製造業(その他)
事例集
2022.10.20 06:00
香川県東かがわ市発の高機能手袋で世界と勝負。ICTでグローバル戦略を強化 ナイガイ(香川県)
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産経ニュース エディトリアルチーム
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地域に根差すグローバル企業としての注目度を高める香川県のスポーツ・ファッション用手袋メーカー、株式会社ナイガイが、ICTを推進することでグローバルビジネスの更なる拡大を図ろうとしている(TOP写真はグローバル戦略を進めるナイガイの海外工場の様子)。
全国の9割を生産する香川県東かがわ市で、付加価値が高い手袋生産に特化 売上高の半分以上を海外で稼ぐ
全国の手袋の9割を生産する香川県東かがわ市内で、ナイガイは創業以来約70年にわたって手袋を設計・開発・生産する技術を蓄積してきた。世界規模で事業を展開し、売上高の半分以上を海外で稼いでいる。デザイン性と機能性の両立が求められる付加価値が高いスポーツ用、ファッション用手袋に経営資源を傾注し、顧客には世界的なスポーツ用品メーカーが名を連ねる。
スポーツ用手袋は国内外の有名プレーヤーが多数愛用
ナイガイが手掛けるスポーツ用手袋の競技分野は野球、ゴルフ、自転車、乗馬など多岐にわたり、スポーツごとに所有しているデザインパターンは数千種類を超える。発注メーカーのブランドで販売されるため社名が表に出ることはないが、ナイガイがカスタマイズした手袋は野球やゴルフの国内外の有名プレーヤーが多数愛用し、高いパフォーマンスの発揮に貢献している。
数十年以上にわたってグローバル戦略を推進
「人間のパフォーマンスを最大化する手袋を作ることを目指しています。装着していてもスマートフォンが使いやすく、抗菌・抗ウィルスの機能を持った手袋を開発するなど、時代のニーズに柔軟に対応することを心掛けています」と田中康一副社長は話す。
ナイガイは1970年代から原料調達や販売市場を海外に求めるグローバル戦略を推進してきた。米国、欧州の市場を開拓し、自社工場をスリランカ、ミャンマーに構え、インドネシアでも提携工場を確保している。本社は経営戦略の策定や手袋の設計・開発に特化し、生産は100%海外で行っている。手袋は設計段階ではCADなどのデジタル技術を活かせるが、実際に生産する段階になると、きめ細やかな裁断や指の形に合わせた縫製など、人間でなければできない工程が増える。海外の工場では現地で採用した工員が、仕様書を基に1万~10万単位で手袋を生産している。
社員構成もグローバル 女性社員が6割を占める
ナイガイ本社の社員数は68人。事業拡大に合わせて営業やICT部門を強化しており、5年前と比較すると社員数が10人増加した。香川県の子育て・介護応援企業の認定を受け、仕事と家庭を両立しやすい環境づくりを進めていることもあって女性社員の定着率が高く、社員の6割を女性が占めている。原料の調達先や顧客に海外の企業が多く、営業、設計部門を中心に英語を使う社員の割合は5割を超える。社員の13%は外国人で、国籍は米国、英国、フランス、ミャンマー、フィリピン、マレーシア、韓国など多岐にわたっている。
「営業部門の大半は英語で業務をしています。入社当初は英語に不慣れな日本人社員でも、Web会議やメールなどで日々英語を使っているうちに自然と実践的に使えるようになっていきます」と田中祐希取締役・経営企画室長は話す。人材募集にあたり、過ごしやすい気候と豊かな自然の中で充実した生活を送りながら世界に挑戦できる職場であることを打ち出している。その効果もあって首都圏など県外からの就職希望者が年々増加しているという。
強みは設計・開発能力 ODMが全生産の9割を占める
グローバル企業としてのナイガイの最大の強みは設計・開発能力だ。発注先の注文に応じて製品のデザイン、設計から製造までを一貫して担うODM(Original Design Manufacturing)が全生産の9割を占める。
世界を相手にビジネスを展開している企業として競争力を保つためには、ODMの機能を強化し続けなければならない。「どんなに良い商品を作っても市場に投入するタイミングがずれると商機を逸してしまいます。品質を更に向上させた上での設計・開発から市場投入までの時間短縮を常に追求しています」と田中康一副社長。
デザイン性、機能性向上と設計から生産までの時間短縮にICTの活用は欠かせない
現在、新商品の設計・開発に要する期間は半年程度だが、取引先の展示会での出展や注文の取りまとめ、受注、原材料の発注、大量生産の準備といったプロセスを含めると市場投入までに1年程度はかかるという。この期間を短縮する上で鍵を握っているのがICTの活用だ。「開発と生産の両方でICTを活用するようにしていきたい。より一層デザイン性、機能性を高めた手袋の開発はもちろん、受注処理や材料の購入、生産の効率化に役立てていきたいと思っています」と田中康一副社長は抱負を述べた。
