コラム

2023.02.08 06:00

製造業のメンタルヘルス対策 製造業特有のストレス要因と対処法を解説

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製造業の若手育成&社員のメンタルヘルスを守るために必要なことチェックリスト

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近年、大企業の製造現場の海外進出は進みましたが、それでも中小の製造業が経済を支えている地域も少なくありません。

多くの地域で中小の製造業は、比較的幅広い労働者を受け入れ、雇用の受け皿になっています。しかし、その反面、製造業への就業者が入社前に抱いていたイメージと入社後の業務のギャップなどから、ストレスを抱えてしまうケースも多く見られます。

実は、製造業は、他の産業と比べてストレス度が高い業種であり、メンタルヘルス対応が強く求められています。
本記事では、製造業におけるメンタルヘルス対策の基本について解説します。

製造業はストレス度が高い業種

企業から請け負ってストレスチェックサービスを提供している民間企業は多数あり、調査結果の統計データを公表しています。調査会社によって多少の差はありますが、どの調査においても、製造業のストレス度の高さはおおむね1位~2位となっており、メンタルヘルス上の問題が生じる危険度が高い業種として位置付けられています。

また、厚生労働省の「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)」の「過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合」という調査項目を見ると、製造業はその割合が15.9%になっています。一方、全産業では9.2%なので、ここでも製造業ではメンタルヘルス問題の発生率が高いことが示されています。

※出典:厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)」

なお、一口に製造業といっても、自動車メーカーなどの本社に勤める人と、下請けや孫請けとして部品を製造する中小企業に勤める人、また、派遣労働や請負労働で期間工などとして工場勤務する人とでは、働き方も、ストレスの要因も大きく異なるでしょう。また、自社ブランド製品を消費者に直接販売している企業と、BtoB事業のみを行っている企業とでも、業務のあり方は大きく異なります。
本記事では、主に大手企業などからの受託により生産を行う中小企業を対象に考えていきます。

製造業でのメンタルヘルスの問題が出る理由

製造業全般で、従業員の受けるストレス度が高く、メンタルヘルス問題が発生しやすい理由は、主に次の3点だと思われます。

厳しいQCD(品質、費用、納期)管理が求められる

いわゆる下請けの製造業においては、モノ作りの基本3要素といわれるQCD(品質、費用、納期)のいずれにおいても、常に高い水準が求められ、改善が要求されています。高度な品質の製品を、不良の発生なく、短納期で納品することが求められ、しかも価格はなるべく抑えなければなりません。

現場で働く従業員は、納期や費用について決定する権限は与えられておらず、命じられた納期で、ミスのない製造を続けなければなりません。
そして、万一、不良品を納品してしまう問題が発生すると、発注元企業の製造ラインが止まってしまい、納品した下請け企業が駆けつけて対応をしなければならないなどの大問題となります。そのプレッシャーは従業員に強いストレスを与えます。

身体的な過重労働、不規則な長時間労働

品質管理を心がけていても、ミスによる不良の発生などのトラブルを100%防止することは、現実的には不可能です。

製造工程においてなんらかのトラブルが発生した、再生産などで納期に間に合わせるため、など長時間の残業や休日出勤が必要となることもあります。そういったトラブルはいつ起きるかわからないため、想定外の長時間労働となることもあるでしょう。これがストレス要因となります。
製造の内容によっては、長時間労働が過度な肉体的疲労をもたらします。休んでもなかなか疲れが取れないといった状態があれば、メンタルの不調に結びつくでしょう。

顧客の顔が見えず、感謝される機会がない

たとえば、飲食やサービスなど直接顧客に触れる多くの業種では、製品やサービスの提供者に対して、顧客が満足すれば、「ありがとう」などと感謝の意を伝えられることがあります。それは従業員に、金銭的な報酬とは違った精神的な喜びを与えてくれるでしょう。しかし、製造業では、厳しいQCDの要求を達成したとしても、発注元企業ではそれが当たり前のことであると考えているため、特別に感謝されるということはありません。精神的な喜びを得られる機会が少ないことは、ストレスにつながります。

