事例集

2022.08.31 06:00

社内のICT化はやりやすいところから。まず、給与明細のデジタル化で組織内に下地をつくった 文教コーポレーション(福井県)

社内のICT化はやりやすいところから。まず、給与明細のデジタル化で組織内に下地をつくった 文教コーポレーション(福井県)
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2年前に就任したIT業界出身の青年社長が、アナログからデジタルへの大胆な働き方改革を進めている。生産性の低い業務をデジタルに置き換えることで、コンサルティングなど人間だからこそできる付加価値の高い業務に時間を振り向けようとしている。

医療と教育の最前線を支える

福井県福井市に本社を置く株式会社文教コーポレーションは、病院や大学などの教育機関の経営コンサルティングと運営サポートを主力事業とする企業だ。医療事務、減菌洗浄、院内搬送から施設の売店・レストラン・カフェの運営、清掃、駐車場管理まで、取り組んでいる業務内容は幅広い。

「地域の医療と教育の最前線で働く人たちが、本業に集中できるように支えることが私たちの使命と思っています。施設の運営を一気通貫でサポートできることを強みにしています。時代の変化に応じた様々なサービスを提供できるように社員全員で日々、研鑽を続けています」。2年前に、28歳で父親から事業を受け継いだ三田村耕平社長は、このように文教コーポレーションの特色を説明した。人と人のつながりをなによりも大切にしており、ロゴマークは人と人がつながり、お互いの手を取り合う「信頼」と「絆」を表現しているという。

文教コーポレーションのロゴマーク

文教コーポレーションのロゴマーク

子育て支援企業を対象にした「くるみん」など様々な認定を取得している。

子育て支援企業を対象にした「くるみん」など様々な認定を取得している。

従業員数は420人。アルバイトの学生から高齢者まで年齢層は幅広く、女性が7割を占める。働きやすい環境を整えた上で、厚生労働省が定める女性活躍推進法に基づく「えるぼし」、子育てサポート企業を対象にした「くるみん」をはじめ、国、地方自治体の様々な認定を取得している。そのほか、福井県の「社員ファースト企業宣言」、「ふくい結婚応援企業」の取り組みや、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が定める情報セキュリティ対策の取り組みも進めている。

青年社長はIT業界出身

三田村社長が、文教コーポレーションに入社したのは2018年。それまでは東京都のIT企業でシステムエンジニアとして勤務していた。仕事は楽しく、やりがいを感じていたが、故郷の福井県に戻ることを決めた背景には、文教コーポレーションへの入社を勧める父親の思いに応えたいとの思いがあった。会社の事業を通じて福井県の活性化に貢献できることにも大きな魅力を感じたという。

三田村耕平社長

三田村耕平社長

「入社して、医療や教育の現場を支えることにやりがいと使命感を持ちながら、人と人のコミュニケーションを大事にする真面目な人が多いことに感銘を受けました。まさに人材こそが、文教コーポレーションの競争力の源であることを実感しました」と三田村社長は振り返った。

東京から福井にUターンした当初、前職とのICT環境の違いに少し戸惑いを感じたことも、今では懐かしい思い出になっているという。「東京で仕事をしていた時はペーパーレスが当たり前でしたので、机の上に紙の書類が山積みになっている状態やペーパー中心の仕事の進め方に、当初カルチャーショックを受けたのは事実です。社内独特の言い回しもあって勘違いすることもありました」と三田村社長。アナログ、デジタルの両面から総合的に会社を分析した結果、デジタルを活用して生産性を高めれば会社の良い部分を残した上で大きく成長できることを確信したという。だが、デジタル導入を急ぐことはしなかった。従業員にとってデジタル化が本当にプラスになるのかを慎重に検討したいと思ったからだ。

コロナ禍の真っただ中 社長に就任

社長に就任したのは2020年6月。コロナ禍で日本全体が打撃を受け、大きな不安が渦巻いている時期だった。コロナ対策の最前線となる医療現場と密接にかかわっている文教コーポレーションも大きな影響を受けていた。三田村社長の就任は、先の見えない時代だからこそ、若いトップの下、デジタルを軸にした企業として変革していく攻めの姿勢を内外に示すものだった。

三田村社長が入社してからの2年間、東京などからのUターンも含めて新しい人材が文教コーポレーションに加わり、会社は変化し始めていた。三田村社長の就任を待っていたかのように、ペーパー中心の業務運営を続けていることに対して従業員の間から改革を求める声が上がったという。

「三田村社長が入社してから、これまでの仕事の進め方でこれからの時代に対応していけるのかを一人ひとりが考えるようになりました。その中で、ICTを活用すれば、もっと仕事をしやすくなるのではないかという雰囲気が徐々に高まってきたんです」と社長室の上原知愛さんは振り返る。

