事例集

2022.12.16 06:00

サポート支援を得て現場での図面確認もタブレットで可能。勤怠管理で働き方改革にも拍車 神報建設工業所(兵庫県)

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第二次大戦中に戦闘機を製造していた川崎航空機工業株式会社(現・川崎重工業株式会社)。その施設部部長らが終戦直後に立ち上げた株式会社神報建設工業所は5年前にNASを導入したが、サポート不足から不具合が発生した時や、セキュリティに不安を抱えながら運用していた。5年の契約期間を終えた今年、システム支援会社を変えたところ、同様のシステムを安心して使えるようになった。おかげで導入した機能をできる限り活用する方向に舵を切ることができ、建設現場にも働き方改革が求められる中、仕事の効率化が進んでいる。また、勤怠管理システムの機能でも新たな可能性を見出している(TOP写真:神戸市からの認定証を前に、左から近藤正也代表取締役、近藤國文取締役会長、黒田智子取締役)。

戦闘機を製造した川崎航空機工業が出発点

第二次大戦中や戦前に「飛燕(ひえん)」などの戦闘機を開発・製造した川崎航空機工業株式会社。大戦で工場が壊滅状態となる中、施設部の部長、課長、副課長、係長の4人が1945年10月、神戸市中央区琴ノ緒町に水道電気事業を創業。これが株式会社神報建設工業所の始まりで、初代社長には部長だった藤井楽二氏が就任し、明石工場内に作業所を開設した。

創業時の作業所は今も存続、社名は工場内の「神武報國」に由来

創業当時の作業所では、戦災で崩壊した明石工場の設備関係の復旧を担い、徐々に復旧工事が一段落すると、外部の仕事も請け負うようになった。同工場は今、川崎重工業株式会社の工場として存続しており、航空機用ジェットエンジンなど多岐にわたる製品を製造、同社の中心的工場として存続している。

そのような中にあっても、神報建設工業所の作業所が今も明石工場にあるのは、災害や不慮の断水などの有事に即応できる「駆けつけ業者」として川崎重工業から高く評価されているからだ。

神報建設工業所という社名の由来は、戦意高揚のスローガン『神武報國』。川崎航空機工業の工場内に大戦中掲示されていた。1946年生まれの近藤國文取締役会長は「社員には社名の由来をきっちり伝え続けたい」と話す。

神戸市水道局の公認業者第1号となり、信用度アップで仕事増加

1950年に神戸市が水道公認制度を始めると、神報建設工業所は同市水道局の公認業者第1号となった。この信用は大きく、電電公社や郵政局の入札に参加できるようになり、神戸市を中心に多くの水道工事や設備工事などを請け負うようになった。

藤井楽二社長の退任後は課長だった朝田義男氏が二代目に、三代目には副課長だった近藤喜美男氏が就任した。会社への出資額が最も多かったのが近藤喜美男氏だったことから、長男の現近藤國文会長が1978年に四代目に就任し、43年に渡り代表取締役を務めた。2021年6月に現近藤國文会長の長男である近藤正也氏が五代目の代表取締役に就任した。

2009年に一級建築士事務所も開設

神報建設工業所の外観

神報建設工業所の外観

國文会長は代表取締役就任後、それまで手掛けていた電気工事をやめて設備工事に絞るなどして、好景気不景気を乗り越えてきた。社員数は一時10人強ほどに減ったが、20人弱にまで増えたこともあった。

現代表取締役の正也氏は2001年に一級建築士資格を取得、リーマンショック翌年の2009年には設備工事に特化した「一級建築士事務所」を開設した。設備工事業者の中で、設備設計から行えるところは少ない。設備設計から工事、維持管理まで行える強みを得て、地元の工場施設や共同住宅を中心に、社員16人とともに設備設計と施工管理業務を手掛けている。

一時期行っていた大阪などの工事を取りに行くこともなくなった。「多くの先輩から引き継いだ会社なので、着実に確実にいきたい」という正也代表取締役の経営方針の下、神戸・明石近郊の工事に特化しているからだ。そして、2022年11月、神戸市から請け負った設備工事が「卓越した技術をもって他の模範となる優秀な成果をおさめた」として神戸市の久元喜造市長から「優良工事」の認定証を受けた。神戸市内の管工事の発注案件に対して年間数件しか出されない認定証は、正也代表取締役の経営方針の賜物といえる。

有効活用されなかったネットワークハードディスク

そんな神報建設工業所が本格的にICTを取り入れたのは、2017年から。ネットワークハードディスク(NAS:ネットワーク上に接続することができるハードディスク)を取り入れ、データの共有化も図り始めたが、当時のシステム支援会社はサポート体制が充実していなかった。ウイルスの侵入防止など、外部へのセキュリティには安心できたが、「共有フォルダの権限設定などに不安が感じられた」(黒田智子取締役)。このため、しばらくは厳重管理が必要なデータを共有フォルダに入れることができないまま過ごすことになった。

