事例集

2022.10.31 06:00

瀕死の会社を「必死のコミュニケーション」で立て直し、光コネクタ部品で世界第2位へ。グループウェアとテレワークが下支え 白山(石川県)

瀕死の会社を「必死のコミュニケーション」で立て直し、光コネクタ部品で世界第2位へ。グループウェアとテレワークが下支え 白山(石川県)
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石川県金沢市に本社を置く株式会社白山は、主力製品が成長市場で世界シェア2位を誇るという小粒ながらピリリと辛い山椒のような会社だ。ICT、IoTの導入にも熱心で、コロナ禍から工場の従業員を守るため、全社的にテレワークを定着化。2022年度のテレワーク推進賞(一般社団法人日本テレワーク協会主催)を受賞する栄誉に輝くとともに、海外市場の情報収集力を飛躍的に向上させた。(TOP写真は東京本社の玄関に立つ米川達也代表取締役社長)

データセンター向け光コネクタ部品で世界シェア2位

スマートフォンとSNSの普及により今や生活に欠くことができないインターネット、さらには5G(第5世代移動通信システム)の普及やあらゆるモノがネットにつながるIoTの進展などを背景に、サーバーなどの情報通信機器を集積化して設置・保管・運用する「データセンター」が北米、欧州、アジアを中心に次々と構築されている。日本政策投資銀行の調べによると、2021年時点で8,153棟あり、うち33.2%を米国が占める。今後も企業によるクラウドサービスやビッグデータの活用が本格化するため、データセンターに対する需要は高まる一方で、世界市場規模は2020年の推定499億米ドルから2028年には1,125億米ドルへと年率11%で拡大すると予測している。ただ、これはかなり慎重な予測で、調査機関によっては同15~25%の成長を予測しているところもある。

この成長著しいデータセンター市場の一角に食い込んでいるのが白山だ。「MTフェルール」と呼ばれる光ケーブル接続端子(光コネクタ)部品がサーバー間の光配線用などに使われており、米企業に次いで世界2位のシェアを誇る。米川達也代表取締役社長は「(MTフェルールには)光ファイバーを通す穴の数が12、24、36などがありますが、1つの穴の位置は1/10ミクロン(1万分の1ミリ)オーダーの精度が要求されます。この精度を実現できるメーカーは世界にもそうはありません」と高シェアの理由を明かす。MTフェルールは樹脂でできているので、高い精度を実現するためには樹脂成形技術そのものの精度の高さに加え、金型を調整する時の能力がモノを言うのだという。「そこはもう職人芸の領域です」(米川社長)。

世界2位のシェアを誇るMTフェルール

世界2位のシェアを誇るMTフェルール

NTTのIOWNに参画し、世界的企業と肩を並べる

光コネクタの生産で培った高い技術力を買われて、2021年にはNTTが6Gを視野に推進する次世代情報通信基盤「IOWN(アイオン)」の研究開発に参画した。IOWNは、光技術を使って現在の100分の1の消費電力と125倍の伝送容量を実現することを目指しており、ソニー、NEC、富士通など日本の大企業だけでなく米インテルやフィンランドの通信設備大手ノキアなど世界中の一流企業が名を連ねるプロジェクトだ。

サーバーなどに組み込まれるICなどの電気回路は発熱するので、冷却する必要がある。コストの5割程度が冷却のための電気代だという。現在はサーバーの間だけを光ケーブルで接続しているが、電気回路の中まで可能な限り光に置き換えていけば、そのぶん消費電力も節約できる。この電気を光に置き換えていく技術を「光電融合」と呼び、米川社長はポストMTフェルールとなる次世代主力製品の要になる技術とみている。IOWNの場では同じ課題を抱えるグローバルな企業と情報交換ができ、同社の研究開発力向上に大いに役立っているという。

10年前は債務超過で瀕死の状態

今でこそ順風満帆の白山だが、NTT出身の米川氏が副社長として同社に迎えられた2012年当時は存亡の危機にあった。2014年の社長就任を控えてメインバンクに挨拶に行き、「もう私どもの手に負えない」と言われて初めて、瀕死状態の会社に来たことを知る。中小企業再生支援協議会の支援を仰いで、デューデリジェンス(資産査定)をすると、年間売上高と同等の借金を抱えていて、その期の赤字額もほぼ売上高に匹敵する数字。固定資産などを差し引いた債務超過額は売上高の6割以上にのぼった。「結局、10年ぐらい前から粉飾決算をしていたんですね。それが特損としていっぺんに処理された」(米川社長)。

