事例集

2022.09.29 06:00

介護施設での「環境フォーカス経営」、それは利用者と家族そして職員の笑顔をつなぐこと 湖楓(滋賀県)

介護施設での「環境フォーカス経営」、それは利用者と家族そして職員の笑顔をつなぐこと 湖楓(滋賀県)
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産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

滋賀県草津市でサービス付高齢者向け住宅とデイサービス、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業を展開する株式会社湖楓は、利用者の方々やその家族が心豊かな生活を実感できるケアを提供するため、また職員一人ひとりが気持ちよく働けるために、空間的・人的・業務的環境を重視した「環境フォーカス経営」をテーマに、ICTの活用を強力に推進している。

 佐藤亮社長

佐藤亮社長

絵本の世界にいるような居住空間とデイサービスエリア。テーマはバンクーバーとカリフォルニア

十余年の海外生活を経験した佐藤亮社長は、一番可愛がってくれた祖父母の病気を機に帰国し、心療内科を営んでいた父の助言もあり、2011年11月に介護事業を創業。2014年に「かえで1号館」を開設した。
認知症や要介護になった高齢者に心安らぐ住環境と日々の安心を提供するために、当初は佐藤社長一人で様々なケア機器や道具を試したり家電量販店に走ったりと、試行錯誤と反省の毎日を過ごした。
まだ十分なスタッフも確保できない中、全てを任せてくれた父の期待に応えようと、地域の高齢者の豊かな老後を実現するために奔走した日々は、北米で国際環境調査という研究に携わってきた佐藤社長にとって、新たな環境づくりとの出会いでもあった。
 社名の一部にもなっている「かえで」の名称は、社長がまだ小学生の頃、研究医としてカナダに渡った父と一緒に過ごしたバンクーバーのメイプルにちなんだとのこと。「かえで1号館」はインテリアにも海辺の街として知られるバンクーバーをイメージした、まるで絵本の世界にいるような明るく華やかな空間。利用者が陽気に過ごせる環境を提供したいとの思いで造った。

かえで1号館事務所付近

かえで1号館事務所付近

かえで1号館食堂

かえで1号館食堂

かえで1号館デッキ

かえで1号館デッキ

かえで2号館は、ハワイやカルフォルニアの海辺の街がテーマ

また、2019年4月にオープンした「かえで2号館」は、佐藤社長が学生時代を過ごしたハワイやカリフォルニアの海辺の街がテーマの施設。リゾート感溢れる内装や飾り付けは、湖畔の街にふさわしい開放感と安らぎに満ちている。

かえで2号館エントランス付近

かえで2号館エントランス付近

2号館2階廊下を歩く利用者と介護スタッフ

2号館2階廊下を歩く利用者と介護スタッフ

かえで2号館食堂

かえで2号館食堂

1号館と2号館の間に咲く芝桜

1号館と2号館の間に咲く芝桜

かえで1号館(上)と2号館(下)

かえで1号館(上)と2号館(下)

「環境フォーカス経営」を重視した風通しのいい職場づくりに力を入れる

佐藤社長の事業推進のベースには「環境フォーカス経営」という理念がある。
利用者とその家族がゆとりを持って生き生きと暮らすためには、利用者の生活空間や利用者と職員の人間関係という環境づくりはもちろんのこと、介護や看護の手を差し伸べる職員たちが旺盛な意欲と喜びを持って働くことのできる労働環境をどう整えるかにも大きくかかっている。言い換えれば職員一人ひとりが納得して働くことのできる風通しのいい職場づくりが全ての環境を左右する要因でもあるのだ。
それを可能にしているのがトップダウンでもボトムアップでもない「ミドルアップダウン」という社長と職員のコミュニケーションの方法。関わる人全ての「環境」に焦点を当てる佐藤社長独特の視点だ。

「ミドルアップダウン」という考え方でミドルクラスの職員を中心に推進

ともすると経営者が日常の介護に口を出し過ぎて混乱をもたらしたり、逆に職員の声を聞かずに改革を断行したりといったことが起こりやすい介護の現場を見てきた佐藤社長は、ミドルアップダウンという独自の考え方を実行に移してきた。

スタッフ研修の様子

スタッフ研修の様子

事業分野や事業規模の拡大に伴い、2014年に導入した介護業務改善システムを皮切りに、 業務のICT化を進める一方、各事業の現場を最も熟知しているミドルクラスの職員と定期的な会合の場を設け、円卓を囲みながら遠慮のない討議を重ねてきた。その結果、職員たちはこれまで以上に現場の問題を把握しようという意欲が増し、同時に経営者と同じ視点で現場を俯瞰することも身につけていったという。その背景には、決算書や経営に関わる内部情報を余すことなく彼らに公開した佐藤社長の英断と職員に対する信頼が大きな要因だったことは間違いない。

グループウェアの導入で部門間の情報を共有する 無駄な業務が激減

創業から10年余り、地域の高齢者福祉のために必死に走った結果、居住棟やデイサービスの空間も2ヶ所に増え、訪問介護や訪問看護、居宅介護支援事業なども次々と広がり、いつの間にか職員もパートを含め80名を超えるまでになっていた。

そうなると2ヶ所に分かれた部署同士の連絡や移動と、内部の部門間の業務連携やシフト管理にも煩雑さが目立つようになってきた。いくらミドルアップダウンとはいえ、事業が拡大すれば中間管理職の仕事は目に見えて複雑になり重複する作業も増えていく。そんな時期に導入したのが、クラウドを利用したグループウェアだった。

