事例集

2023.03.27 06:00

国内トップシェアのステンレスタンクメーカーは、デジタルサイネージで従業員との熱意をつなぐ  森松工業(岐阜県)

国内トップシェアのステンレスタンクメーカーは、デジタルサイネージで従業員との熱意をつなぐ  森松工業(岐阜県)
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わずか15坪の自宅兼工場から始まった森松工業株式会社のモノづくりは、今や日本を代表するステンレスタンク製造のトップ企業へと姿を変え、中国や北米、スウェーデンに関連会社を持つ規模にまで成長。中国を中心とした海外事業では日本よりも多くの従業員が働いているという。さらに航空機やロケットの胴体製造にまで事業を広げた企業が今、デジタルサイネージの新たな可能性に着目している。(TOP写真:本社工場正面)

創業から半世紀でステンレスタンク製造のトップ企業に

零式戦闘機(ゼロ戦)の製造に携わっていた創業者である松久辰夫氏は戦後、小さな鍛冶(かじ)屋からモノづくりを始めた。空襲で同僚を失った経験もある辰夫氏は終戦後の何もない状態から、家族を守るためにどんな注文にも応え、森松工業の土台となる会社を築き上げていった。

その意志を継いでトップに立った二代目社長の松久信夫氏は、1970年には森松工業の顔ともいえるステンレスパネルタンクを開発し、全国に販路を拡大していった。私たちの多くがどこかで目にしたことのある特徴的なパネルタンクはこの時に生まれたのだ。

特徴的な形状のステンレス・パネルタンク

特徴的な形状のステンレス・パネルタンク

「水」という重要な資源の安定供給をテーマに、当時から高価だったステンレスの板材を可能な限り薄く、いかに強度を持たせるかの試行錯誤の結果、独自のパネル形状ができ、さらに各々のパネルを内側で接合する特殊な技術を開発。また何百種類というステンレスの中から見つけ出した材料で製造した貯湯タンクが、温水環境でのステンレスの応力腐食割れという課題を完全に克服することに成功し、森松工業の認知度は岐阜から名古屋、東京、大阪へと全国へ広がり、病院やホテル、学校などで見かけるステンレス水槽や貯湯タンクの6割以上という国内シェアを誇る、ステンレスタンク・メーカーとしての基礎がこの時にでき上がったのだ。

中国や北米への進出と新たな事業分野の開拓

どうしても中国に会社を作りたいという松久信夫氏の一言から始まった上海進出への道は容易なものではなかった。今では外資系企業も多く進出している浦東(ほとう)地区で、外資系企業第一号となる合弁会社を1990年に設立し販路拡大を図ったが、それから10年間は赤字続きで合弁先とも揉めに揉めたという。しかしそれにくじけるようなことはなく、中国出身の人材を採用し粘り強く事業を続けるうちに急激に中国経済が開放され、それからは順調な波に乗ることができたという。進出から30年以上を経た今、売上は1200億円を超え4,000人規模の会社に成長している。今や現地製造工場での品質は日本製品を凌駕(りょうが)するまでになり、日本企業の未来に危機感を持つほど進化しているようだ。

また中国市場が活況を呈してきた2008年、森松工業は北米ヒューストンにも子会社を設立。現社長の松久浩幸氏が渡米し、新たな市場を開拓すべく奔走した。とにかく現地へ出向けという前社長の方針の下、商社を頼らない直接受注を原則に様々な得意先への活路を求めてきた結果、今では様々な分野でエンジニアリングを手掛けるグローバル企業へ成長した。

一方国内では水道事業分野へも参入。それまで主流であったコンクリート製のタンクに取って代わる大型ステンレス配水池の分野でも信頼を勝ち得ている。

大型ステンレス配水池

大型ステンレス配水池

水道事業の発注者は官公庁がほとんどであり、受注までには様々な準備を要したが、品質の高さと耐久性、メンテナンス性に優れたステンレスタンクのメリットを、実際に管理する役所の人々が理解してくれるようになり受注件数は増えていった。

