事例集

2022.01.12 06:00

きっかけは信用金庫のアドバイス ICT活用で事業承継の道筋つける ナグラ(静岡県)

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「ICTを活用すると、効率的に会社を経営できます。補助金を活用すれば、導入もしやすくなります。検討してみてはどうでしょうか」

静岡市清水区で約30年以上にわたって電気工事業を営んできたナグラがICT活用に踏み切ったのは、日ごろから付き合いのある静清信用金庫下野支店の原彰秀支店長代理からこんなアドバイスを受けたことが大きなきっかけになった。

応対したのは、ナグラで事務経理を担当する名倉良子取締役。名倉雅則社長の奥さんだ。

「静清信用金庫さんは経営に関するいろいろな情報を毎月提案してくれています。小さい会社なのに寄り添ってくれて。会社の将来を考えると、とても私たちに適した提案だと感じました」

良子取締役は、さっそく雅則社長や婿養子の雄二取締役ら家族に声をかけ、会議を開いた。長女の見香さん・雄二さん夫婦、二女の市川由佳さん・工事部長の大介さん夫婦も社員の一員。なので、経営会議はイコール家族会議。家族で白熱した議論を重ね、本格導入を進めることを決めた。

住宅リフォーム事業に参入 ICTの活用を本格的に検討


ナグラは、電気工事会社に勤務していた会社を独立した雅則社長が1986年に独立して創業した。やがて静岡市を中心に、新築戸建て住宅の電気配線工事を主力に事業を展開。工場やマンション、学校などの大がかりな工事も手掛けている。

技能オリンピック県大会で優勝した実績があり、この地域では誰にも負けない技術力があると自負している。

ナグラの名倉雅則社長

ナグラの名倉雅則社長


創業当時は、たった一人、机一つからのスタート。「当初は安定的に仕事が得られず、厳しい時期もありました」と雅則社長は振り返る。そんな時、近所の自治会長が「街灯の電球を交換してほしい」と相談に来た。ふだん付き合いのあった電気店がなかなか直しに来てくれない。近隣の住民から苦情も寄せられ、困っていたところで雅則社長の事務所を見つけたという。快く修理に対応すると、それ以降、自治会長が顧客を紹介してくれるようになった。

「電球1個でも困っている人がいれば誠心誠意対応する」。雅則社長の姿勢に共感して顧客も増え、それに伴い社員も徐々に増やした。中にはきちんと挨拶ができない人もいたが、「凡事徹底」を信条に、礼儀作法を徹底することで顧客対応の質を上げていった。

そんなナグラに大きな転機が訪れたのは2018年のことだ。

住宅リフォームの会社に勤めていた雄二取締役が会社に合流。前職での経験と実績を生かし、リフォーム事業を新たに立ち上げた。これまでの電気工事業に加え、住宅リフォームの二本柱で事業を展開。創業来の社名「ナグラ電機」を現在の社名に変更し、新たな船出を切ることになった。

ICT導入の検討を始めたのは、そんなタイミングだった。

社長の業務を分散化、全員で会社を守れる体制目指す


事業の幅が広がる一方、積年の課題も浮き彫りになっていた。雅則社長に会社の多くの業務が集中していたことだ。

「もともと一人で始めたことなので、大概のことは一人でやっていました。ただ、その数が増えてしまってね。みんなにああして、こうしてと指示は出すけども、結局、自分でやるのが早い」と雅則社長。工事の見積りから打ち合わせ、設計や電力会社や官公庁への申請、請求・集金…。仕事が集中する時期には残業が続く日も。だが、業務の大半は雅則社長しか分からず、社員にも手の出しようがなかった。

静岡市清水区にあるナグラ本社。電気工事業に加え、住宅リフォーム事業に新たに参入した

静岡市清水区にあるナグラ本社。電気工事業に加え、住宅リフォーム事業に新たに参入した


良子取締役、娘二人が心配したのは、社長の健康はもちろん、社長に何かあった時の経営への影響だ。家族会議の末、社長の負担を軽減し、社員全員で会社を守れる体制をつくるため、ICTを活用することを決めた。

懇意にしていた静清信用金庫の原支店長代理のアドバイスを受けながら導入したのは、クラウド型の建築見積りシステムと、工事台帳の作成から原価・売上・日報まで総合的に管理する建築業者向けの業務システムだ。

これまで工事の見積りには、昭和の時代から使っていたソフトを何度もバージョンアップして使い続けており、社長専用のパソコンでしか作業できなかった。しかしクラウドシステムを導入したことで、社内のどのパソコンからも操作ができるようになった。さらには自宅でのリモートワークや、出先からのスマートフォンによる確認も実現可能になった。社長にしか出来ないと思われていた仕事を、会社全体で対応できる環境を整えた。

