事例集

2021.04.28 06:00

製造業でも本番前のシミュレーションで大きな効果 淡路島を拠点に事業拡大する岡田シェル製作所(兵庫県)

製造業でも本番前のシミュレーションで大きな効果 淡路島を拠点に事業拡大する岡田シェル製作所(兵庫県)
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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


シミュレーションと言えば、飛行機を操作するためのフライトシミュレーターが有名だ。絶対に失敗が許されないから、事前のシミュレーションを繰り返し行い本番に臨む。
自衛隊の机上演習でも、シミュレーションが繰り返される。いざという時の備えのために、状況が変化すれば条件設定をどんどん変える。
製造業でも、シミュレーションシステムを導入して大きな効果を上げている会社がある。それが兵庫県・淡路島の岡田シェル製作所だ。
工業製品を作る上で欠かせない鋳型のひとつ、砂型は製造に高い技術が要求される。それだけに何度も試行錯誤が必要だ。その高い技術をサポートするのがシミュレーションシステム。結果として取引先との信頼醸成、業績の拡大、人材の獲得につなげている。

職人の技とホスピタリティの融合で顧客の要請に応える


シミュレーションシステムを導入した岡田将武専務は大学卒業後、すぐには父親が創業した岡田シェル製作所に入社せず、大手のホテルチェーンを就職先に選んだ。人と接する仕事に興味があったこともあるが、ホテル業界で体得できる接客やマネジメントの技能は将来、岡田シェル製作所を支える上で必ず役に立つと思ったからだ。「ものづくりの職人気質とサービス業のホスピタリティが融合した新しい企業文化を生み出したい」と話す。

インタビューを受ける岡田将武専務

インタビューを受ける岡田将武専務


28歳で岡田シェル製作所に入社した時、会社は2008年のリーマンショックの影響で大打撃を受けていた。業績は振るわず、避けたいと思っていた人員カットにも踏み込み、社内の雰囲気は沈んでいた。
「日本のものづくりを支えてきた会社をこのまま縮小させるわけにはいかない」。入社以来、岡田専務は、常に「カイゼン」を意識し、会社を軌道に乗せるために全力で取り組み続けた。取引先の大手油圧機器鋳物メーカーの要望に真摯に向き合い、あえて難度の高い注文を引き受けた。

限られた時間と完成度のせめぎあいをいかに乗り越えるか


岡田シェル製作所の主力商品となっている油圧機械の心臓部ともいわれるコントロールバルブ向けの砂型は、構造が複雑なためバランスよく砂を焼成することが難しく、全国の砂型メーカーでも受託できる会社は限られていた。それ以外でもタンカーやコンテナ船といった超大型船舶のエンジン部品、自動車やトラックのターボエンジン部品のための砂型も生産していた。他社が簡単には模倣できない「オンリーワンの技術」を強みとして生かした。

業績の順調な回復とともに、さらに飛躍のチャンスが訪れた。景気回復によって世界中で建設機械の需要が拡大する中、取引先が、コントロールバルブ向け砂型の増産や品種の拡大を要望してきたのだ。当時、会社の生産能力は限界に近かったが、要望に応えることを決断し、人材を確保しながら増産や品種の拡大に努めた。
だが、砂型の試作にかかる時間と手間は大きな課題だった。要求水準にかなう試作品を完成させるには何回も試行錯誤しながら実際に砂型を作る必要があった。その結果、廃棄する砂の量が増え、残業が増えることで従業員も疲弊していった。限界が来る前に、抜本的に仕事の進め方を変えなければならなかった。そこで岡田専務が着目したのがシミュレーションシステムの活用だった。

シミュレーションシステムを導入。試行錯誤を繰り返し実戦へ

砂を流体解析するドイツ製のシミュレーションシステム

砂を流体解析するドイツ製のシミュレーションシステム


リコージャパンの協力を受けて情報を収集し、2018年に、金型に吹き込む砂の流れなどを計算し、解析できるドイツ製のシミュレーションシステムを導入した。金型に注入する砂の量や温度、圧力、焼成する時間などの数値を流体解析することで、実際に砂型を製作する前に、内部で生じる空隙の程度など問題の箇所を色分けした画像で確認できるようになった。