入社前と入社後のギャップが大きい

いわゆる営業会社と呼ばれるような会社での営業業務には、厳しい精神的なプレッシャーがかかりますが、そういう仕事に就く人はそれが最初からわかっているため、その仕事の厳しさにより、ストレスを感じることは少ないのです。一方、中小の製造業では、比較的「ルーチンワーク」の、作業的な業務を想定して入社する人が多く、それに対して、思いのほか高度な創造性や技術が必要な業務が求められることがあり、そのギャップがストレスになることもよくあります。

製造業でメンタルヘルスの問題が発生することのリスク

製造業で従業員にメンタル不調が発生することは、経営上における種々のリスクをもたらします。

人材不足

生産年齢人口の減少が続いていることを背景に、大企業は別として、中小の製造業では優秀な人材をコンスタントに採用することが非常に難しくなっています。メンタル不調により、休職、退職をする社員が出ることは、人材不足による業務の停滞を招く要因となります。

不良品生産、歩留り低下などによる損失

メンタル不調の状態で仕事をしていると、判断力や注意力が低下するため、ミスを起こしやすくなります。結果として不良品の生産、歩留り低下などが生じて、損失につながるリスクがあります。
製造の種類にもよりますが、最悪の場合は、労災事故にもつながりかねません。

未払い残業代請求、パワハラ訴訟など

メンタル不調の要因が、長時間労働、パワハラ的な指導などの事象であった場合は、メンタルヘルス問題によるリスクとは別に、その事象そのものによるリスクが顕在化する恐れがあります。たとえば、長時間の残業に対してきちんと残業代を支払っていなければ未払い残業代を過去に遡って請求されたり、パワハラに対する損害賠償を請求されたりといったことです。

こういった問題はそもそもあってはなりませんが、現在は是正されていても、過去にそういう問題があったとしたら、社員のメンタル不調をきっかけにして、一気に顕在化することもあります。

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製造業のメンタルヘルス対策1:業務面

では、従業員のメンタルヘルスのために、どのような対策を取ればいいのでしょうか。
どんな業種でも、長時間労働は非常に大きなストレスの要因となりますが、製造業の場合、身体的にも大きな負担がかかるため、過度な疲労に起因してメンタルに悪影響を及ぼすことが考えられます。

まず、身体の疲労に対する配慮や管理が実施されていないのなら、すぐにでも採り入れましょう。具体的には、残業時間を厳密に管理して、一定レベル以下を厳守する、定期的に短時間の休憩時間を取る、就業前後に全員でストレッチや体操をするといったことです。

残業時間の厳密な管理と削減のために工夫は必須

時には想定外のトラブルなどが生じることはどんな企業でもありますが、常時残業が多い企業は、そもそも非効率で無駄の多い業務を行っていることもよくあります。

業務の無駄を減らすには、生産管理の全体、引いては受注状況の全体を見直さなければならず、会社の経営戦略の根幹と関係するため、簡単に実現できることではないかもしれません。どのような製造内容の企業なのかによっても異なりますが、一般的には、製造アイテム数の見直しや、段取り替えの効率化などが、無駄を省くポイントになります。

製造業のメンタルヘルス対策2:組織、制度面での対策

製造業においては、古い職人的な気風が残っている会社もよくあります。そこには良い面もありますが、オープンなコミュニケーションが取りにくく風通しが悪い人間関係になるといった、悪い影響を及ぼすこともあります。

特に問題なのは、若手社員が社内の悪い面を感じていても、上司や経営層にそれを伝えることができなかったり、伝えても採り上げてもらえなかったりする場合です。そうなると、若手社員のストレスはたまる一方になり、メンタル不調の要因になります。

ストレスチェックの実施

まず、従業員がどれくらいストレスを感じているかを客観的に把握することが大切です。現在、労働安全衛生法で、常時使用する労働者(パート、派遣含む)が50名以上の事業場には、定期的なストレスチェックの実施が義務づけられています。義務づけられている企業では当然実施しなければなりませんが、50名未満の規模の企業においてもストレスチェックを実施し、その結果を踏まえて必要な対策を講じることは重要です。

