事例集

2023.01.23 06:00

9人の会社の「SDGs行動宣言書」は、ICTを従業員のため、顧客のため、社会のために使う姿勢から生まれた 阿知波設備(愛知県)

9人の会社の「SDGs行動宣言書」は、ICTを従業員のため、顧客のため、社会のために使う姿勢から生まれた 阿知波設備(愛知県)
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知多半島から海上の中部国際空港 セントレアへと渡る常滑市の隣に位置する知多市。名古屋市や大府市などへ仕事に通う人たちのベッドタウンとして発展が著しい。「今の本社を置いた時は、周囲は山ばかりでした。現在はぐっと開けて住宅が建ち並んで、大勢の方が暮らしていますね」。水道設備や空調設備の施工を手掛ける株式会社阿知波設備の阿知波久晴代表取締役は、1972年の創業から半世紀が経った知多半島の今の賑わいぶりをそう話す(TOP写真:阿知波設備の阿知波久晴代表取締役)。

「ダメ絶対!!ながら運転」のぼりを入り口に置き、交通安全への意識を日頃から啓発

交通量も人通りも増えて、自動車の運転には昔以上に安全への配慮が求められるようになっている。同社でも、「車はゆっくりと走らせよう、交通ルールは絶対に守ろうと、従業員には口を酸っぱくして言っています」。社屋の前にも「ダメ絶対!!ながら運転」と書かれたのぼりを立てて、スマートフォンを操作しながらの運転をしないように呼びかけている。

阿知波設備では安全運転の励行を従業員に求めている

阿知波設備では安全運転の励行を従業員に求めている

こうした施策のおかげか、「従業員による交通事故はほとんどありません。自動車保険の等級も高いものになっています」。日頃から交通安全に対する意識付けができていたこともあって、この10月から義務化されたアルコール検知器を使用した酒気帯びの有無の確認に関する対応も、「特に強制することもなくスムーズに進みました」と説明する。

「従業員が本社に来たら、まずチェッカーに息を吹きかけてチェックして、それから現場まで車で出かけていきます。夕方に現場から戻って来たら同じようにチェックして、その結果がクラウドに保存されていきます」。いったん保存されたデータは外からは改変できない。「事故を起こしてしまった時などに、データを取り出して会社がしっかり管理していたかどうかを確認することになるそうです」

アルコールチェック義務化、自分たちも対象とは知らなかった。義務化までの1ヶ月でチェック内容を調べて即実施

飲酒運転が原因で起こる事故を防ぐために導入されたこの制度だが、「実は、自分たちも対象になることを最初は知りませんでした」と振り返る。「運送や配送といった車で人や物を運ぶ事業者が対象かと思っていたら、そうではないと教えられて、急いでシステムの導入を検討しました」。同じように、最近になって導入の必要性を知った事業者で需給が逼迫(ひっぱく)し導入が間に合わない事業者も出ているが、同社の場合は「幸いにして9月の頭に導入できました」。

同社ではそれから義務化までの約1ヶ月、どれくらいの飲酒量でチェックに引っかかるか探ったという。「今までは、前日に深酒をしても寝れば大丈夫だという自己判断で運転していたこともありました。機械によってチェックするようになると、そうした自己判断では問題があると考えました」

アルコールチェックのシステムを操作する阿知波久晴代表取締役

アルコールチェックのシステムを操作する阿知波久晴代表取締役

前夜の何時くらいまでに飲むのを切り上げれば翌日に響かないかを探って、「当社の勤務体制の場合は、午後10時くらいまでなら大丈夫だとわかりました」。そうした結果をふまえて誰もが注意することで、「朝のアルコールチェックに引っかかることはなくなりました」。家に帰れば、後は何をしても自由だといった考え方もあっただろう。そこは、以前から安全運転意識を啓発してきた会社だけあって、新しい仕組みにすんなりと順応できたようだ。

知多市を中心に東海市や大府市、常滑市などを営業エリアとして、事業を展開してきた阿知波設備。「セントレアが工事をしていた時は、まだ暗いうちに三重県側からフェリーで渡って、仮設事務所の設備を施工していました」。そうした仕事をこなして積んだ実績から、現在は愛知県が定める入札参加資格者格付で最高の等級を得ており、自治体や大手の建設会社などが手掛ける大型の案件を受注している。

