事例集

2023.10.06 06:00

建設機械に欠かせない「ハコモノ」製品を世界に展開。ICTとデジタル機器で競争力の強化を図る 汎建製作所(奈良県)

建設機械に欠かせない「ハコモノ」製品を世界に展開。ICTとデジタル機器で競争力の強化を図る 汎建製作所(奈良県)
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産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

鋼材の切断から溶接、塗装、組立の各工程で、経験に裏打ちされた熟練工の技と機械による自動化をバランスよく融合することで、高品質の金属製品づくりを実現している株式会社汎建製作所(ハンケンセイサクショ) 奈良県。多国籍の人材が作業をしやすいようにわかりやすく情報を共有化するなど、ICTとデジタル機器を活用することで国際競争力をさらに強化している。(TOP写真:モニターで作業の順序や指示を確認する様子)

金属加工と溶接に高い技術を持つ創業100年のものづくり企業

松田伸生代表取締役社長

松田伸生代表取締役社長

1923年の創業以来100年の歴史を持つ株式会社汎建製作所は、建設機械や農業機械で使用される燃料タンク、マフラー、エンジンフードといった様々な金属部品を生産している。複雑な形状の加工や大型部品の製造に強みを持ち、燃料タンクなど「ハコモノ」と呼ばれる製品の品質は業界トップを誇る。

曲線や複雑なデザイン、材質、板厚の大小に関係なく精密なカットを実現する加工技術を備える。溶接部門では、熟練した溶接工を多数そろえ、様々なプログラミングを施した溶接ロボットも活用して迅速かつ高度な作業を行っている。「機械の外装は人目につく部分なので、強く美しく、品質の優れた製品を作ることを大事にしています」と松田伸生代表取締役社長は話した。

100年の歴史を持つ汎建製作所には、どのような変化にも「水」のごとく柔軟に対応する心構えを従業員に説く「水五訓」がある。水五訓は以下のように記されている。

「自ら活動して他人を動かしむるは水なり」
「常に己の進路を求めて止まざるは水なり」
「障害はあい激しくその勢力を百倍し得るは水なり」
「自ら潔うして他の汚れを洗い清濁併せ容るるは水なり」
「洋々として大洋を充たし発しては蒸気となり雲となり雨となり雪と変じ霰(あられ)と化し凝しては玲瓏たる鏡となりたえるも其性を失はざるは水なり」

「太平洋戦争で工場が全焼するなど長い歴史の中で何度も大きな危機に見舞われましたが、環境に合わせて液体から固体、気体と変化し、あらゆる存在から必要とされる水のごとくありたいと従業員全員が取り組んできたからこそ生き残り、成長することができたのだと思います」と松田社長は話した。

汎建製作所が生産している「ハコモノ」製品

汎建製作所が生産している「ハコモノ」製品

充実した生産設備 奈良、石川、茨城に工場を構える

溶接作業に取り組む汎建製作所の従業員

溶接作業に取り組む汎建製作所の従業員

奈良県・大和盆地のほぼ中央部、磯城郡川西町に立地する汎建製作所の本社・奈良工場では、広大な約2万4000平方メートルの敷地内に複数の社屋と2つの巨大な工場棟が並ぶ。「難しい製品をあえて引き受けるという姿勢で事業に取り組んでいます。従業員全員が力を合わせ、常に考えながら効率よく作業することで、お客様の信頼を得られるクオリティの高い製品づくりが実現できると考えています」と松田社長。

奈良工場の巨大なプレス機

奈良工場の巨大なプレス機

奈良工場には1,000トンから40トンの多様な油圧プレス機19台、レーザー加工機2台、マシニングセンター7台、CO2半自動溶接機62台、溶接ロボット33台など多種多様な設備がそろい、開発・設計から製造、検査までのすべての工程にワンストップで対応する体制を整えている。2023年3月には工場に隣接して休憩スペースを備えた新しい社屋も完成した。国内ではほかにも石川県小松市と茨城県笠間市に工場があり、3つの拠点を合わせた従業員数は270人にのぼる。

奈良工場に導入している溶接ロボット

奈良工場に導入している溶接ロボット

インドネシアで工場を運営 国内でも多国籍の人材を積極活用

汎建製作所のインドネシア工場

汎建製作所のインドネシア工場

国際的な視野での事業への取り組みも汎建製作所の特色のひとつだ。海外生産の拠点としてインドネシアのジャカルタ郊外に1995年3月、工場を開設した。インドネシアは資源国で鉱山向け建設機械の部品需要も大きい。海外生産は順調に軌道に乗り、2008年10月には工場を拡張した。現在、同工場の敷地面積は3万平方メートルにのぼり、370人の従業員が働いている。生産した製品の販売先はタイ、インド、イタリア、ドイツ、ベルギー、イギリス、アメリカ、ブラジルと世界にまたがる。海外売上高比率は現在約3割を占め、今後も更なる拡大を図るという。

日本でも外国人材の活用に力を入れている。本社でインドネシア出身のエンジニアらが活躍しているのをはじめ、3つの工場でベトナム、フィリピンから100人近い技能実習生を受け入れている。

