事例集

2022.07.26 06:00

日常化する甚大災害対策のためICT施工を推進 働き方改革にクラウド活用も 徳山土木(兵庫県)

日常化する甚大災害対策のためICT施工を推進 働き方改革にクラウド活用も 徳山土木(兵庫県)
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建設業のICT化を促進する動きが強まっている。徳山土木株式会社は、既に10年前に、当時はまだ高額だったワンマン測量が可能なマシンを導入してICT施工を始めている。徳山一成社長は「都会のICT施工は課題も多いが、いずれ定着する。手綱を緩めるわけにはいかない」と、ICT施工と社内のICT化を推進。同時に「ゲリラ豪雨による土砂崩れの現場で最も頼りにされるのが土木業者です。土木業の社会的地位向上と、地域の生活基盤を支える建設業の未来を創る」と、熱い思いを燃やしている。TOP画像は(砂)西谷川砂防堰堤改良工事(その2)の様子。(発注者:兵庫県)

震災の怖さを体験した一人として、インフラDXを役立てることを使命とした

「バックホー(油圧ショベル)の遠隔操作の講習を受けてきました」(徳山社長)。無人のバックホーが遠隔操作によって災害現場で動く。昨年4月、全国に先駆けて大阪府枚方市内にオープンした近畿地方整備局の「近畿インフラDX推進センター」での研修だ。国土交通省はインフラ分野のデジタル化推進を掲げており、同センターは具体的な事例を学ぶ研修施設だ。
徳山社長は、兵庫県建設業協会青年部会委員長として、青年部会のメンバー9人で、被災現場で活動することを想定して「無人化施工研修」を受けた。徳山社長は阪神大震災を身近に経験したこともあり、震災への危機感は高く、到底人が入ることのできない場所への出動をはじめ、「官公庁の方々と一緒になってインフラDXを遂行していく」と決意を語った。

土木業の未来と社会的役割を熱く語る徳山社長

土木業の未来と社会的役割を熱く語る徳山社長

会社に入って、びっくり!手描きで図面を描いていた

徳山土木は1967年創業。国や県、市の公共事業や大手ゼネコンとの民間事業を行っている総合建設会社だ。主に兵庫県、大阪府を舞台に道路、河川、開発、造成工事などを行っている。徳山社長は3代目にあたる。大学で建築設計を学び、卒業後は自ら設計事務所を開設したが、1995年の阪神淡路大震災で阪神圏が甚大な被害を受けたため、その復興工事にかかわるよう、同社に呼び戻された。
「会社に入ってみて、手描きで図面を描いていることに驚きました。これでは、世の中の流れから取り残される」。入社前に行っていた設計・測量分野はICT化が進み、CADで設計するのが当たり前だと思っていた。そこから徳山社長の戦いは始まった。

ホームページを一新、セキュリティ対策を行い継続発信によるリクルーティングも

そんな徳山社長が驚かされたことがある。取引先の担当者から「徳山土木のホームページを開こうとすると『ウイルスに感染しているかもしれないので開けません』と表示される」と言われたのだ。
ホームページは外部業者に作成してもらったが、その後は一人の社員がメンテナンスをしており、その社員が退職した後はほぼ放置状態だったのだ。そこで4年前、セキュリティを強化したホームページのリニューアルを行った。
「ホームページは会社の顔です。今の学生は就活の際、真っ先に会社のホームページを見る。そこで魅力を感じなかったらもう見向きもしない」(徳山社長)。新しいホームページはメンテナンスがしやすく、更新に複数の社員が関わり、定期的に更新した。他にも、社員の生の声を見聞きできるようにと、FacebookやInstagramを開設。結果、新卒社員の採用にも効果を発揮した。

徳山土木のホームページ

徳山土木のホームページ

クラウド導入で、どこでも仕事ができる体制が整った

社内の情報システム整備にも着手した。Wi-Fi環境を整備し、社員共有の情報は、クラウドをベースとした。その中でグループウェアによる情報共有、Web会議、Web研修ツールを一気に導入、新たなセキュリティの設定と、社内のデータ管理もクラウドへ移行した。

クラウド導入によって、本社と現場といった区別なく情報共有ができたことで仕事の効率は大きく上がった。以前はUSBメモリで持ち歩いていた予算書や見積書、図面などのデータも持ち運ぶ必要がなくなった。本社で更新したクラウド上のデータも現場ですぐ見ることができ、情報を瞬時に共有できるのは画期的だった。

