事例集

2023.01.13 06:00

クライアント、配布員、社員の信頼関係で成長 ICT活用で業績向上も ポストインサービス(埼玉県)

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株式会社ポストインサービスは、埼玉県を中心にチラシのポスティング事業を展開している。創業者は平野和雄会長、85歳(写真)。今年で創業25周年を迎える同社は業界の草分け的存在だ。競争の激しい業界で長年生き残ってきた秘密はどこにあるのか。

定年退職後に単身創業、成果出して顧客を広げる

平野会長は法政大学卒業後、メーカーを経てキャラクター商品の開発や通信販売をする会社に転職、同社が着手した英会話教室の営業を約20年務め、60歳で定年退職した。当時は毎朝新聞を開くと、折り込み広告がどっさり入っていた。平野会長は「すべてに目を通している人はどれだけいるだろう。せっかく企業がお金をかけて折り込み広告を出したのに、ゴミ箱へ直行ではもったいない」と思った。そこで思いついたのが、チラシを1軒1軒ポストに入れるサービスだ。「郵便物のように必ず手にしてもらえるのではないか」と考え、1997年12月に有限会社を設立した。

営業に回ったものの、スタートは簡単ではなく苦戦した。そのなかで出会った最初の顧客は宅配ピザのチェーン店だ。「新聞に折り込み広告を頼んでいるが、店がターゲットにしているエリア以外の住所まで配られてしまう。一度頼むよ」と言われた。お客さんが指定した配布日は1998年1月、雪が降っていた。配るのは夫人とふたりだけ。足を滑らせながらチラシを配った。そうしたら悪天候で家にこもる人からピザの注文が相次ぎ、反響は上々。顧客は喜び、他店を紹介してくれた。

そこで他のチラシと一緒に「配布員募集」のチラシを配り、自社の配布員を確保した。顧客は地元を中心に徐々に広がり、夜間や休日には家族も総動員して配布に精を出した。2006年8月、有限会社から株式会社に組織変更し、いま、同社の顧客は大手外食チェーンや不動産会社、学習塾にエステティックサロン、選挙前の議員など、法人から個人まで多岐にわたる。配布するチラシのサイズはハガキ大からA3まで様々で、形態もマグネット付きや小冊子など多様だ。

350人の(財)と信頼獲得の工夫

「当社の財(たから)は配布員。チラシを配る人がいなくちゃ仕事はできません」と平野会長。チラシを配るのは約350人。自宅の近所で空いた時間に配る「固定配布」と、クルマやバイクで広範囲を担当する「移動配布」の2形態があり、月収は1000円台から約30万円まで幅がある。男女比は半々で中高年層が多く、最高齢は80代。勤続20年超えを筆頭に10年選手も45人ほどいる。

力を入れているのは配布マニュアルだ。事故防止やチラシの入れ間違い防止のため、昼間の配布が基本で、配布員は配布前に必ず本社に電話連絡を入れ、配布後も速やかに連絡する。その知らせを受けた本社社員は、顧客に終了報告をする。「社員が配布員を信頼して仕事を出し、配布員がチラシをきちんと配ることで結果を出し、お客様との信頼関係を積み重ねてきました」と平野会長は話す。

在宅でも仕事ができるクラウド導入で社員のやる気を引き出す

本社社員は女性が多い

本社社員は女性が多い

同社の社員は役員を含め22人。配送センターは男女半々だが、本社事務所は女性が多い。平均年齢は30代後半で、「親御さんとかお子さんとかいろいろある時期。家族が体調を崩して、出社できないこともある」と曽根恵社長は話す。社員が安心して働けるようにしたいと思い、2020年4月、従業員が本社で見ているのと同じデータを見て外出先や自宅で仕事ができるクラウドを導入した。

クラウド導入費用は社員1人あたり年に約2万円。以前はUSBメモリにデータを落とし、自宅のパソコンに移して仕事をしていたが、今はクラウドにデータがあるので、パソコンさえあればいつでもどこでも仕事ができる。USBメモリが壊れた、落としたという心配もないし、データはクラウドとして外部委託しているので、万一、事務所が水害や地震に遭っても安心だ。コロナ禍で濃厚接触者になった社員には「家でも仕事ができた」と感謝されたという。

曽根社長は「クラウドを入れてから社員の意識が変わりました」と感じている。同社の売上高は2021年が2億9500万円。2022年は3億4000万円と過去最高を記録した。コロナ禍で宅配関係のクライアントが増えたこともあるが、曽根社長は「いざという時の安心感と、ここまで考えてくれているという会社に対する想いが、社員の頑張りに繋がったのではないか」と考えている。

社員のパソコンデータはいつでもどこでも見ることができる

社員のパソコンデータはいつでもどこでも見ることができる

クラウドで迅速な経営判断も可能に

クラウド導入効果は社員の意識向上だけに留まらない。平野会長と曽根社長向けには、売上高や配布部数、顧客からの発注一覧表などが見られるように設定してあるため、いつでも、どこでも経営指標が確認できるのだ。平野会長は「お客様からの発注量が減っていれば、営業担当から報告が上がる前に知ることができるし、どのクライアントかも分かります」と話す。曽根社長は「気になったら確認し、迅速に経営判断ができるのは大きいです」と語る。

パソコンのデータを見る平野会長と曽根社長(右)

パソコンのデータを見る平野会長と曽根社長(右)

表計算ソフトカスタマイズで配布員委託料計算を解決

クラウド導入でICT効果を実感した曽根社長は2022年1月、自身のパソコンに委託料計算ができる表計算ソフトを大幅にカスタマイズした。配布員に支払う委託料は、経験年数や配布枚数により金額が異なる。重さがあるチラシには料金を加算し、団地での配布は一軒家の多い町内より料金を差し引く。この細かい計算に四六時中追われ、「自分の仕事に余裕がない」と感じたからだ。試しに導入してみたら「350人それぞれの委託料がエンターキーをポンと押すだけで分かる。疑り深いので一応チェックしてみたが、間違いはなかった」と話す。計算の速さと正確さを確認感した曽根社長は4月からこのソフトを完全導入している。

顧客との信頼関係を構築し、ICTで更に業績向上へ

チラシ配布は自社の都合や天候に関係がない。猛暑だろうが大雨だろうが、クライアントが指定した期間に配り終えるのが鉄則だ。「お客さんは自社のキャンペーンに合わせて宣伝をしたいわけですから、できるだけ要望を聞き、期限を守りたい。厳しい面もありますが、きちんと配れば成果は後からついてきます。」と平野会長は話す。同社はそうやってポスティング業界を生き抜いてきた。
平野会長は「何も知らない素人がひとりで始めて25年間やって来られたのは、僕自身の力じゃない。やっぱりクライアント、配布員、社員のそれぞれの間に信頼関係があったからです。信頼が仕事と会社を結びつけます。」と断言する。信頼に基づいた同社の業績はICT活用でこれからさらに伸びそうだ。

同社本社前で曽根社長

同社本社前で曽根社長

事業概要

会社名

株式会社ポストインサービス

所在地

埼玉県越谷市蒲生本町13-1

電話

048-987-1112

設立

1997年12月1日

従業員数

22人

事業内容

広告宣伝業及び広告代理店業と付帯業務

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