事例集

2023.03.02 06:00

設計から施工まで一気通貫でICTを導入 活用の秘訣は「習うより慣れろ」 安井建設(香川県)

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産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

瀬戸内海・播磨灘に浮かぶ、美しい自然に恵まれた香川県・小豆島。設立から60年の歴史を持つ安井建設株式会社は、約2万6千人が暮らす小豆島の道路、港湾、水道、ダムといった地域インフラの建設、修復や民間の農園整備などを担っている。年あたりの工事件数は小規模な現場を含めると約100件にのぼる。地域を支える日々の業務をサポートしてくれるのが設計から施工まで幅広く導入しているICTだ。(TOP写真:点群データを基に作成した3Dモデルを活用する様子)

60年にわたって小豆島のインフラを支える

安井秀文代表取締役社長は21年前に父親から安井建設株式会社の経営を引き継いだ 。生まれ育った小豆島を豊かにしたいという思い、常に新しいことにチャレンジしたいという思いを大事にしながら事業を営んでいるという。この2つの思いを具現化する手段として重視しているのがICTの活用だ。

瀬戸内海に浮かぶ小豆島

瀬戸内海に浮かぶ小豆島

2016年からi-Constructionを推進

国土交通省がICTを活用して建設産業の生産性を高める「i-Construction」を推進し始めた2016年、安井社長は先を見据え、建設現場の調査・測量、設計、施工、検査、維持管理といったすべての工程でICTを積極的に活用していくことを決めた。

安井建設の安井秀文代表取締役社長

安井建設の安井秀文代表取締役社長

「新しい技術に後ろ向きだと時代の流れに遅れを取ります。建設業界はこれから先、人口が減少していく中で、現場の生産性を維持するだけでなく向上させていかなければなりません。ICTはこの課題を解決していく上で鍵となる技術と判断しました。いずれ導入に取り組まなければならないのであれば、早く着手するに越したことはありません。私自身、新しいもの好きで、会社にとって挑戦しがいのある取り組みと思っているので、楽しみながらICTを活用しています」と安井社長は快活に話した。

ICT測量機を活用するのは若手社員から

企業のICT導入に不可欠なトップの方針は決まった。だが、ICTは現場が使いこなすことで初めて効果を発揮する。新しい技術を導入する時、経営者は現場で広がる不安やハレーションに対処することが求められる。安井建設でもICT活用の第1弾としてICT測量機を導入する際、測量に確かな腕を持つベテランを中心に「慣れていない機器を使うことでかえって作業が非効率になる」と不安視する声があがったという。

安井建設で導入しているICT測量機

安井建設で導入しているICT測量機

そこで、安井社長が導入策として取ったのが「習うより慣れろ」だった。ベテランには従来通りのやり方で仕事に取り組んでもらう一方、30代の若手社員を指名して、試行錯誤しながらでも構わないので実際にICT測量機を使い続けるよう指示した。

作業を効率化できることが目に見えてわかり始めると社内の雰囲気は一変

「ICT測量機を使えば、複数人が必要な測量の作業を一人で済ませることが可能です。しばらくして若手社員がICT測量機の扱いに慣れ始めると、社内の雰囲気はガラリと変わりました。作業を効率化できることが目に見えてわかり始めると、最初は不安視していたベテラン勢も自分たちから『ICT測量機を使わせてほしい』と言い始めたんです。やはり実践に勝るものはないですね。最初は皆、使わない理由を探していたのですが、ここまで変わるのかと正直思いました」とにこやかに語った。その後はICT測量機を使うことが標準になり、現在では4台のICT測量機を順次導入して活用している。測量へのドローンの活用も2017年から始めている。