国内の工場で外国人材を積極的に受け入れている

国内の工場で外国人材を積極的に受け入れている

2022年、英国の通信社から取材申し込み

世界を視野に置いた取り組みを進めていることが国際的な情報発信につながり、関心を持った海外メディアから取材が入ることもある。2022年には英国の通信社、The Worldfolioから取材の申し込みがあり、松田社長がインタビューを受けた。取材に基づく記事はWorldfolioのWebサイトと国際ビジネス週刊誌『Newsweek International』(2022年8月12日号)に掲載された。「失われた30年」という言葉に象徴される長期低迷が続く日本経済の中で、技術力を武器にグローバル市場で気を吐く日本の中小企業群を取り上げる特集が企画され、汎建製作所はその中の1社として紹介された。記事の中で松田社長は、品質、コスト、納期の両立を実現するための飽くなき努力や部門間の緊密な連携が、グローバル市場で高い競争力を持つ汎建製作所の強みであり、ものづくりの原点であると語った。

生産管理、製造、検査の各工程でICTやデジタル機器を活用

2023年3月に汎建製作所は創業100周年を迎えた。次の100年に向け、更なる飛躍を図るためのツールとして活用を進めているのがデジタル技術だ。「生産管理、製造、検査の各工程でこれまで以上にICTやデジタル機器を活用し、汎建製作所ならではのものづくりを更に進化させていきたい。ベテランの勘と経験に頼るのではなく、経験が浅い人材でもICTを活用してすぐに習熟できる仕組みを強化していきたいと考えています」と松田社長は話す。

3D-CADは25年前に導入。製造現場の従業員は、QRコードで表示される作業標準の指示に従って作業

2次元CADは30年前、3D-CADは25年前から導入している。3D-CADを使うことで、取引先から送られてきた製品設計図の3次元データをそのまま工作機械に送り込み、生産を効率化することができる。顧客からの要望に応じて設計段階から関わることも多く、3D-CADは必要不可欠なツールとなっている。

3D-CADを活用する様子

3D-CADを活用する様子

松田社長は2013年の就任以来、デジタル分野の設備投資を段階的に進めてきた。汎建製作所が製造する製品は数千種類、製品に使う部品は数万種類にのぼり、生産現場には外国人材も多い。多品種を多国籍の人材で円滑に生産するためには情報をわかりやすく共有しなければならない。そのための手段としてデジタル技術の活用は避けて通れないものだったという。

現在、国内3つの工場は、クラウド式の生産管理システムで運営している。各現場で従業員は、機械に設置されている小型モニターやタブレット端末に映し出される作業の順序や方法を定めた作業標準に従って加工などの作業に取り組む。作業標準は図や数字を中心にまとめられているため、外国人材も言葉の壁を感じることなく内容を理解して作業を進めることができる。作業標準は必要に応じて部品ごとに設定しているQRコードをスキャンするだけで映し出せるようにしている。

QRコードをスキャンするだけで作業標準が表示される

QRコードをスキャンするだけで作業標準が表示される

品質検査システムを自社開発。多様な製品もタブレット端末に表示された手順でチェック

検査部門では自社開発した品質検査システムを活用している。タブレット端末に表示された手順にしたがって必要な項目をチェックするだけで、その結果が生産管理システムに送信されるので、時間をかけることなく多種多様な製品を確実に検査できる。

自社開発した検査システムをタブレットで表示し、その場で結果を送信している

自社開発した検査システムをタブレットで表示し、その場で結果を送信している

それぞれの工場はWeb会議システムを使ってコミュニケーションをとっている。Web会議は、出張が制限されたコロナ禍において大きな効果を発揮した。コロナ禍が落ち着いてからもメールや電話とともに標準的なコミュニケーション手段になっているという。

熟練技術の伝承のため、動画による作業解析システムを導入

生産効率を向上するため、動画を使って作業を解析するシステムを茨城県の工場で試験的に導入している。システムには作業の様子を撮影した動画を取り込んで、一連の動作を準備、正味作業、付随作業といった単位ごとに編集できる機能が備わっている。動画を分析することで作業のどの部分に無駄があるかを見つけ出し、改善につなげることができる。熟練技術者の技を撮影した動画を基に、教育効果が高い作業標準を作成することもできる。「後の世代に技術を伝えていく上でもデジタル技術は有効と考えています。効果が確認できれば、他の工場でも使っていくようにしたい」と松田社長。使い慣れた紙の帳票をそのままの見た目でデジタル化できるシステムの導入も検討している。

ホームページでは自社の積極的なアピールを行う

ホームページでは会社のプロフィールを紹介する動画のほか、仕事内容や福利厚生に関する情報、採用情報などを掲載している。

常に新しい技術に興味を示し、貪欲に取り込む

汎建製作所の本社外観

汎建製作所の本社外観

変化の速度が激しい時代の中で、積極的にICTを導入し続けている汎建製作所。松田社長は「常に新しい技術に興味を示し、貪欲に取り込んでいくことが、企業が生き抜く力の源になると信じています。製品の裾野を広げて建設機械以外の分野も開拓していきたい。鉄がメインですが、ステンレスの可能性も広げつつ、アルミや異素材も扱っていきたいと思っています」とこれからの意気込みを語った。

企業概要

会社名

株式会社汎建製作所

本社

奈良県磯城郡川西町唐院712番地

HP

https://www.hanken-works.co.jp

電話

0745-44-2361

設立

1957年8月(創業:1923年3月)

従業員数

国内270人、海外370人

事業内容

建設機械、農業機械、産業設備などで用いられる燃料用タンクなどの製缶及び鈑金製造

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