日本では数社しか保有していないシステムということもあって参考にできる事例が少なく、プログラムを組み立てるノウハウを得るまでは試行錯誤が続いたが、使いこなせるようになってからは、試作品を完成させる期間を従来の半分に短縮できるようになった。シミュレーションによって問題点が事前にわかるので、効率的に試作できるようになり、データに基づいた生産で不良品の発生率も減ったことで廃棄材料も3分の1に減った。経験が浅い技術者のレベルアップにもつながった。
「要望にしっかりと応えることで取引先とはさらに強い信頼感で結ばれました。無駄を省くことで生まれた余力をさらなる成長のための投資に向ける好循環を生み出すことができました」(岡田専務)

あくなき挑戦!将来に備えて3D技術の研究

岡田シェル製作所の新工場

岡田シェル製作所の新工場


岡田シェル製作所は、ほかにもデジタル技術の導入に力を入れている。2014年に3Dスキャナーを導入し、スキャニングで読み取ったデータを基にプログラムを組む技術を蓄積している。2017年には3Dプリンターを導入し、砂型の製造に活用することを目指して研究を続けている。
岡田専務は「3D技術は今後の進歩によっては、ものづくりの仕事の仕方を根本的に変えてしまうポテンシャルを持っています。しっかり情報を収集して、対応していかなければならないと考えています」とその理由を話す。

業務の多角化にも取り組んでいる。2020年1月には、技術を擁しながら後継者難が課題となっていた地元のアルミ鋳造会社を子会社化した。同社の製品は、神戸市の医療機器メーカーが開発したロボットの部品として使用されている。
「ものづくりのビジネスを拡大する一方で、淡路島から、ものづくりの優秀な企業が消えてしまうことを防ぎたい思いがありました」(岡田専務)

12年で社員数、売上高が5倍に。地元淡路島への貢献も


岡田専務が入社して以来取り組んださまざまな改革によって岡田シェル製作所は2009年時と比較すると社員数、売上高とも5倍に拡大した。それでも現在を通過点と考え、岡田専務はさらに先を見据える。
会社の規模を拡大することで、生まれ育ってきた淡路島を活性化していきたいとの思いがある。追い風は吹いている。淡路島は、大手企業が東京都からの本社機能の移転を進めていることもあり、テレワークを活用した新しい働き方が実現できる地域として最近注目が高まっている。

岡田専務は手応えを感じている。「若い人の希望とニーズにかなった雇用の場が整えば、海にも近く、自然に恵まれた淡路島は、働く場所として都心部以上の可能性を持った地域だと思います。以前から淡路島を前面に出して社員の募集を行っていたのですが、最近目に見えて反応が良くなってきました」
岡田専務はものづくりへの関心を持ってもらおうと、インターンシップの受け入れや地域の小学校、中学校での講演会も積極的にこなしている。また、兵庫県内の企業向けに3D活用を推進するための研修にもリコージャパンと連携して取り組んでいる。

地域からの期待も高まっている。2020年には、兵庫県から「オンリーワンを目指す企業」、公益財団法人ひょうご産業活性化センターから「成長期待企業」としての認定をそれぞれ受けた。
今後は砂型の生産管理や進捗管理にもシミュレーションシステムを導入できないか考えている。受け入れているベトナム人の約20人の技能実習生への技術指導もシミュレーションシステムを使えばもっと進めやすくなることが期待できる。「楽しみながらものづくりに取り組める会社にしていきたい」と語る岡田専務。熱い思いとシミュレーションシステムの相乗効果でその成長は更に加速していくに違いない。

会社概要

会社名

株式会社岡田シェル製作所

本社

兵庫県淡路市大町下408

電話

0799-62-6098

設立

2006年7月(1970年4月創立)

従業員数

115人

事業内容

シェル中子製造、塗型、組立、フラン中子、主型造型、自硬性CO2型の企画・設計・製作、3Dスキャン測定サービス

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