当時のシステム支援会社との契約期間は5年。そのサポート体制に不信を覚えた時には、契約期間がまだ4年残っており、黒田取締役は当時、「自分で勉強しないとセキュリティ対策ができないのだろうか」と不安に思っていたという。

システム会社を変更したことで、安心してデータ共有を開始、クラウド連携で現場から図面確認

 現場にいてもタブレットから図面を確認できる

現場にいてもタブレットから図面を確認できる

その不安が解消されたのは、契約期間の5年が過ぎた今年。かつて世話になった別のシステム支援会社にお願いしたところ、その業者には手厚いサポートがあり、一人ひとりのパスワードを個別に設定したり、共有フォルダの権限を確認したりする作業を支援してくれた。

今では現場のパソコンから本社のデータベースにアクセスし、設計図や施工図などを確認したり、勤怠管理のデータ入力もできたりと、大幅な作業効率化ができ始めている。

また、設計支援ツールのCADと連携させてタブレットのアプリで見られる体制も構築。このソフトの導入でCADの図面を直接見られるようになっただけでなく、現場写真の管理も簡単にできるようになった。このアプリの導入は、現場社員からの提案によって実現した。

パソコンに向って写真の整理をする従業員

パソコンに向って写真の整理をする従業員

勤怠管理は建設業界の働き方改革にも貢献

神報建設工業所では、勤怠管理システムを導入し、浸透を図っている。2022年11月現在は試行段階だが、ほぼ全員が使えるようになっており、正確に計算された出勤時間を給与計算ソフトに連携することができるため、給与計算の手間が大幅に省けている。だが、勤怠管理システムの効果はそれだけではない。

勤怠管理システムを社内では「働き方改革推進アプリ」と呼んでいる。一人ひとりの残業時間が簡単に管理できるうえ、「決められた残業時間の半分に到達した時点で自動的に警告を発してくれるため、即座に残業を減らすよう求めることができる」(同氏)からだ。建設業界でも進む働き方改革に「大きな効果が期待できる」(正也代表取締役)という。

勤怠管理システムの効果は幅広い。工事の流れや時間配分の見える化が出来ると、担当者への必要なサポートが分かってくる

勤怠管理システムで期待できそうなことはまだある。勤怠管理システムに、現場監督にも事務スタッフにも作業時間と作業内容を入力してもらうことで、それぞれの工事の流れや時間配分の見える化につながる。例えば同じ規模の工事であっても、担当者も得意先も協力業者も違う。また社内のサポート体制等もその時々で変わってくる。それにより要した時間もかかる費用も変わってくる。これまでぼんやりとしていたことが数字として表れてくる。

この見える化により、それぞれの担当者に対して、会社がどんなサポートをすれば、より負荷がかからず、また効率的に現場を納めることができるかを考えていく材料になるのではないかと期待している。

車の予約なども台帳からデータ管理へ

例えば社用車の予約管理など、細かな点にもシステム化する予定だ。今は社員が台帳に記入して予約し、カレンダーに転記して利用状況をわかりやすく示しているが、予約管理システムを使えば、現場のパソコンからリアルタイムで予約状況を把握できるだけでなく、その場で予約もできる。

社用車の使用希望者が日時などを記す利用者簿(右)と利用予定を示すカレンダー。近く不要になる見込みだ

社用車の使用希望者が日時などを記す利用者簿(右)と利用予定を示すカレンダー。近く不要になる見込みだ

また、「現場の社員からの電話が多い庶務係のパート社員の出勤予定を予約表に入れておけば、現場監督が予定を確認するために現場を離れて電話をかけ、事務スタッフが事務作業の手を止めてその電話に出るという日々のやり取りがなくなり、作業効率が良くなる」(黒田取締役)と期待している。

社員獲得へ動画配信、リクルート用パンフレットも作成

同社が注力しているもう一つの課題が、若い社員の獲得。施工管理という仕事に興味をもつ人が少なく、採用が非常に難しい状況にあるからだ。その状況を打破するため、正也代表取締役が出演する動画を11月に自社ホームページにアップしたほか、リクルート用のパンフレットなども作成した。

社員の紹介もしているリクルート用のパンフレット

社員の紹介もしているリクルート用のパンフレット

JR西明石駅から2キロほど離れた明石川沿いにある神報建設工業所。遠方の若者をひきつける立地的な魅力は少ないが、同社の作業効率化に対する取り組み、アットホームな雰囲気、子育て応援手当支給という手厚い支援・サポート体制が伝われば、「魅力」と感じる若者も多く出てきそうだ。

事業概要

法人名

株式会社神報建設工業所

HP

https://shinpou-kensetsu-kougyousyo.com/

所在地

兵庫県神戸市西区玉津町出合102

創業

1945年10月1日

従業員数

16名

事業内容

給排水衛生設備、空調換気設備、消防設備の設計・施工

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