事例集

2022.04.11 06:00

運輸業だからこそ選ぶ健康経営への道 鍵はデジタルとアナログの両輪体制 日東物流(千葉県)

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「健康経営を推進するのは、安全運行を突き詰めた結果なんです。われわれの姿をみて、『あの会社ができるなら、うちもできる』と取り組んでくれる同業者が増えてくれるとうれしいですね。そうなれば、われわれの業界を見る社会の目も変わってくると思います」

千葉県四街道市にある運送会社、日東物流の菅原拓也社長は、経営の視点から従業員の健康を重視する健康経営に力を入れる意義を力強くこう訴えた。

2017年に特に優良な健康経営を実践する法人を経産省などが認定する「健康経営優良企業(中小規模法人部門)」に千葉県の物流会社として初めて選ばれるなど業界でも先駆的な取り組みを進めている。その4年後には、特に優れた全国500法人に与えられる「ブライト500」にも選出された。

ドライバーの健康こそが、安全な運行を行う上で最も大切―。その信念のもと、手厚い健康診断を実施し、ドライバーの健康管理に細心の注意を払っている。健診結果をもとに専門家による面談を定期的に実施し、運行管理者による日々の声掛けを励行する。そんなアナログ的なアプローチとともに、安全運行には欠かせないICT機器を率先して取り入れている。2021年10月には、日常の点呼を正確かつ効率的に行える「IT点呼」システムの導入にも踏み切った。一見すると相反するアナログとデジタルをふだんの業務にうまく組み合わせながら、事故のない安全な業務の運営に努めている。

ドライバーの重大事故が健康経営に取り組む大きなきっかけ


菅原社長が、父の経営する日東物流に入社したのは2008年のことだ。「学生時代から就職活動をする中で、経営者という仕事に興味を持つようになりました。目の前には父が経営する会社がある。父は反対でした」と振り返る。大学を卒業後、大手物流会社で3年の経験を積み、父の反対を押し切るように入社をしたそうだ。

日東物流の菅原拓也社長

日東物流の菅原拓也社長


日東物流が得意とするのは、野菜や鮮魚、精肉、飲料水などの冷凍・チルド帯の食料品の配送だ。父が1990年代後半にトラック1台で、東京の築地市場から千葉県の成田市場に鮮魚を配送する個人事業からスタート。現在、エアサス冷蔵冷凍車・冷蔵冷凍車・バン車計約80台を所有し、関東エリアの飲食店やスーパーなどに24時間体制で送り届ける。首都圏の消費者の胃袋を縁の下から支えている。

菅原社長が健康経営を重視するきっかけになったのは、入社してすぐに起きたある出来事だった。所属するドライバーが重大な交通事故を引き起こしてしまったのだ。国土交通省が会社に監査に入ると、社員の勤務管理などさまざまな労務管理の問題が明るみに出て、3日間の営業停止処分を受けた。

「このままでは、会社が持たない」

まだ平社員だった菅原社長の経営改革が始まった。

禁煙キャンペーンの展開で喫煙率を3割減。脳疾患などの検査も定期的に行う


安全運行の基本となるドライバーの長時間労働の改善や健康管理に取り組んだ。特に力を入れたのは健康管理だった。社員の健康診断の完全実施からスタート。単に健康診断をやるだけで終わりにするのではなく、結果をもとに面談を行う。ドライバーの日々の体調にも会社が気を配るようにした。「コストがかかりすぎる」と否定的だった父も菅原社長の取り組みに次第に理解を示すようになったという。

約80台のトラック保有し、関東エリアのスーパーやコンビニエンスストアなどに食料品を配送する

約80台のトラック保有し、関東エリアのスーパーやコンビニエンスストアなどに食料品を配送する


「健康診断を通じた面談だけでなく、社員が通院を始めたら必ず報告をしてもらうようにしています。処方された薬に眠気を催すようなものはないか。そういったこともしっかりと確認しています」。さらに喫煙率の高くなりがちなドライバーの禁煙を促すキャンペーンを展開。禁煙を宣言し、達成した社員に報奨金を支給するなどして、7~8割だったドライバーの喫煙率を4割近くまで減らすことができた。

「われわれは、本当に正しい取り組みをしているのだろうか」。確かめてみようと健康経営優良法人の認定を申し込んだところ、みごと認定を受けた。その結果に気を緩めず、不眠の原因となる睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査やMRIによる脳疾患の検査など大手でも取り組まない手厚い検査も定期的に実施。2017年に父から経営を引き継いだ菅原社長は会社の成長に自信を深めている。

「ふだんの声かけは大事な取り組みです。プライベートの問題による睡眠不足が事故の原因になることも考えられます。普段から相談のしやすい環境を整えるなどアナログならではの信頼関係を構築することが大切です」

デジタルタコメーターやドライブレコーダーなどのICT機器も積極的に活用


こうした取り組みに加え、デジタル面でのアプローチも安全運行を進めるうえで欠かせない。

運送業界全体として、安全運行のためのデジタル機器を導入する動きは早く、日東物流でもいち早く取り込んできた。「私が入社したころから一部のデジタル機器の導入が求められていました。例えば、デジタルタコグラフです」と菅原社長は話す。

