事例集

2022.12.15 06:00

仕事に対する厳しさにICTをオンする建設会社。発注者との遠隔臨場も実現 吉野組(滋賀県)

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1957年に吉野勲代表取締役の祖父が創業した吉野組は、作業員を束ねて全国を回る土木作業会社から出発し、土木工事や不動産事業などの仕事にも乗り出してきた。この5年はICTを積極的に取り入れ、滋賀県の入札加点に対応。通常なら2、3年はかかる滋賀県の新県立体育館造成工事も受注し、納期通り1年で完成させるなど、確かな技術力で高い評価を得ている建設会社である。

全国を飛び回る土木集団として出発

株式会社吉野組は1957年に吉野寿郎氏が創業。1973年8月に土木工事の許可を取得して現場監督ができるようになるまでは、下請け業者として作業員を取りまとめて土木工事を行ってきた。

創業者の吉野寿郎氏

創業者の吉野寿郎氏

吉野社長によると、会社に属する作業員は100人以上おり、数十人単位で現場に繰り出した。現場は全国に広がり、大きな現場だと100人規模の作業員を取りまとめて土木工事に取り掛かった。本社周辺に住む現在80~90歳の人たちの中には寿郎氏の下で一緒に働いた人たちがいるという。

厳しいがマメな性格で、多くの写真をアルバムに

「厳しいけど、マメだった」(吉野社長)。創業者の吉野寿郎氏は、工事現場の写真をアルバムにきっちりと整理。アルバムには工事名や工事金額なども記載され、昭和時代の現場の様子がありありとわかる。

工事現場の写真などが保存されたアルバム。1957年の現場の雰囲気が迫ってくる

工事現場の写真などが保存されたアルバム。1957年の現場の雰囲気が迫ってくる

写真の中には寿郎氏が仕事仲間とともに撮った写真や社員旅行などの写真もある。1981年の伊勢志摩旅行の写真からは、髪型や服装、風景から昭和時代の空気をそのまま感じることができる。

社員を大切にし、社員旅行で親睦を深めるのが吉野組の伝統となっている

社員を大切にし、社員旅行で親睦を深めるのが吉野組の伝統となっている

「工事やり直し」の厳格さ、今も

吉野組は1981年3月にとび・土工、造園、水道の許可を取得するなど、仕事の幅を広げていった。仕事の幅を広げても、工事をきちんと行うという寿郎氏の姿勢は変わらなかった。「コンクリートの土木工事で滋賀県ナンバーワン」を自負していた寿郎氏は現場に行って下請け業者がいい加減な仕事をしていることがわかると、できあがったものを崩し、一から作り直したという。吉野社長はこのエピソードに触れた後、「今の吉野組もその精神を受け継いでいる」と話した。

 写真・創業者・寿郎氏の仕事ぶりが反映されている整然とした工事現場。

写真・創業者・寿郎氏の仕事ぶりが反映されている整然とした工事現場。

二代目で工事を監理する技術者集団へ、不動産事業にも乗り出す

1986年4月、寿郎氏の次男、吉野尊善氏が代表取締役に就任。戸建て住宅需要の多さを受けて、1992年1月にヨシノホーム株式会社を設立。「たくさんの人の夢を叶えるお手伝いがしたい」との思いで不動産のプロとして住まいづくりに向き合っている。また、公共工事の入札にも参加し、元請として監理を行うことが主になり、「仕事師の会社」を「県に認められる土木会社」に衣替えしていった。
一方、建設業界にも品質マネジメントや環境に対する責任が求められ始めたことから、2000年にISO9001、2004年にはISO14001を取得。尊善氏は建設業協会の役職を歴任し、業界内外で存在感を高めていった。

三代目の吉野勲社長はICTを推進、入札で優位に

2010年10月、尊善氏の長男、吉野勲氏が代表取締役に就任。仕事に対する厳しさはそのままに働きやすい環境を整えることに注力した。そこから有望な人材の中途採用、さらに新卒採用で一から技術者を育てることにも取り組み、若手とベテランが切磋琢磨する社風へ導いた。
また、2013年には国交省などの入札に際し加点となるBCP(近畿地方整備局災害時建設事業継続力)の認定を獲得。災害時の対応力の高さを証明した。

仕事に厳しいながらも社員思いの側面も併せ持つ吉野社長

仕事に厳しいながらも社員思いの側面も併せ持つ吉野社長

i-Constructionに対応しドローンやICT建機を活用

その後も政府が推進し、滋賀県が入札時の加点対象とした「i-Construction(アイ・コンストラクション)」に積極的に対応。工事の測量時にドローンを使ったり、自動制御が可能なICT建機を活用したりしたほか、ICT建機の活用を下請け業者にも求めるなどして、現場をより安全に、そして経験の浅いオペレーターや女性でも施工ができるようにしていった。

