事例集

2023.04.07 06:00

「諏訪の地から世界一を目指す」ライフルスコープ・双眼鏡でナンバーワンに挑む光学機器メーカー ライト光機製作所(長野県)

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長野県諏訪市に本拠を構える株式会社ライト光機製作所は、ライフルスコープ、双眼鏡の製造領域で世界的に存在感を放っている光学機器メーカーだ。2022年10月末には本社敷地内に機械工場、組み立てラインなど社屋2棟を設けて生産能力を増強。これまで蓄積してきた高い品質と技術を基盤に、今後は生産自動化を推し進め、「ワールドベスト(世界の頂点)を目指す」企業理念の実現に向けて新たな挑戦の段階を迎えた。

「東洋のスイス」の地で創業、技術を磨き、米国で20~25%のシェア

諏訪市は高原の澄んだ空気と豊富な水資源に恵まれ、戦時中に現在のセイコーエプソンに代表される光学機器系の企業が疎開してきた経緯から、戦後は精密機械産業の一大集積地として発展し、「東洋のスイス」と称される。

株式会社ライト光機製作所はこの地で1956年に創業・設立した。創業家三代目の岩波雅富代表取締役社長によると、「当時はカメラというより双眼鏡が日本の輸出製品の花形として一大産業に発展し、東京・板橋とここ諏訪で主に製造されていた」という。同社はこの流れに乗り、双眼鏡の部品を手掛けるメーカーとしてスタートしたものの、「後発ながら早い段階で双眼鏡の設計と完成品を作れる技術を確立」し、光学機器メーカーとしての基礎を築いた。

飛躍への転機はさらに訪れる。米国においてはレジャーとしてハンティングがブームとなり、ある米国人の勧めから米国で需要の高まりが見込めるライフルスコープの開発に着手した。創業から5年程経った頃だった。

その後は高度な光学技術から生み出された製品が世界の市場で高い評価を得て、製品力でゆるぎない地位を確立し、今日に至っている。岩波社長はライフルスコープの世界市場でのシェアについては正確に把握できないと前置きしながらも、「米国では少なくとも20~25%のシェアはあるだろう」と、その世界的評価を裏付ける。

高い技術力と品質でOEMとODMに特化 製品は欧米中心に100%輸出

同社の事業の特徴はOEM(相手先ブランドによる生産)とODM(相手先ブランドによる設計・製造)に特化し、高級品、高性能品の光学機器を世界に供給している点だ。最近、国内で自社ブランドの展開を始めたとはいえ国内マーケットは小さく、現状でほぼ100%がOEMとODMによる受注だ。さらに、売上のほぼ99%は輸出で、米国向けが6~7割を占め、残りは欧州向けとなっている。それは、高い技術力と品質が世界の光学機器ブランドから認められ続けているゆえんだろう。

相手先ブランドに特化した事業形態ゆえに、取引先が求める要望にしっかり応えられる品質を確保し、取引先から高い信頼を得るのが事業を展開する上で最も重要で不可欠な要素であることは言うまでもない。主力のライフスコープ、双眼鏡は少ないもので80点、多いものでは150点の部品で構成され、しかもミクロン単位での加工精度が要求される。これを一本一本手作りで完成品に組み立て、世界の取引先から認められた完成品として送り出すのだから、長い歴史の中で培ってきた高い技術力の伝承と継続の努力は欠かせない。

この点を岩波社長は「品質に関して取引先はかなり高いレベルを求めてくる。当社の場合、製品を100%人の手で組み立てているので、そうした人の技術や品質を維持していくことが製品にとってものすごく大事になってくる。そのために人の教育にはしっかり取り組んでいる」という。

コロナ禍は逆風でなく追い風に アウトドア志向で受注が急増

一方で、同社は現在、人手不足という難題に直面している。それというのも、新型コロナウイルス感染症がパンデミック(世界的大流行)を引き起こし、ライフルスコープ、双眼鏡のマーケット環境が世界的に大きく変化したからだ。岩波社長は「最初は売上がガクンと下がり、今後どうなるかなと不安に駆られた」と振り返る。

しかし、“うれしい誤算”というべきか、コロナ禍は同社にとって逆風でなく追い風に働いた。欧米では人との接触を避けるため外食や旅行を控える動きが広がる一方で、キャンプやサイクリングといったアウトドア志向が高まり、同社製品に直結するハンティングやスポーツシューティングのマーケットが拡大した。この流れを反映し受注が急激に入ってきたからだった。その勢いは半端でなく、売上はコロナ禍前の水準に戻すどころかコロナ禍前の水準から倍増し、増産体制を取り続けることに追われた。

急激な成長に対応し大幅増員、設備も増強 生産自動化へ10年計画

新組み立てラインでライフルスコープ、双眼鏡などを組み立て作業に当たる作業員

新組み立てラインでライフルスコープ、双眼鏡などを組み立て作業に当たる作業員

このため、「特にここ2年間は急激な成長に対応してキャパシティーの拡大がとにかく必要だった」(岩波社長)とし、人材採用にも積極的に動いた。現在の従業員数は正規雇用の300人とパートや外国人研修生ら150人の計450人。コロナ過前の270人から一気に約170人増やした。

さらに、設備投資にも動く。完成した2棟の新社屋は、生産強化を狙いに機械工場、組み立てライン、さらに倉庫を拡充した。ただ、ここでも人手不足の解消が課題であり、成長力を保っていく上で当面は外国人研修生の力や新規採用に頼っていかざるを得ないのが現状だ。それでも、日本全体を覆う人手不足から今後は人材採用も容易でなくなるのは必至で、今後激化する一方の人材獲得競争を見据え、岩波社長は「生産の自動化計画を10年かけてしっかり進める」方針を掲げる。

