事例集

2023.03.17 06:00

どん底時に掲げた理念「わくわくする次世代の町工場」、ICT化と最新設備で成長路線へ ビサン(岡山県)

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2010年代の造船不況でどん底の経営状態となった株式会社ビサン。その時、尾﨑進代表取締役は廃業を意識する一方で、あるべき将来像を考えていた。浮かんだのが「次世代の町工場」という理念。「次世代の町工場になれれば、会社は育つ」。2年後に導入した二次元レーザー加工機が起爆剤となって新規取引先が生まれ、次々に最新設備の導入とICT化を進めたことで、今では「ものづくり岡山を世界へ」を目標に10年ビジョンも掲げるほどに成長した。(TOP写真・自動搬送装置の搬送ルートなどが示された図面を前に、夢を語る尾﨑進代表取締役)

父親の経営する防音パネルメーカーから独立、造船事業に進出

株式会社ビサンの母体は、尾﨑社長の父、尾﨑皎(あきら)氏が1968年に設立した防音パネルメーカーの備讃商事株式会社。2006年、会社分割によりビサンが設立され、工作機械メーカーなどを経て備讃商事に入社していた尾﨑社長が転籍、ほどなくして代表取締役に就任した。
それからしばらく、ビサンの経営は順調だった。ビサンが防音パネルを製作、備讃商事がパネルの製造・整備をする 一方で、ビサンは新規事業としての船舶用パイプ加工に乗り出し、2009年に岡山県玉野市に工場を借りていた 。

造船不況で工場閉鎖、ダーウィンの名言に出合う

そこに襲ったのが、2010年代の造船不況。造船関係の仕事がなくなり、玉野市の工場は開設4年で閉鎖。5000万~6000万円あった売上は2014年、防音事業だけの2800万円にまで激減し、8人ほどいた従業員が、出向社員1人と尾﨑社長、経理担当だけになった。
その時に出合ったのが、ダーウィンの言葉。
「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残る」との名言だ。
岡山市の本社工場を閉鎖するか、貸し出すか。そんな選択が頭をよぎる中、変化を前提に工場のあるべき姿を考えた。

どん底で掲げた理念「わくわくする次世代の町工場」。そのためには「社員の幸せ」が一番と宣言

「わくわくする次世代の町工場」という理念が頭に浮かんだ。そのために「社員の幸せ」と「お客様の幸せ」「社会の幸せ」の3つの実現を掲げた尾﨑社長は「もっとも大事なのは社員の幸せ」と強調。「社員の幸せ」を一番に掲げ、「社員がやりがいと誇りを持ち、常に新しいことに挑戦できる職場環境をつくり、自己実現と成長につなげます」と宣言している。

社員らが加工し、工場に設置されたビサンの理念「わくわくする次世代の町工場」

社員らが加工し、工場に設置されたビサンの理念「わくわくする次世代の町工場」

翌年、国のものづくり補助金を得て二次元レーザー加工機を導入することができた。これまでも中古の二次元レーザー加工機はあったが、新しい加工機はこれまでよりも厚いものを加工できるだけでなく、ステンレスの加工もできる。尾﨑社長は「導入できた時は本当にうれしかった」と振り返る。

積極的に導入した最新機器が新規の仕事につながる好循環へ

最新の二次元レーザー加工機導入の話が周囲に伝わり、知人から「搬送コンベアの部品を作らないか」と打診され、請け負った。その後も、溶接の精緻さにつながる3D定盤、自動ロボット溶接機、3D測定器など、大手企業にしかないような最新設備を導入し続け、それらの最新設備の評判が新たな仕事を呼び込んだ。

二次元レーザー加工機などの最新設備が整ったビサンの工場

二次元レーザー加工機などの最新設備が整ったビサンの工場

入力データに基づいてカットされた部品を取り出す従業員

入力データに基づいてカットされた部品を取り出す従業員

直近の売上は約1億円と、造船不況前の倍になった。そのうち40%は防音パネル関連だが、搬送コンベア関連が30%、産業機械関連が30%と、防音パネル以外が半分を超えるまでになった。

整理整頓の5S徹底、工具の収納位置も絵表示。技能伝習マニュアルも自ら学び全員で作成

事業が順調に大きくなり、新たに社員を採用、ベトナム人の技能実習生も雇い始めた。そんな中、「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」の製造業の5Sを徹底。部品庫では部品名をきっちりと記して保管し、工具などの保管場所もベトナム人技能実習生でもわかるように絵で表示している。

