事例集

2022.11.28 06:00

独自開発技術を持ったものづくり企業。サイバー攻撃されたがUTMで事なきを得る 宮本スケール(香川県)

独自開発技術を持ったものづくり企業。サイバー攻撃されたがUTMで事なきを得る 宮本スケール(香川県)
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台秤(だいはかり)は物を積載する天板部分に計測対象を載せることで天板が沈み、その沈み具合で質量を計測する仕組みになっている計量器。香川県高松市内に本社を置く宮本スケールは大手計量器メーカーの新光電子株式会社と提携し、高精度の台秤を中心とした計量器の設計、製造、販売に取り組んでいる。日本でも有数の技術を備え、製鉄・重工業、自動車、化学工業、製薬各業界の大手企業への数多い納入実績を持つ。

計量器づくり一筋に取り組む

宮本スケールで計量器の設計を担当しているのが約40年の実績を持つ大岡禎昭さん。宮本スケールの前身の会社に入社して以来、計量器づくり一筋に取り組んできた。「長年の技術の蓄積を生かして、堅牢で精度維持の高い計量器をお客様に提供することを心掛けています」と話す。

半導体や電子部品業界で高精度計量器の需要が高まっている

デジタル社会の構築に欠かせない半導体や電子部品といった精巧で付加価値が高い製品は、ほんのわずかな重さの違いが価値やコストに大きな影響を与えることから、これらの業界で使用される計量器には高い精度が要求される。2018年2月には、精度等級2級の認定を受けた高精度の特定計量器の開発に成功し、その後、型式認定を取得した。「社会のデジタル化が進み、半導体業界や電子機器業界における新製品開発や製造工程見直しの動きが激しくなる中、従来以上に精度が高い計量器のニーズが大きくなっていました。ニーズに応えるため新しい特定計量器の開発に取り組むことにしたんです」(大岡さん)。

宮本スケールが開発した高精度計量器

宮本スケールが開発した高精度計量器

音叉式力センサーの活用で高精度、省電力、耐経年劣化を実現

開発した新しい特定計量器は、重さの計測に荷重が加わった時の周波数を検出して重量値に変換する音叉式力(おんさしきちから)センサーを組み込んでいるのが大きな特徴だ。音叉式力センサーは、提携先の新光電子が得意とする技術。精度が高いだけでなく電力を消費せず経年劣化も少ないといった特徴も持っている。

荷重を音叉式力センサーに伝達するための部材や、秤台に物を置いた時の衝撃を緩和する伝達機構を新たに設計・開発することで、既存の計量器と比べて10分の1の目量(計量器の1目盛り)まで細かく計量できるようにした。300キログラムの秤量(ひょうりょう)なら10グラム、2000キログラムの秤量なら100グラムの単位まで精密に計量できる機能を持っている。

大岡禎昭さん

大岡禎昭さん

「高精度の計量を実現することはもちろんですが、構造を複雑にしすぎると壊れやすくなるので、できる限りシンプルな構造にすることを心掛けました。他社の既存の製品と比べて10倍程度精度が高いことに加え、製造認可を国内で唯一取得しているので優先的に市場展開できます」と大岡さん。

香川県の公益財団法人から科学奨励賞を受賞

宮本スケールが開発した特定計量器は、デジタル化が進むこれからの日本のものづくりを支える重要な基盤技術となる可能性を持っている。各界から高い評価を受け、今年2月には公益財団法人かがわ産業支援財団が香川県内の優秀な技術を顕彰する芦原科学賞の第29回奨励賞を受賞した。「受賞は大きな自信になりました。今後、地域に貢献できる将来性を評価していただいたのだと思います」と大岡さんはうれしそうに話した。

芦原科学奨励賞の賞状

芦原科学奨励賞の賞状

コンピューターウイルスに感染するもUTMのおかげで被害を最小限に

宮本スケールは情報セキュリティの様々な機能を併せ持つ「UTM(統合脅威管理)」を5年前に導入した。導入したUTMは、不正アクセスを遮断するファイアウォール、パソコンなどの端末へのコンピューターウイルスの感染を防ぐアンチウイルスに加え、感染してしまった際にはコンピューター内の情報を外部に送信することを防ぐ機能を備えていた。「念のためと思って導入したシステムだったのですが、コンピューターウイルスの『エモテット』に感染してしまった時にその効果を実感することができました」と大岡さんは話す。