社長室の上原知愛さん

社長室の上原知愛さん

会社の改革は経営陣だけではできない。ボトムアップを重視

「会社の改革は経営陣だけではできないと考えています。プレッシャーを感じながら取り組んできた2年間の成果が徐々に実を結び、従業員が自分たちで会社を変えていくには何が必要かを考えて、提案してくれるようになりました。本格的にデジタル化に踏み出す上での大きな励みになりました」と三田村社長は満足そうに話した。

ファーストステップとして給与明細の配布をデジタル化

文教コーポレーションが業務のデジタル化のファーストステップとして取り組んだのが、クラウドネットワークの整備と給与明細のデジタル化だった。

給与明細を封書にして従業員に配布する作業はアナログ仕事の象徴といえるものだった。

以前は毎月、手書きの出勤簿を基にエクセルに入力した給与のデータを、給与計算システムに取り込み、各従業員の給与明細を紙に印刷。その後、本社から都道府県をまたいで各営業所に、印刷した給与明細を郵送し、各営業所のトップが給与明細を封筒に封入してそれぞれの従業員に配布していた。出先の病院、学校で勤務している従業員に渡すために、わざわざ出向く必要もあった。毎月、給与の入力作業を始めてから配り終えるまで1週間ほどかかっていたという。

スマートフォンから給与システムにアクセスする様子

スマートフォンから給与システムにアクセスする様子

スマートフォンで給与明細を確認 デジタル化は便利という意識が浸透

クラウド化してからは、給与支払日に、それぞれの従業員が、スマートフォンなどの端末から給与のデータが入っているシステムにアクセスして、確認するだけで済むようになった。アクセスの際は、社員番号とパスワードを使うのでセキュリティも確保されている。「給与明細のデジタル化は、これから会社を変えていく上でのエポックメイキングになったように思います。お客様との打ち合わせやニーズの聞き取り、従業員間でのコミュニケーションの時間が増えるといったプラスの効果が生まれています。デジタル化は便利という意識が浸透したので、次の取り組みも進めやすくなったと思います」と上原さんは感想を述べた。

デジタル化の方針を発表した当初は、セキュリティ面での不安を訴える従業員もいたが、実際に使って、メリットがわかると自然な流れで使ってくれるようになったという。また、スマートフォンが得意でない従業員への説明とサポートもしっかり行った。スマートフォンを持っていないなど事情がある従業員には、これまで通り紙で給与明細を渡すようにしている。

生まれた時間を生産価値が高い仕事に振り向ける

三田村社長は業務をデジタル化するのはあくまでも手段であることを強調する。「紙を封筒に入れる作業や配布する作業に費やす時間は、お客様にとっても会社にとっても何も生み出さない時間です。そういった時間をいかになくしていくかが重要と思っています。効率化によって生まれた時間を、人間だからこそできる創造的な仕事に向けていきたい。従業員一人ひとりが自ら情報を集めて判断し、いかに価値を生み出すかを重視して仕事に取り組む。そのような社内風土を醸成したいと思っています」と三田村社長は語った。今後、お客様にデジタル技術の活用を提案していく上でも現在の取り組みは貴重なノウハウの蓄積になるという。

デジタル化によってオフィスのペーパーレス化も推進

デジタル化によってオフィスのペーパーレス化も推進

社内向け情報発信システムを構築

インフラ部分を整えようと、ルーターを高性能の機種に入れ替え、社内の情報発信システムを構築した。本社や各拠点の取り組みや人事情報などを掲載している。メール配信による一方通行ではなく、インタラクティブなコミュニケーションができるようにしたいという。今後、勤怠管理などほかの業務でもデジタル化を進めていく方針だ。

文教コーポレーション本社の外観

文教コーポレーション本社の外観

「存在意義のある会社であり続けるために、どうすればお客様のお役に立てるかという視点を常に大事にしていきたい。私たちがデジタル化を進めることが、地域のためになり、国のためになる。そう信じてセカンドステップ、サードステップへと進んでいきたい」と力強く語る三田村社長。若きトップの下、医療、教育といった社会にとって重要な分野を支える文教コーポレーションの役割と存在感は、デジタル化によって今後ますます高まっていくはずだ。

事業概要

会社名

株式会社文教コーポレーション

本社

福井県福井市長本町213番地

電話

0776-52-0511

設立

1977年9月

従業員数

420人

事業内容

病院経営コンサルティング、アメニティサービス、ファシリティサービス、スタッフサービス、情報サービス、金融・保険

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