事例集

2023.05.18 06:00

若手人材確保のためにも、デジタル化で業務の見える化と効率化を進める 猿田建設(長野県)

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北アルプスを望む長野県安曇野市に60年以上続く建設会社がある。3代目社長は会計や勤怠管理ソフトを積極導入して業務の効率化へ歩みを進めている。ベテランの従業員を活かしながら若い人材を確保するためだ。(TOP画像:猿田建設株式会社 3代目の猿田真由美社長)

主力は地元の官公庁発注の土木工事、朝早くから業務に従事

猿田建設株式会社は猿田卯生(しげお)氏が1962年7月に創業、1974年に株式会社化した。1997年から息子の豊氏(現・会長)が2代目社長に就任、2018年から孫の真由美氏(43歳)が3代目社長を務めている。主力は道路整備など地元の土木工事で、2022年8月期の売上高は約4億円、利益は約1900万円。官公庁発注の公共工事がほぼ100%を占める。

従業員は16人。女性は4人で、最年少は21歳の男性、最高齢は70代だ。トラックなど20台を超す車を保有しており、現場作業員は出社後、社用車に乗って現場に赴く。週休2日で、平日の勤務時間は午前8時から午後5時まで。帰社後打ち合わせなどをし、5時30分にはほとんどの人が帰宅する。

3代目は元ホテルマンの2児の母、子育てと社業に奮闘

真由美氏は学校を出てから都内でホテルマンをしていたが、2008年に専務を務めていた叔父が早世し、29歳で呼び戻された。「はじめは専務の肩書で経理を担当していたのですが、労務など事務仕事をしていた伯母も辞めてしまって、しだいに会社の基幹業務全般、そして社長も担当することになりました」と苦笑する。

工場関連の機械設計が専門の夫は神奈川県に単身赴任中、6歳と4歳の男児を保育園に預け、近所に住む実母のフォローを受けながら社業に取り組んでいる。「昼間は従業員や取引先との打ち合わせが多いので事務仕事ができない。給料日近くで段取りができていないとか、総務関係で役所に提出しなくてはいけない書類があったりすると定時には帰れない」と話す。ときには帰宅時間が午後9時を回ることもあった。

「だんだん時間が足りなくなって、仕事も手に負えなくなってきて」と真由美社長。そこで、つきあいのあるシステム支援会社に「なにかいい手はないか」と相談し、会計管理、工事台帳、勤怠管理のソフトを導入すれば仕事の効率化が図れることを知った。国や長野県のIT導入補助金が使えるという。そのシステム支援会社に手伝ってもらいながら申請手続きをして採択され、自己資金100万円ほどで導入できることになった。

導入した会計ソフトで経理業務にかける時間は大幅に短縮された

導入した会計ソフトで経理業務にかける時間は大幅に短縮された

会計ソフト導入で社内のお金の流れを把握、規模に応じた適正原価も把握でき、原価低減へアイデアも

2021年11月頃、それぞれのソフトが入った。真由美社長はまず会計ソフトの活用に取りかかった。「会社の決算書は後付けの報告なので、自分が毎日経理業務をやりながら感じるお金の動きが決算書の中身と乖離(かいり)していたのです。本当にこれでいいのか、もうかっているのか。日々の業務の中できちんと把握したいと思った」と話す。

ソフト導入によって、決算を待たずに実際のお財布事情が分かるようになった。真由美社長は「私がけちけち言うものだから、従業員も原価低減へ向けたアイデアを出してくれるようになった」と語る。

以前は手書きやエクセルシートで月ごとに税理士に提出していた振替伝票も、項目ごとに数値を入れれば、自動的に仕分けされて台帳になっていく。手間がかからない上、入力データも保管できる。経理に要する作業時間は大幅に短縮された。真由美社長は「2022年9月分から23年1月まで溜まっていた入力作業も集中してやったら半日でできてしまった。早いです」と効率化を実感している。

