事例集

2023.09.26 06:00

トレーディングカード人気で、トップシェアのカードフィーダーへ注文殺到 DX化を進め、新規分野開拓へ 富士油圧精機(群馬県)

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印刷関連・製本機械などを中心として製造してきた富士油圧精機株式会社(群馬県前橋市)は、さまざまな機械加工に対応した設備なども積極的に導入し、各種の自動化・省力化機械製造や部品加工などに事業範囲を広げてきた。今またトレーディングカード向けのカードフィーダーという流行の波をつかみ、繁忙期を迎えている。DX(デジタルトランスフォーメーション)化にも熱心で、働き方改革にも乗り出した。現在は流通産業向けの新規需要に照準を当てており、具体的な成果も出てきた。(TOP画像:製造中のカードフィーダー)

製本関連をはじめ「紙を使う機械をここまでカバーしている会社は他にない」と言われた

富士油圧精機株式会社は1965年、油圧を利用した木工プレス機の製造で設立された。その後は、紙をプレスして上製本を作る製本機械、手帳のしおりひも(スピン)を自動でのり付けする機械のほか、並製本、中綴じ本などの製本機械、印刷後の集積・結束などの印刷関連機械、新聞の輪転印刷機の周辺機械など「こんなに紙を使う機械をカバーしている企業はないと言われる」(石田桂司代表取締役社長)ほど、幅を広げてきた。

経営手法について語る石田桂司代表取締役社長

経営手法について語る石田桂司代表取締役社長

出版・新聞の不振で、紙以外の機械を積極的に導入して多角化で商機をつかむ。背景には「人財技術立国」と言われる従業員の資格取得支援があった

ただ、出版や新聞などの不振に加え、デジタル化などによるペーパーレス化の波が押し寄せる中で、同社は紙関連以外の事業を拡大しようと、MC(マシニングセンター)、ワイヤー加工機、3次元測定機、研削盤、3次元CAD(コンピューター支援設計)などの設備を積極的に導入。省人・省力化機械を設計から部品加工・製造・組立まで一貫で受注できる体制を整えた。その結果、前橋市周辺の地場産業向けに3次元の機械部品、アルミサッシ材切断機、自動車部品加工機などの受注を獲得。「図面さえあれば、なんでも断らずに製造する」(石田社長)姿勢で、多角化に成功した。

上:MC(マシニングセンター)、下:大型の門型加工機

上:MC(マシニングセンター)、下:大型の門型加工機

製本や印刷関連以外の事業を軌道に乗せることができたのは、人材育成支援の充実があったからだ。同社はモットーとして「人財技術立国」を掲げ、従業員に対して技能検定や電気工事技術士の技術関連のほか、簿記や安全衛生などの資格取得を会社が全額負担で支援。81人の従業員のうち、「約半数は何らかの資格を持っている」(伊藤亜由武総務部課長)という。

図面さえあれば、なんでも断らずに製造する富士油圧精機に好機。トレーディングカードブームに乗ったカードフィーダー。

製造中のカードフィーダー。7連で1台の機械となる

製造中のカードフィーダー。7連で1台の機械となる

多角化を進める同社にとって、好機が突然やってくる。トレーディングカードを1枚ずつ送り出し、指定された複数の枚数をワンセットにまとめるカードフィーダーを2005年に開発し、「その後の10年間で約600台を製造した」(石田社長)。その後は流行が下火になったが、コロナ禍を機にブームが再燃した。日本玩具協会によると、2022年度のカードゲーム・トレーディングカードの市場規模は、前年度比32.2%増の2,349億円と過去最高を更新した。特に中身がわからない複数枚数をまとめた拡張パックや、高額取引されることもある希少カードが人気で、新規参入も相次いでいるという。

このブームにより、90%を超えるシェアを持つ同社に注文が殺到したのだ。この3年間で、過去10年間に製造したと同数の約600台を製造。現在でも「2023年5月から8月までは毎月50台を製造」(吉田忍執行役員第一工場長)しているほど。今後も「1年後まで注文が埋まっている」(石田社長)。同社のフィーダーは拡張パックだけでなく、希少カードの取扱いも可能な点が他社にない機能として評価された。これまで同社の機械類や部品などは単品で製造してきたが、大量生産だと製造スケジュールの予測がつく点もメリットという。受注増に対応するため、今ではフィーダーの一部を外注に出し、最終的に富士油圧精機が完成品として出荷している状況だ。

