コラム

2022.03.15 06:00

パワハラ防止法とは?定義やパワハラの具体例、企業がすべき対策を解説

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パワーハラスメント防止法(以下「パワハラ防止法」)とは、職場におけるパワーハラスメント防止対策を事業主に義務付けた法律です。2020年6月のパワハラ防止法施行ともに、大企業は法対応措置が義務付けられていましたが、中小事業主は努力義務でした。しかし、今年2022年4月1日から中小企業を含む全企業が「パワハラ防止法」の義務化対象となりました。つまり今まで対策をしていなかった中小企業は、この法令対策が必要なのです。

パワハラ防止法とは

2019年の第198回通常国会において「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、これにより「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下「労働施策総合推進法」)が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました

併せて、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法においても、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る規定が一部改正。今までの職場でのハラスメント防止対策の措置に加えて、相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止や国、事業主及び労働者の責務が明確化されるなど、防止対策の強化が図られ、2020 年6月1日から施行されました。

そして本年2022年4月1日から、中小事業主においてもパワーハラスメントの雇用管理上の措置義務について義務化されます。対策を講じていない場合は、行政の勧告や指導の対象となります。従わない場合は企業名が公表される場合があります。事業主の方は、パワーハラスメント防止対策について必要な措置を講じる必要があるのです。

また、働く人自身も、上司・同僚・部下をはじめ取引先等仕事をしていく中で関わる人たちを、お互いに尊重しあい皆でハラスメントのない職場にしていく必要があります。
法令の中小企業の定義は下記の通りです。

法令の「中小企業」の定義。小売業は、①資本金の額又は出資の総額が5,000万円以下、②常時使用する従業員の数50人以下。サービス業(サービス業、医療・福祉等) は、①資本金の額又は出資の総額が5,000万円以下、②常時使用する従業員の数が100人以下。卸売業は、①資本金の額又は出資の総額が1億円以下、②常時使用する従業員の数が100人以下。その他の業種(製造業、建築業、運輸業等上記以外の全て)は、①資本金の額又は出資の総額が3億円以下、②常時使用する従業員の数が300人以下。出典:厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)『職場におけるパワーハラスメント対策が 事業主の義務になりました!』2022年1月、2ページ

職場におけるパワーハラスメントの定義

職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる、
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
③ 労働者の就業環境が害されること
これら①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

パワーハラスメントの3つの要素について図解する画像。詳細は本文を参照。

一方で客観的にみて、業務上必要であり、またその業務の範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない点についても注意が必要です。

ここでの「職場」とは、事業主(=経営者)が自社の働き手(=従業員)が業務を行う場所です。従業員が通常就業している場所以外の場所であっても、従業員が業務を行う場所であれば「職場」に含まれます。勤務時間外の「懇親会」等、社員寮や通勤中などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当します。パワーハラスメントの対象者は、従業員全員が対象者なのです。

また「従業員」とは正規雇用労働者のみならず、パートタイム従業員、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、経営者が雇用する全ての従業員をいいます。また、派遣従業員については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する従業員と同様に、措置を講ずる必要があります。2019年に改正された「労働施策総合推進法」において、職場におけるパワーハラスメントについて経営者に防止措置を講じることを義務付けています。併せて、経営者に相談したこと等を理由とする不利益取扱いも禁止されています。

<労働施策総合推進法(抄)>
(雇用管理上の措置等)
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
出典:<労働施策総合推進法(抄)> (雇用管理上の措置等) 第30条の2https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=341AC0000000132

「職場」と「対象者」の定義について図解する画像。詳細は本文を参照。

優越的な関係を背景とした言動

「優越的な関係を背景とした言動」とは、業務を行うに当たって、その言動を受ける従業員が、パワーハラスメント行為を行う者(以下「行為者」)に対して抵抗や拒絶することができない状況で、実際に行われる言動や行為のことを指します。

例えば、経験豊富な上司から新入社員に向けての叱咤激励のつもりで発した言動が、新入社員に社会人として問題行動があった場合であっても、上司が新入社員の人格を否定するような言動など(=優越的な関係を背景とした言動)をおこなった場合は、当然、職場におけるパワーハラスメントに当たる可能性が高いのです。

例:「優越的な関係を背景とした言動」に該当する可能性がある事例の一部です。
①業務上明らかに必要性のない言動
②業務の目的を大きく逸脱した言動
③業務を行うための手段として不適当な言動
④その行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を 超える言動 など

