コラム

2023.02.01 06:00

福祉介護業のメンタルヘルス対策 業種特有のストレス要因と対処法を解説

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福祉介護業の若手育成&社員のメンタルヘルスを守るために必要なことチェックリスト

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福祉介護業ならではの視点で、若手育成のポイントと、社員のメンタルヘルスを守るためのポイントをチェックリスト形式にまとめました。ぜひ職場環境改善のヒントにしてください!

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コロナ禍以降、「エッセンシャルワーク」という考え方が注目されるようになりました。
介護職も、社会にとって必要不可欠なエッセンシャルワークとして、その重要性が脚光を浴びています。

その一方で、どんな時にも業務を続けることが求められるエッセンシャルワークだからこそ、その現場で働く職員には大きな負担がかかる場合もあります。特に、介護事業者の場合、施設が新型コロナウイルス感染症における、いわゆる「クラスタ-」となるケースが多く、感染面での不安が職員に特に大きなストレスをかけている現状もあります。

本記事では、介護という仕事の特性を踏まえつつ、職員のメンタルヘルス不調の防止策について考えます。

介護業は、高いストレスを受ける職場

福祉・介護業界は、他業界と比べても、働く人が感じているストレスが大きく、メンタルヘルス上の問題が発生しやすい業界だということが、各種のデータで示されています。
たとえば、「令和3年度 過労死等の労災補償状況」(厚生労働省)には、「精神障害」による労災の請求件数が業種別に掲載されています。「社会保険・社会福祉・介護事業」の分類は、その1位になっています(2位は医療業、3位は道路貨物運送業です)。

※出典:厚生労働省「令和3年度 過労死等の労災補償状況」

また、少し前のデータですが、公益財団法人介護労働安全センターの「介護労働者のストレスに関する調査結果報告書」(平成28年度介護労働実態調査(特別調査))によると、「仕事や職業生活に関する強い不安・悩み・ストレス」の有無に関する質問で、「ある」と答えた人は85.8%に上りました。これは、全産業における調査の60.9%を大きく上回っていると、同報告書では指摘されています。

※出典:公益財団法人介護労働安全センター「介護労働者のストレスに関する調査結果報告書」

さらに、現在、労働安全衛生法において、常時50名以上の労働者(パート、派遣等含む)を使用する事業場には、「ストレスチェック」の実施が義務付けられています。そのチェックを実施している民間業者が公表データしているデータでも、福祉介護業では「高いストレス」を感じている労働者の割合が、全産業の平均に比べて高くなっているという結果がおおむね示されています。
これらのデータからも、介護業が「高ストレス業種」であることは、間違いないといえるでしょう。

介護業におけるストレスの要因。トップは職場の人間関係

では、介護業において、労働者がストレスを感じる要因はどんなところにあるのでしょうか。
「介護労働者のストレスに関する調査結果報告書」では、この点に関しても分析されています。

「現在の自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスになっていると感じる事柄」という調査項目に対する結果を見ると「職場の人間関係の問題」(44.4%)がトップで、「仕事の量の問題」(35.5%)、「昇進、昇給の問題」(35.4%)が続いています(3つまでの複数回答)。

「閉じた職場」がストレスを生む

同報告書によると、全産業における調査の結果においても、やはり「職場の人間関係の問題」がストレス要因のトップに挙げられています。しかし介護業においては、その割合が他業種より高いことが特徴です。
介護業においては、「職場の人間関係」が特に高いストレス要因になること理由として、次の2点が考えられます。

1点目が、特に入所系の施設においてですが、ほぼ毎日、同じ職員と、勤務時間中はずっと一緒に過ごす状況です。さらに、仕事の対象となる要介護者の人たちも、毎日違う人がやってくるわけではなく、基本的に同じ人たちが入所、あるいは通所しています。
そのため、どうしても同じ人間同士での閉じた関係が続くことになってしまいます。それが、良い関係であればいいのですが、どうしても相性があわない人が同じ施設に――特に上司や先輩社員に――いると、強いストレスを感じるようになります。

