事例集

2022.10.07 06:00

保育士の仕事を業務管理システムで効率化、子どもたちと触れあう時間を増やす プログラミング教育も実施 つくし会(群馬県)

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1960年代から1970年代にかけて、日本では子どもの数が急増した。同時に、共働きの家庭も増えて昼間に子どもを預かってもらう施設を求める声も大きくなった。「つくし保育園ができたのも、そうした需要に応えるためでした」と、社会福祉法人つくし会の理事長で、つくし保育園の園長も勤める加賀谷隆真氏は振り返る。

群馬県太田市にある真言宗豊山派の薬王寺本堂に1975年4月、保育所を開いたのが始まりで、10月に園舎を作り翌年に社会福祉法人つくし会として認可を受け、本格的な保育園の運営を開始した。「当初は60人の定員でしたが、だんだんと大きくしていって、今は120人の園児を預かっています」

手書きの書類作りに年度を超えることも

 社会福祉法人つくし会の加賀谷隆真理事長

社会福祉法人つくし会の加賀谷隆真理事長

それだけの人数の面倒を見る保育士の仕事は大変だ。学んだり遊んだりしながら過ごす時間も、園児たちの一人ひとりに気を配る必要がある。その上で、登園記録や保育園での様子を記録する仕事もこなさなくてはならない。「この仕事が、以前は手書きで書類を作らなくてはならなくて、保育士たちの大変な負担となっていました」。帰る時間が遅くなるだけでなく、年度を超えて大型連休あたりまで書類作りを続ける保育士もいたという。

「園児たちのことならいくらでも親身になれても、書類の仕事は苦手という人もいます」。そうした保育士たちの負担を減らし、やる気を引き出すにはどうすればよいかを考えていた時、群馬県が保育園の監査を手書きの書類でなくても認めるようになって、ICT化へと踏み込んだ。2016年のことだ。

保育園向け業務管理システムで作業時間が劇的に改善

保育園向けの業務管理システムは幾つかリリースされていたが、大勢でのデータ共有や、頻繁なバージョンアップへの対応を考えると、クラウド化されたシステムが良いのではと考え「『キッズビュー』を採用しました」。可愛らしさがあるメニュー画面が加賀谷理事長は気になったが、「保育士たちの評判が良かったので選びました」。

もちろん、機能面でも必要な条件を満たしていた。「手始めに登降園システムから使い始めたのですが、手書きで記録していた作業がタッチ操作だけで済むようになって、状況が大きく改善されました」。保育士たちの評価を聞いて、保育園の経営を任される前に13年ほど勤めていた銀行で得た、「業者がお金をかけて作ったシステムは、一通り絶対に使うべき」という教訓のもと、保育士たちに「すべての機能を使うように」と指示を出した。

つくし保育園の渡辺成美先生

つくし保育園の渡辺成美先生

園児たち一人ひとりの毎日の成長記録を作ることも、全体の指導計画や行事計画を作ることも可能。パソコンだけでなくタブレットにも対応していて、保育士たちはケースに入れたタブレットを肩から提げて持ち歩き、その場その場で開いてチェックを行っている。2016年末の導入以前からつくし保育園で働いている保育士の渡辺成美さんも、「何時間とは言えないくらい効率化されました」と便利さを訴える。「園児を帰してからまとめて入力するのではなく、隙間の時間に作業ができるのも嬉しいです」(渡辺さん)

情報の共有化やセキュリティの確保をクラウドで実現

同じシステムで保育士の勤怠管理も行っていて、勤務状況を取りまとめる事務方の作業量も大きく改善されたというから、まさに至れり尽くせりだ。つくし保育園ではこれとは別に、クラウド型のビジネスチャットも活用していて、保育士や職員、そして保護者との間の情報共有も行っている。「連絡や伝達事項が瞬時に共有されることが、保護者や職員の安心につながっているようです」と加賀谷理事長。気になるのがセキュリティだが、「タブレットはパスワードと指紋認証でしか開けないようになっていますし、クラウドですので端末にデータも残らず自分たちでサーバーを立てるより安全です」。

