事例集

2023.05.11 06:00

見守りシステムが負担軽減に大活躍 将来を見据え、先端の介護ロボットも研究中 和敬会(愛知県)

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戦災孤児の養育から始まった社会福祉法人和敬会(わきょうかい)は、運営する特別養護老人ホームの大改修に合わせて2022年4月、ナースコールのシステムを更新するとともに、見守りシステムを導入。ナースコールのたびにスタッフルームに駆けつけていた職員は手元のスマートフォンで入居者の状況確認ができるようになったほか、看取り時期の大変さも劇的に軽減。太田和敬(かずたか)施設長は職員のさらなる負担軽減に向けて、先端の介護ロボットの研究にも余念がない。(TOP画像:「まどかの郷」の太田二郎施設長(左)と「なごみの郷」の太田和敬施設長(右)。ICTの選定は和敬施設長が行った)

戦災孤児を受け入れた初代

社会福祉法人和敬会は1953年、太田和敬施設長の祖父、太田順一郎氏が始めた入所定員30人の児童養護施設「八楽児童寮」が始まり。順一郎氏は小学校の教員として勤務していた時期に召集されて南方戦線に赴いた。幸い戦死を免れて帰国することができたが、マラリアと栄養失調がたたって小学校への復帰はかなわなかった。

そんな時に順一郎氏の目に止まったのが、戦災孤児の子どもたち。当時、日本には15万~30万人の戦災孤児がいたといい、無類の子ども好きだった順一郎氏は「子どもたちの役に立ちたい」と孤児5人を自宅に招き入れ、寝起きをともにし始めた。

小規模施設での養育の先駆けとなった「八楽児童寮」

自宅で寝食を共にする生活から始まった八楽児童寮は当初、多くの児童養護施設と同様に学校の寄宿舎のような大きな施設で子どもを育てるというものだった。しかし、それでは家庭のような形では育てられない。

八楽児童寮の施設。小規模施設で家族のように暮らす「分散養護」の先駆けだった

八楽児童寮の施設。小規模施設で家族のように暮らす「分散養護」の先駆けだった

1958年、大寄宿舎制の建物を取り壊して小規模な建物に変えたが、1964年には2~18歳の子どもたち7~9人で一つの施設に住む「分散養護」を全国に先駆ける形で始めた。まだ5人兄弟が珍しくなかった時代にあって、年の離れた7~9人の子どもたちはいわば「兄弟」。保育士らが親代わりとなって住み込み、家族のように暮らすことで、子どもたちの情緒は安定していった。

30年後には国の施策として小規模施設での「分園」化が始まり、八楽児童寮は、真っ先に認定を受けた

それから約30年。政府は1992年度から「養護施設分園型自活訓練事業」を始め、八楽児童寮は初年度に認定を受けた。和敬会のホームページの沿革には「昭和39年分散小舎制の理想を追い求めスタートさせた一軒の小さな“丘の家”が30年の月日の流れを経て国の政策となり、その認定を受ける」とある。

特別養護老人ホーム「まどかの郷」の施設長を務める順一郎氏の息子の太田二郎氏は1955年生まれ。八楽児童寮が始まってまもなくの頃に幼少期を過ごし、「遊び相手に困らなかった。30人の兄弟がいるようなもので、野球チームが2つできた」と振り返った。

地域の高齢化に対応して1996年に特養「まどかの郷」を開設

八楽児童寮は今も6棟あり、定員は30人。事故や災害で親を失ったり、親から虐待を受けたりした子どもたちが保育士を親代わりとして過ごしているが、和敬会は地域住民の高齢化に対応するための施設も開設した。

1996年4月に愛知県幸田町に開設したのが、特別養護老人ホーム「まどかの郷」。2013年4月には新城市の養護老人ホーム寿楽荘の運営を受託し、2014年4月には蒲郡市に地域密着型複合施設「なごみの郷」を開設し、二郎氏の息子の太田和敬氏が施設長を務めている。「なごみの郷」では介護保険制度を活用し、理学療法士が利用者ひとりひとりに運動メニューやアドバイスを提供するフィットネスクラブを運営している。そういった施設を運営しているのは全国的にも珍しく、「なごみの郷」の特色のひとつとなっている。

30年を前にした大改修でICTを導入

2022年4月、開設から30年近く立った「まどかの郷」の大規模修繕を終えた。ドーム屋根の円形ロビーなど、既存施設を修復するとともにICTを導入した。ナースコールのシステムが老朽化により寿命が近づいていたことに加え、介護事業者向けのICT補助金を活用できたからだ。

ドーム屋根の自然光が降り注ぐ円形ロビー。気持ちいい空間で過ごす入居者ら

ドーム屋根の自然光が降り注ぐ円形ロビー。気持ちいい空間で過ごす入居者ら

導入するシステムを検討したのが、太田和敬施設長。調べてみると、スマートフォンやタブレットに複数のシステムを導入すれば、の入居者がナースコールをしたかが一目瞭然となり、部屋にシルエットセンサーを設置すれば、転倒リスクなどを大幅に軽減できることがわかった。
「導入のタイミングとしては昨年しかなかったと思うが、もっと早く導入できていたらという思いはある」。和敬施設長がそう振り返るほど、職員の負担は激減した。