「おかげで残業がかなり減りました」というのは、現場作業の監督や施工管理を担当する西村信次郎管理部長。現場で手が空いた時間に作成した日報や写真データなどをクラウドに保存し、帰社後仕分けなどをしている。以前はSDカードなどに保存して持ち帰ってきたが、SDカードの操作で不具合が出て、データが開けなくなったこともあった。また、午後11時くらいまでデスクワークに時間がかかることがよくあったが、いまは遅くても午後8時には終えることができる。「働きやすくなったという実感があります。最近は旅行も気軽に行けるようになりました」と笑顔を見せる。

若手社員と談笑する徳山社長(左)と西村部長(右)

若手社員と談笑する徳山社長(左)と西村部長(右)

日報(実施事項)は前日作成する!ICTという道具をどう生かすかが経営者の役割

徳山社長は、「前日に日報を作れ!」と話す。工事現場には、全体スケジュールという工程表がある。だから明日何をしなければいけないかは分かっているはず。でもそれは計画であって細かな実施事項まで落とし込めていない。
日報を1日が終わってから書く「記録」ではなく、前日に記してデータ化することによって、必要な人材や材料が前もって分かり、段取りをつけられる。 細かな実施事項を前日にしていれば、日報は、その実施事項の何ができて何ができなかったという確認で済む。そしてできなかった理由とできたことによる励みが日報となる。これを当日の朝作ろうとすると、手配や電話で散漫になってしまうため、前日に作っておく必要がある。
クラウドで日報を簡単に報告できる手段は整った。だからこそ、より良い仕事にするために進め方を工夫する必要がある。その「もう一歩」の重要性を徳山社長は語った。

Web研修で集合研修に参加できない社員も参加。技能向上にも貢献

徳山土木では、社内外の会議をWeb会議で行っているほか、これまでホワイトボードに直接記入していた社員のスケジュール表をクラウドに上げ、どこからでも見られるようにしている。さらに、社員の技能向上を目指す継続学習もWeb研修で受講できるため受講率がぐんと高くなった。「何日も現場を休んで受講しなければならない、と二の足を踏んでいた社員が会社や現場にいながらオンラインで受講している」(徳山社長)という。こうした受講実績は、公共工事入札の際の総合評価で加点される。

カンボジアの実習生は、社員寮でもWi-Fiで家族とテレビ電話が可能

同社はカンボジアからの特定技能一号や技能実習生を5人受け入れているが、社員寮にもWi-Fiを完備し、実習生らが母国の家族とテレビ電話で何時間でも話すことができる環境を整えている。毎日のように家族との会話ができるため、実習生らは「寂しさを感じない」と喜んでいる。業務のICT化に熱心な企業は多いが、社員の日常へのサポートにもICTを導入。海外の実習生には一番喜ばれるかもしれない。

次は収益の見える化による材料コストの削減と将来事業への投資

今、徳山社長が構想しているのは、リアルタイムで収支が分かるシステムづくりだ。工程管理に対応した手配や発注管理を原価計算にもリンクさせれば、売り上げに対応した工事ごとの収支が分かる。そうなれば、工事で使う材料情報の共有によるコスト削減等ができるし、今後重要なICT施工や社員の働き方改革への投資がどのくらい可能かも見える。一緒に働く社員の健康と暮らしを第一に考えるためにも重要なことだ。

徳山土木の総務部門

徳山土木の総務部門

土木建設業は目立たないが、地域社会を守る素晴らしい仕事だということを知ってほしい

徳山社長が先代の父、厚植さんから受け継ぎ、強く思っているのは「地域の暮らしを支えているのは我々建設業者だ」という自負だ。「土砂崩れなどのニュースでは被害者の捜索や自衛隊の復旧作業などが大きく取り上げられるけれど、実は、現場で復旧作業に命がけで取り組んでいるのは我々、建設業者なのです。自衛隊のバックホーでも操作しているのは建設作業員の場合も多いです」。それなのに建設業にはほとんどスポットライトが当たらない。そんな状況に歯がゆさを感じている。

今や、大学から土木工学という学科がほとんど姿を消し、環境デザイン工学など耳障りの良い名前に変わっている。しかしその結果、建築と土木の区別がつかない若い人が増えた。「こんなことで日本の国土を守れるのかと思ってしまいます」。だから切実に願うのは「若い世代に、土木建設業が地域になくてはならない大切な仕事なんだと知ってもらうこと」という。
目指すのは「給料、休暇、希望を与えられる〝新3K〟を実感してもらえる建設業」だ。

JR宝塚駅から徒歩10分ほどの場所にある徳山土木の本社

JR宝塚駅から徒歩10分ほどの場所にある徳山土木の本社

事業概要

会社名

徳山土木株式会社

本社

兵庫県西宮市生瀬東町2番16号

電話

0797-84-1023

設立

1967年3月

従業員数

22人

事業内容

土木工事業(造成・外構・道路・舗装・河川・推進・解体・管更生・開発・上下水道各工事)、建築工事業(マンション)



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