事例集

2022.11.24 06:00

3Dプリンティング事業を製造事業の新しい柱にして地元の活性化を目指す ライフドア(富山県)

3Dプリンティング事業を製造事業の新しい柱にして地元の活性化を目指す ライフドア(富山県)
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立山連峰を間近に臨む富山県の立山町に建つ、「ナビオ」という看板を掲げた建物を外から見ただけでは、そこに富山県でも最先端の3Dプリンターを使った製造施設があるとは誰も気づかないだろう。ショッピングセンター退店後の建物に入って、入り口に別の看板を掲げた株式会社ライフドアが始めた事業だ(トップ写真:金属用3Dプリンターや樹脂3Dプリンターなどが並ぶAM室)。

ショッピングモールの看板が残るライフドアの立山事業所

ショッピングモールの看板が残るライフドアの立山事業所

手作業が求められるロボットの組み立てや部品の仕分けを受託

転職をサポートするキャリアサービスから始まって、機械製品の組立を受託して行う製造事業を手掛けているライフドア。「製造ラインで動く工業用のロボットを組み立てています」と、元ショッピングセンターらしく広々とした社屋内に置かれた組み立て前のパーツを指差して、シニア・エグゼクティブの泉昭一郎さんは話す。すぐそばにある作業台の上には組み立て作業に使う幾つもの工具が並べられていて、作業の大変さを物語る。

「工場の製造ラインを自動化するロボットの導入が進んでいますが、そのロボットを作るには、細かな部品を目で見て選び出し、手で組み付ける人間の力が必要なんです」(泉さん)。ライフドアではそうした作業をメーカーなどに代わって行っており、顧客には世界的なロボットメーカーも入っている。他にも、機械などの部品を製造ラインに載せやすいように手作業で仕分けて、送り出す事業も行っている。丁寧な仕事ぶりが評価され、事業は順調に拡大しているという。

将来を見据え、新たに3Dプリンティング事業で製造事業を拡大

ただ、こうした人間の手による組立作業や仕分け作業が、将来において自動化されないとは限らない。そうなる可能性を見越して、自分たちで何か新しい事業を始める必要があると見た代表取締役の藤井一彦氏が、2020年から手掛け始めたのが3Dプリンターを使った「3Dプリンティング事業」だ。ショッピングセンターだった大きな建物の一角を仕切って設置された「AM室」には、現在種類や大きさが異なる8台の3Dプリンターや、3Dスキャナ型三次元測定機などの機器が並んで稼働している。

AM室のプレート

AM室のプレート

3Dプリンターなどが並ぶAM室

3Dプリンターなどが並ぶAM室

3Dプリンターとは何か。コンピューターに入力した3Dデータを元に、溶かした樹脂などを積み上げていって立体物を造形する機器のことだ。360度の全方位から撮影された人物の写真を元にそっくりの人形を作ってくれるサービスを、目にしたことがある人もいるだろう。ライフドアが持つ3Dプリンターでもそうした造形は可能だが、用途は製造事業に関わる本格的なものだ。

樹脂3Dプリンターで作った複雑な形状の品々

樹脂3Dプリンターで作った複雑な形状の品々

例えば治具の自作がある。治具とは加工や組み立て作業を行う時、部品や工具の作業位置を指示・誘導するために用いる器具のことだが、製造するものによって使い勝手を調整する必要があった。治具メーカーに頼んでいたら時間もコストもかかって製造に支障が出る。「3Dプリンターを使って部品を作って改良すれば、すぐに製造現場で使える治具を手に入れられます」(泉さん)。チューブカッターなどをそうやって顧客からの要求に対応した。

3Dスキャナ型三次元測定機で問題点があれば改良。製造・検査がその場で可能に

少量だけ必要な部品や道具も、3Dプリンターなら設計データさえあれば、すぐに使用可能なものを作り出すことができる。試作した上で金型などを作って鋳造したり、切削などの工程を経て生産したりする手間がかからない。「耐久性に不安があるという声も根強いですが、今の3Dプリンティング技術なら性能面で生産されたものに遜色ないものができます」(泉さん)。

金属用3Dプリンターと泉昭一郎さん(左)、岡部経之さん

金属用3Dプリンターと泉昭一郎さん(左)、岡部経之さん

ライフドアでもそうした耐久性や耐摩耗性などの試験を行って、製品の品質を確認している。AM室の中には試験エリアがあって、可動部分に3Dプリンターで作った部品を入れて長時間動かし、削れたり壊れたりしないかを調べている。動かしてから部品を取り出し、3Dスキャナ型三次元測定機にかけ、摩耗の度合いを調べて問題点があれば改良して新しい部品を作り、組み込んで動かして調べるという繰り返し。これを、従来のようにいちいち部品を試作していたら、大変な手間とコストがかかってしまう。