また建築設備分野でも培ってきた技術を生かし、様々な建物で必要不可欠な受水槽や消火水槽、貯湯槽などの設計・製作を行っている。近年のマンションやオフィスビルでは貯水タンク方式ではない直圧式ポンプによる給水が増えてきているが、「災害時や停電時でも水が供給できるタンク方式の方が、そこに住み働く人にとっても大きな安心につながるのではないか」と松久社長は語ってくれた。

穏やかな笑顔で話してくれた松久浩幸社長

穏やかな笑顔で話してくれた松久浩幸社長

これからは「人材とDX」。そしてアジリティ(迅速)な対応が求められる

日本の製造業の生き残りの重要なポイントは「人材とDX」にあるという視点から、森松工業は未来への準備を着々と進めている。それには機を見て素早く対応できるアジリティ(迅速性)が重要だと松久社長は話す。

海外香港市場での売上が国内事業の6倍以上になっているという事実から、日本のモノづくりに危機感を抱いた松久社長は、各工場を巡回し社員一人ひとりと会話することを始めたという。2022年からホールディング体制にし、グループとしてのシナジーを図りたいということもあり、企業間のネットワークや社内のICT化は進めているが、森松工業の製造は自動車工場のようなルーティン化された作業ではなく、一つひとつを手作りする職人技の世界。また完成品を設置する場所は街中や建物の中だけではなく山奥のへき地であることも多い。そういう企業だからこそ、迅速な部門間のコミュニケーションとお互いへの理解が重要になってくる。さらにはドローンやCGによる設置イメージの共有など、若手の能力が発揮されるDXによる効率化も加速させたいのだ。

特殊な技術を持つオンリーワンものづくり企業であるという職人気質の意識が逆に共通認識を深めるDX化を遅らせたのかもしれないという反省から、まずは工場や食堂など社内合計7ヶ所にデジタルサイネージを設置。日々変化する状況や社長からのメッセージなどを伝え始めた。

わざわざデジタルサイネージを設置したのは、工場や設置現場で仕事をする社員一人ひとりがこの会社でどんな役割を負い、社会のインフラや暮らしを支える重要な仕事をしているのかという誇りを再認識してもらうためでもあるという。企業にとって大切な財産でもある人材が、明確な意志を持って未来を創っていける企業であるために採り入れたコミュニケーションツールだ。

トップダウンよりもみんなで考えながら創っていこうという趣旨で始めたデジタルサイネージ

工場内に設置されたデジタルサイネージ

工場内に設置されたデジタルサイネージ

「トップダウンよりもみんなで考えながらこれからを創っていこう」という松久社長の方針を伝えることから始まったデジタルサイネージのコミュニケーションだったが、設置した工場の現場から「こんな使い方もしてみたい」という意見が出てきた時には、これこそアジリティ(迅速)だと松久社長は喜んだ。現在このシステムをハンドリングしているのは、総務部の赤堀博和部長と長谷川義浩次長を中心とするチーム。自社のネットワークを使い全工場に配信している。

これまでは会議に出席した工場長たちが社長の話などを伝えてきたが、工場によって伝わり方に違いが出たりしていたのを是正する意味もあり、前年度に社長が交代したタイミングで正確なトップメッセージを伝えることから始めた。1ヶ月に1度の頻度で2〜3分、長くて5分の社長メッセージを繰り返して流しているが、興味のある社員たちがよく立ち止まって見ているという。それ以外にも社内の通達事項やコンプライアンスについて、さらには安全管理上の規定の変更記事やニュースも配信している。社員の中には中国人も20名ほどいるので、中国語バージョンのニュースも配信しているそうだ。

総務部の赤堀博和部長

総務部の赤堀博和部長

総務部の長谷川義浩次長

総務部の長谷川義浩次長

これからは、社員と組織のエンゲージメント(愛着)を上げることが重要

赤堀総務部長は、総務部に来て1年も経っていないが、一番のテーマは「社員と組織のエンゲージメントを上げること」だと話す。

これまでは売上数字を伸ばすことを会社の成長として走り続けてきた感じが強かった中、愛社精神を更に感じてもらい従業員と共に成長するということをテーマに、社長交代を機に従業員のエンゲージメントを高めることで、結果生産性が上がる方向に切り替えたいと赤堀総務部長は考えているようだ。そのためには新社長のメッセージはもとより、福利厚生やダイバーシティを重視していく方向性など、会社の良い所をどんどん発信していき、もう一度モノづくりの面白さをつかんでほしいとのことだ。

