった。首都圏で集合住宅の建設が急増するにしたがい、定期補修など大規模修繕の請負業務が増えて、次第に主力事業に拡大。現在の代表取締役 佐藤正道 氏が入社した1981年以降、蓄積した修繕事業のノウハウを武器に、徐々に下請けから元請けへの転換を進めてきた。

米国の大学を卒業して父親が興した会社に入社。「当初は気が進まなかったが、働いてみると自分に合っている仕事だった」と感じ、昼夜なく働いた佐藤社長。業績も右肩上がりで成長し、1990年には株式会社化(社名は「株式会社大和塗装」、1996年に現社名に変更)。首都圏では珍しいマンションの大規模修繕専業としての存在感を高めている。(TOP写真:マンションの大規模修繕中の工事現場での株式会社大和 社員)

いち早くニーズをつかみマンション大規模修繕に特化。下請けから脱却し競争力強化して安定経営

佐藤社長は「今の事業はほぼ100%マンションの修繕だ。いち早くニーズをつかんで、この分野にターゲットを合わせて取り組んできたのがよかった」と振り返る。自ら旗振り役となり直接契約主体の事業形態に切り替えることで利益率も向上。1999年の社長就任以来、ゼネコン系など兼業の大手グループに負けない競争力を備えた専業として、景気の浮沈に大きく左右されない安定経営を続けてきた。

「マンションの大規模修繕は景気と関係なく必要なので、リーマン・ショックやコロナ禍でも比較的経営への影響は少なかった」と話す佐藤正道 社長

「マンションの大規模修繕は景気と関係なく必要なので、リーマン・ショックやコロナ禍でも比較的経営への影響は少なかった」と話す佐藤正道 社長

首都圏の人口増加とともに乱立した分譲マンションは建築基準法に沿って、定期的な修繕工事が義務付けられている。外壁の塗り替えのほか屋上やバルコニー、共有廊下の防水工事、配水管の取り替え、耐震強化工事など、居住者の快適性や安全性の向上を目的にオーナーや管理組合が実施することになっている。居住者にとっても資産価値の維持のために欠かせない工事だ。修繕実施の間隔は明確に定められていないが、一般的には12年程度で実施されている。

現場作業員向け講習会や保守サービスも充実させて、マンションオーナーや管理組合からの信頼が強みだ

現場作業員向け講習会や保守サービスも充実させて、マンションオーナーや管理組合からの信頼が強みだ

年間100棟のマンションを修繕、累計5万棟超える実績。大型マンションに強み。数えきれない感謝状

つまり、マンションが建てば建つだけ既存顧客と新規の見込顧客が増える。同社はマンションの大規模修繕という有望市場に着目して営業を展開。技術力やコスト競争力など独自のノウハウを積み上げてきた強みが、累計5万棟以上、年間100棟規模の大規模修繕工事の請負実績に表れている。

100~200世帯の大型マンションの大規模修繕も多く手掛け、横浜市で600世帯を超えるマンションの修繕事例もある。工事後の状態確認などアフターメンテナンスにも力を入れており、管理組合などからの感謝状は数えきれないほどだ。

マンションのオーナーや管理組合からの感謝状は本社で大切に飾られている

マンションのオーナーや管理組合からの感謝状は本社で大切に飾られている

「大規模修繕はマンション1棟で3、4回行うが(国交省の実態調査では1回目の大規模修繕工事は築13~16年前後に実施されています。2回目は築26~33年前後、3回目以上は築37~45年前後)、当社は一度入札で指名されると同じマンションからのリピートオーダーが多い。年々厳しくなる安全基準への即応や、現場従業員向けにもあいさつなどビジネスマナー講習を徹底していて、居住者の方に安心していただけるよう配慮していることも評価されている」(佐藤社長)との自負がある。

従業員110人、現場作業員は1,000人を超える規模で日々の修繕工事や保守をこなしている。「マンションの修繕ニーズは今後も増えるが、更に安全・安心・技術・品質の向上を図り、首都圏に特化した事業展開していく」(同)。中途採用に加え年間数人規模で新卒も採用しているが、それでも人手が足りない状況で、今後も更に人員と組織力の増強をしていく。

IT推進企画室を立ち上げて2024年問題への対応急ぐ。矢継ぎ早のICTソリューション導入で業務改善始動

建設業界は、いわゆる「2024年問題」への対応が急務となっている。業界各社は2024年4月から適用される年間960時間の時間外労働規制に合わせて、残業時間の削減や有給休暇取得の推進など働き方改革を試行錯誤している。

大和では佐藤社長が「現状はまだ達成できていない」と話すように、残業時間の低減は道半ば。そのためにもICT活用による働き方改革は待ったなしの状況だ。

大和が「IT推進企画室」を設置したのは2021年。その翌年にIT系企業から大和に転職したIT推進企画室 落合一仁 室長が働き方改革を視野に入れたICT導入の旗振り役だ。「IT化はすごく遅れていた。残業は当たり前で休日出勤も普通に行われていたが、実際に工事現場でどれくらいの時間働いているのか正確にわからなかった」と振り返るように、勤怠管理をはじめ業務管理はエクセルや紙ベースで行われていたため、集計に手間がかかって管理も煩雑な状態が続いていた。

