事例集

2023.11.09 06:00

1日中プレス機や溶接機が動く工場。なのに、ダイバーシティ経営で高く評価される 栄和産業(神奈川県)

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株式会社栄和産業は建築機械や自動車などの多様な部品を製造する板金加工会社で、2024年には設立50周年を迎える。本社のある神奈川県綾瀬市に12工場、静岡県沼津市に2工場がある。深絞りという複雑な形状の成形が可能な大型プレス加工機や溶接機、レーザー加工機など多様な工作機械を備えており、ショベルカーのエンジンフードやトンネル掘削車のリアカバー、バスの電光掲示板カバーなど大型部品の製造が得意だ。従業員180人の板金加工会社だが、分散する工場や事務所で働く従業員の5分の1が女性で、4分の1は外国籍。最高齢は79歳で、17人の障がい者が働いている。(写真⑪新入社員研修では職種を問わず工場で溶接実習も行う)

笑顔でなければ良しとしない。ダイバーシティが当たり前の会社に

多様な働き手が適材適所で能力を発揮している栄和産業は、企業理念に掲げる『ダイバーシティの力で笑顔あふれる未来を創りだす』が当たり前のように浸透している。伊藤正貴社長が目指すのは、創業者である先代社長、正士氏から受け継いだ社訓「誠心、誠意、誠実」を踏まえつつ、自分たちの仕事に携わっている人たちが笑顔でなければ良しとしない企業文化だ。

「自分たちの仕事に携わる人たちを笑顔にしたい」と伊藤正貴社長

「自分たちの仕事に携わる人たちを笑顔にしたい」と伊藤正貴社長

伊藤社長が4歳の時、有限会社栄和産業は横浜市で産声をあげた。「職人肌の父親が日夜汗と油にまみれてモノを作り続ける姿を見ながら、小学生の時には自分が家業を継ぐもの」(伊藤社長)と思っていた。

バブル経済絶頂期の1988年に栄和産業に入社。山積みの受注を抱え、毎日明け方まで仕事をこなした。「ひたすら作り続けて、きつかったけれど楽しかった」(同)というから根っからのモノづくり父子だったようだ。

常務時代に人事評価①礼儀と節度②自己管理③技術力(向上心)の3本柱を策定。古い体質と決別。反発したベテラン職人の退職も

しかし、1990年のバブル経済崩壊、2008年9月の米リーマン・ブラザーズ経営破綻に端を発したリーマン・ショックが世界経済を覆う中、日本の製造業も大きな打撃を受け、栄和産業の業績も悪化。次期社長が既定路線となっていた常務時代、経営建て直しのための大ナタを振るった。

社長とも話し合って、決めたのが人事評価の3本柱だ。①礼儀と節度②自己管理③向上心、の観点から全従業員を評価することにした。背景には、溶接のベテラン職人が無断欠勤したり、技術を若手に教えたがらない、職場で挨拶もしないなど“特別待遇”を許されてきた昔ながらの社風と決別しなければ製造業の進化は望めないという確固たる信念があった。技術継承が機能し、風通し良く働きやすい職場を目指した。当然、反発した職人が何人も辞めたが、「それは覚悟していた。それを機に若手育成に力を入れやすくなった」(伊藤社長)。

大型部品製造に活躍する600トンのプレス加工機

大型部品製造に活躍する600トンのプレス加工機

リーマン・ショック、新型コロナウイルスと2度の逆風に堪え、業績上向きに

2014年に社長に就任した時はまだリーマン・ショックの影響が残り業績は低迷していた。「え、この時期に交代か」と驚いたが、逆に経営建て直しに何でもやってやるという意気込みで従業員と話し合い、苦労を重ねてきたことが、その後の新型コロナウイルスの感染拡大による業績不振時にも役立った。2度の逆風に耐えながら先代から継承した社訓に改めて向き合い、「笑顔あふれる未来を創りだす」という企業理念を生み出す原動力となった。業績面でもその効果が少しずつ表れてきた。

同社の強みである「深絞り」で建設機械の大型部品を成形する

同社の強みである「深絞り」で建設機械の大型部品を成形する

このところ原材料価格が高騰したが受注が伸び、売上高は順調に推移。2023年3月期の売上高は、原材料の価格高騰に見合う販売価格反映ができず赤字だが、12億円(前期比20%増)と伸びた。2024年3月期は売上高13億円を見込み、黒字化を目指している。「ようやくです。これから」と伊藤社長は業績回復に自信をのぞかせた。

ダイバーシティ経営の道は、先代の時のカンボジア難民の受け入れ雇用が契機となり、障がい者や女性雇用と多様性拡大へ

経営負担も決して小さくないダイバーシティをあえてスローガンに掲げたのは、先代が支援機関を通じてカンボジアからの難民2人を受け入れて少しずつ言葉や仕事を覚えてもらい、次第に外国人従業員を受け入れやすい環境ができた経緯を見てきたからでもある。女性や障がい者の雇用も試行錯誤しながら拡大してきた。「いろいろな人を受け入れてきて、伸びる人もいれば伸びない人もいてすごく苦労した。でも社員教育の醍醐味でもある」と伊藤社長は話す。多様な従業員の能力を引き出すダイバーシティ経営は一朝一夕で「当たり前」になったわけではないが、経営者として人を育てる面白みを実感している。

2020年「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定、2021年「日本でいちばん大切にしたい会社大賞(審査委員会特別賞)」受賞