ICTに抵抗のない若手従業員は今後の飛躍に欠かせない

ICTに抵抗のない若手従業員は今後の飛躍に欠かせない

勤怠管理は紙とデータの両輪で、ベテラン従業員に配慮し一歩ずつ効率化

次の課題は従業員の勤怠管理だ。工事台帳と連動させて、工事のスケジュールと一緒に、誰がどこの現場へ何時から何時まで行ったかという情報を従業員に入力してもらう。工事情報と従業員の勤務実態の入力が揃えば、労務と原価の管理が集約できる。

問題はどの様に社内に浸透させていくかだ。真由美社長は「私が事業を引き継いだ時も感じたことですが、やりたいと思ったことをバッとやると従業員の不安を煽ってしまう。新しく何かを始めるには少なからず「もうひと手間」が必要で、敬遠されがち。一度にガラッと変えるのはたぶん無理」とみる。

従業員の中には真由美社長が事務所に遊びにきていた小さい時からかわいがってくれた人たちもいる。経験豊富だし、自分より建設業のことを知っていると思う。だから「まずはこれまで通り、手書きしてもらったものを使って誰かが代わりに入力する。定着してきたらちょっとずつ本人に入力してもらえるように」と考えている。「従業員の気持ちに寄り添いながらきめ細やかに導入したい」というのだ。経費節減や売上増などの効果はその後についてくるだろう。

今は紙とデータとの同時並行中。勤怠記録を紙で提出してもらい、それをもとに現場事務、総務、経理がそれぞれの仕事入力をしている。「これはすごく無駄です。誰か1人が入力したものを用途によって使い分ければいい。入力作業が得意そうな従業員に協力してもらおうと思っている」と、一歩ずつ効率化を進めていく方針だ。

完全週休2日制導入で働き方改革への対応も

働き方改革への対応もある。時間外労働の上限規制の猶予期間が終わり、2024年度から建設業にも本格導入される。同社も2023年から完全週休2日制に移行したが、こなさなくてはならない仕事の量は以前と変わらないし、作業の進み具合によってはどうしても現場に出なくてはならないこともある。従業員に事前に振替休日を取ってもらうなどの工夫が不可欠になる。「法律なので、その中でどうやっていくかを考えないといけない。『うちの会社はできない』では取り残されていく」と話す。

古参の従業員の中には「休みが多すぎて嫌だ」という声があった。完全週休2日になる前の週休1日で何十年も仕事をしている人は、休みの日に家ですることがないというのだ。真由美社長は「趣味を探したり、資格試験に挑戦するために休みを使ってください。試験の費用は会社が負担するから」と説得したそうだ。

使い初めから運用まで結構時間がかかったが「会計ソフトも勤怠管理も残業規制の法改正前に入れてよかった」と思っている。

澄み渡った青空を背に社屋前で

澄み渡った青空を背に社屋前で

若手人材確保へ、今は「種まき期間」

若い人材の確保も今後の課題だ。「最近、20代から30代前半の若い人が3人入ってきてくれただけで、会社の雰囲気が変わった。ベテラン従業員も自分がこれまで得てきた知見や経験を伝えることで生き生きするし、『このやり方しかない』と思っていたことでも『こっちからも攻められる』というアイデアが出てきて、仕事の進め方にも変化が出てきた」という。真由美社長は「年に一人でもいいからコンスタントに若い人材を採りたい」と考えている。

そのためにまずは若い人の目に留まるような会社にならないといけない。ICTの推進はその手段でもある。「この会社は業務を効率化して休みもしっかり取れるということが浸透していかないと。今は種まきの時期です」と真由美社長。「将来はコンスタントに黒字を出せる会社にしたい」と力を込める。遠からず、まいた種が花を咲かせ、大きく実を結ぶ日が来るはずだ。

事業概要

会社名

猿田建設株式会社

住所

長野県安曇野市豊科5861-2

HP

https://www.saruta-kensetsu.com/

電話

0263-72-3447

設立

1974年10月

従業員数

16人

事業内容

土木工事業/とび・土工工事業/舗装工事業/解体工事業/石工事業/管工事業/しゅんせつ工事業/造園工事業/水道施設工事業

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