左から伊藤亜由武総務部課長、石田桂司社長、吉田忍執行役員第一工場長

左から伊藤亜由武総務部課長、石田桂司社長、吉田忍執行役員第一工場長

ユーザー資料のクラウドシステム化で検索時間は120分から20分と1/6に短縮。しかし「DX化はまだまだ足りない」

製造する分野が広がったことで、紙で保管していた図面は約30万点にも及んだ。少しずつ電子化を始めていたが、リネーム作業や取り込む工数が多く余分な時間がかかっていた。2022年には図面をスキャナーで読み込み、クラウド上で保管するシステムを採用した。2023年4月にはユーザー資料をDX化するために、複合機のサブスクリプションシステムを導入。

データ化したいユーザー資料(物件全体図、設計・製造過程のエビデンス、納品・アフターサービスのエビデンスなど)は、紙サイズ不統一、カラー/白黒、両面/片面、縦長/横長など様々で、DX化担当者の負担増が予測されていた。したがって、今回のシステム導入にはこの課題をクリアできることが大前提にあった。試用期間中に複合機に取り込み設定(カラー判別、紙サイズ判別、片面/両面判別、読取方向判別、ファイル名登録ルール、登録先など)を行い、検証して手ごたえを得る。結果、だれが、いつ、どこにいてもユーザー資料を共有する仕組みを、DX化担当者の負担なしに整えることができた。

これにより、例えば社外や自宅からでもユーザー資料にアクセスでき、資料を調べる時間はこれまでの約2時間から20分に短縮できたという。ユーザー資料のデジタル化は、「まだ20%程度を終えた程度」(伊藤課長)だが、短縮できた時間を他の仕事に回せると喜ぶ。それでも石田社長は「DX化はまだまだ足りない」と強調する。今後は、まず工程表や経理業務、出張報告などのペーパーレスにより、仕事のスピードと見える化を進めていく方針だ。

製造業にとって図面管理は、軍隊の兵站(へいたん)と同様の価値がある。必要な時に素早く取り出せないと、ビッグチャンスを逃すことも多い。最悪の場合は企業の衰退を招く。製造現場でのデジタル化や機械化には熱心だが、それを支援する図面管理他に熱心でない企業も散見される。しかし社内の工程の見える化や顧客とのやり取り情報等社内の情報資源の共有化を行い、自分以外の従業員の経験を共有することで顧客への迅速な提案や顧客ニーズの変化も察知できる。

製造業も消費者接点での工夫の競争になっている。石田社長が「DX化はまだまだ足りない」と言うのはそこにある。デジタル化を行うことで会社という組織と社外とのコミュニケーションの中に、これからのビジネスのヒントになるネタがたくさんある。それを見える化することで、企業の伸びしろが限りなくあることを石田社長は知っている。まさにデジタルによる企業革新(DX)の実現だ。

棚に並んだユーザー資料。順次、デジタル保存していく

棚に並んだユーザー資料。順次、デジタル保存していく

休日増加、残業減も実現。成長する物流分野に焦点。消費者に近い分野に商機

働き方改革にも取り組む。2023年から完全週休2日制を導入。年間の休日はそれまでの103日から114日に増加し、今後も増やしていく計画だ。DX化などにより、残業時間も20%削減し、有給休暇の取得も促進していく。こうした福利厚生の充実により、「2年間中断していた新卒採用を2024年は復活させる」(石田社長)べく、活動を続ける。

製本・印刷から一般産業向けに事業範囲を広げてきた同社。石田社長に、今後力を入れる分野を聞いたところ、「成長している物流分野」と即答した。これまで梱包物に広告を入れる機械や、SIMカード自動投入機なども開発してきたが、単発の仕事だった。だが、全国展開する弁当宅配事業者向けに、断熱マットを自動で配置する機械を試験的に納入する。これが軌道に乗れば、全国の拠点で利用される可能性もある。「物流分野は5年ぐらい前から試行してきたが、やっと見込みが出てきており、カードフィーダーに次ぐ柱に育てたい」と意気込む。

石田社長は機械技術者として、1984年に富士油圧精機に初めての新卒として入社した。2020年に社長に就任し、それ以降はトップダウンではなく、責任と権限はできるだけ現場に委譲し、従業員のやる気を引き出す手法を取ってきた。ただし、幹部に対しては毎朝5分でも話をすることを義務付け、現場掌握には務めている。

「困った時に頼ってもらえる存在になり、今後も顧客先に提案し続ける」(石田社長)と、自社の技術力に自信を持つ同社は、自動化・省力化の波に乗りさらなる業容拡大を図っていく方針だ。

富士油圧精機の事務棟

富士油圧精機の事務棟

企業概要

会社名

富士油圧精機株式会社

住所

群馬県前橋市泉沢町1250番地2

HP

https://www.fuji-y.co.jp

電話

027-268-2631

設立

1965年8月

従業員数

81人

事業内容

印刷機械関連装置、製本機械自動省力機械、メカトロニクス機械などの設計、製造、販売

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