事例集

2020.12.17 06:00

「もっと早くやっていれば…」デジタル化で業務が一変、まちの不動産屋さんの救世主に

「もっと早くやっていれば…」デジタル化で業務が一変、 まちの不動産屋さんの救世主に
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執筆者

フジサンケイビジネスアイ

産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。


千葉県市原市のJR八幡宿駅前にある有限会社八幡ホームズは、地域に根差した@まちの不動産屋さん」だ。店舗のある市原市を中心に、アパート・マンションから戸建て住宅の賃貸仲介や店舗、駐車場、土地や中古物件の売買仲介など幅広い物件を管理・紹介している。

「30年くらい前からお付き合いのある地主さんやオーナーさんが多いですね。法人のオーナーさんもいますが、担当者が変わっても継続して利用していただいていて。本当にありがたいことです」と吉田愛子社長はにこやかな表情で話す。

物件情報は書類で管理、探すのも一苦労

創業は1998年。その地主やオーナーたちとの付き合いは創業よりも長い。「もともとは別の不動産会社に勤務していました。バブル崩壊のあおりを受けてその不動産会社が解散してまったのです。その時は、別の仕事をするつもりでした。でも、営業に回っていた地主さんたちに『引き続き管理してくれ』と説得されて。結局、自分で起業することになってしまいました」と吉田社長。以前働いていた不動産会社の業務と店舗をほぼ引き継ぐ形になったという。

八幡宿駅周辺は東京湾沿岸部に集積する工場地帯に近い住宅街で、大学のキャンパスとのアクセスもいい立地にある。工場勤務のサラリーマンや学生の賃貸ニーズが高いエリアだ。前の会社で「バリバリの営業担当」だった吉田社長は、この地域の不動産需要を的確につかみ、地元の不動産オーナーにワンルームマンションの開発を提案し、開発した物件に多くの入居者を紹介してきた。物件の管理やサービスでも女性ならではのきめ細かな気配りも好評で、地元の不動産オーナーたちの高い信頼を集めていた。そのころからの関係が今の八幡ホームズを支えている。

現在、スタッフは、吉田社長を含め女性4人。その一人は、吉田社長の二女である廣江正代さん。勤めていた会社を結婚後退社し、この店で母をサポートするようになった。吉田社長によると、「後継者として育成中」で、現在は営業のほとんどをまかせているという。これまでほぼ手作業で行っていた物件管理のデジタル化は廣江さんが取り仕切った。

「不動産管理システムの導入はずっと懸案でした。でも、パソコンを使えないスタッフがいたことから踏み切ることができなかったんです」と廣江さんは説明する。

百数十件ある物件はすべて紙ベースで管理。物件ごとにファイルを作成し、店舗の書棚に整理する状態が続いていた。2年ごとに更新される賃貸契約の資料を探すのも一苦労だ。ファイルをいちいち確認して借主に連絡したり、必要な書類を作成したり。チェック漏れで更新時期を見逃してしまうことも少なからずあったという。そんな中、スタッフの世代交代があり、2018年になって、ようやくICT活用に踏み切った。

仕事量はそれまでの10分の1に軽減

「普段から付き合いのあったリコージャパンからアドバイスを受けつつ、自分でもさまざまな不動産管理システムを調べました。結局、リコージャパンが薦めてくれたシステムがいちばんいいと判断しました」と廣江さん。

導入したシステムでは、物件や契約や賃貸などの情報をまとめて管理できるほか、帳票の作成機能が充実している。不動産管理の重要な業務である家賃管理もわかりやすく作業できる。また、店頭資料・チラシ作成やポータルサイト・自社サイトへの広告なども簡単に作成・掲載できる。情報がすべて連携しているので、情報の検索も簡単にできる。

物件など基礎情報の入力作業には時間がかかったが、実際に導入してみると、これまでの業務環境は一変した。契約の更新や終了の際に必要な書類も必要事項が入力した形でほぼ自動的に作成してくれる。ファイルを探す手間、書類を手書きで作成する手間から解き放たれた。

店頭の物件広告の作成も楽になった。システムには広告作成用のひな型があり、住所や間取りなどの空き物件の情報をデータの中から拾い出し、簡単にひな型に反映できる。写真の貼り付けも簡単なパソコンの操作でできてしまう。空き物件の募集もスピーディーにできるようになった。

「仕事量は今までの10分の1くらいは減ったと思います。『今までの苦労は何だったの⁉』と思うほど改善されました。もう紙で管理していた時のことはもう思い出せないくらいです」と廣江さんは手放しで喜んでいた。

世代交代の影響でスタッフの人数が減少。当初は増員も考えていたが、不動産管理システムのおかげで現状の人数で十分に業務をこなせるようになった。また、管理物件の見回りや清掃などの管理作業にも今まで以上に時間を活用し、オーナーや顧客向けのサービス向上につなげている。

360度カメラで物件紹介、顧客獲得の武器に

八幡ホームズでは利用客向けのサービス向上にもICTを積極活用している。

一回で360度の全景を移すことができるカメラ「RICOH THETA」を活用して、空き物件のパノラマ画像を撮影し、インターネットのサイトで閲覧できるようにしている。壁紙の色やドアのデザイン、窓の大きさ、部屋全体の雰囲気も一目瞭然。間取り図には表れにくい物件の情報がみてとるようにわかる。

廣江さんによると、ここ数年は直接来店して部屋を探す顧客よりもインターネットの情報を見て、問い合わせの電話やメールをする顧客が増加傾向にあるという。地方から転居する単身者や学生の利用が多く、上京前には物件の候補をある程度、固めてこうとさまざまな不動産会社のサイトを渡り歩いている。それだけに物件の全体像をみることができるパノラマ画像は、顧客獲得の大きな武器になっている。

不動産適正取引推進機構の資料によると、いわゆる不動産屋さん、宅地建物取引業者の数は2020年3月末現在で、約12万5600業者に上り、6年連続で増加している。このうち、八幡ホームズのような従業員5人未満の事業者数は約10万5700業者と全体の85%近くを占めている。業者の数は、コンビニエンスストアよりも多いとされる。それだけ競争も激しい業界だ。

取材をすると、その仕事が実に多岐にわたることも驚かされる。賃貸物件の管理や入居者の募集・紹介、入居者からクレーム対応…。オーナーの信頼関係の構築も重要だ。オーナーの機嫌を損なえば、別の不動産会社に移られてしまうことにもなりかねない。

オーナー向けサービスの充実化が可能になった

「今後、入居者からの困りごとやクレームもデータベース化したいと考えています。オーナーと共有して、サポートのスピードアップと充実化を図りたいですね。また、管理しているアパートやマンション、戸建ての点検など時間があればやるべきことはたくさんあります」と語る廣江さんの目は次のステップをにらんでいた。

規模の小さい不動産管理・仲介業者の中には、いまだにICT導入に踏み切れず、紙との格闘を続けているところは少なくない。「効果が分からない」「うまく使う自信がない」という不安があるのかもしれない。しかし、ICTの活用を事業の基盤固めに有効活用する八幡ホームズの取り組みをみてみると、その効果は明らかだ。業務改善によって生まれた時間や労務をいかに活用するか。そのチャレンジすら放棄してしまっては新たな活路は生まれてこない。

会社概要

会社名

有限会社八幡ホームズ

本社

千葉県市原市八幡1016

電話

0436-43-4206

設立

1998年10月

従業員数

4人

事業内容

宅地建物取引業(貸アパート・マンション、貸戸建ほか、貸事務所・店舗、駐車場、売中古一戸建、売土地)

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