業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、現在のパワーハラスメント防止を強化している令和の世相やSDGs目標達成を目指す社会環境の中で、行為者のその言動が明らかに業務上必要性がない、又はその態様が客観的にみて適正を超えているものを指します。
例えば、上司から部下に向けて指導のつもりで発した言動、部下の問題行動があった場合であっても、上司が公衆の面前で執拗に感情の赴くままに長時間怒り続ける、何度も執拗に罵倒する言動など(=業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動)をおこなった場合は、当然、職場におけるパワーハラスメントに当たる可能性が高いのです。

例:「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」に該当する可能性がある事例の一部です。
①業務上明らかに必要性のない言動
②業務の目的を大きく逸脱した言動
③業務を行うための手段として不適当な言動
④その行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

労働者の就業環境が害される

「労働者の就業環境が害される」とは、その言動により、従業員が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等のその従業員が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します
この判断に当たっては、「平均的な従業員の感じ方」、つまり、「同様の状況でその言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当です。

言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回でも就業環境を害する場合があり得ます。
例えば、上司が部下に会議の資料を作らせる指示を行い、出来上がってきたその資料の内容が上司の期待値より低くいことで、上司が部下の担当者に向かって資料の修正点を告げるだけで終わらず、本人の人格までも否定する言動を発してしまった。その影響で、その部下本人のメンタル面においてその後支障が生じ、その部下が業務遂行が難しい状態(業務中の体調不良・遅刻・早退・残業の過多・めまいや躁鬱などの発病・出社拒否・ある場所の中に引きこもり状態が続くなど勤務状態に変化が生じる)になってしまうケースなどが、パワーハラスメントの事例として挙げられます。

代表的なパワーハラスメントの具体例

職場におけるパワーハラスメントの状況は多様ですが、代表的な言動の類型としては次の6つの類型があり、類型ごとに典型的にパワーハラスメントに該当、又はしないと考えられる例です。これらは一例であり限定ではありません。また個別の事案の状況等によって判断が異なることもありえる点に注意してご確認ください。

身体的な攻撃

代表的な言動 の類型 該当すると考えられる例 該当しないと考えられる例
(1)身体的な攻撃
(暴行・傷害)
① 殴打、足蹴りを行う
② 相手に物を投げつける
誤ってぶつかる

精神的な攻撃

代表的な言動 の類型 該当すると考えられる例 該当しないと考えられる例
⑵ 精神的な攻撃
(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
① 人格を否定するような言動を行う。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む。(★注1)

② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う

③ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う

④ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等をその相手を含む複数の労働者宛てに送信する
① 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする

② その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者 に対して、一定程度強く注意をする

★注1: 相手の性的指向・性自認の如何は問いません。また、一見特定の相手に対する言動ではないように見えても、実際には特定の相手に対して行われていると客観的に認められる言動は含まれます。性的指向・性自認以外の従業員の属性に関する侮辱的な言動も、職場におけるパワーハラスメントの3つの要素を満たす場合には、これに該当します。

人間関係からの切り離し

代表的な言動 の類型 該当すると考えられる例 該当しないと考えられる例
⑶ 人間関係からの切り離し
(隔離・仲間外し・無視)
① 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする

② 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる
① 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施する

② 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせる

過大な要求

代表的な言動 の類型 該当すると考えられる例 該当しないと考えられる例
⑷ 過大な要求
(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる

② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま 到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する

③ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
① 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる

② 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、その業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる

過小な要求

代表的な言動 の類型 該当すると考えられる例 該当しないと考えられる例
⑸ 過小な要求
(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事 を命じることや仕事を 与えないこと)
① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる

② 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない
労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する

個への侵害

代表的な言動 の類型 該当すると考えられる例 該当しないと考えられる例
⑹ 個の侵害
(私的なことに過度に 立ち入ること)
① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする

② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、その労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する(★注2)
① 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリング を行う

② 労働者の了解を得て、その労働者の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す

出典:厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)『職場におけるパワーハラスメント対策が 事業主の義務になりました!』2022年1月、5ページ
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf
★注2:プライバシー保護の観点から、⑹②のように機微な個人情報を暴露することのないよう、従業員に周知・ 啓発する等の措置を講じることが必要です。

パワハラ防止法に罰則規定はない

パワハラ防止法は違反しても罰則規定がありません、しかし厚生労働大臣による助言・指導に従わなかった場合は、企業名が公表される場合があります。もちろん、刑法や民事法の対象になるような行為は、これらの法律で裁かれることになるのは従来通りです。