当初、住宅リフォーム事業では別のソフトを使って管理していたが、新たに導入したソフトでは電気工事と住宅リフォームのシステムの一元化が可能になった。「同じ会社なのに違う体裁の見積書で、取引先に面倒をかけていましたが、そういう問題もなくなりました」と住宅リフォームを仕切る雄二取締役。

更に、見積りは見積り、売上は売上と別々に管理していた業務が、同じシステム上で一気通貫に流れるようになった。これまで集計が難しかった個別工事ごとの収益の管理も可能になった。「まだシステムを使いこなせる状態にまではなっていませんが、少しずつ慣れていって業務の効率化に役立てていきたい」と良子取締役も意欲を高めていた。

総務を担当する娘の由佳さんは「職人の仕事は現場なのでパソコンは触らない、というのが今までの流れでしたが、現場の仕事だけでなく見積りも自分で作る、という形になれば、職人の意識やモチベーションも更に高まる筈です。現場と事務の距離も近くなり、連携もよくなりました」と評価している。

ナグラでは、ICTの活用で、もう一つ、ユニークな最新機器が業務の効率化に貢献している。ゴーグルにカメラが装備された「スマートグラス」だ。
ゴーグルを装着すると、目の前の映像を外部に送信することができる。現場で経験が浅い社員が作業に困ったとき、スマートグラスで作業場所の映像をベテラン社員のパソコンやスマートフォンに送り、状況をみてもらう。その映像を見ながらベテラン社員が作業の進め方を的確に指示する。わざわざ現場まで応援に出向くことなく、作業が進められる。人手を効率的に配置し、なおかつ仕事のクオリティーも落とさない。独り立ちしたばかりの社員のスキルアップにもつなげている。

スマートグラスを活用すると、遠隔で作業の指示を出すこともできる

スマートグラスを活用すると、遠隔で作業の指示を出すこともできる

地域企業の成長は信用金庫の成長につながる

静清信用金庫 下野支店/高部支店

静清信用金庫 下野支店/高部支店


今回の事例で注目したいのは、静清信用金庫の役割だ。

本業の金融業務とは全く異なるICT活用に関する助言を行い、提携するIT導入支援事業者(リコージャパンコンソーシアム)と共に取引先のニーズに合ったソリューションを提案。IT導入補助金の活用や申請などもサポートしてくれたという。ナグラのケースでは補助金の申請が一度は通らなかったものの、翌年、さらに申請内容の精度を高め、無事 採択にこぎつけた。

リコージャパンとの提携について原支店長代理は、IT導入補助金の実績が非常に多いこと、地域密着で親身になってサポートしてくれることを挙げた。

融資が本業の信用金庫が、なぜナグラのICT活用に一役買ったのか。原支店長代理はこう話す。

静清信用金庫の原彰秀支店長代理。営業先にはバイクで移動している

静清信用金庫の原彰秀支店長代理。営業先にはバイクで移動している


「ナグラさんに限らず、いろいろな情報をお客さんに毎月ご提供するようにしています。長期的なお付き合いをさせていただく中で、これからのお客様にICTは欠かせません。ICTはお客様の経営改善に役立つ可能性が大きく、話題づくりとしてもいいツールなんです」

信用金庫は銀行と違い、営業エリアが一定の地域に限定されている。営業エリアにある企業の成長は、やがて本業の融資につながり、信用金庫の成長につながってくる。地元企業にICTを積極的に活用してもらうことによって経営の効率化、安定化に寄与することは信用金庫にとって非常に重要な取り組みなのだ。

「これから売り手が買い手に、消費税の正確な適用税率や税額を伝えるインボイス制度が始まります。数年後には手形も電子化される予定です。こうした制度の変化を皆さんに的確にお伝えすることも我々の使命だと思っています」と原支店長代理は話していた。

スムーズな事業承継と社員の活性化、ICTが一役


原支店長代理のアドバイスをきっかけにナグラが手に入れたのは、社長一人に頼らない全員参加型の業務フローと次世代に経営を渡す事業承継の道筋だ。クラウドシステムを活用して、社長しか見えなかった業務を後継者や社員に「見える化」し、経営のリスクを分散化する。後継者への業務の引き継ぎも時間をかけずスムーズでシームレスに進められる。

時間に余裕が生まれた雅則社長。「今まで培った電気工事業の伝統の力を住宅リフォームの営業に役立てたい。電気の修繕に行ったお客様からリフォームのニーズをうかがったりと職人から商人に生まれ変わった感じです」とトレードマークの満面の笑みを見せた。
ICTの活用によって、ナグラがこれからどう生まれ変わっていくのか。今後が楽しみでならない。

会社概要

会社名

株式会社ナグラ

本社

静岡県静岡市清水区下野中23-9

電話

054-367-4390

設立

1989年7月

従業員数

13人

事業内容

電気工事業・リフォーム工事業

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