再建のためリストラするも全員就職先あっせん、成長部門に全精力を注ぐ

米川社長は経営再建のために大ナタを振るう。埼玉県飯能市にあった主力工場を売却し、生産部門を石川工場(石川県志賀町)に集約。約200人の従業員のうち約80人をリストラした。ただ、米川社長自ら辞めてもらう人の再就職先の面接に同行して、その人を売り込むなど再就職支援に全力を注いだ結果、ほぼ全員が再就職できたという。

事業部門も成長部門と成熟部門を峻別。夜間電力利用の蓄熱暖房機事業から撤退する一方、光コネクタ部品事業の育成に注力した。といっても、当時の光コネクタ部品の売り上げは1.5億円程度。創業当初から手掛けている保安器などのNTT関連製品や雷防護製品、無停電電源装置、レールガス圧接機といった製品が中心で、光コネクタ関連の仕事に従事している人は10人程度だった。それが今や売り上げ約20億円と全売上高の6割を占める主力製品に成長した。絶体絶命の苦境の中で「MTフェルールを伸ばすしか生きる道はない」と判断した米川社長の先見の明には驚くほかない。

「必死のコミュニケーション」で従業員の心を一つにして再建、遠隔地や工場とはテレビ会議でコミュニケーション

企業の構造改革の成否は従業員の心を一つにできるかどうかにかかる。米川社長は頻繁に全従業員集会を開き、「必死のコミュニケーション」を図った。この「必死のコミュニケーション」という言葉は米川社長の経営信条の中でも最も大事にしているもので、「必死」には自分が発言すること以上に相手の話を聞くという意味が込められているのだという。「コミュニケーションというのは夫婦の間ですら自然にはできません。必死にやらなければだめです」(米川社長)。

石川県の金沢や能登、東京や埼玉に拠点が分散している同社のこと、全従業員集会といっても、いちいち従業員を一ヶ所に集めていたわけではない。2014年にテレビ会議システムを導入し、工場内の様子を本社で見られるようにするととともに社内の会議に活用した。資金繰りに苦しむ中で、「社内のコミュニケーションのための投資だけはしよう」(米川社長)と考えたのだ。

人事制度の専門家を招いて、従来の年功序列型の人事制度も一新。勤務年数や性別、年齢など「今さら努力しても変えようがない属性には依存しない制度」を作った。これにより、中途採用者にも能力に応じた待遇が可能になるなど人事の自由度が大きく増したという。

テレビ会議システムとグループウェアを融合し、「工場を守れ」と号令、コロナ禍を乗り切る。次の展開は東京オフィスの多目的活用

そうした中途採用者の一人の提案により、光コネクタ事業が軌道に乗ってきた2019年12月にはMicrosoft365のTeamsを導入。従来のテレビ会議システムを変更するとともに、それまで従業員各自がバラバラに使っていた各種アプリケーションソフトをグループウェアに統合した。翌月には日本で初めて新型コロナウイルス感染者が発生。「工場を感染から守れ」という米川社長の大号令のもと、Teamsを活用したテレワークを全社で本格的に展開するようになった。東京本社は、オフィスをフリーアドレスに変更し、紙の書類をほぼ全てなくした。また全員在宅でのテレワークも可能にし、池袋駅から数分の東京本社のオフィスを今後は、イベント会場として使用することも考えている。

テレワークの定着で、フリーアドレスの東京本社で執務する人は在籍者数の半分以下

テレワークの定着で、フリーアドレスの東京本社で執務する人は在籍者数の半分以下

テレワークできない工場の従業員、社会を支えるエッセンシャルワーカーとして尊重し社内の信頼関係を構築

製造業でテレワーク導入に失敗したり、うまく活用できなかったりするのはテレワークが絶対不可能な人が一定数いるからだ。白山でも当初は、同じ工場内にいてもテレワークができる間接部門とテレワークができない生産部門にいる人との間に微妙な空気が流れたという。だが、生産部門の従業員を同社にとってのエッセンシャルワーカーと位置付けて尊重するとともに、間接部門は生産部門を守るためにテレワークをしているのだという意識を共有、互いにリスペクトしあう関係を構築することで成功した。

コロナ禍のおかげでバーチャル工場見学が定着。取引先や学生の会社説明も実施

感染症対策の面もあり、白山では工場に関係者以外の人を入れないことを徹底している。メインバンクの視察の要請すら断り、代わりに工場長がYouTuberのごとく現場をカメラで中継しながら説明する映像を見てもらう「バーチャル工場見学」で納得してもらっているという。

就職説明会やインターンシップにもバーチャル工場見学やTeamsによるテレビ会議を活用。MTフェルールという有望製品を持ち、研究開発に力を入れている会社という認識が広まるにつれ、地元の人気企業になり、従来はなかった地元有名大学の学生ら新卒採用の量も質も向上した。