機械工場へのロボット導入のほか、レンズ加工の自動研磨、さらに双腕型ロボットによる組み立ても一部で進めるなど、「全般的に生産自動化を検討していきたい」と語る。そこには、自動化に取り組む体制を整えると同時に、社員に対する福利厚生の充実などを通じて働きやすい魅力ある会社とすることで、「人材獲得競争で負けない企業にしたい」との思いがある。

新組み立てラインに環境センサーを導入 ICT活用で徹底した温湿度管理

新組み立てラインに6ヶ所設置された「固定型色素増感太陽電池」を搭載したセンサー

新組み立てラインに6ヶ所設置された「固定型色素増感太陽電池」を搭載したセンサー

一方で、同社にとって生命線ともいえる製品の高品質化への取り組みにも一段と力を入れる。それを象徴するのは新社屋建設に伴って設けた新規組み立てラインへの環境センサーの導入だ。新ラインはちりやほこりを極力嫌う光学製品を扱う以上、徹底した防塵(じん)対応を施すとともに高い温湿度管理ができる環境を実現したクリーンルームで、そのカギを握るのがこの環境センサーの存在にある。

製造部長を務める滝澤常務によると、「光学製品は使用環境の変化によってレンズが曇ったり、温度変化によって素材自体に変化が生じることで、性能面や機能面での狂いが不具合につながってしまう」という。これは製品の組み立て段階でも同じで、「湿度が高くなるほど組み立てるレンズが拭きづらくなり、湿度の高い環境下で組んだ製品は結果的に製品内レンズが結露しやすくなる危険が考えられる」。

導入した環境センサーは蛍光灯など低照度の室内光のような微弱な光から発電する「固定型色素増感太陽電池」を搭載したセンサーで構成するシステムで、新ライン内の温湿度管理ばかりでなく、気圧や二酸化炭素(CO2)濃度に至るまで、電源や配線が不要で室内環境の状況を把握できるのが特徴だ。

温湿度管理の「見える化」で作業員の働き方にもプラスに

新組み立てラインの温湿度管理などの作業環境を「見える化」するため設置された大型モニター

新組み立てラインの温湿度管理などの作業環境を「見える化」するため設置された大型モニター

同社が環境センサーの導入に踏み切ったのは「温湿度管理の見える化が最大の狙い」(滝澤常務)。新ラインでは温湿度管理が特に求められる6ヶ所にセンサーを設置し、大型モニターのほか作業員個々のタブレット端末により環境状況が常に確認できる。また、通信機能を備え、温湿度管理データの収集が容易にできる点も採用した理由の一つだった。

導入効果は如実に表れている。作業環境面においてはこれまで空調制御は誰でも操作でき、管理者が知らないうちに作業環境に変化が生じることもあった。これは組立製品に影響する恐れもある。環境センサーの導入によって光学機器を組み立てる上で欠かせない徹底した温湿度管理に向けた「仕掛けと仕組みづくり」の重要性への認識が行き渡るようになり、課題解決につながっている。

作業員の働き方にもプラスの効果があり、温湿度状況は各人のタブレット端末で確認できることから、作業環境状況だけでなく体調管理の目安も体感でなく数字で把握できるようになった。その結果、管理者への温度管理に対する要望や質疑、不満は格段に減ってきたという。

一方、昨今のエネルギー価格高騰に伴い急騰する電気料金に対しても、環境センサーは作業エリア全体の温度を統括的に制御でき、徐々にではあるものの過度な電力消費を抑える効果も引き出している。

今後のICT活用について、滝澤常務は「当社はようやく取り組み始めたばかり」としながらも、管理者だけでなく入社したての若い社員らからの考えやアイデアを募るなどによりストレスのない快適な作業環境を作り上げていく。そうした活動の積み重ねで「生産性向上に向けたICT活用の幅を広げていきたい」と語る。

スワロフスキーに追いつけ、追い越せ

「諏訪から世界トップへ」に向けて、並々ならぬ意欲を示すライト光機製作所の岩波雅富社長

「諏訪から世界トップへ」に向けて、並々ならぬ意欲を示すライト光機製作所の岩波雅富社長

岩波社長は今後の指針として、「ニッチなマーケットながら世界で一番を狙う」と語り、物的、人的の両面への投資を通して「ワールドベストを目指す」企業理念の実現に並々ならぬ意欲を示す。しかし、「シェアとか売上よりも中身、実力でトップにならなければいけない。最高水準の納期、品質、コスト、技術開発力が備わって初めてナンバーワンといえる」と語る。

岩波社長が目指すのは世界的なクリスタルブランドで知られるオーストリアのスワロフスキーの存在だ。同社は光学機器の製造も手掛け、ライフルスコープ、双眼鏡のマーケットで世界トップ級の地位にあり、岩波社長は「そこを追い越したいというのが一つの目標」という。社内にも「スワロフスキーを超えるものを作っていこう」との意識は浸透しており、今後は「既にかなり究極の域に達している品質をさらに磨き上げられるかをどう突き詰めていくか」にかかってくる。まさに「諏訪の地から世界一を目指す」挑戦は新たなステージに入った。

長野県茅野市にあるライト光機製作所の本社屋。奥は2022年10月末に完成した新社屋

長野県茅野市にあるライト光機製作所の本社屋。奥は2022年10月末に完成した新社屋

事業概要

会社名

株式会社ライト光機製作所

住所

長野県諏訪市大字中州3637番地

HP

http://www.light-op.co.jp/

電話

0266-52-3600

設立

1956年2月

従業員数

450人

事業内容

ライフルスコープ、双眼鏡など光学機器の開発製造・輸出

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