事例集

2023.03.01 06:00

「看護師が働きやすい職場」のためにICTを駆使した訪問看護ステーションを開業 エルモ(長野県)

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モバイルに親和性の高い20代が開業した訪問看護ステーションが長野県諏訪市にある。開業前から職員に業務情報共有化のための端末を支給、効率的な働き方を実践している。若きトップに話を聞いた。(TOP写真:笑顔で仕事中の宮坂あかり代表取締役。訪問看護の利用者宅で)

「看護師が働きやすい職場をつくりたい」と思いが募る

長野県諏訪市内の工業団地。元は内装会社だったという建物の2階に「つるかめ看護ステーション」の事務所がある。窓から明るい光の入るスベースで取材に応じてくれたのは、宮坂あかり氏(28歳)、同ステーションを運営する株式会社エルモの代表取締役である。

宮坂社長は高校卒業後、看護の専門学校に学び、22歳で看護師の資格を取得。23歳から病院や訪問看護ステーションなどに勤務した。病院時代は勤務時間が不規則で、24時間おかまいなしにナースコールが鳴った。「お子さんができた同僚が、もっと子どもと一緒に過ごしたいと思ってもシフトがあって難しい。そういう姿を間近で見て、なんとかしたいと思った」と宮坂氏は話す。その後、利用者の自宅に赴き医師やケアマネージャーの指示に従って状態観察や医療的ケアなどを提供する訪問看護ステーションに勤務先を移した時、「こういう職場なら看護師が働きやすいのではないか」と考えた。

どうせなら自分の思うように仕事をしたいと2019年に開業を決意。諏訪市内で電気店を営む両親に相談したら、「やめとけ。会社の経営は甘くない」と反対された。祖父母に相談しても「やめとけ」だった。それでも「やるよ」と宣言したら、次第に開業準備の相談に乗ってくれるようになったという。

事務所のデスクで職員らと

事務所のデスクで職員らと

職員6人で訪問介護ステーション開業、身体と精神のケアに乗り出す

病院勤めなどをしながら貯めた自己資金550万円で、2022年4月1日に会社を設立した。社名の「エルモ」はイタリア語で「elmo」、「愛すべき」という意味で、「利用者や医療関係者はもちろん、事務所の周辺の企業の人達にも業種を超えて愛されたい」という思いを込めた。看護ステーションの「つるかめ」は、「鶴は千年、亀は万年と長寿の象徴なので、長く存続していけるように。あと目線も特徴も全く異なる鶴と亀のように、職員一人ひとりが個性を補い合って運営していければ」と願って名付けた。

職員は宮坂社長を含め6人。事務員1人に看護師4人、理学療法士1人の陣容だ。身体疾患だけでなく、メンタルを病んだ精神疾患もケアする。利用者は諏訪市周辺6市町村の30件。身体と精神が半々で「身体疾患は70代、80代の高齢の方が多く、精神疾患は30代、40代の方が多い」そうだ。あらかじめ日時を決めて利用者の自宅を訪問し、医師やケアマネージャーが組んだ介護保険のケアプランに沿って看護をする。利用者の身体を拭き清め、投薬の内服状態を確認し、胃腸や気持ちに変化がないか確認する。誤嚥(えん)の懸念がある利用者には食事を介助し、時には排泄の世話もある。1件あたり30分から60分。職員は午前9時から午後6時までの勤務時間に5~6ヶ所を回る。休みは土日、一部の祝日は出勤だ。

スマートフォンで業務に必要な情報を確認できる

スマートフォンで業務に必要な情報を確認できる

クラウドストレージを導入し、業務に必要な情報を共有化

同社は会社立ち上げに先立つ2022年2月頃からノートパソコンと、インターネット上でファイルを共有するオフィス365のクラウドストレージを導入、職員にパソコンやタブレットを貸し出し、個人所有のスマートフォンにも業務で必要なデータを紐付けている。

職員が仕事をする場所は事務所ではない。時間があれば事務所に顔を出す人もいるが、自分の家から直行直帰をしたいという要望もある。クラウドストレージで、利用者の看護記録、利用者宅への道案内や周辺写真、社有車の空き状況、社内カレンダーや勤怠記録、さらには広告宣伝用のロゴなど、業務遂行に最低限必要なものは見ることができる、「仕事依頼のFAXを、事務所に帰らなくてもインターネット環境さえあれば出先で確認することができる。とても助かっています」と宮坂社長は笑顔で語る。

同ステーションのロゴマークも閲覧できる

同ステーションのロゴマークも閲覧できる

ICTで短縮できた時間を利用者のケアに充てたい

20代の宮坂社長は、高校時代に携帯電話からスマートフォンへの移行を経験し、モバイル端末に親しんできたため、業務のICT化に抵抗がない。「同業他社に先んじてモバイル端末で情報を共有化しているのは、我が社の強み」と胸を張る。

「紙のカルテにも良いところがいっぱいある。すぐに書き込めるし、ページを開けばパッと理解できる。でも、限られた業務時間の中で、より早く物事を効率的に片付けていくには、紙を1ページ1ページめくったり、索引のシールを貼ったりしていては無駄な時間がかかってしまう。看護師という資格を持っている私たちにはもっと別のことに使うべき時間があるのではないか」と話す。ICTで短縮できた時間を利用者のケアに充てたいというのである。

さらなる業務効率化も構想中だ。同社の職員は今、クラウドストレージのほか、紙のカルテに書いていたことをパソコンで入力・管理できるようにした「電子カルテ」、医療介護従事者の多職種連携をサポートする非公開型医療介護連携コミュニケーションツール「MCS(メディカルケアステーション)」の3つのメディアを併用して使っている。宮坂社長は「状況に応じて使い分けなければならない。1本化できるともっと便利になるのですが」と語り、方策を検討している。

打ち解けた笑顔で利用者と会話する宮坂社長

打ち解けた笑顔で利用者と会話する宮坂社長

利用者4倍増の目標に向け、ホームページを作成中

順調な滑り出しを果たした同社だが、宮坂社長は「利用者120件を目標にしたい」と考えている。利用者が現在の4倍になれば、職員数を増やさなくてはならないので、職員募集をするための自社ホームページを作成中だ。PRポイントは「直行直帰可能で、家族との時間を大切にできること、近所の顔見知りや知り合いの知り合いが利用者さんなので、構えることなくアットホームな感じで仕事に取り組めること」だという。

「つるかめ」の車で飛び回る宮坂社長

「つるかめ」の車で飛び回る宮坂社長

「訪問看護は、仕事中はずっと気を張る必要があるけど、利用者さん宅に向かう移動時間に気持ちを切り替えることができるし、仕事も定時で終わる。働く場として苦しいと思うことが少ない」と宮坂社長。会社設立で目指した「看護師が働きやすい職場の実現」はICTの活用で実現しつつあるようだ。宮坂社長は「職員に『看護師という仕事も悪くないな』と思ってもらえるように、これからもがんばっている看護師を支えていきたい」とインタビューを締めくくって、次の利用者宅へ向かった。

事業概要

名称

株式会社エルモ

HP

https://www.tsurukame-suwa.com/

住所

長野県諏訪市大字中州福島5317-1

電話

0266-55-7755

設立

2022年4月

従業員数

6人

事業内容

訪問看護

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