グループウェアを使わざるを得ない状況になり、想定以上の使い方も生まれた

Microsoft365やTeamsの使い方に慣れるまで、不平不満を漏らす従業員もいた。だが、まずは自分でもパソコン上のどこに保存したかわからなくなっているファイルをグループウェア上で共有することで、その便利さを次第に認識。また、創立記念日などのイベントとして、Teamsを使って全従業員でビンゴゲームを楽しんだりすることで、従業員みんなが使いこなせるようになった。社内の稟議もTeamsのチャット機能を使って行うことにした結果、課長、部長、社長と決裁に至るプロセスが関係者にすべてわかるので、「誰と誰が揉めているといった情緒的なこともわかり、決裁に人間味が出るようになった」(米川社長)という副次的効果もあるという。

Teamsを使って東京本社と金沢本社でテレビ会議

Teamsを使って東京本社と金沢本社でテレビ会議

東京本社には従業員がYouTubeなどを使って情報発信するためのスタジオも

東京本社には従業員がYouTubeなどを使って情報発信するためのスタジオも

海外の拠点と定期的にテレビ会議を開催、情報の量と質が拡大

何より、営業で活用することによるメリットが大きい。Teams導入以前は、光コネクタの市場動向など海外の情報は、カウンターパートの東京オフィスを訪ねて、そのオフィスで働いている人が収集したものをもらっていた。その他は何年かに一度、海外から東京本社に来た担当者をつかまえたり、こちらから海外の拠点を訪ねたりする程度だった。ところが今はTeamsのテレビ会議を通じて、米国のシリコンバレーをはじめボストン、ニューヨーク、イギリス、中国、香港の各拠点の幹部と定期的に一堂に会して意見交換している。これにより、「生の営業情報がわかるようになり、情報量が増えるだけでなく、その情報に即時に対応する機動性も出てきた」(米川社長)という。

生産現場を見える化するシステムも構築

ICT、IoTの導入事例としては、Teamsに先駆け、2018年4月にMTフェルールの製造部門に構築したシステムも注目される。射出成形機や加工機、ロボットから得られるセンサーなどの信号に加え、それまで人の目でチェックしていた部分にもセンサーを取り付けて、そこから得られる情報をインターネットを介して工場内の大型モニターに表示するとともに、スマートフォンでも見られるようにした。設備のトラブルが発生した場合に、従来は原因を突き止めるのに時間も労力も大量に費やしたが、今は何の機械の何号機がどのようなエラーを起こしたのかが瞬時にわかるため、射出成形機などの稼働率が大幅に改善。生産能力を向上させるとともに、従業員の作業時間にも余裕ができ、社内教育や職場コミュニケーションに充てる時間を増やせたという。米川社長は、現場で働いている人たちの映像を見るよりも「こうした抽象的な情報のほうが、彼らが今何をしているかが手をとるようにわかる」という。

射出成形機や加工機などの稼働状況がひと目でわかるモニター。スマホでもチェックできる

射出成形機や加工機などの稼働状況がひと目でわかるモニター。スマホでもチェックできる

技術の承継が課題。世界一良い会社目指す

ICT、IoTの活用を進めるうえで、白山にとっての今後の課題はDX(デジタルトランスフォーメーション)の領域にチャレンジしていくことだ。米川社長はまず、AIを活用した検査工程の自動化を念頭に置いている。その次にくるのが技術の承継だ。米川社長は光関連事業の技術力を磨くのに貪欲で、昨年には光コネクタの世界では神様と呼ばれている79歳の技術者をスカウトした。「IOWN関係の仕事にもつながる」(米川社長)その神様の技術をAIを使って同社にきっちりと移植したい考えだ。

最後に、米川社長に白山の目標を問うと、「MTフェルールの世界シェア第1位を目指します。そして、世界一良い会社にします」と力強く答えてくれた。

主力生産拠点の石川工場(石川県志賀町)

主力生産拠点の石川工場(石川県志賀町)

※Microsoft 365、Microsoft Teams は、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。

会社概要

会社名

株式会社白山

本社

石川県金沢市鞍月2-2 石川県繊維会館1F

電話

076-255-2875

設立

1947年10月15日

従業員数

138人(2022年4月時点)

事業内容

通信回線の布設・接続用品等の開発・製造・販売/光通信関連製品、雷防護用品の開発・製造・販売/熱可塑性/熱硬化性樹脂成形品の製造・販売/レールガス圧接機等の金属接合機械の開発・製造

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