事例集

2023.11.15 06:00

デジタルツールを駆使して省力化を実現し営業の時間を作る。 インスタグラムで商材やセミナーの案内を発信し共有化する総合美容商社 今井物産(長野県)

デジタルツールを駆使して省力化を実現し営業の時間を作る。 インスタグラムで商材やセミナーの案内を発信し共有化する総合美容商社 今井物産(長野県)
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長野県の上諏訪に本社を置く総合美容商社の今井物産株式会社には、長方形をしたロゴマークがある。長方形は下4分の3ほどが赤く塗られていて、そこに「IMAI ism」という文字が白抜きで書かれている。「一人ひとりの個性や命を大切にするイマイイズムという考え方が会社の根っこにあるという意味と、そうしたイマイイズムによってお取引先に対する縁の下の力持ちになりたいという気持ちをこめて、私が作ったものです」と、代表取締役社長の五味寛雄氏は解説する。(TOP写真:営業車に張られた今井物産の「IMAI ism」のロゴ)

2024年で会社創業100年の総合美容商社

シャンプーやコンディショナー、化粧品からクシやハサミ、イスなどの家具、そしてインテリアにいたるまで、美容室や理容室で使われるあらゆるものを取り扱っている商社が今井物産だ。長野県全域と山梨県の一部に及ぶ900軒ほどを顧客として持ち、営業担当者が毎週のように通って注文を取ったり、注文の品を運んだりしている。

歴史は古く、1924年に今井盛という実業家が会社として立ち上げてから、2024年で100周年となる。当初は、三井物産の長野県における総代理店として日用雑貨品の取り扱いを行っていたが、太平洋戦争後の財閥解体で三井物産との取引が終わり、事業の内容を変える必要に迫られた。そこで、理容室を相手に商材を卸す仕事から始め、やがて美容室向けの商材を扱うようになった。

「美容室がパーマ屋さんと呼ばれていた時代で、営業担当者がオート三輪にパーマ液を積んで峠道を越えて運んでいたと聞いています」(五味社長)。そうした頑張りの甲斐あって、得意先を広げて長野県でもナンバーワンの美容総合商社へと発展していった。1990年代半ばに長野市をエリアにしていた支社が独立し、人員が半分以下に減る事態に見舞われたが、「既存の顧客を大切にしながら、新しく独立してサロンを開く美容師さんを支援することで、売上を維持してきました」(五味社長)。

「IMAI ism」のバッジをつけた今井物産株式会社の五味寛雄社長

「IMAI ism」のバッジをつけた今井物産株式会社の五味寛雄社長

セミナーを開いて商材や流行の情報を美容師に伝える

美容室のマーケットはその頃、「カリスマ美容師が話題になったり、テレビドラマで人気俳優が美容師を演じたりして盛り上がっていて、新しいサロンが続々とオープンしていました。パーマが主流だった美容室のサービスも、ヘアカラーを手掛けたり新しいカットの技術が入って来たりと大きく変わっていた時期でした」(五味社長)。そうした追い風をつかみ、なおかつ離さないようにするために同社では、ただ商材を売り込むだけでなく、新しい商品の特徴やカットの流行といった情報を伝えるセミナーを行うことを考えた。

今井物産が開いたセミナーの模様。松本理容美容専門学校にて、SHACHU代表のみやちのりよし氏を迎えて「ブリーチデザインテクニックセミナー」(ホームページより)

今井物産が開いたセミナーの模様。松本理容美容専門学校にて、SHACHU代表のみやちのりよし氏を迎えて「ブリーチデザインテクニックセミナー」(ホームページより)

日々の仕事に追われる美容師の人たちにとって、新しい情報に接することができる機会としてセミナーは大歓迎された。「コロナ前までは、毎週のようにセミナーを開いていました」(五味社長)。コロナによって集まったり移動したりといったことが難しくなると、「Zoomを使ってリアルタイムで映像を配信して見てもらうようにしました」(五味社長)。ピンチになっても、次善の策を講じて顧客の役に立とうとする同社の姿勢が、オンライン映像配信というツールの普及と重なって効果を発揮した。

ただ、本業はやはり総合美容商社であり、顧客となる美容室との間でどれだけ取扱高を増やせるかが重要となる。セミナーの開催も得意先の確保と開拓が狙いにあって、そこからの営業が肝心で、それこそ1分1秒を惜しんで得意先を回ることが求められる。そのために、さまざまなデジタルツールを駆使して、営業の時間を作り出そうとしている。

居酒屋感覚で注文できるよう発注業務を電子化

「自分が営業だった頃は、一人ひとりの営業担当者が納品伝票を自分で手書きしていました。営業先のサロンに行って商品を納めてから、待合室に座って伝票を書いていたこともあります」(五味社長)。そうした作業が営業時間に食い込むと思うと、なかなかのストレスになっていた。「注文品も、営業担当者がそれぞれに倉庫に出向いてピックアップしていました」(五味社長)

パソコンに向かう今井物産株式会社の五味寛雄社長

パソコンに向かう今井物産株式会社の五味寛雄社長

こうした作業を簡略化する必要があると考え、まずは倉庫の機能を拡充して選任の担当者を置き、在庫の管理などを任せるようにした。発注すれば品物と伝票を揃えて出庫してくれるため、担当者が現場で納品伝票を書くようなことがなくなった。「今はまだ、発注をFAXで行っていますが、2023年中にこれをネット上から行えるようにしようと準備を進めています。営業担当者もサロンの人も、居酒屋のメニューを選ぶような感覚で欲しい品物を選んで注文できるようになります」(五味社長)

