事例集

2022.12.09 06:00

社員に開かれた会社。技術力を支える人材と最新技術が強み。入札も積算ソフト+調査で臨む  宇都宮ヤマイチ(栃木県)

社員に開かれた会社。技術力を支える人材と最新技術が強み。入札も積算ソフト+調査で臨む  宇都宮ヤマイチ(栃木県)
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栃木県宇都宮市に本拠を置く宇都宮ヤマイチ株式会社は、上下水道の管工事や土木工事、水道施設工事を手がける会社だ。業務の9割は宇都宮市の上下水道工事だが、こうした公共工事の受注に欠かせない工程が「入札」だ。入札に必要な積算は専門性が高く、社内でも属人的な作業であるといえる。また、データの出典根拠を拾い出す単価本(=国交省の設定する公共建築工事標準単価積算基準)や応札価格の開示情報など、さまざまな情報を読み取って応札価格を予測するには、これまで多大な手間と時間がかかっていた。しかし、こうした作業を劇的に変えたのが積算ソフトの登場。ただ、積算ソフトなら今や他の会社でも使っている。宇都宮ヤマイチはどのようにそれらを活用し、受注につなげているのだろうか。
その背景には、長年積み重ねてきた実績と、人材育成に注力してきた宇都宮ヤマイチの土台の強さが垣間見えた。(TOP写真:土木技術者としての経験を活かして起業した山本幹夫代表取締役。創業時の仲間が今も会社を支えてくれていると話す)

若手から熟年世代までが力を発揮。「うちの強みは団体戦」

宇都宮ヤマイチ株式会社本社

宇都宮ヤマイチ株式会社本社

山本社長が、土木技術者として勤めていた建設会社を退職し、自分の会社を興したのは1989年、36歳の時だ。当初はプレハブの事務所に電話が1台、社員3人でのスタートだった。時はバブル崩壊の頃で「10年間は死に物狂いでした」と振り返る。それから33年、「ライフラインとしての水道を守る」という使命と高い工事品質で応じてきた宇都宮ヤマイチ。今や億単位の公共工事を次々とこなす一方、市の認定する優良建設工事の表彰も毎年複数件受賞するほど高い技術力を持つ企業として評価され、飛躍的な成長を果たしている。

「新人はまず穴掘りからスタートします」と話す山本社長。道路の状況は、現場を見ないとわからないことが多いという。ガス管や電話線など、地中にはさまざまな線が埋まっているだけに、誤って損傷すれば損害賠償という事態にもなりかねない。それだけに経験を重ねることが必要で、場所により異なる道路状況を読み取り、先を見通せるようになるには5~6年はかかるそうだ。

経験豊富なベテランと若手のバランスが重要。教育は、山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」を基本にする

社員の平均年齢は39歳と若いが、経験豊富なベテランも活躍している。ただ、若手社員に対しては年齢差が2〜3歳の先輩社員を指導役につけるなど、コミュニケーションを取りやすいよう配慮する。その一方で後輩を教えることで成長につながる相乗効果も期待しているそうだ。「昔は、見て覚えろ…的な人がけっこういて、そうした人があちこちの工事現場を渡り歩いていましたが、今はそういう個性的な人はいなくなりましたね」と話す山本社長。マネージャークラスの社員には、山本五十六(明治〜大正〜昭和期に活躍した海軍軍人)の格言を引用し「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」と説いているという。

また、若い社員が家庭を持っても安心して働けるようにと、福利厚生や給与面でも手厚い。定期昇給に加えて月2万円の資格手当(1級土木施工管理技士、1級管工事施工管理技士の場合)があるほか、休日の取得については年間106日の指定休日以外に、有給休暇(最長20日)を消化できるよう社を挙げて取り組んでいる。さらに驚くのが70歳までは給与を下げないという方針だ。
「水道工事はチーム戦ですから、幅広い年齢層のバランスが欠かせません。中高年の方は経験豊富で機転がききますし、応用力もあります。それに、いるだけで若い人にとっては安心感がある、そうした意味でも彼らは必要な存在なのです」と山本社長は語る。