メンタルヘルス相談窓口の設置

従業員本人がメンタル的な不調を感じたとき、直属の上司には相談しにくいということが、よくあります。相談できずに1人で悩んでいるうちに状態が悪化してしまっては大変です。そこで、直属の上司とは別に、メンタルヘルス専用の相談窓口を設けるといいでしょう。厚生労働省が運営する、メンタルヘルスのポータルサイト「こころの耳」では、メンタルヘルス相談窓口設置のガイドや、取り組み事例が掲載されているので参考にしてください。

こころの耳

コンプライアンス、ガバナンス研修の実施

徒弟制度に近いような技術継承をしている製造業であっても、昔の職人にあったようなパワハラ的な指導は絶対にNGです。2022年4月からは、中小企業においてもパワハラ防止法が施行されているため、パワハラが行われていれば単に離職を招くだけではなく、法令違反として訴えられるリスクも高まります。いうまでもないことですが、セクハラも絶対にNGです。

パワハラ防止法とは?定義やパワハラの具体例、企業がすべき対策を解説

その他、製造業においては、品質検査における不正などもなされることもまれにあります。
もしそういった、コンプライアンスに反する状況があるにもかかわらず、ガバナンス(企業統治)がしっかり機能していないなど、昨今いわれる「ESG経営」に反するような実態があれば、徹底的に改革することが必要です。ESGを意識することは、現代の中小企業経営の前提であり、メンタルヘルス対策、経営リスク管理の点からも重要です。

もしコンプライアンスを軽視するような文化風土が残っていると感じられるなら、経営者向けのガバナンス研修、管理職向けのコンプライアンス研修などを適宜実施しましょう。

製造業のメンタルヘルス対策3:メンタル不調の社員がいたら

ストレスチェックや本人からの申し出、あるいは周囲の人の気づきなどにより、メンタル不調の社員が顕在化したときには、すぐに対応を取らなければなりません。最悪なのは、経営トップが、社員のメンタル不調を「気のもちようだから」などと軽く考えてなんの対応も取らないことです。

すぐにできる対策としては、メンタル不調の従業員に与える仕事量を減らして、精神的、身体的な負荷を減らすことです。
それでも改善しなかったり、症状が比較的重い場合は、必要に応じて、配置転換または休職などの対応を取る必要もあります。

産業医を活用する(地域産業保健センターへ相談)

社員のメンタル不調の状況を判断し、対応策を考えるにあたっては、産業医などの専門家に相談しながら進めた方がいいでしょう。

常時使用する労働者が50名以上の事業場においては、安全管理者、衛生管理者と並んで、産業医の選任が必要となります。一方、社員が50名以下の会社は、法定の義務がないので、産業医を利用したことのない会社が大半でしょう。

労働者が50名未満の小規模事業者は、独立行政法人 労働者健康安全機構が運営する「地域産業保健センター」に登録することにより、一定の範囲内で無料の産業保健サービスを受けることができます。
メンタルヘルス対策、作業環境管理、作業管理等状況に即した労働衛生管理など、総合的な助言・指導を受けることもできるので活用を検討してみましょう。

地域産業保健センター

まとめ

身体的な怪我や疾病に比べて、メンタルの不調はどうしても軽視されがちです。しかし、それを軽視して放置しておくと、重大な結果をもたらす恐れもあります。それに対してなんの予防策や対策も取らないことは、経営上の大きなリスクです。ぜひ、本記事を参考に、できる取り組みから着手してください。

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鶴田隼人氏の顔写真

監修

片山和也(かたやまかずや)

株式会社船井総合研究所 ものづくり支援室/DX開発推進室 ディレクター
上場企業から中堅・中小企業まで幅広くコンサルティングの実績を持つ。主な著書に「技術のある会社がなぜか儲からない本当の理由」(KADOKAWA)他、著作は優に10冊を超える。経済産業省登録 中小企業診断士。

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記事執筆

中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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