職場におけるパワーハラスメントを含む各種ハラスメントは、個人としての尊厳や人格を不当に傷つける、行ってはならない行為です。
また、これらハラスメントが発生したことが原因で発生する問題として、従業員の意欲の低下などによる職場環境の悪化や職場全体の生産性の低下、従業員の健康状態の悪化、休職や退職だけにとどまらず、これによる事業全体の生産性低下、他従業員の業務意欲の低下、さらなる事業生産性の低下、経営的な損失の増加、そして経営状況のさらなる悪化等、様々な問題が次から次へと繋がるマイナスの連鎖が多数生じることになるのです。

パワハラ防止法で義務付けられた企業がすべき4つの対策

職場におけるパワーハラスメントを防止するために、経営者が雇用管理上講ずべき措置として、主に以下の措置が厚生労働大臣の指針に定められています。

経営者は、これらの措置について必ず講じなければなりません。 派遣従業員に対しては、派遣元のみならず、派遣先事業主も措置を講じなければならないことも注意が必要です。

「経営者が雇用管理上講ずべき措置」とは、以下の4つの対策です。

1.経営者の方針の明確化及びその周知・啓発
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
4.併せて講ずべき措置 (プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

経営者が雇用管理上講ずべき措置について図解する画像。詳細は本文を参照。

次に各項目別に解説しています。

1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」では、①パワーハラスメントに関する内容や指針の明確化を行い職場で働く従業員に周知し、啓発活動を行うこと、また②行為者に対しては社内規定に準じて厳格な措置を行うことがあげられます。

経営者の方針等の明確化及びその周知・啓発の取組例について図解する画像。詳細は本文を参照。

①パワーハラスメントの発生の原因や背景には、従業員同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題があると考えられます。このため、これらを幅広く解消していくことが、職場におけるパワーハラスメントの防止の効果を高める上では重要です。

取組例:就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に、経営者の方針を規定し、その規定と併せて、パワーハラスメントの内容及びパワーハラスメントの発生の原因や背景等を従業員に周知・啓発すること等

②「対処の内容」を文書に規定することは、パワーハラスメントに該当する言動をした場合に具体的にどのような対処がなされるのかをルールとして明確化し、従業員に認識してもらうことによって、パワーハラスメントの防止を図ることを目的としています。具体的なパワーハラスメントに該当する言動と処分の内容を直接対応させた懲戒規定を定めることのほか、どのようなパワーハラスメントの言動がどのような処分に相当するのかについて判断要素を明らかにする方法も考えられます。

取組例:
パワーハラスメントに係る言動を行った者は現行の就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、それを従業員に周知・啓発すること等

2.相談に応じ、適切に対応する必要な体制整備

「相談に応じ、適切に対応する必要な体制整備」では、①相談窓口をあらかじめ定め、従業員に周知することや、②相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることなどの体制整備が必要です。

相談に応じ、適切に対応する必要な体制整備について図解する画像。詳細は本文を参照。

①相談窓口をあらかじめ定め、従業員に周知することです。

取組例:
相談に対応する担当者をあらかじめ定めること、相談に対応するための制度を設けることや外部の機関に相談への対応を委託すること等
「窓口をあらかじめ定める」とは、窓口を形式的に設けるだけでは足りず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることを指しています。

②相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることです。 パワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、パワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応することです。

取組例:相談窓口担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、窓口担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みを構築すること、相談窓口担当者が相談を受けるマニュアルを、事前に作成しておくこと。これに基づき相談対応することや、相談窓口の担当者向けの相談対応研修を行うこと等

相談窓口担当者が、相談(※)の内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。相談窓口においては、被害を受けた従業員が萎縮して相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況やその言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、パワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、パワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応することです。
※ 言動を直接受けた従業員だけでなく、それを把握した周囲の従業員からの相談も含まれます。

3.事後の迅速かつ適切な対応

「事後の迅速かつ適切な対応」では、
①事実関係を迅速かつ正確に確認すること
事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
事実関係の確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うことや、
④再発防止に向けた措置を講ずることなどの整備が必要です。

事後の迅速かつ適切な対応の取組例について図解する画像。詳細は本文を参照。

①事実関係を迅速かつ正確に確認することです。
まず最初に、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認することです。

取組例:相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること。相談者の心身の状況やその言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮すること。相談者と行為者の間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が 十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること等

事案が生じてから、誰がどのように対応するのか検討するのでは対応を遅らせることになります。迅速かつ適切に対応するために、相談窓口と個別事案に対応する担当部署との連携や対応の手順などをあらかじめ明確に定めておく必要があります。