遠隔臨場を導入し、発注者から現場をライブ映像で確認してもらった

コロナ禍の2年前から、建設現場に持ち込んだパソコンやスマートフォンなどを使って現場確認を行う「遠隔臨場」にも対応。発注者のオフィスと工事現場をテレビ会議システムで繋ぎ、現場の隅々までをライブ映像で担当者に確認してもらうようにした。

タブレット端末で行う遠隔臨場。ライブ映像が発注者に送られ、現場確認が行われる。

タブレット端末で行う遠隔臨場。ライブ映像が発注者に送られ、現場確認が行われる。

新県立体育館の造成工事も受注

そんな努力が実って受注したのが、2025年に開催される滋賀国民スポーツ大会の競技場となる観客席5,000席の「滋賀アリーナ(新県立体育館)」の造成工事。大きな山を1つ崩して平らにし、調整池を作る約9億円の工事は通常なら2、3年はかかるとされていたが、工期は1年。「『途中で投げ出すのでは』と陰口をたたかれた」(吉野社長)が、2019年10月から1年で完成させ、2020年11月にすべての工事が竣工した。

上の山が1つ取り崩されて完成した「滋賀アリーナ(新県立体育館)」の造成工事
上の山が1つ取り崩されて完成した「滋賀アリーナ(新県立体育館)」の造成工事
上の山が1つ取り崩されて完成した「滋賀アリーナ(新県立体育館)」の造成工事

上の山が1つ取り崩されて完成した「滋賀アリーナ(新県立体育館)」の造成工事

福利厚生にも力、本社敷地内にジムを設置

ICT建機の活用などの取り組みは、土木業界を志望する若者を少しでも増やしたいとの願いから。そして、同じ願いから福利厚生にも力を注ぎ、就学前の子どもを持つ社員には子どもの病気などに際し5日間の有給休暇を認めている。2016年にはこれらの取り組みが評価されて基準適合一般事業主(くるみん)に認定された。

福祉厚生と社員の健康増進のために本社敷地内に設置されたジム

福祉厚生と社員の健康増進のために本社敷地内に設置されたジム

また、本社敷地内にジムを設置。サンドバッグと筋トレマシーンを設置し、社員の健康増進に寄与。社員に野球好きが多く、近隣の野球チームの指導者もいることから、5年前には野球部を創設した。

積算ソフトも在宅で活用、工事台帳や会計事務との連動ができる原価管理ソフトで事務の手間を1/5に

福利厚生の意味もあって導入したのが、積算ソフトのリモート活用。積算担当の女性社員が子どもの看護をしながら、在宅で積算の仕事ができるようリモート化したのだ。これにより子育て世代に限らず、コロナ感染者の濃厚接触者として自宅待機となったなど、やむを得ず出社ができなくても在宅で業務を行える、多様な働き方ができるようになった。

予算書・工事台帳の作成、支払計算、会計事務との連動もできる原価管理ソフト

予算書・工事台帳の作成、支払計算、会計事務との連動もできる原価管理ソフト

4年前に導入した原価管理ソフトでは、工事台帳や会計事務との連動もできる。池田真由美総務部長によると事務の手間が5分の1ほどに軽減できたといい、「一度数字を打ち込めば工事台帳にも活用できるので、打ち間違いを防げます。とても助かっています」と喜んでいた。

コロナ禍にはテレビ会議の活用、ICTは今後も積極化

コロナ禍で対面での会議が避けられる中、吉野組でもテレビ会議システムを導入。月2回の会議を本社と現場でオンラインで行った。現場から直行直帰する社員が多いため、「月2回は顔を合わせたい」(吉野社長)として、今は実際に集合して全体会議を行っているが、現場を離れられない時などはオンラインでの参加も認め柔軟に対応している。
ICT導入が事務効率化や若者にとって魅力ある職場に繋がることは間違いなく、吉野社長は「社員に快適に仕事をしてもらえるなら、これからもさまざまなシステムを導入したい」と力強く話していた。

事業概要

会社名

株式会社吉野組

HP

http://yoshino-g.jp/

所在地

滋賀県野洲市八夫646番地2

電話

077-589-2164

設立

1957年2月

従業員数

20名

事業内容

土木/とび・土工/舗装/水道/造園/浚渫/石/鋼構造物/塗装/解体

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