誰でもわかるようきっちりと整理整頓されている部品庫

誰でもわかるようきっちりと整理整頓されている部品庫

ベトナム人技能実習生でもわかるよう、絵で示された工具の保管場所

ベトナム人技能実習生でもわかるよう、絵で示された工具の保管場所

5Sと同時期に取り組んだのが、技術・技能伝承マニュアルの作成だ 。最新設備が導入される中、多くの従業員にさまざまな設備を使える多能工になってほしい。一方で、ベトナム人技能実習生は数年ごとに入れ替わる。設備の使い方を習得した従業員が、新たに入った従業員にその都度教え続けていたのでは、作業効率が悪い。その悩みを解決するため、技術・技能教育研究所の森和夫代表の研修を受けてマニュアル作成のポイントを習得した。
マニュアル作りに際しては従業員全員に参加してもらい、各工程で必要となる作業や知識を、自然と働かせている勘やコツも含めて書き出してもらい、それぞれの重要度も決めてマニュアルを作った。
重要項目については熟練者が行う作業の様子や、注意ポイントなどについての熟練者インタビューを動画撮影した。そして、これらをひとまとめの伝承マニュアルに仕立て上げた。すでに、塗装作業や各種設備操作のマニュアルが完成しており、ベトナム語も併記されている。

設備操作マニュアルの一部

設備操作マニュアルの一部

さらには、技術・技能の各項目の重要度を示した表「能力マップ」も作成。従業員一人ひとりの習熟度を自己・他己評価によって5段階で評価している。このマップは本人がスキルアップを目指すインセンティブになるだけでなく、教える側にとっても何を教えるべきかが一目瞭然となるため、教育の効率アップにも役立っている。

作業をiPadでQRコード入力、生産管理システムにつながり大型モニターでリアルタイムの状況表示

一方、生産・工程管理面でもICT化を推進。生産管理システムとサーバーを導入し、工場には大型モニターを設置。サーバーと連動したiPadを従業員に配布し、従業員が指示書に記されたQRコードを読み取れば、工程の開始・完了をクリックできる。それはそのまま大型モニターや工場に隣接する事務所のパソコンに反映されて、誰が何の作業をしているかが一目瞭然になっている。

指示書のQRコードを読み込めば、iPadの画面で「加工開始」などの作業状況を入力できる

指示書のQRコードを読み込めば、iPadの画面で「加工開始」などの作業状況を入力できる

iPadで入力された作業工程がリアルタイムに反映される大型モニター

iPadで入力された作業工程がリアルタイムに反映される大型モニター

インターシップの受け入れ、障害者支援にも取り組む

本業に力を入れる一方で、ビサンはものづくり補助金などの活用で多くの最新設備を導入できたことの「恩返し」(尾﨑社長)として、インターンシップの受け入れなどを実施。障害者のクリエーター がデザインした花柄などをもとにしたステンレス製ブローチなどの製造、販売も始めている。

ビサンで製作した花柄のかんざし

ビサンで製作した花柄のかんざし

経営革新や経営力で岡山県の賞を複数受賞、10年ビジョンも実現へ

これらの結果、ビサンは2020年、「岡山県経営革新アワード グランプリ」と「おかやまIT経営力大賞 チャレンジ特別賞」を受賞。2022年には「BISAN 10年ビジョン」を策定。「売上3億、営業利益5000万、社員数20名(ベトナム人:3名 女性:3名)平均年齢:35歳」との目標を掲げた。
ベトナム・ホーチミンに元技能実習生らが働く工場を持つことや、後継者に悩む工場を買い取って、岡山のものづくりの継続に貢献するという具体的な絵姿も盛り込んでいる。これらの目標実現は、これからだ。今の3倍の売上達成は簡単ではないし、元実習生から「ホーチミンの工場で働きたい」という希望者はまだ出ていない。だが、尾﨑社長は「わくわくする次世代の工場」を掲げて以降、口にしたことが現実化するという「言霊」を感じている。

今年10月までには工場に新棟を設置して新しい設備を導入するだけでなく、工場内の各棟を行き来して部品を自動搬送する装置も導入する。そうなれば、大型の部品を運ぶ手間はかなり軽減される 。ビサンの効率性はさらに向上し、「10年ビジョン」が言霊となってホーチミン工場などが実現する可能性も高まりそうだ。

事業概要

会社名

株式会社ビサン

本社

岡山県岡山市南区植松237

HP

https://bisan-thanks.com/
「Bisan shop」https://bisan.base.shop/

電話

086-485-0953

設立

2006年7月7日

従業員数

7人

事業内容

金属加工、製缶、塗装、防音パネル製造及び整備、パイプ製缶

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