宮本スケールのオフィス

宮本スケールのオフィス

知り合いを装った不審なメールのファイルを開いてしまった

エモテットは知り合いを装った不審なメールに添付する形で攻撃者からパソコンに送りつけられ、添付されたファイルを開くと感染してしまうコンピューターウイルス。感染するとパソコンに保存しているメールアカウント、パスワード、アドレス帳などの情報を外部に送信されてしまう。それらの情報を元に攻撃者は他のアドレスにもエモテットを送信するため、取引先や顧客を巻き込んでしまう恐れがある。

エモテットに感染したのは今年6月だった。「巧妙に知人を装ったメールだったため、添付されていたファイルを警戒することなく開いてしまったんです。小さな会社がサイバー攻撃の標的になることはないだろうという油断もありました」と悔しそうな表情で大岡さんは話した。

感染に気づいた後、パスワードの変更と関係者への周知を迅速に行った

ファイルを開いてしばらくすると、UTMが不正な外部への送信を遮断したことを通知するメールが大量に入ってきたという。「大変なことが起こっていると思い、すぐに専門業者に善後策を相談。メールアカウントを一時停止してパスワードを変更することで事態を収拾できました。また、すべての取引先や知人に直接電話し、宮本スケールを装った不審なメールが届く可能性や、届いた時はファイルを開かないよう周知徹底しました。感染はしてしまいましたが、情報の流出を防ぐことができたのは不幸中の幸いでした。UTMがなかったら取引先や知人にどのような迷惑をかけていたかと思うと、本当にぞっとします。今は送られてきたメールアドレスなどに不審な点がないかをしっかり確認してから、添付ファイルを開くようにしています」と大岡さんは神妙な面持ちで話した。USBメモリも以前は使うことがあったが現在は使わないようにしているという。

サイバーセキュリティ対策を更に強化

7月に更に高性能のUTMを新たに導入した。「日々様々な新しいコンピューターウイルスが現れています。費用はかかりますが予防対策を強化するに越したことはありません。取引先に迷惑をかけることだけは絶対に防ぎたいと思っています。専門業者に相談した上で常に最新の対策を講じるようにしていきたい」と大岡さんは話した。

部品の内製化を進めるため工作機械を導入 ICTも積極的に活用する

国際情勢の変化で以前と比べて部品の安定的な調達が難しくなっていることに対応し、これまで外部発注していた部品の内製化を進めるために、今後は工作機械を導入する予定だ。部品調達にかかる時間を短縮することで、より迅速に製品を生産、出荷できるようにしたいという。また、計量器の納入先で点検や不具合が出た時に動画を送ってもらって確認することができるようにWeb会議システムを活用することも検討している。年配のベテラン技術者が多いことから、計量器の設計や生産に関する技術をICTを活用して効率的に若い世代に伝承することにも取り組んでいきたいという。

宮本スケールの工場の様子

宮本スケールの工場の様子

ベテランの技術者が計量器の生産に取り組む様子

ベテランの技術者が計量器の生産に取り組む様子

DXとGXに貢献する高精度計量器

高精度の特定計量器は、DX(デジタルトランスフォーメーション)だけでなく脱炭素社会への転換を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)への活用も見込まれている。

脱炭素化に向けて普及が見込まれている燃料電池車のエネルギーとなる水素燃料は比重が小さいため計量に手間がかかるが、宮本スケールが開発した特定計量器であれば1台で対応することが可能で、多品種の計量や配合の際の計量にも活用できるという。

宮本スケールの工場の外観

宮本スケールの工場の外観

攻めと守りの両面でICTを有効活用している宮本スケール。「今後も新しい技術を導入してこれまで以上に使いやすい計量器の開発を進めていきます。計量技術の更なる向上に取り組むことで、これからのデジタル社会や脱炭素社会の実現に貢献していきたい」と大岡さんは力強く語った。

事業概要

会社名

宮本スケール

本社

香川県高松市元山町920

電話

087-813-7570

設立

2009年

従業員数

6人

事業内容

計量器の設計、製造、販売

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