もう1点が、介護業界で長く働いている古参社員には、独自の「介護観」「福祉観」のような価値観を強く持っている職員がいることがあります。
そもそも、介護職で働く人は、単にお金のためではなくて、人の役に立ちたいという気持ちを持っていることが多く、長く働く中で、その人なりの「介護観」が形作られてきます。
自分が働く上でのポリシーとしてそういった価値観を持っていることは大切なことでもありますが、中には、それを過剰に人に押しつけようとする人もいます。さらに、それが施設の運営方針とはあっていないこともあるのです。
そういう人が古参社員として強い発言力を持っていると、新しく入った職員は非常に強いストレスを感じることになります。

なんでもやらなければならないことから、業務の負担が大きい

介護施設で一般的に行われている運営管理は、業務を工程に切り分けて「業務に人をつける」という考え方ではなく、1人の職員がなんでもできるようになるように「人に業務をつける」という考え方で行われていることが多いです。

介護施設では、ぎりぎりの人員数で運営しているところも多いために、そうなると、結果的に1人の職員がなんでもこなせなければ運営できないということになり、業務負担が非常に大きくなります。また、幅広く仕事をこなせる器用で優秀な人ほど、多くの業務を任せられてしまうということになりがちです。
これが、上記調査でもストレス要因の2位になっている「仕事の量の問題」に結びついていると考えられます。

生命や健康をあずかる責任のプレッシャー

たとえば夜勤などの場合に、職員が1人で宿直担当をする場合、万一事故などが発生すれば、当然その担当者の責任は重大になります。要介護者の生命や健康も預かる仕事なので、その責任の重い仕事を任させることを「やりがいがある」と感じる人もいますが、プレッシャーで憂鬱になるという人もいます。

利用者の家族などとのトラブル

昨今、顧客が事業者に対して理不尽な要求をしたりクレームをつけたりする事例について「カスタマーハラスメント」として、問題視されることが増えました。
介護施設においては、利用者がそういう対応をするケースはあまりないでしょうが、利用者の家族などが、施設の運営について理不尽な要求やクレームをつけてくることはあるようです。その場合に、利用者さんと、家族、そして施設との間に立たされる職員が強いストレスを感じるであろうことは想像に難くありません。

介護業でメンタルヘルスの問題が発生することの経営上のリスク

施設が上記のような状況を放置して、職員のメンタルヘルス上の問題が生じれば、職員の離職に結びつきます。
法定の人員基準が定められている介護施設では、職員に離職されると、急いで新しい人材を採用しなければならず、経営上大きな負担になります。

また、特に介護福祉士の有資格者は、労働市場において売り手優位(転職が容易)な状況が続いています。言い換えると、離職のハードルが相対的に低いということであり、ストレスを感じる職場をそのままにしておくと簡単に辞められてしまいます。
また、そのような状況がSNSなどで拡散されたりすると、その後の求人に影響が出るだけではなく、要介護者の利用にも影響が出かねません。

それらの経営上のリスクを予防するためにも、ぜひ早期の改善を図るべきでしょう。

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介護業のメンタルヘルス対策1:組織、制度面

では、具体的にはどのような対策を講じればいいのでしょうか。
まず、「職場の人間関係の問題」が最大のストレス要因である以上、その対策を講じることが第一になります。具体的には、以下のような施策が考えられます。

職員には、メンタルヘルス研修

メンタルヘルスの問題は、心の問題であるため表面に現れにくく、上司などが気づきにくいことが多いものです。そこで、まず、メンタルヘルスに関する研修などを実施し、職員のセルフケア(自分でストレス状況に気づく)を図ることが重要です。

管理者には、パワハラ・セクハラ防止研修などの徹底

管理者の言動が職員のストレスとなることもよくあります。施設では、管理者は、介護職員(プレイヤー)として働くことと、管理職(マネージャー)として働くことの両方を求められる“プレイングマネージャー”であることが多いでしょう。しかし、両者が、まったく異なる職務であるため、その点を理解させ、管理職としての正しい役割を果たせるように、指導を行う必要があります。

