事例集

2021.02.11 06:00

建築のワークフローが変わるBIM導入進める岩堀建設工業(埼玉県)

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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


1989年に開学した山村学園短期大学(開学時は山村女子短期大学)は、埼玉県比企郡鳩山町の丘陵地帯にキャンパスを構え、豊かな自然の中で子どもたちの教育に取り組む学生たちを教育し、社会に送り出している。この学校を建設したのが、埼玉県川越市に本社を置く岩堀建設工業だ。

山村女子短期大学(現山村学園短期大学)

山村女子短期大学(現山村学園短期大学)


「担当したのは、現在の岩堀和久社長ですね」と振り返るのは、同期入社で情報マネジメント事業部長を務める岩本聡取締役。木々を切り払えば建設も楽だっただろうが、通う学生や周辺で暮らす人たちのことを考え、豊かな自然をそのまま残すことを提案した。建物も高さを抑え目立たないよう配慮した。「森から頭がのぞかないことを周辺の住人に知ってもらうため、風船をあげてこのくらいの高さになりますと伝えました」。今も茂る森には、近隣の開発で追われた動物たちが住みついているそうだ。
社会や他の企業と共創してこそ、会社は世の中に受け入れられ、発展していくという姿勢を貫いてきた岩堀建設工業らしいエピソードだが、今ならBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)という仕組みを使って、コンピューター上でシミュレーションしたものを見てもらうことができるだろう。

BIMは従来のCADではなく3Dモデルからスタート

岩本聡取締役情報マネジメント事業部長

岩本聡取締役情報マネジメント事業部長

BIMとは、建設に関する流れをコンピューター上で管理し、生産性を高めようとする仕組みのこと。海外の建設業から導入が進んでいる最先端のワークフローで、「建設場所の調査から設計から資材の調達、費用の組み方まで、建設という仕事に対する価値観がガラリと変わる仕組みです」と、岩本取締役は説明する。
設計の現場などでは以前から、3次元のCAD(コンピューター支援設計)ツールが使われている。従来の3DCAD(3次元CAD)は、2次元の情報から3次元を制作する。BIMで使用する3DCADは、最初から3Dモデルでスタートする。このことによってBIMは従来と全く違う進行プロセスが可能になった。設計段階から、施工の行程や資材などあらゆるデータを連係させ、完成までのイメージをコンピューター上でシミュレートできるようになる。
「設計や資材の変更の結果をすぐに確かめられるようになります」と岩本取締役。「去年入社したばかりの若手社員が、建設の現場に行って、外観の色をコンピューター上で再現した予想図を発注者に見せるようなこともできます」。工期がそのままコストにつながる業界だけに、浸透すれば効率化につながる。

知恵を共有するため川越にBIMのショールームを開設


福島県の平田村で手がけたバイオマス発電所建設でも実践し、他の施工でも活用を進めている。将来的には、ドローンを使って空撮データを集めて仕組みに反映させ、よりダイナミックにシミュレーションを行えるようになるという。

新電力菊池発電所建設工事でのドローンの活用(YouTubeより)

新電力菊池発電所建設工事でのドローンの活用(YouTubeより)


もっとも、このBIMは、建設会社一社だけでは構築できるものではない。発注者、設計事務所、建設会社が一体となって、データを持ち寄り入力して流れを作る必要がある。賛同してくれるところを増やしたい。そこで同社では、川越駅前に、協力してくれる2社とBIMを紹介するショールームを作ることにした。2021年にもオープンの予定で、ここに来ればBIMの仕組みから効果までを目の当たりにできる。
儲ける秘策を見せても構わないのか。そんな疑問に、「ノウハウを抱えていても業界は発展しない。みなでいっしょに成長していきたいんです」と岩本取締役。EDIの導入で、中小の取引先にコンピューターやネットの便利さを教え、後押ししたような共助であり共創の姿勢が、信頼につながってパートナーの積極的な参画を呼ぶともくろむ。

共創の精神は以前からあった


共創を貴ぶという点で、岩堀建設工業にはこうしたエピソードがある。JR川越駅前に建つ川越第一ホテルは、もともとあった市場に1990年に建てたもの。その際に、建築主は市場と業態が似ている商業施設を模索したが、同社は「ホテルはどうか」と提案した。まるで違う業態に建築主は戸惑ったが、岩堀では自分たちで東松山駅近くにホテルを作って運営し、勝算があることを見てもらった。
建築主もそれならとホテル建設を選択。結果、川越第一ホテルは、バブル崩壊で様々な建築施設が稼働できない中、ビジネスユースをつかみ、最近では、観光業を奨励する日本政府の政策に沿って増える来訪客で賑わっている。その後、同社には、埼玉県各地でのホテル建設や、「アイリスオーヤマと共同でLED照明を納品する」事業が継続して舞い込んでいる。

川越駅前の新スポット「U_PLACE」一階は路地の中に店が点在しているイメージを演出

川越駅前の新スポット「U_PLACE」一階は路地の中に店が点在しているイメージを演出


川越駅前には2020年6月、西口に新しいランドマークとなる「U_PLACE」がオープン。岩堀建設工業は、前田建設工業、平岩建設などといっしょに施工にあたった。未来的な外観を持ちつつ、屋上には庭園もあって訪れる人が心地よいと感じられる施設になっている。本来だったら東京オリンピックが開幕し、ゴルフ競技が行われる霞ヶ関カンツリークラブへの玄関口として賑わったかもしれない。1964年の東京オリンピックで所沢にクレー射撃の競技場を建設した縁を持つ同社だけに、2021年は無事に開催されて欲しいと願っているだろう。
誰かのために頑張ったことが、自分たちのためにもなる。そうした関係性を広げることで、100年という大きな節目に向けた残りの四半世紀を、岩堀建設工業は進んでいく。

会社概要

会社名

岩堀建設工業株式会社

本社

埼玉県川越市六軒町1-3-10

電話

049-225-5111(代)

設立

1945年12月1日

従業員数

65人

事業内容

建築設計/構造設計/設備設計/インテリア設計/建築・土木工事業/ホテル経営事業/環境事業(LED、太陽光発電)/ネットワーク事業など



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