請求書類の発行も自動で行えるようにした。「これまでは、1,300通ほどの請求書をプリントアウトした上で、一枚一枚封筒に入れて投函(とうかん)していました。自動化したことで、担当者が1日がかりで行っていた作業をほとんどゼロにできます。ネットを使って電子データで送るようにすれば切手代も節約できます」(五味社長)。会計ソフトもそれまで自社のパソコン上で運用してきたが、クラウド化して「情報の管理や保守をアプリケーション提供者側に任せました。データがいっぱいになって保管場所を移し替えたりする手間も不要になって、時間に余裕が生まれました」(五味社長)。

できることは全てデジタル化。顧客先への情報提供や相談に対応する時間を増やす。そうしないと中間事業者は淘汰される可能性がある

デジタルツールを使って浮いた時間を作れば、それがバックオフィスであっても巡り巡って営業の現場の省力化につながる。結果、営業は最も大切にしたい顧客とのコミュニケーションの時間を増やすことができる。そこまでして、営業の時間を増やそうとしているのには理由がある。「デジタルツールが自分たちの作業を楽にしてくれると同時に、自分たちのような中間事業者を不要にしてしまうところがあるからです」(五味社長)。そうした時代でも、営業担当者が顧客先との関係を強く持ち、情報を流したり相談に乗ったりすることで相手に必要とされる存在になれる。「できることは全部デジタル化したい」(五味社長)といった意識で、今後もICT化に取り組んでいく。

画今井物産株式会社の五味寛雄社長(右)と守矢貴史部長

画今井物産株式会社の五味寛雄社長(右)と守矢貴史部長

デザイン性の高いホームページで顧客や就職希望者にアピール。インスタグラムでは新しいカットやパーマの紹介映像

業務面の効率化とは別に、情報発信をスムーズに行うという方向でのデジタルツールの活用も進めている。一つがホームページの充実だ。アクセスすればわかるように、美容院というファッショナブルな分野に属する顧客を相手にした商社にふさわしい、スタイリッシュなレイアウトで、取り扱っている商材やセミナーの開催などを紹介している。「美容師の方々にとって、取引する会社がどのようなところなのかは重要です。その選択肢に入るよう、会社の特徴をホームページで見せています」(守矢貴史 営業部 部長)

今井物産のホームページトップ

今井物産のホームページトップ

インスタグラムの積極的な活用にも取り組んでいる。会社がどのような仕事をしているかを画像で発信し、PRに使っているところが多い中、同社ではたとえば新しく取り扱いを始めた商材の紹介画像や、セミナーで取り上げた新しいカットやパーマの紹介映像を次々とアップしていって、それを取引先に見てもらって次の商売へとつなげている。「簡単に発信できて共有も可能で、取引先にもタブレットやスマートフォンで見てもらえます」(守矢部長)。学生さんが見れば、会社が何をしているかもわかるため、興味をもってもらえるのではと期待する。

インスタグラムを通じて商材の説明やセミナーの案内を発信

インスタグラムを通じて商材の説明やセミナーの案内を発信

営業担当者に1人1台のタブレットを持たせたのも、ペーパーレス化の時代にネットワークから情報を引っ張って訪問先に見てもらったり、スケジュール管理を一元化してタブレットから確認できるようにしたりするためだ。「個人が持っている手帳では、その持ち主しかスケジュールを確認できません。スケジュール管理を一元化しておけば、タブレットから僕のスケジュールも見られますし、僕からも全体の行動を把握できます。会議の時間も即座に伝えられます」(五味社長)

社員が持つ情報の共有化を推進し、顧客への情報提供を積極的に行う。「若い美容師さんたちといっしょに成長していける楽しさもあります」

今後の課題は、社員の一人ひとりが持っている経験や情報をどのように共有化していくかだ。ある営業担当者が取引先の美容院の悩みを解決しようとして作った資料が、同じような悩みを持っている他の美容院にも有効だとわかれば、転送して役立ててもらった方が全社的なメリットになる。そのためには、どのような悩みにどのような解決方法を示したかといったハウツーの存在を、誰もが知っておく必要がある。「今はLINEを使ってコミュニケーションをとっているようですが、共有化に最適なグループウェアがあれば使ってみたいと考えています」(守矢部長)

美容業界という一見華やかに映る世界でも、同社の仕事は裏方として商材を持って歩き回り、情報を伝えて美容師を支えることが中心になる。入社後にギャップを感じる人もいるというが、最初から知っていればそこにやりがいを見つけて、より深く会社の仕事に入り込んでいってくれるかもしれない。「自分たちが若い美容師さんたちといっしょに成長していける楽しさもあります」(五味社長)。どこまでも顧客に寄り添い問題解決の力となるために、デジタルツールを使って営業の時間を1分1秒でも作り出していく。

今井物産株式会社本社屋

今井物産株式会社本社屋

企業概要

会社名

今井物産株式会社

住所

長野県諏訪市湖岸通り4-5-17

HP

https://imai-ism.co.jp/

電話

0266-58-1200

創業

1924年

従業員数

24人

事業内容

理美容室、エステサロン、ネイルサロンへの業務品・販売品・機材等の卸売り販売

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