また、管理者が、パワハラやセクハラなどに関して、古い価値観を持ったままであると大きな問題に結びつきます。管理者研修を実施して、不適切な言動を防止します。

コミュニケーション機会を増やす

人間関係の問題は、コミュニケーション不足に起因することもよくあります。施設側と職員が職務について話し合う公式の機会を、月に1回設けるなど、施設運営者から、コミュニケーション機会を増やすように働きかけるだけで問題が解決することもあります。

介護業のメンタルヘルス対策2:業務面

職員が、「仕事量が過大である」と感じている問題に対しては、施設運営、業務管理の効率化を図ることが最大のポイントです。

業務工程を切り分けて、厳密な工程管理を行う

業務工程を切り分けて、どの工程にどれくらいの工数がかかり、どれくらいの人員が必要なのかを測定します。その上で、過不足のない人員を割り当てることが、適正な業務量管理の基本となります。

ロボットやICTの活用も

最近では、介護ロボットや、見守りシステムなどのICT活用も増加しています。これらの機器やシステムを導入することで、職員の業務負担を軽減することも、メンタルヘルス対策になります。

給与以外の待遇を向上させることに注力する

先に述べた調査で、ストレス要因の3位には、「昇進、昇給の問題」(35.4%)が挙げられていました。

介護業は、介護報酬が定められ、人員基準など様々な規制もあることから、同じ施設で売上を何倍にも伸ばしたり、利益率を大幅にアップさせたりすることは、そもそも不可能に近いビジネスモデルです。そのため、職員の給与を大幅にアップさせることも困難です。
だからこそ、サービス残業をさせない、業務中の休憩時間や有給休暇がきちんと取れる、といった給与以外の待遇面での充実を図ることが重要です。
そのためにも、業務工程を管理して、無駄な労働が発生しないようにすることが前提になります。

介護業のメンタルヘルス対策3:メンタル不調の社員がいる場合

施設が様々な対策を講じていたとしても、職員のメンタル不調を100%防ぐことは不可能です。では、メンタル不調を感じている職員に対して、どのように対応すればいいのでしょうか。

ストレスチェックを実施する

記事冒頭で触れたストレスチェックを実施すると、メンタル不調を早期に、あるいは、その予備軍の段階で発見でき、対処がしやすくなります。
現在、ストレスチェックの実施が義務付けられているのは、常時50名以上の労働者を使用する事業場です。介護業においては、50名未満の施設が大半でしょう。しかしストレスチェックの実施はメンタルヘルス対策として効果があり、たとえ法的な義務がなくても、実施をしたほうが良いでしょう。

複数施設があれば施設異動

メンタル不調の原因の多くは「職場の人間関係」であるため、もし複数施設を運営する事業者であるなら、メンタル不調の職員には配置転換で、別施設に移動してもらうことは良い方法です。
また、施設の運営方針とあわない独自の「介護観」を持ち、それを他の職員にも押しつけようとする古参職員がいる場合は、研修などにより、その言動を修正してもらうように指導しましょう。

産業医を活用する(地域産業保健センターへ相談)

労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う医師が、産業医です。産業医については、常時使用する労働者が50名以上の事業場では、1名を選任することが義務付けられています。
しかし、その基準に満たない施設でも、地域産業保健センターに登録して相談すれば、無料産業医を利用することができます。ストレスチェックの実施と合わせて、産業医の活用を検討しましょう。

地域産業保健センター

まとめ

人員配置基準が定められている介護施設において、メンタルヘルス対策をおろそかにしているばかりに、職員が離職してしまうことは、大きな損失です。
適切なメンタルヘルス対策を講じることは、施設にとって必要な投資であることを認識して、しっかりと取り組んでください。

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沓澤翔太氏の顔写真

監修

沓澤翔太(くつざわしょうた)

株式会社船井総合研究所 地域包括ケア支援部 マネージング・ディレクター
デイサービス、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど介護事業所に対して、新規開設、収支改善、業務改善などのコンサルティングを実施。著書『人が集まる! 定着する!明るい介護職場づくり』(自由国民社)他。

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記事執筆

中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営

全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報はFacebookにてお知らせいたします。

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