事実確認は、被害の継続、拡大を防ぐため、相談があったら迅速に開始が必要です。事実確認に当たっては、当事者の言い分、希望などを十分に聴くことです。相談者が行為者に対して迎合的な言動を行っていたとしても、その事実が必ずしもパワーハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないことに注意する必要があります。パワーハラスメントがあったのか、又はパワーハラスメントに該当するか否かの認定に時間を割くのではなく、問題となっている言動が直ちに中止され、良好な就業環境を回復することが優先される必要があります。

事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うことです。
職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に 対する配慮の措置を適正に行う必要があります。

取組例:事案の内容や状況に応じ、以下の対応を行うこと。事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること。労働施策総合推進法第30条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずること等

被害者に対する適正な配慮の措置には、取組例のほか、職場におけるパワーハラスメントにより休業を余儀なくされた場合等であってその従業員が希望するときには、本人の状態に応じて、原職又は原職相当職への復帰ができるよう積極的な支援を行うことも含まれています。


事実関係の確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと
職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合には、速やかに行為者に対する 措置を適正に行うことです。

取組例:就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるパワーハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。併せて事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること等

パワーハラスメントの事実が確認されても、往々にして問題を軽く考え、あるいは話が広がるのを避けるため内密に処理しようと考え行動し、個人間の問題として当事者の解決に委ねようとする事例がみられます。しかし、こうした対応は、問題をこじらせ解決を困難にすることになりかねません。

適正な解決のためには、相談の段階から、経営者が真摯に取り組むこと、行為者への制裁は、公正なルールに基づいて行うことが重要です。行為者に対して懲戒規定に沿った処分を行うだけでなく、行為者の言動がなぜパワーハラスメントに該当し、どのような問題があるのかを真に理解させることが大切です。

④再発防止に向けた措置を講ずること
改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること。なお、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。 ※ 協力を求められた経営者には、これに応じる努力義務があります。

取組例:職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の経営者の方針及び職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配付等すること。従業員に対して職場におけるパワーハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること等

職場におけるパワーハラスメントに関する相談が寄せられた場合は、たとえパワーハラスメントが生じた事実が確認できなくても、これまでの防止対策に問題がなかったかどうか再点検し、改めて周知を図るなどの整備が重要です。

4.併せて講ずべき措置

併せて講ずべき措置の取組例について図解する画像。詳細は本文を参照。

①相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知すること
職場におけるパワーハラスメントに関する相談者・行為者等の情報はその相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又はそのパワーハラスメントに関する事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を従業員に対して周知することです。このプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれます。

取組例:相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、そのマニュアルに基づき対応すること等

職場におけるパワーハラスメントの事案についての個人情報は、特に個人のプライバシー保護に関連する事項です。経営者は、その保護のために必要な措置を講ずるとともに、その旨を従業員に周知し、従業員が安心して相談できるようにする必要があります。

②経営者に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度を利用したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、従業員に周知・啓発すること

従業員が職場におけるパワーハラスメントに関し、経営者に対して相談をしたことや、事実 関係の確認等の経営者の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決援助の求め、調停の申請を行ったこと又は都道府県労働局からの調停会議への出頭の求めに応じたこと(以下「パワーハラスメントの相談等」)を理由として、解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、従業員に周知・啓発すること。

取組例:就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に、従業員が職場における パワーハラスメントの相談等を理由として、その従業員が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、従業員に周知・啓発すること。社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報啓発のための資料等に、従業員がパワーハラスメントの相談等を理由として、その従業員が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、従業員に配付すること。

従業員が実質的にパワーハラスメントの相談等をしやすくするために、パワーハラスメントの相談等を理由とする不利益な取扱いされない旨を定め、従業員に周知・啓発することが必要です。

企業がパワハラ防止法に対応する際のポイント

「企業がパワーハラスメント防止法に対応する際のポイント」は、
●経営者が率先して取り組むこと
●就業規則を整備すること
●定期的に社内アンケートを実施すること
●社内研修を繰り返し行うことです。

経営者が率先して取り組む

パワーハラスメント対策は、制度を整えただけで完成するものではありません。また、有効な対策は会社ごとに異なるものであり、法律の内容に沿って、自社の実情を踏まえて対策を充実させる努力が必要です。周知・啓発は、一度行えば良いというものでなく、社内風土に根付かせるために、経営者が率先して社内会議やHP、定期的な会議、社長からのメッセージというようなメール配信などSNS活用などを通じて、継続的な活動を行い取り組み続けることが必要です。

