事例集

2023.10.16 06:00

地元LPガス事業者のまとめ役として営業活動から保安業務、新技術導入まで主導。業務情報の共有化とデータ保全対策を推進する 前橋ガス事業協同組合(群馬県)

地元LPガス事業者のまとめ役として営業活動から保安業務、新技術導入まで主導。業務情報の共有化とデータ保全対策を推進する 前橋ガス事業協同組合(群馬県)
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群馬県前橋市を中心に市営団地や県営団地など約3,000世帯へのガス供給と保安を担う前橋ガス事業協同組合は、LP(プロパン)ガス事業者39会員で構成される営利団体だ。会員企業と協力してガス供給のための工事や点検・保安作業などを行うほか、政府施策の周知や、知名度向上のためのPR活動、社会貢献活動と幅広い業務に取り組んでいる。(TOP写真:LPガス施設設置後の使用前漏洩検査)

災害時に重要な役割を担ってきたLPガス

前橋ガス事業協同組合は1971年3月、中小企業近代化促進法に基づいて、地域社会に密着した中小ガス事業者の団体として創立した。1967年のLPガス法、1970年の簡易ガス事業法の成立を背景に、県や市の公営住宅へのLPガス集中供給や施設工事、会員企業への保安教育を担う公共事業者としての責務をこなしている。

前橋市のLPガス事業の活動拠点となる新社屋

前橋市のLPガス事業の活動拠点となる新社屋

1999年に現在の前橋市上泉町に新社屋を建設し、都市ガス事業者や大手LPガス事業者の進出に対抗しつつLPガスの安定供給と万全な保安管理に取り組む活動拠点となっている。

渡邉誠理事長は「料金を考えると都市ガスの攻勢に対抗するのはLPガス業界としても大変だが、共存共栄の面もある。災害に備える上でも複数のエネルギー源は重要」と説明。LPガスの利点を広く知ってもらうよう周知活動にも力を入れている。

「LPガスは災害時に重要な役割を果たしてきた」と話す渡邉誠理事長

「LPガスは災害時に重要な役割を果たしてきた」と話す渡邉誠理事長

LPガスは近年多発する地震や洪水など災害に強いエネルギーとして知られている。2011年3月の東日本大震災でも、他のエネルギーに比べて早い復旧が達成されたほか、住宅ごとにLPガス容器が保管されている「軒下在庫」が奏功し、居住地で使用が継続できた。避難所などでも容易に活用できる分散型エネルギーとしての利点が再認識された。

災害時には避難場所にもなる県内の公共施設は複数台のエアコンを設置する計画を進めているが、電気だけでは災害時に利用できなくなることも想定。組合の提案を受けて一部にガス駆動のエアコンを加える検討をしている。

「一時期オール電化住宅がもてはやされたが、災害や計画停電など電力供給が不安視されるなかでLPガス供給は災害対策としても重要」(髙𣘺純一理事)で、自治体もその必要性を認識するようになってきた。

災害対応バルクシステムで広域活動を展開

災害対応バルクシステムの操作説明会=前橋市南橘公民館

災害対応バルクシステムの操作説明会=前橋市南橘公民館

組合は2015年、前橋市南橘公民館に「災害対応バルクシステム」を寄贈した。このシステムは、配送員が家庭ごとにLPガスのボンベ容器を設置してガスを供給する通常の個別供給方式や、団地ごとにガス設備を集約して設置する集中供給方式と異なり、路上に停車しLPガスを充てんする機能を持つ車両「バルクローリー」から直接LPガスをバルク貯槽へ充てんする方式だ。都市ガス供給地域などLPガス供給網がない地域で迅速にエネルギー供給を行えるなど災害時に威力を発揮する仕組みで、災害発生直後から調理や冷暖房、照明など被災地での生活を支えるインフラとして機能する。災害対応バルクシステムを中心に行政や地域住民をつなぐ地域防災体制の構築が可能になる。

すでに、市内の永明公民館、城南公民館、城東小学校にも災害対応バルクシステムを設置。防災訓練など防災協力活動を展開している。2018年には組合事務所が市の防災協力事業所に登録されて一時避難所に指定された。災害対応バルクシステムはさらに市内に増設していく方針で、「地域防災の中核として役立ててもらいたい」(髙𣘺理事)と期待を寄せる。