公共工事に注力し、総合評価方式でも確実に落札、技術力・マンパワーを活かして災害対応にも貢献

宇都宮市の上下水道管工事を手がける宇都宮ヤマイチでは、1・2級土木施工管理技士、1・2級管工事施工管理技士の資格を持つ社員が多数を占める。

宇都宮市の上下水道管工事を手がける宇都宮ヤマイチでは、1・2級土木施工管理技士、1・2級管工事施工管理技士の資格を持つ社員が多数を占める。

年間100件ほどの公示があるという宇都宮市水道局の工事。入札では総合評価落札方式が採用されることもあり、施工する会社の施工実績や技術者の能力、企業の社会性、地域貢献度と入札価格を一体的に評価する方式がとられている。そのため、入札価格だけでは評価の対象にならない。だからこそ宇都宮ヤマイチでは、技術力を磨き、高品質な施工や地域貢献にもこだわっている。
「民間工事をやると入札への集中力が分散しますし、手を広げると、それだけ人材も必要になります。私たちは公共工事に注力し、工事の実績・技術力ともに地域オンリーワンを目指しています」と語る。
山本社長によると、宇都宮地域で水道工事を手がける事業者の多くは従業員数が4〜10人規模のところが多いそうだが、宇都宮ヤマイチの従業員数は30人超と突出して多い。そのため、災害対応にも強みを発揮する。実際に新潟県中越地震の折には社員を現地に派遣し、東日本大震災の際には県内の断水地域に社員を派遣し、給水活動を行なった。こうした社会貢献も技術力はもとより、マンパワーがあるからこそ可能なのだろう。

10年以上前から積算ソフトを導入、1週間かかっていた積算作業が2〜3日に短縮

2種類の積算ソフトを2画面でそれぞれ開き、微妙な相違を比較しながら予測を立てていく。

2種類の積算ソフトを2画面でそれぞれ開き、微妙な相違を比較しながら予測を立てていく。

公共工事に軸足を置くからには、入札には確実に落札をする方針だという山本社長。総合評価落札方式であっても、入札価格は査定基準の多くを占めるだけに、いかに予定価格に近づけていくかが肝要だ。しかも、入札価格の算出に至るまでには概算見積もり、予定価格の予測、競合他社の価格予測、最低限価格の予測といったプロセスを経て、自社の入札価格を決定するため、経験と情報収集に長けた社員があたっていた。しかし、労力の軽減や若手への継承は課題だった。そこで宇都宮ヤマイチでは10年以上前から積算ソフトの導入を図り、2018年にはバージョンアップを行った。

工事原価を算出するには、材料費や労務費、水道光熱費等を含む直接工事費と、現場管理費などを含む間接工事費を国交省の設定する公共建築工事標準単価積算基準(いわゆる単価本)に基づいて積算していくが、この積算ソフトでは、設計書を取り込むと積算条件や経費条件に基づいて自動解析を行い、内訳書を自動的に生成することができる。また、国交省の実施する施工パッケージ型積算方式や総価契約単価合意方式といった各種積算体系にも対応。さらに、応札価格から逆算内訳書を作成して最低制限価格のシミュレーションを行うことができるなどさまざまなアシスト機能がある。こうした機能により、歩掛や単価、経費など各データの出典根拠も表示され、県単価・物価単価に準拠した単価データも得られる。この積算ソフトの導入のおかげで、2〜3千万円の案件で1週間ほど要していた積算作業が2〜3日で完了した。また、積算ソフトメーカーによって微妙に違いが生じるため、積算ソフト3種類を駆使して同じ条件で積算。2画面のモニターで比較しながら予測を立てているという。さらに、ソフトのアップデートと同時にネットワーク環境も見直し、通信速度が向上したことから作業効率もアップした。

入札価格の積算ソフトは他社でも使用している。精度を高めていくポイントはなにか

積算には経験豊富な社員が担当しているが、現在若手社員を育成中だという。

積算には経験豊富な社員が担当しているが、現在若手社員を育成中だという。

しかしながら、宇都宮ヤマイチは積算ソフトにのみ頼っているわけではない。毎回入札・落札後には開示された落札価格のデータを入手し、土木・水道などの専門スタッフ3人が多方面から徹底的に分析を行っている。更に精度を高めるために、国交省や役所から公開された情報収集はもとより、メーカーからの情報収集や、物価変動情報、その他にも地道な努力を行っていることが落札へと繋がっていることがうかがえる。
それまで単価本を広げて手作業で行ってきた熟練社員の作業が、デジタルツールに置き換わったが、山本社長は「ソフトウェアは命綱です。でも、人がいてこそのデジタル技術。うまくマッチングさせるには使う人がどうあるか、どう使うかが大切ですよね」と断言する。