測量に活用しているドローン

測量に活用しているドローン

丁張りをしなくても作業を進めることができるICT建設機械を2台導入

測量のICT化と並行して、マシンコントロール機能を搭載したICT建設機械の導入にも取り組んだ。ICT建設機械は3D設計データを取り込むことで、装着しているモニターの画面に本体やバケットの刃先の位置を表示できるので、熟練操縦者でなくても一定レベルの施工精度を確保することができる。「丁張りをしなくても作業を進めることができるので、通常の建設機械を使うよりも掘削のスピードが速く、工期が短縮できます。それだけではありません。施工中の検測作業も削減できるので、作業員と建設機械の接触事故を心配することもなくなりました」と安井社長はICT建設機械の様々な利点を挙げた。

「ICT建設機械の作業効率は従来の2倍以上です。今後、ICT施工を前提とした工事が増えることを考えると、自前でICT建設機械を活用できるかどうかで会社の未来は大きく変わります。価格は通常の建設機械より高くなりますが補助金を活用することもできますし、社員がICT建機の活用に習熟するための教育費ということも考えると、投資は十分回収できています」と安井社長。効果が実感できノウハウも蓄積できたことから、2021年にICT建設機械をさらに1台追加購入した。

3Dの点群データを活用して設計業務を効率化

安井建設が強みを持つ設計でもICTは大きな効果を発揮している。2017年に、ICT測量機やドローンを使って計測した3Dの点群データ(無数の点の集まりによって構成されるデータ)を基に、データ加工や断面作成、長さ、高さ、土量の計算を自在に行えるシステムを導入した。3Dモデルを作成する別のシステムと連動することで、彩色した完成予想図を作ったり、CADと連動して図面の作成に活用することもできる。

安井建設が作成した3Dモデル

安井建設が作成した3Dモデル

「導入当初、点群データの扱いは簡単ではありませんでしたが、システムを使い慣れた今ではこれほど便利なものはないと思っています。データで再現した現場は拡大、縮小、回転、移動といった操作を自在に行うことができますし、線や点の入力も簡単にできるので、設計作業が導入前とは比較にならないほどはかどるようになりました。完成予想図を通じてお客様にわかりやすく情報提供できますし、自治体などに提出する資料も効率よく作成することができます」と、点群データを扱う設計担当の原田康史さんは説明した。

設計担当の原田康史さん

設計担当の原田康史さん

また、現場監督を担当する安井潤さんは「現場の手間が減ったのは本当に助かります。今後、社会のデジタル化が進んでいくと活用機会がさらに広がるのではないかと楽しみにしています」と話した。

現場監督を担当する安井潤さん

現場監督を担当する安井潤さん

点群データを使って設計変更にも迅速に対応

また、発注者から急な設計変更を依頼された際も、点群データを活用すれば再測量する必要がないので、時間と費用をかけずに迅速に対応することができる。設計変更に伴って必要になる工事費の見積もりもすぐにできるので、発注者側も総合的な視点から設計変更を実施すべきかどうかを判断することができる。「ICTの活用は、時間とコストの節減だけでなく、お客様へのサービス向上にもつながっています。お客様に何でも気軽に相談していただける体制をこれからも強化していきたい」と安井社長は述べた。

給料、休暇、希望の新3Kの実現を目指す。完全週休2日制を導入、女性活用促進も

安井建設本社の外観

安井建設本社の外観

従業員は現在25人。仕事が順調に増える一方、ICTで業務を効率化したことで2021年10月から完全週休2日制を導入するなど、休みを増やしても十分対応できているという。「ICTとデジタル技術のおかげで建設業界のイメージは以前と比べると向上しつつあり、この流れを更に加速していきたいと思っています。女性が活躍しやすい環境も整え、『給料が良い』『休暇が取りやすい』『希望がある』の新3Kを実現させていきたい」と安井社長は力強く語った。今後も更なるICTの導入を計画している安井建設。地域全体のDXを推進する役割にも期待がかかる。

事業概要

会社名

安井建設株式会社

本社

香川県小豆郡小豆島町池田2436番地3

HP

https://yasuikensetsu.com

電話

0879-75-0113

設立

1962年7月

従業員数

25人

事業内容

土木工事、とび土木工事業、浚渫(しゅんせつ)工事業、水道施設工事、ビル・家屋解体工事業、産業廃棄物処分運搬業

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