パソコンに向かうつくし会の加賀谷理事長

パソコンに向かうつくし会の加賀谷理事長

つくし会では、太田市の他に東京都足立区にも栗原つくし保育園を運営している。「1法人1施設の運営ではやはり将来的に不安があり、出来るならもう1ヶ所増やしたいと探していました。太田市だけでなく神奈川などいろいろ当たっていた中で、足立区立保育園の民営化があって手を挙げ、2011年から運営を始めました」。太田市と足立区は東武鉄道でつながっており車での移動も可能な距離だが、離れていることには変わりがなく毎日のようには顔を出せない。父親に代わってこなすようになった、僧侶としての仕事も増えて一段と忙しさが増している。それでも、クラウド上で園児たちの状態や運営の状況に触れられるため、業務に支障はないようだ。

プログラミング教育や英語教育で他園と差別化

そんなつくし保育園では、未来のICT産業を担うことになるかもしれない人材を、保育園児の時から育てている。月に2回、ニュージーランド発のオンラインプログラミング教材を使って、ネイティブ講師が園児たちにコンピューターのプログラミングとは何かを教えている。これも含めると英語教育は月に3回行っている。将来必ず役立つという思いから行っていることだが、一方で「親が保育園を選ぶ際の、選択肢の一つにもなります」と、アピールポイントになっていることも明かす。

少子化が進む一方で、企業による保育園経営も盛んになって厳しさを増す業界で、生き残るためにはあらゆる手を打つ必要がある。銀行時代に育んだ経営感覚がそうしたところに生きている。この4月には、支払いのキャッシュレス化も行って、職員が現金を扱わずに済むようにした。集金の時間がゼロになり、保護者からも喜ばれたというから、こちらも競争力アップにつながる改善だ。

コロナ禍で園児たちが登園できなくなった時期には、通園者向けの動画配信チャンネルを開いて「手遊びや体操、ダンス、歌などを保育士の先生が演じて、いっしょにやってみてねと呼びかける動画を作って配信しました」。限定配信のみで発信していたが、それでもチャンネル総再生回数1万5000回を超えていて、好評だったことを表している。

つくし会では保育園とは別に、小学校に通う児童たちが立ち寄り、親が家に戻るまでを過ごす放課後児童クラブも太田市内の2ヶ所で3施設運営している。こちらは勤めている職員に高齢者が多く、電子機器や情報システムの扱いに慣れていないこともあって、今はICT化を見送っている。すべてを同じ規準で効率化するのではなく、必要とされる場所に必要な機能を提供することで、運営者も働き手もハッピーになれる道を探る。そこにICT化を成功させる秘訣がありそうだ。

もうひとつ、「できるだけアンテナを高く張って、経験の中で変化を想像しながら対応していく必要があります」とも。認定こども園は2023年度中に内閣府から子ども家庭庁へ、保育園も厚生労働省から子ども家庭庁へと所管が移されることになっている。「幼稚園は文部科学省のままですが、生き残るために認定子ども園に変わっていくのではないかと思われます」。認定子ども園と保育園が子ども家庭庁の管轄下で、事実上一元化される状況の中で特色を出し、競争を勝ち抜いていくために必要なことは何かを、今から考え始めている。

ゼロをイチ『1』にした成果を見てもらって他園のICT化を手助け

ただし、独り占めにする考えはない。「同じような悩みを抱えている保育園は、一度見学に来て欲しいですね」。去年の11月にも、ある園で園児管理ソフトがうまく使いこなせていないという話があって、主任と若手保育士数名がつくし保育園に見学に来て学んでいった。その保育園では、「見学に来てくれた若い職員が、戻って園長に別の保育管理システムの導入を訴えたんです」。その園では保育システムの入替えは2年後のつもりであったが、見学に来た保育士らが「自分達で責任持ってやるので導入してほしい」と園長に直訴して、2ヶ月で稼働まで持って行ったという。

「つくし保育園では長い時間をかけ、たくさんのトライ・アンド・エラーを繰り返してゼロをイチ『1』にしました。その『1』を見れば、他のところでも短時間で『1』に近いところまでICT化できると実感しました」。誰も歩いたことのない未到の荒野を進むのは大変だが、誰かが歩かなければいつまでも荒野のまま。そこを率先して進み、拓いてきたつくし保育園がこれからの保育園経営にどんな『1』を、そして『10』や『100』にまで膨らんだ成果を見せてくれるのかが楽しみだ。

事業概要

法人名

社会福祉法人つくし会

本社

群馬県太田市東別所町410

電話

0276-45-0300

設立

1976年2月26日

従業員数

94名(取材時)

事業内容

保育園運営/放課後児童クラブ運営

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