ICTソリューション導入を主導するIT推進企画室 落合一仁 室長(左)も 「当初は正確な勤務実態がわからなかった」という

ICTソリューション導入を主導するIT推進企画室 落合一仁 室長(左)も 「当初は正確な勤務実態がわからなかった」という

落合室長はICT導入によって、業務管理の効率化と現場作業の負担軽減、申請・報告作業の簡素化、部署間のコミュニケーションの円滑化といった課題を洗い出した。「労働時間の負担軽減と品質向上の両立」(落合室長)を目指して検討してきたが、2023年から本格的に動き出した。

勤怠管理システム導入。入念な下準備で本格活用の最大効果狙う

勤怠管理は従来、エクセルにて出勤簿を入力して紙で管理し、上司が確認していたが、勤怠管理システムの導入によって打刻・申請から分析・マネジメントまでの勤怠管理業務をすべてデジタル化し、業務時間の削減とリアルタイムで勤務状況を把握し、残業減や休日取得などを指導できる環境整備を目指した。

ただいきなり導入したわけではなく、2023年3月から現状調査を実施している。勤怠管理システムによる打刻から労働時間などの勤務状況を分析。一方、現場ではグループ化で勤怠管理を細分化し、デジタル化へ移行しやすい体制を整え、担当役員と外部コンサルタントによる最適な管理や活用方法を検討しながらシステムを試行中だ。

勤怠管理システムの本格活用は2024年問題に対応するために不可欠だ。「残業の偏りの平準化や休日取得推進につなげるために有効なルール作りをしていく。2024年4月の時間外労働規制の施行に間に合わせる」(落合室長)。規制適用まで半年足らずに迫り、作業は追い込みに入っている。

勤怠管理システムの本格活用は2024年問題に対応するために不可欠だ。「残業の偏りの平準化や休日取得推進につなげるために有効なルール作りをしていく。2024年4月の時間外労働規制の施行に間に合わせる」(落合室長)。規制適用まで半年足らずに迫り、作業は追い込みに入っている。

施工管理システム試行で作業時間の削減、及び、試算上100万円のコスト削減効果が視野。2024年の全社導入目指す

現場の作業効率向上のために2023年9月に導入したのは施行管理クラウドサービスだ。工事現場では作業箇所などのきめ細かな撮影が不可欠で、工期や規模によるが写真枚数は半年で2,000~3,000枚に上り、多い時には5,000枚になることもあるという。現場で社員や協力会社の作業員などが撮影した工事の写真をもとに社員が整理して資料作成を行うため、残業は不可欠だった。

まだ試験運用段階だが、施工管理クラウドサービスの活用によって、写真の一元管理も可能になり、資料作成の作業効率が格段に向上。「施工管理クラウドサービスメーカーの実績値にて平均1ヶ月1人当たり24時間の作業時間の削減結果、及び、試算上100万円のコスト削減も可能になる」(落合室長)と導入効果に期待を寄せる。現在のライセンス数は15ライセンスだが、2024年の全社的運用時には50ライセンスに増やして工事現場全体へ展開するように目指している。

2024年中には、紙ベース主体で受け取っている請求書のデジタル化、IT機器・ソフトウェア・アカウント・リース状況等を一元管理するできるIT資産管理システムの導入も計画。既にチャット・情報・予定を共有する企業向けクラウド型コミュニケーションツールも活用を始めており、社内業務連絡などコミュニケーションの円滑化に本格活用していく方針。従業員が社長に話をしやすい風通しの良い社風にも一役買っていて、佐藤社長は「私のレスポンスは早い」と自慢するほどだ。

大手通信会社の大規模通信障害があり、ネットワークを冗長化 インフラの安定化と安全対策に手を打ち、ICT武装による働き方改革と競争力強化を目指す

矢継ぎ早のICT導入を支えるネットワーク環境も2023年10月に増強したばかりだ。2023年4月に発生したNTT東日本・西日本の光回線サービスの大規模通信障害により大和も業務に支障をきたした経験から、他通信事業者の光回線サービスも導入し、障害発生時の冗長化、データ通信量の無制限、安定したデータ通信の確保の為、光回線の改変を実施。

今後、新たな社内Wi-Fiとサーバの構築を行い、社内ネットワーク環境の充実とセキュリティ対策を強化していく計画だ。

佐藤社長は、旧態依然の非効率な業務管理や工程管理に危機感を覚え、ICT武装による働き方改革と競争力強化を目指してIT推進企画室を立ち上げた。佐藤社長の肝煎りで、生成AIの事業への活用やAI議事録自動作成ツールの導入も検討。法規制対応のさらに先を見据えたマンション修繕事業の新たなビジネスモデルを模索している。

2020年に地上9階建ての本社ビルを建設。2025年には設立65周年を迎える

2020年に地上9階建ての本社ビルを建設。2025年には設立65周年を迎える

企業概要

会社名

株式会社 大和

住所

神奈川県横浜市中区港町6-28

HP

https://www.daiwa-co.com/

電話

045-225-8200

設立

1960年12月

従業員数

110人

事業内容

マンション・ビルの大規模修繕工事、リニューアル工事、建築工事、関連保守サービス

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