ライフラインを支える公共工事を手がけるからこそ、人材育成と設備投資は惜しまない

宇都宮ヤマイチでは、断水をせずに既存の水道管の分岐工事を行ったり、簡易仕切弁を設置する「不断水工法」の施工代理店の資格を保有している。

宇都宮ヤマイチでは、断水をせずに既存の水道管の分岐工事を行ったり、簡易仕切弁を設置する「不断水工法」の施工代理店の資格を保有している。

宇都宮ヤマイチの強みである技術力を支える両輪は、人材育成と設備投資。人材育成に関しては、各種免許や工事の請負額にも関わる資格取得者の育成が必要不可欠だが、宇都宮ヤマイチでは土木施工管理技士や管工事施工管理技士の1級・2級資格保持者が社員の多数を占めている。資格取得にかかる費用は会社が負担し、さらに合格すれば資格手当が毎月支給されるため、多くの社員が積極的に資格取得を目指している。

設備投資においては社員の望む機材は積極的に導入しており、700〜800万円のものは購入、大型重機はレンタルだ。「社員が満足するものを使ってもらいたいので、必要なものはどんどん取り入れます」と話す山本社長。それは、酷暑の夏の日も、凍つく冬の日も工事現場に向かう社員たちを思う心配りでもある。

「不断水工法」という他社と差別化する特殊な工事技術を保有

さらに、宇都宮ヤマイチは他社との差別化に貢献する特殊な工事技術を保有している。それは「不断水工法」だ。不断水工法とは断水をせずに、既存の水道管の分岐工事や簡易仕切弁を設置する工事である。国内メーカーではコスモ工機(株)・大成機工(株)及び(株)水研がこの工法を手掛けており、宇都宮ヤマイチではそれぞれの施工代理店の資格を保有している。

工事を行うには特殊な機材を取り揃える必要があり、なおかつ社員が研修を受講し、不断水工法施工資格を取得するまでに数百万円の費用が生じるが、「他の会社が追いつけないことをする」という山本社長の覚悟は揺るがない。社員研修では関西や東海方面の管工場にも赴くこともあるという。

「優良建設工事」の認定を宇都宮市から毎年複数現場受賞。「いい仕事」が好循環につながる

管工事には小口径、大口径それぞれに工事免許が必要だ。

管工事には小口径、大口径それぞれに工事免許が必要だ。

山本社長は「仕事に責任と誇りを持て」と日頃から繰り返し社員に伝えているという。そんな彼らの仕事ぶりが評価され、宇都宮ヤマイチは毎年宇都宮市から優良建設工事の認定を複数の工事で受賞している。業界ナンバーワン品質を目指す宇都宮ヤマイチにとって重要な評価だ。このような「いい仕事」によって信用が得られ、仕事のレベルアップにもつながり、利益が出る。そして、銀行からの信用も得られ、仕事の依頼が来るという好循環に繋がっているという。

現場管理台帳を社員に公開。開かれた会社で、人への投資と社内インフラの向上により「水道なら宇都宮ヤマイチ、と言われるようになる!」と強い決意

「会社にとって人への投資は必須です。そのために、社長は身を切る覚悟でいなければ」と自らを鼓舞する山本社長は、社員が安心して働いてもらうことが自身の役目だと考えている。驚くことに、現場管理台帳は社員にも公開されている。これを見れば収支や利益も一目瞭然だ。お金のことがオープンになっているため、社員にいかに還元されているかもわかるのだという。

今後の目標はと尋ねると、「オンリーワンで会社が継続できるように、2ステージぐらいレベルアップしたい。そして、『水道なら宇都宮ヤマイチ』と言われるようになりたいですね。そのためにも、人への投資と社内インフラを充実させて、他社がやらないことを目指したいと思っています」と強い決意をにじませた。
水道というライフラインを通じて我々の暮らしを支える宇都宮ヤマイチ。そのたゆまぬ努力とチームプレイはこれからも続いていくに違いない。

事業概要

法人名

宇都宮ヤマイチ株式会社

所在地

栃木県佐宇都宮市下戸祭1-9-5

電話

028-624-2552(代)

設立

1989年9月1日

従業員数

33名

事業内容

管工事業、土木工事業、水道施設工事業

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