3Dスキャナ型三次元測定機

3Dスキャナ型三次元測定機

3Dプリンティングの技術は、そうした手間やコストを低減させる。これは、自社製品の試作だけでなく、外部から依託を受けて部品や製品を試作したり製造したりする事業にも展開できる。「部品の試作を依頼されたら、すぐに作って渡すことができます。問題点が見つかっても、修正して新しいバージョンをすぐ作れます」(泉さん)。

複数の3Dプリンター利用で製造のコストや納期を大幅に短縮

従来だったら試作の段階でも金型が必要で、その製造にコストも時間もかかっていた。3Dプリンターを使えばそうしたコストを削減でき、納期も大幅に短縮できる。「幾つもの3Dプリンターを並行して動かしながら検討を重ねることで、さらに開発期間を短縮できます」(泉さん)。複数の3Dプリンターを持つライフドアならではの強みといえる。

金属製品の3Dプリンティング事業を強化

2022年になって、こうした3Dプリンティング事業に金属プリンターという新しい“武器”が加わった。金属を削り出していては時間もコストもかかる部品を作り出すことができる。「切削では絶対に作れない、複雑な形状をした部品も作ることができます」と技術部の岡部経之さん。例えば、入り口は四角くなっているのに出口は丸い筒のようなものを作ろうとしても、切削や鋳造では相当な苦労を必要とする。3Dプリンターなら、コンピューター上でモデルを作れば、そのように立体化してくれる。「そういう特殊な形状の部品を作る依頼があって、検討を進めている最中です」(岡部さん)

金属用3Dプリンターで成形した品々

金属用3Dプリンターで成形した品々

金属プリンターで製造した部品は、表面を整えたり焼き入れを行って強度を増したりするような後工程も必要となる。ライフドアでは、それらも含めた工程全体に関するノウハウを蓄積していって、来る本格的な3Dプリンティング時代に備えようとしている。

「3Dプリンター向けのデータを設計し、効率よく3Dプリンターを動かせる人材の確保や育成も進めなくてはなりません」(泉さん)。ただコンピューター上に3Dの立体物を描けるだけでは、実際の使用に問題がない製品を作ることはできない。用途を理解して最適な形状をデザインする必要があるという。「製造現場や金型に関する知識がなければ、設計はできません」(岡部さん)

富山を3Dプリンティングの中心地に

そうしたノウハウの吸収と人材の育成を進めることで、ライフドアは富山のみならず全国でも有数の3Dプリンティング企業を目指す。「富山を3Dプリンティングの中心地にしたいという思いが、藤井社長にはあるようです」(泉さん)。聞けば富山の活性化に並々ならぬ意欲を持っているようだ。

ミーティングルームに置かれた電子黒板は会議や打ち合わせに使われる

ミーティングルームに置かれた電子黒板は会議や打ち合わせに使われる

大学を出て厚生労働省に入った藤井社長は、公共職業安定所長や労働局需給調整事業室長などを歴任する中で、人材と企業との適切なマッチングを行う必要性を感じるようになった。2015年に地元の富山市に人材コンサルティングを行う株式会社ライフドア人材センターを設立。国家資格2級キャリアコンサルティング技能士と社会保険労務士の資格を活かし、仕事を探している人と、人材を探している企業の“心の声”を汲み取って、両者を引き合わせる業務を始めた。

藤井一彦社長

藤井一彦社長

故郷の富山で雇用創出、3Dプリンティングを核に夢のようなファクトリー誕生へ

ほどなくして、集めた人材で製造そのものを請け負って欲しいといった依頼が舞い込むようになり、創業から3年後の2018年に産業用ロボットや工作機械メーカーとして日本でも有数の株式会社不二越から、組立などの業務を請け負うようになった。そこには、藤井社長の「地元の富山に雇用を創出したい」という思いがあったようだ。

その思いをかなえつつ、さらに新しい雇用の創出、そして産業そのものの創出を意図して3Dプリンティング事業へと乗り出した。10年に満たない歴史の中でニーズを探り、それに答えようとして事業を拡大していった先、ライフドアがたどりつくのはどのような業態なのか。それは、3Dプリンティングを核に多彩な部品や製品を自在に作り出す夢のようなファクトリーなのかもしれない。

事業概要

会社名

株式会社ライフドア

本社

富山県富山市稲荷元町二丁目10番5号 スタッフインビルA

電話

076-471-5435

設立

2015年8月20日

従業員数

53人

事業内容

各種造形物製造業/請負事業/労働者派遣事業/有料職業紹介事業/リクルーティング、面接代行サービス

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