ダイバーシティを標榜する企業は増えているが、お題目で終わっているケースも少なくない。栄和産業は早くから神奈川県ではその経営姿勢が一目を置かれていたが、近年は表彰・認定されることも多く、知名度は全国区になってきた。主なものだけでも、2019年「えるぼし(女性活躍優良企業)」認定、2020年「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定、2021年「日本でいちばん大切にしたい会社大賞(審査委員会特別賞)」受賞、2022年・2023年「健康経営優良法人2022」「同2023」認定、2023年「障害者雇用優良中小事業主」認定、とその経営姿勢が多方面で評価されている。

新型コロナウイルスの影響で業績が低迷する中、あえて人材雇用を積極化。頼りになる従業員が育った

綾瀬市と静岡県沼津市の合計14工場で多様な人材が働く=写真は本社工場

綾瀬市と静岡県沼津市の合計14工場で多様な人材が働く=写真は本社工場

新型コロナウイルスの感染拡大で受注が急減した2020年には新卒12人に加えて雇用機会を失った若者18人を採用。コロナ禍で多くの企業が雇用調整に向かう中、2021年にも新卒17人を採用した。雇用調整助成金やコロナ関連融資も活用したが「救ってあげたいという気持ちだった。でも明らかに採りすぎで、社内外で散々言われた」(伊藤社長)と苦笑する。だが今は重要な働き手に育っているという。

収益性だけ考えると決して効率的とはいえないダイバーシティ経営だが、効果も出ている。伊藤社長は「3Kといわれて嫌われてきた業界だが、今は募集をかければすぐに応募が集まる。採用で苦労しなくなったし、外部の評価も高くなった」とダイバーシティ効果を実感している。

民間企業であるからには障がい者雇用も社会貢献だけで終わるわけにはいかない。収益を捻出するために雇用している重度障がいの社員に、これまで外部委託していた名刺を内製化する「名刺事業部」を立ち上げた。文字の入力などの作業を重度知的障がいを持つ社員が担当し、初めは社内、その後市役所との購買契約を経て口コミなどで外部のお客様からご注文をいただくようになり年々受注が増えている。

納入された材料にタグを付ける

納入された材料にタグを付ける

一方、収益向上に向けた業務改革にも本腰を入れ始めた。14ヶ所もの工場で部材等の在庫・原価管理が煩雑化。売上に直結する1日の出荷量を正確に把握して、管理部門と各工場でデータ共有することも課題だった。

RFIDタグで出荷管理を正確、迅速に。1日の出荷額33%改善

現行の業務の流れを大きく変えずに効率化と、管理部門と工場でのリアルタイムの情報共有を目指して導入したのが非接触でデータを読み書きできるRFIDタグシステムだ。材料を発注した際にRFIDタグを発行して、納入された時点でタグの情報を読み取り装置で記録して材料と紐付けしておく。その後は工程ごとにタグ情報で作業の開始と終了時間を確認・集計することで、作業工程が可視化され、ボトルネック箇所の把握や加工機器の稼働率を把握できるようになった。

読み取り機でタグ情報を記録し、作業工程を詳細に把握できるようになった

読み取り機でタグ情報を記録し、作業工程を詳細に把握できるようになった

出荷までRFIDタグで紐付けされているため、以前は時間がかかり出荷量にムラも多かった出荷状況がリアルタイムで管理でき、翌日の朝礼には出荷額を報告できるようになった。企画部の伊田一平主任は「タグ付けしたことで、それまでアバウトだったトラック1台当たりの積載量も増やすことができて、1日当たりの出荷額が約33%増加した」と導入効果を説明する。従業員は朝礼で前日の成果をすぐ聞けるためモチベーションを高める効果も出ているという。

企画部の伊田一平主任(右)とホームページの更新担当の横田博之さん(左)

企画部の伊田一平主任(右)とホームページの更新担当の横田博之さん(左)

管理部門で見える化された作業工程を把握して効率的な工程管理を行う

管理部門で見える化された作業工程を把握して効率的な工程管理を行う

ホームページも積極的に更新。若者の感性でものづくりの魅力を伝達。結果、採用活動に役立っている

企画部ではホームページを毎日のように更新しトピックやイベントを紹介しているが、その中には工場や製造工程などの動画もあり、PRに役立っている。動画制作の経験が長い横田博之さんが映像や音楽を編集して制作した。「好きな仕事ができてやりがいがある」と話すように、若者の感性でものづくりの魅力を伝えられていることが採用活動にも貢献している。2人の話を聞いていると栄和産業の社内の風通しの良さが伝わってくる。

AI活用しものづくり全体の業務改革に意欲。50周年機に反転攻勢へ

伊藤社長が抱いていたICTソリューション導入のビジョンは、RFIDシステムに留まらない。材料発注から見積、製造までの工程をAI技術の活用により一元管理することでものづくり全体の業務改革を目指していたが、コロナ禍で棚上げとなった経緯がある。

伊藤社長は2024年11月の設立50周年に向けて、中期経営計画を策定中だ。「業績もようやく黒字化が見えてきた。これから反転攻勢をかける」(伊藤社長)。日本経済がポストコロナで息を吹き返しつつある中で、異色のものづくり会社が攻めの経営に転じようとしている。

企業概要

会社名

株式会社栄和産業

本社

神奈川県綾瀬市吉岡東4-15-5

HP

https://eiwa-sangyou.co.jp

電話

0467-77-0878

設立

1974年11月

従業員数

180人

事業内容

自動車部品・建設機器部品の試作板金、自動車部品・建設機器部品加工、溶接、ベンダー曲げ、レーザー加工、治具製作自動車用部品製造、プレス加工、金型製作

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