貨物輸送を行うトラックは、運行時間や運行中の速度、走行距離などを記録する「タコグラフ」という機器の装着が義務化されている。ドライバーが法令を順守し、安全な運行をしているかどうかを把握するための装置だ。以前はチャート紙に記録する方式だったが、技術が進化。現在はデジタル方式が主流になっている。日東物流でも義務化の流れを受けて、早い段階からデジタル化を進めていた。

トラックの搭載されたデジタルタコグラフ。運行データはSDカードに記録される

トラックの搭載されたデジタルタコグラフ。運行データはSDカードに記録される


「何時に出発して何時に到着したか。到着まで途中休憩に立ち寄った場所や時間もわかります。業務中に制限速度を超過して走行すれば指導の対象になります」と菅原社長。デジタルタコメーターはGPSと連動しており、運転中のドライバーの業務状況を「見える化」することかできる。

ドライブレコーダーの効果も大きい。進行方向だけでなく、運転席側も設置。万一事故が起きたとき、運転手がどんな行動をとっていたかを記録することで、安全運行に対するドライバーの意識を高めている。

IT点呼システムを導入することで人の裁量に左右されない点呼を実現


さらに、2021年に導入にしたのが「IT点呼システム」だ。

運送業者は、ドライバーの乗務前後に資格を持った運行管理者が点呼を行うことが義務付けられている。毎日、健康状態や酒気帯びの有無などをチェックし、ドライバーに安全確保のために必要な指示を行っている。

IT点呼システムは本来、通常ドライバーの人数の少ない事業所の点呼を別の場所にいる運行管理者がWebカメラで行えるようにした機器だが、日東物流では普段の点呼に積極活用している。点呼の正確性を高めることが導入のねらいだ。

点呼には運転免許証の確認やアルコールのチェックなどさまざまな確認項目がある。通常、運行管理者は対面で点呼を行い、チェックの項目を点呼簿に記録する。これまで、点呼簿の記録を手書きで行っていたが、チェック漏れや記入漏れのリスクがいつもつきまとっていた。点呼の記録は監査の際に必ず提出が求められる重要な記録だ。漏れがあると、行政処分の対象になってしまう。このため、漏れがないよう点呼簿のチェックを3人がかりで行っていた。

乗務前にIT点呼システムを使いアルコールチェックをするドライバー

乗務前にIT点呼システムを使いアルコールチェックをするドライバー


点呼システムを活用するとチェック項目に漏れがあれば、リアルタイムで警告してくれる。運転免許証の確認では有効期限が近づくと「あと何日」と、注意を促してくれる。アルコール検知勤怠管理のシステムとも連動。アルコールチェックを受けると、同時にドライバーの写真も撮影され、呼気のデータとともに記録される。「きのう飲み過ぎたので、代わりに誰かに頼む」というようなごまかしはできないしくみだ。

システムを導入したことで、チェック漏れのリスクがなくなり、チェック要員を減らすことができた。「点呼作業の効率化に加え、点呼そのものの精度を高める大きな効果をあげています」と菅原社長は評価している。

デジタル+アナログは経営全般に通じる取り組み


ヒューマンエラーをなくし、正確でスピーディーに作業が進む。アナログにはないデジタルならではのメリットだ。だが、デジタルだけでは十分な安全運行を担保することはできない。

千葉県四街道市にある日東物流の本社

千葉県四街道市にある日東物流の本社


「例えば、健康診断の結果だけを確認し、『これとこれに気を付けて』とメールをするだけでは、管理者の自己満足で終わってしまい、本当の意味での健康管理とは言えません。膝と膝をつき合わせた対話や、一人ひとり表情をみながら本音を引き出すというのはアナログ的なアプローチがないとできません」と菅原社長。社員がふだんから相談のしやすい職場づくりなどアナログならでは信頼関係の構築が大切だと説く。

ドライバーの業務には常に交通事故のリスクが付きまとう。競争も激しく、法令順守は二の次で、長時間労働が当たり前の職場環境だったと菅原社長は過去を振り返る。自分の腕一本で会社を大きくしていった先代社長の父と始終ぶつかりあいながら、それでも信念を曲げずに粘り強く改革を進めていったそうだ。「これからもアナログ、デジタル両面からドライバーの健康を支え、エッセンシャルワーカーとして社会的責任を果たしていきたい。現段階では最適解に近い形を実現できていると思っています」と菅原社長。

アナログとデジタルのいいところをうまく活用し、両方が車の両輪のようにうまくかみ合えば、働きやすい職場環境が生まれ、企業の成長にも資する。日東物流の取り組みは運輸業界だけでなく、あらゆる業界の企業経営に通じる考え方だ。

事業概要

法人名

株式会社日東物流

所在地

千葉県四街道市大日572

電話

043-424-3482

設立

1995年2月

従業員数

120人

事業内容

3温度帯での食品輸送(鮮魚、野菜、飲料水等全般)、化学繊維輸送、市場内でのピッキング集荷、仕分け作業

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