また一から十まで自分の手で作りながら技術を身につけていけるのが森松工業の最大の魅力だ。それを理解できる若手をどんどん育成しこれからの製造の力にしていくと同時に、他部署の仕事ぶりや苦労など、お互いが尊重し合える情報の共有にデジタルサイネージを使った配信を行っていくという。

社内のダイバーシティチームの「ヨクスル通信」で情報発信・収集を行い、経営会議でも採用が進む

「ヨクスル」という社内のダイバーシティチームが定期的に発行しているヨクスル通信は、「社内にこんな制度ができました」や「アンケートでこんな意見がありました」など会社をよくするための情報を伝える媒体を作っているが、同じ情報は会社のポータルサイトとデジタルサイネージでも配信している。そのメンバーは若手の男女社員で構成され、月に1〜2回の集まりを持って情報の収集や整理を行っている。そこに集められた情報の中から「こんなことをやりたい」など、従業員にとって重要だと思われるものを抽出し経営会議に出席して提案するなど、大きな役割を果たしている。

実際に経営会議で採用されたものには、子どもの送迎、役所や病院に行くなど、今までは制度が整備されていなかった時間単位有給制度。そして以前は3歳までだった育児短時間勤務制度が小学校卒業までになった。そんな成果もすぐにデジタルサイネージで配信されている。

デジタルサイネージの活用方法が予想以上に広がり、現場ならではの要望も反映され、コミュニケーションの質が上がって行った

デジタルサイネージの活用はまだ始まったばかりだが、既に工場サイドから上がってきている実践的な要望もあるという。それは工場サイドで共有したい他工場の生産状況だったり、もうすぐ出荷される製品の情報配信などもある。また、タッチパネル方式による製造マニュアル動画の検索や、特殊な機械の使い方も見られるようにしてほしいなど、サイネージに詳しい人間でも気づかないような提案も上がってきている。

実際に3月から実施される予定のものには、自分たちで作った画像をサイネージに差し込んで機械の使い方を共有するもの、そして「今週1週間このスケジュールで製造します」など、あえて紙にプリントする必要のない情報や紙にすると大量になったりする情報への要望など、現場でなくては気づかないものが多いという。

今回の取材を通じ改めて認識したのは、情報伝達モニターのような使われ方がほとんどだと思われてきたデジタルサイネージ。しかし森松工業では、森松工業ならではの情報を入れ、検索したり配信したりすることで思わぬ成果が得られるという実践的な活用の仕方だ。特に工場や建築現場など、モノづくりの現場での使われ方にはまだ我々が気づかない可能性が何通りもありそうだ。それも社員のマインドを大切にする姿勢が社員に浸透してきた証拠と言える。

森松工業のような創業から半世紀以上に渡り実績を重ねてきた企業が抱えている課題だけでなく、若者の関心が高まっているコンプライアンスやSDGsへの取り組みなども、コミュニケーションツールを積極的に活用することで効果を発揮するだろう。そう考えるとコミュニケーションツールを導入する費用対効果は想像以上に大きなものになると実感した。

事業概要

会社名

森松工業株式会社

本社

岐阜県本巣市身延1430-8

電話

058-323-1659

HP

https://www.morimatsu.jp/

設立

1964年5月

従業員数

673名(国内グループ791名)

事業内容

[建築設備製品の製造販売]ステンレス製パネルタンク、同蓄熱槽、ステンレス製貯湯槽、建築設備向け熱交換器、その他圧力容器、建築設備向け貯油槽等製缶類、[上水道製品の製造販売]ステンレス製貯水池、[プラント設備製品の製造販売]プラント用各種槽類

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