グループウェア上では、部門ごとに、あるいは利用者別に様々な共有情報がオンタイムで入力され、職員がどこにいても状況が把握できるようになり、社長との会議でも研修時にも事前に資料を配布して準備したり、会議の場でもディスプレイや各自のパソコンに共有画面を出すことで、ペーパーレスで打合せができるようになった。メールのやり取りもスムーズになり、グループウェア内で常に各自が担当する業務情報を更新しているので、別の場所で働いているメンバーの進捗も共有され、報告漏れや作業の重複など業務の無駄が激減したという。
今ではグループウェアが湖楓の重要なデジタルプラットフォームになっている。

グループウェアで活用される配車予約表

グループウェアで活用される配車予約表

例えば職員が共同で利用している社用車の予約や空き情報も、以前は、紙の大まかな予定表を確認しながら、個別に連絡を取り合って融通していた。しかしタイムリーに更新される情報を見ることで、日付ごとに30分単位で確認できるため、どの車がいつ使えるのかが瞬時に分かり、利用の偏りや無駄がなくなったという。これも風通しのいい労働環境を作る重要なツールの一つだ。

ICT活用で利用者のバイタル情報把握による迅速サポートと生活改善を目指す

グループウェアの普及により業務処理のスピードと正確性が増し様々な手間が軽減されたことは、職員にとっても利用者にとっても良い流れとなり、ケアの質もさらに向上してきた。しかし佐藤社長はまだその先を見つめている。

それは利用者一人ひとりのバイタル情報とケアや食事の内容、機能訓練のあり方などを総合的に連動させるためのデジタルソリューションだ。例えばエアコンとセンサーによる見守りサポートや、睡眠の質や起床・就寝情報を日常の介護プランに活用できるベッドセンサー等も実験導入しながら、より高度なケアと職員の労働環境改善に新たな進化を図ろうとしている。

徹底したペーパーレス、自動車利用減など、SDGsにつながる無駄の削減も進める

介護業務改善システム導入時から活用しているクラウドの情報共有機能を活かし、徹底したペーパーレス化や決済手順の簡略化、連絡相談のオンライン化で、職員の無駄な移動や燃料の浪費を減らし、SDGsへの長期的な取り組みも見据える。

様々な事業の生産性向上やSDGsの推進にICTがもたらす恩恵は決して小さなものではない。そう語る佐藤社長の眼差しの奥には、「環境」へフォーカスするという強い想いが、この事業の根底を支える原動力になっていると確信した。

デイサービスエリア

デイサービスエリア

かえで2号館の居室インテリア

かえで2号館の居室インテリア

全ての職員がいつでも見られるデジタルサイネージを各所に設置、情報を見ながら様々なアクションと感動が生まれる

訪問介護や看護に出かける職員や「かえで」の居室やデイサービスで利用者に接する職員が、いつでも情報に触れられるデジタルサイネージを1号館と2号館の事務所壁面に設置。利用者の誕生日や催事の告知から職員への伝達事項まで、総務スタッフが日々更新しながらパートタイマーを含めた全従業員に伝わるように工夫を凝らして公開している。利用者の誕生日に担当職員以外のスタッフから「〇〇さんおめでとう」と言われると利用者も思わず笑顔になる。

利用者の誕生日の情報が分かる

利用者の誕生日の情報が分かる

今ではかえで棟内部の利用を上回る数となっている外部の利用者への滞りないサポートとケアは、地域への貢献を第一義とする湖楓の存在意義でもある。そのため毎日、訪問業務へ出かけ、「かえで」に帰ってくることになる職員たちも多い。その人たちが情報ギャップに悩まされることないようにという配慮だ。デジタルサイネージの役割は大きくなっている。

デジタルサイネージによる熱中症予防情報

デジタルサイネージによる熱中症予防情報

環境フォーカス経営+ICT導入推進で、介護の現場そのものへの社会の見方が変わることを目指す

3K(きつい、汚い、危険)の代表のように言われる介護の現場を未来型のビジネスにするためには、業務のICT化が不可欠だと佐藤社長は断言する。「ICTだけは一番先を見ている私がリーダーシップを発揮しないと、健全なミドルアップダウンは行えませんね」という笑顔の奥には決然とした意志が見える。

早くからデジタル化に取り組んできたおかげで、コロナ禍の波が次々と押し寄せる中でも感染を抑えられたと皆が実感できた「かえで」の現場。介護業務が慢性的に抱えてきた非効率や重労働というトラウマのような業界常識を覆していくために、利用者のQOLを中心に有機的に業務を連係携させるICTの活用が、この事業を推進する動力でもあり、利用者とその家族、職員全ての笑顔を引き寄せる鍵となる重要な解決策であることは間違いない。

介護の現場に対する社会の目を変えていきたいという佐藤社長の想いに触れ、ふと植木職人から聞いた「かえでの葉があんな形しとんのは、風を受け流すためなんや」という言葉を思い出した。
文字通りあらゆる方向から吹いてくる強い風をさらりとかわし、風通しの良い環境づくりを実践している「かえで」の現場は、介護の未来を先取りする地域貢献の新たなビジネスモデルと言えるのではないか。

会社概要

会社名

株式会社湖楓

本社

滋賀県草津市追分南一丁目7番3号

電話

077-566-7532

設立

2011年11月

従業員数

87名

事業内容

サービス付き高齢者向け住宅、デイサービス、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援

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