ナースコールの入居者を手元で確認

ナースコールが鳴ると、スタッフルームに駆けつけて、入居者一覧をチェックして呼び出した人を確認。入居者一覧の横に設置された電話をかけて状況を確認する。それが1年ほど前までの対応方法だった。

入居者一覧と電話機。ナースコールが鳴ると、ここで誰が鳴らしたかをチェックし、電話を掛けていた

入居者一覧と電話機。ナースコールが鳴ると、ここで誰が鳴らしたかをチェックし、電話を掛けていた

緊急の事態かそうでないかは、応答してみないとわからない。それどころか、誰が鳴らしたかも一覧表を確認しなければわからない。だから、急いでスタッフルームに行く必要があったが、今は違う。

ナースコールを知らせるスマートフォン

ナースコールを知らせるスマートフォン

ベッドに設置されたナースコールの機器。職員との会話にも使える

ベッドに設置されたナースコールの機器。職員との会話にも使える

職員はスマートフォンとタブレットを携帯しており、ナースコールはどちらでもすぐに確認でき、そのまま会話もできる。このため、取り掛かっている仕事を中断してすぐに駆け付けるべきか、作業中の仕事を済ませてから行けばよいかが判断できる。

見守りシステムの画像で優先順位がつけられるように

ナースコールの新システムと同時に導入し、効果を発揮しているのが、シルエットセンサーなどによって入居者の状態を把握し、スマートフォンでもタブレットでも確認できる見守りシステムだ。
導入前も入居者の状態を把握できるシステムはあったので、ベッドから出るといった行動は職員に知らされていたが、「転倒したのか、ちょっと動いただけでまた寝たのかといったその後の行動がわからず、必ず居室まで行かなければならなかった」(太田和敬施設長)。

ベッドに上に設置されたセンサー

ベッドに上に設置されたセンサー

タブレットに示されたシルエット。鮮明ではないが、入居者の様子は充分に確認できる

タブレットに示されたシルエット。鮮明ではないが、入居者の様子は充分に確認できる

今はベッド上に取り付けたセンサーによって、スマートフォンなどで映像を確認でき、行くべきかどうかをすぐに判断できる。また、今取り掛かっている仕事を中断してでも駆けつけるべきかどうかといった優先順位も判断できるようになった。

見守りシステムのおかげで看取り時期の巡回回数が激減

見守りシステムは、巡回回数の減少にも役立っている。入居者の多くは要介護度が高く、2時間ごとの体位変換が必要な人が多い。このため、システムがあっても2時間に1回の巡回は欠かせないが、看取り時期の巡回回数と精神的な重圧軽減にはとても大きな役割を果たしている。

かつてのナースコール用ボタンを手にする職員。新しいシステムで「負担が激減した」という

かつてのナースコール用ボタンを手にする職員。新しいシステムで「負担が激減した」という

見守りシステムでは入居者の様子を映像で確認できるだけでなく、呼吸の状況も確認できる。看取り時期になると、職員は「いつ亡くなるかがとても心配になり、頻繁に様子を見に行っていた。15分おきに行くこともあった」ほどだった。しかし、呼吸の状態を確認できることで、「頻繁な巡回という身体的負担だけでなく、いつ亡くなるかわからない中で過ごす精神的な重圧を軽減できている」という。

職員から見守りシステムを「全ベッドに付けて」との声

現在、まどかの郷にある100床のうち、センサーが取り付けられているのは62床。経費的な側面から全床分がないためだ。センサーなどは簡単に設置できるため、必要度の高い人に優先的に設置している。しかし、ベッドからのずり落ちや転倒リスクなど、事故につながる事態は要介護の低い人でも起こりうる。また、センサーが異常な動作を感知するなどした場合、スマートフォンに知らせる機能もあるため、転倒時にすぐに駆け付けることができるほか、リスク段階で食い止めることもできる。
さらに、「ベッド脇で座っていた」といった行動があった際には、センサーがその時の様子を録画しているため、「ずり落ちた後に座ったのか、自分の意志で降りて座ったのかがわかる」といい、職員からは「全床に設置してという声が挙がっている」(太田和敬施設長)という。

将来見据え、さまざまな介護ロボットも検討

職員の負担軽減が課題となる中、太田和敬施設長が検討しているのは、ICTだけではない。移乗支援やリハビリを補助する介護ロボットのほか、AIのサポートによって体位変換を自動的に行えるベッドの導入なども検討中だ。大学等複数の研究機関の教授らともつながり、最先端のロボットの導入も視野に入れている。

これからもますます高齢化が進む一方の日本社会にあって、ただでさえ不足気味の介護職員の確保は介護施設にとって大きな課題。それだけに、介護ロボットによる介護職員の負担軽減は待ったなしの課題だ。和敬会には今後もさまざまな介護ロボットを導入してもらい、児童養護施設で先陣を切ったように、介護施設職員の省力化でも日本の先陣を切ってもらいたい。

事業概要

名称

社会福祉法人和敬会

住所

愛知県新城市八束穂字天王1032番地の2

HP

https://www.wakyokai.or.jp/

電話

0536-22-0760

設立

1953年10月24日

従業員数

250人

事業内容

児童養護施設と高齢者福祉施設の運営

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