保安管理を重視、非接触型検針システムの導入を促進

住宅街の地下に埋め込むガス管埋設工事は安全が最重要課題だ

住宅街の地下に埋め込むガス管埋設工事は安全が最重要課題だ

LPガス事業を行う上で最も重要なのが保安管理だ。組合では保安管理を特に重視して経年設備の入れ替え、ガス埋没導管の漏洩検査、ガス消費機器調査などを定期的に実施し、地域社会の安全・安心の信頼に応えている。

音響装置によるガス管路調査

音響装置によるガス管路調査

保安管理の業務効率化の一環として、新型コロナ感染拡大の時期から検討してきた非接触型検針システム「IOT-R」の導入も積極化している。係員が検針車両で各家を回る確認作業から自動検針に転換するもので、現在は全体の50%に当たる約1,500世帯まで設置が進んでいる。

IOT-Rなど業務のICT化を担当する髙𣘺理事は導入計画について「100%まで設置するのはあと3年かかる予定だが、現在でも年間3.2トンのCO2削減に寄与している。設置がほぼ完了すれば各家庭のIOT-R端末から携帯電話網を使って、保安情報や利用量などのデータを自動送信し、遠隔操作ですべて確認できるようになる」と説明する。

紙文書の電子化管理で緊急の通知にも迅速対応可能に

紙文書の電子化は迅速な通知の作成など2次利用の効率化に欠かせない

紙文書の電子化は迅速な通知の作成など2次利用の効率化に欠かせない

煩雑でミスが許されない保安管理業務では、例えば、ガス漏れが発生すると場合によっては2、3棟の団地のガスを止める必要があり、利用者への緊急の通知が欠かせない。組合では2年前から、必要に応じて柔軟に文書を検索したり書き換えて迅速に出力できる文書管理環境を実現している。紙の文書を複合機のスキャン機能で電子データ化して保管。ガス漏れ時には検索した過去の文書を手直しして短時間で「お知らせ」を通知することが可能になっている。

複合機で紙文書をスキャンしてデジタルデータとして保管する

複合機で紙文書をスキャンしてデジタルデータとして保管する

「通知などの作成のほか書類や報告書作成時にも、デジタル化されていない過去データの2次活用に役立っている」(髙𣘺理事)。過去の文書をデジタル化して再利用可能な状態で保管することで、全社の業務データのファイル管理が可能になる。

分散していた業務データを一元管理し共有化

一方、文書や配管図面など膨大なデータ保全のために導入作業を進めているのが、ネットワーク上でデータ保全と災害時のバックアップを可能するNAS(ネットワークHDDシステム)環境だ。

「業務データはこれまでは個人の管理に任されていて、各自が保管していた。しかし、過去にはフロッピーディスクに保管されていたデータが消失していたこともあり、データの一元管理と共有化は大きな課題だった」と髙𣘺理事は導入経緯を説明する。

ネットワークで結ばれたHDDのデータファイルを一元管理してバックアップを取ることでデータ保全に加えて、迅速なデータアクセスの時間短縮、さらにBCP(事業継続計画)が可能になる。2023年10月中には導入したい考えで、ICT支援企業と準備を急いでいる。

環境変化に対応、地域密着と攻めの営業に取り組む

電子帳簿保存法施行に対応した経理業務の効率化も今後の検討課題だ。しかし、渡邉理事長は「業務効率化による課題もある。検針が完全自動化されると、利用者との接触機会がなくなる。そこに競合事業者が入り込む隙を与えることになる」と不安を口にする。

地域防災活動への積極的な参加でLPガスの活用を周知する=前橋市防災訓練の炊き出し風景

地域防災活動への積極的な参加でLPガスの活用を周知する=前橋市防災訓練の炊き出し風景

LPガスの需要は横ばい状態だったが新型コロナウイルスの感染拡大時期には需要が伸びた。しかし厳しい競争環境は続いており、かつて約70社いた会員企業は後継者不足よる廃業もあり減少傾向が続いている。

前橋ガス事業協同組合は2021年に創立50周年を迎えた。地域や災害時に不可欠なエネルギーとしてLPガスの重要性が変わることはないが、環境変化への対応は不可欠でもある。ICTソリューションによる業務のブラッシュアップを急ぐ一方、災害対応バルクシステムの地方展開や地域防災活動への積極参加など、地域密着と地域を支援する活動で「災害に強いLPガス」のさらなる普及を目指していく。

組織概要

団体名

前橋ガス事業協同組合

本社

群馬県前橋市上泉町172番地の2

HP

http://maebashigas.com/

電話

027-260-1141

設立

1971年3月

従業員数

9人

事業内容

公営住宅へのLPガス集中供給(簡易ガス事業)、LPガス施設工事、組合員への保安教育・金融事業

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