各種書類を電子化してサーバーに保存。結果、過去のデータを参考にして修正作成を行うなど顧客対応力が大幅向上

「今は老人ホームを3ヶ所で手掛けています」。他にも多くの案件を抱えていて、各種の申請に関する書類から現場で必要な仕様書や図面までさまざまな書類を回しているが、同社では「そうした書類はすべて電子化して、サーバーに入れるようにしています」。狙いは業務の効率化による顧客対応力の強化だ。

サーバーや複合機、大判サイズをプリントできるプリンターなどを集めた部屋

サーバーや複合機、大判サイズをプリントできるプリンターなどを集めた部屋

入札等で書類作成が必要になった時、過去に手掛けた同じような案件で作成した書類を参照し、必要に応じて書き換えることで、ゼロから作成する手間を省くことができる。作業時間も短縮できる。「資料も図面も写真もすべて入れていますから、施工の現場に図面などを持っていかなくても、パソコンでサーバーから引っ張りだして参照できます。新しく入った従業員が、過去の資料を使いたい時にも役立ちます」

書類のデータ化は10年以上前から実施、難易度の高い仕事も過去のデータを参考にすることでクリアできた

こうした資料や情報のデータベース化に、同社では10年以上前から取り組んできた。長く続けてきた結果、積み上がったデータが今は大きな財産になっている。「老人ホームなどでトイレなどを施工する際に、安全のための手すりを付けますが、これが結構難しいんです」。設計の段階で取り付けることは決められていても、どの位置に取り付ければ使う人にとって最適なものとなるかは、現場で判断しなくてはならない。「施工先との話し合いが重要ですが、過去に同じような施設を手掛けた事例があれば、そちらの施設ではこの高さに付けたと具体的な事例を示せます」

ビッグデータは一朝一夕にはできない。データと活用ノウハウの蓄積が重要

昔なら職人の勘だと押し切れたものでも、「今は個人のノウハウや経験だけでは通用しないです」。利用環境自体も多様化していて、それぞれに適切な対応をとっていく必要がある。そのような時代だからこそ、過去に手掛けた事例に関する情報の蓄積が大きな価値を持ってくる。その価値に早くから気づいて積み上げてきた成果が、大きな変化を迎えている事業環境の中で強みになっている。

ICTによって時間の余裕を作り、積極的にSDGsに取り組み「SDGs行動宣言書」を作成し現場で率先実行

働く人の負担を減らしたことで、土日はほぼ休める状況になっている。SDGsで言う第8の目標「働きがいも経済成長も」の趣旨に自然と沿う体制ができた格好だ。また、「環境という面でも、施工の現場ではしっかりと分別を行ってリサイクルに回しやすいようにしています」。これは、SDGsの目標の12「つくる責任、つかう責任」を満たすものになる。水道や空調といった地域に暮らす人に不可欠な設備を手掛けることも、防災協定に参加していざという時のための資材を整えることも含めて、SDGsの目標に合致する。

SDGsの行動宣言書を持つ阿知波久晴代表取締役

SDGsの行動宣言書を持つ阿知波久晴代表取締役

それならもっと積極的に、SDGsへの取り組みを推進しようと、2022年4月に「SDGs行動宣言」を行って、その宣言書を作成した。「入札の要件にSDGsへの取り組みが入っているわけではありませんが、会社の姿勢を知ってもらうことには繋がると考えています」。

もっとも、SDGsの目標に取り上げられている防災協定は入札の要件になっている。「リサイクルも、分別しなければお金を払って回収してもらうものが、分別すれば逆にお金をもらえます」。SDGsという大きな目標を掲げて行動しようとすれば、その過程で事業面に効果のある施策に取り組むことにもなる。SDGsを大きく掲げる意味はあるということだ。

阿知波設備の本社屋

阿知波設備の本社屋

9人しか従業員がおらず、毎日本社で顔を合わせるため、ICカードを使った勤怠管理のようなシステムや、コミュニケーション促進のためのグループウェアを今は必要としていない。ただ、「事業を進める上で手間暇がかかるものがあれば、削って効率化させたい」。コロナ禍でも工事の受注は減ることはなく経営は順調だったが、「給湯器が半年くらい入ってこなかったり、資材の価格が上がったりする影響はありました」。受注してから施工までの期間に物価が上がるような事態も起こっている。そういう状況に対応するためにも、ICT化にはこれからも着実に取り組んでいく。

事業概要

会社名

株式会社阿知波設備

本社

愛知県知多市梅が丘1丁目18番地

電話

0562-55-2569

設立

1972年2月

従業員数

9人

事業内容

空気調和・衛生設備・消防設備・設計施工

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