経営者が率先して取り組むことが必要。社内会議・ホームページ・メール配信・SNS活用など継続的に活動する。

就業規則を整備する

就業規則を見直し、パワハラ禁止規定を明確に定める方法があります。

取組例:「業規則に委任規定を設けた上で、詳細を別規定に定める例」
解雇・パワーハラスメント発生時の休職や補償について、就業規則に定めたうえで別途詳細を別規定で定めることができます。このように具体的に定めておくと、万が一事案が発生した場合には、この規定に準じて対応をスムーズに進める事が可能となります。

取組例:「業規則に明記されていない事項をリーフレットなどで周知する例」
就業規則の懲戒規定が定められており、その中で職場におけるパワーハラスメントに該当するような行為が行われた場合の対処方針・内容などがすでに読み込めるものとなっている場合には、職場におけるハラスメントが適用の対象となることをパンフレット、リーフレット、社内報、社内ホームページなどで都度継続的に周知を行うと措置を講じたことになります。

取組例:「どのような言動がどのような処分に相当するかを記載した懲戒規定の例」
就業規則の懲戒の事由に、具体的なパワーハラスメントの言動を列挙した上で、それらを懲戒の種類と対応させる形で定めて、周知させる方法もあります。

定期的に社内アンケートを実施する

社内アンケートなどで従業員の意識やパワーハラスメントの実態を把握し、社内の対策について意見を聞くことは、職場におけるパワーハラスメントの未然防止や働きやすい職場環境の整備に役立ちます。定期的なパワーハラスメントに関する社内アンケートは、直近の実態把握やパワハラ抑止に有効であり、その時点での課題の把握により具体的な対策が見えてきます。

社内アンケートを直近の実態把握・パワハラ防止に役立てる。

社内研修を繰り返し行う

周知・啓発は、一度行えば良いというものでなく、定期的に研修を実施することが重要です。
具体的には、
①管理職層を中心に階層別に分けて研修を実施するだけでなく
②正規雇用従業員、パート、アルバイト、派遣従業員などの非正規雇用従業員も対象に含めて研修を実施する
③ 新入社員の入社時期、異動の多い時期に合わせて研修を実施する
などにより全ての従業員に対して周知を図る工夫を継続的に行うことでパワーハラスメントの防止効果が高まります。

社内研修を繰り返し行う。詳細は本文を参照。

社内ネットワーク上に周知文書を掲載する例も見られますが、掲載されていることを従業員が知らないということであれば周知しているとは言えないのです。掲載や更新の都度、その旨をメール等で全従業員に周知することが必要です。

まとめ

パワーハラスメント防止法(以下「パワハラ防止法」)は、今年2022年4月1日から中小企業も「パワハラ防止法」の義務化対象となることで、中小企業で働く全従業員が対象となる法律です。

職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
③ 従業員の就業環境が害されること
の①から③までの3つの要素を全て満たすもの
を指します。

中小企業に必要なパワハラ防止法対策は、厚生労働大臣の指針に準じて、「経営者が雇用管理上講ずべき措置」の4つの対策を行うことです。それは、
1.経営者の方針の明確化及びその周知・啓発
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
4.併せて講ずべき措置 (プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

また、企業が職場でパワーハラスメント発生を防止する際のポイントは、
●経営者が率先して防止対策に取り組みパワーハラスメント発生防止の社内風土構築に努めること、
●就業規則を整備し周知徹底すること、
●定期的に社内アンケートを実施して現状の職場状況を把握すること、
●社内研修を繰り返し行いパワーハラスメント発生を未然に防ぐ対策を継続すること
があげられます。

そして、もしパワーハラスメントなどのハラスメント事案が発生してしまった場合には、迅速な措置を行い発生内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への即時相談対応の実施、著しい迷惑行為を行った者(ハラスメント行為者)に対する社内規定に沿った的確で相応の具体的な対応が必要です。
また、社内外への対応が必要な場合には、被害者が一人で対応させない等の取組みを、経営者が率先して的確に行うことが重要です。

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執筆者

仲田 香織(なかだ かおる)

東京都中小企業診断士協会城南支部所属。中小企業診断士、RPAアソシエイト、フラワーデザイナー。①企業診断、②海外進出・マーケティング等の経営相談、③各種補助金の申請支援、④新規市場・ダイバーシティ関連のWeb研修講師、⑤業界分析Web書籍の執筆などを通じて、多方面から企業支援活動を実施中。

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