一連のICT導入をIT戦略課が担う。コロナ禍でのテレワークもVPN導入済みで、問題なく業務遂行
社内の基幹システムの改善・保守、ホームページの管理・更新、BCP(事業継続計画)対策、ICTサービスのアカウントや権限の管理、情報セキュリティ、社内ネットワークやサーバーの管理といった一連の業務は経営企画室IT戦略課が担っている。
2014年からバックアップの安定性やコスト効果を考えたセキュリティソフトを導入し、会社の情報資産を保全している。国内出張や海外出張が多いこともあり、2017年には社外からでも社内の情報にアクセスできるようにVPN(仮想専用通信網)を導入した。そのおかげでコロナ禍においてテレワークをせざるを得ない社員も、問題なく業務を継続できたという。2019年には申請などにデジタルで対応するワークフローを導入するなど、ナイガイのDX推進にIT戦略課は大きな役割を果たしている。
Wi-Fiルーターの増設とインターネット接続環境の強化を行い、Web会議もどこでもストレスなく実施
今年6月には専門業者に依頼して、社内Wi-Fiのアクセスポイントの増設とともにネットワークの強化工事を行った。以前は設計部署やオフィスなど4ヶ所でしかWi-Fiが使えなかったが、材料を保管する倉庫をはじめ社内全域で接続できる環境を整えた。
「これまでWi-Fiをはじめとする社内の通信ネットワークは自社で構築していたのですが、社員が増え続けていることでIPアドレスが不足していました。コロナ禍でWeb会議が増えたこともあって、最近インターネットが以前よりつながりにくいと感じることが多くなっていました。そこで先を見据えて、外部の力も借りてネットワークを強化することにしました。今ではインターネットがスムーズにつながることで仕事上でのストレスが減ったことはもちろん、どこでも接続できるようになったので社内外のWeb会議を機動的に行えるようになりました」とIT戦略課チーフの塚本敬さんは説明した。
IT戦略課の山口芳晴さんは「以前は別の部屋でデータを引き出すために会議をいったん中断しなければならないケースがありました。今は社内のシステムにどこからでもアクセスしてデータをその場ですぐに見られるようになったので、会議の進行がスムーズになるなど様々な面でプラスアルファの効果が生まれています」と話した。
「既存の業務で手間のかかる部分をICTで効率化していきたいと考えています。生み出した時間をより付加価値の高い設計・開発やマーケティング戦略の策定、取引先とのコミュニケーションといった業務に充てることで、会社の成長を加速させていきたい」と田中祐希取締役・経営企画室長は力強く語った。
RFIDタグによる在庫管理など更なるICT化を推進
今後、在庫管理や棚卸などの業務を簡素化するため、情報が書き込まれたRFIDタグを材料に付けて管理していこうとしている。「材料の在庫を保管する部屋にインターネットがつながるようになったことで、RFIDタグを使った管理ができるようになりました」と塚本さんはうれしそうに話した。社内ではRPA(Robotic Process Automation:ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を進めるためのプロジェクトもスタートしており、今後、本社と海外工場のICTを活用した更なる連携やAIの活用も検討している。
独自の経営システムDragon Fly Management(ドラゴンフライ・マネージメント)
ナイガイは自社の経営システムを頭部、細長い腹部、翅(はね)で構成されるトンボに見立てている。頭部にあたる本社が、世界の市場や取引先の動向を複眼的な視点で把握し、様々なところから情報を収集し、戦略を策定する役割を担う。翅に相当する工場などの生産拠点をICTと英語でつなぐことで、トンボが飛ぶ姿のように柔軟に変化に対応できる組織にすることを目指している。この独自の経営システムを田中康則社長は国際的にも通じるようにトンボの英語名を冠した「Dragon Fly Management(ドラゴンフライ・マネージメント)」と表現している。
ICTを推進することで更なる成長を目指すナイガイ。トンボは古代、秋津(あきつ)と呼ばれていた。日本最古の歴史書、古事記で日本が秋津島(あきつしま)と記述されていることからも分かるように、トンボは日本にとって特別な意味を持つ昆虫だ。その名を冠する日本発のナイガイの経営モデルは、日本の中小企業のモデルとしても大きな意味を持つ。
事業概要
本社
香川県東かがわ市松原1095番地
電話
0879-25-1311
設立
1954年2月
従業員数
68人
事業内容
スポーツ手袋、ファッション手袋の企画、生産