コラム

2021.11.24 06:00

福祉介護でも、もっと改善できる?業務効率化のためのICTツール

福祉介護でも、もっと改善できる?業務効率化のためのICTツール
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この記事に書いてあること

「福祉介護業」は国をあげてICT(Information and Communication Technology)の利用促進を推し進めている業種の1つです。

福祉介護業では提供したサービスについての記録や行政へ報告する書類が紙ベースであったり、連携する福祉事業所との連絡もFAXであることに代表されるように、電子化がなかなか進んでいないのは、介護現場で仕事をされている方、介護事業所を経営者されている方であればよくご存じかと思います。さらに、慢性的な人手不足を抱えており、「忙しい」ことが常態化している業種でもあります。

そこでポイントとなるのが「ICTを活用した業務効率化」です。

このコラムでは、福祉介護業において、業務フローごとにオススメの業務効率化ICTツールを紹介していきます。なお、今回はおもに「施設サービス」と称される入所サービスにフォーカスを当てていますが、居宅介護サービス等を運営されている方々にも参考になれば幸いです。

入所者募集・職員確保の業務効率化/利用者の満足度向上

現状

利用者側(おもにご家族)が入所施設を選ぶ際、地域包括支援センターの担当者や居宅介護支援事業所のケアマネジャーからのアドバイスは大きな判断基準となります。そのため、サービス提供側の営業方法としてはケアマネジャーなど、利用者側からの相談を受けることの多い担当者に日ごろから自社のサービスをアピールしておくことが有効です。ただ、そうであるからといって自社のHPは必要ない、ということではありません。

当然ながら、利用者側は自宅周辺の施設についてはネットを活用してある程度の目星はつけていますし、ケアマネジャーも、利用者側に情報提供する際、ネット検索も活用しているのが事実です。

また、介護制度が複雑なため、利用者にとっては各種サービスの違いが理解しにくいという事情もあってか、利用者側からは以下のような意見があります。

  • 調べた介護施設のHPがわかりにくい

  • 空いているのか、満床なのかわからない

  • 目当ての施設を調べたのに、その施設のHP内に系列施設がたくさん出てきて、結局どこを見ればいいのかわからない

HPの印象は自社サービスの印象に直結してしまうことには注意が必要です。さらに、利用者側、ケアマネジャー以外に施設のサイトを閲覧するのは求職者であることも忘れてはいけません。

情報提供に関するお悩みポイント

一方で、サービス提供者側は以下のような悩みを抱えていることが多いのではないでしょうか。

  • 入所者を増やしたいが、人員不足で増やせない

  • HPを作りたいが、そもそもHPの作り方がわからない

  • HPを外注で作ったため、情報更新も外注に依頼することとなり、手間がかかる

  • 施設サービス計画書(ケアプラン)の作成、プランの見直し、スタッフのシフト作成、 請求業務など、他に優先すべき仕事が多すぎて、HPがついつい後回しになってしまう

どういうツールがオススメか

ケアプランやシフトを効率的に作成して、HP関連の作業にあてる時間を捻出するなど、業務効率化を図る必要がありますが、このセクションでは「HPを簡単に作る・更新する」ことを念頭にHP作成・更新の効率化にフォーカスを当てます。最近では話題のAIでHPを簡単にしかも無料で作成できるサービスが出てきました。ただし、無料プランの場合、広告が表示されてしまう、自社のドメインをそのまま使用することはできない、などの制限があります。

オススメ業務効率化ツール

【Wix ADI】

無料HP作成の代表格といっても過言ではありません。HP作成には専門的な知識が必要、というイメージがあるかもしれませんが、ドラッグ&ドロップなど、視覚的に編集することが可能です。たくさんのテンプレートが用意されており、多様なデザインからお好みのHPを作成することができます。

「新着情報」、「スタッフ紹介」、「ブログ」、「お問合せフォーム」、「お客様の声」など、HPに必要な機能はあらかじめ用意されていますので、必要に応じて追加することも可能です。さらに、いくつかの質問に答えるだけで、AIが最適なデザインを提案してくれるというのが大きな特徴です。情報の更新、追加も管理サイトから簡単に行うことができます。

【その他】

Wix以外でも、ジンドゥーAIビルダーもいくつかの質問に答えるだけで、AIが最適なでサインを提案してくれるサービスを提供しています。

また、おりこうブログはHP作成機能を中心に各種サービスを提供していますが、作成したHPの内容から会社概要などのパンフレットを自動作成できることも大きな特徴です。導入時、導入後のサポート体制が整っていますので、安心してサービスを利用することができます。

今回はHP作成にフォーカスを当てましたが、現在ではケアプランをAIが自動作成するツールやシフト作成を効率化できるツールが各社からリリースされています。HP関連作業捻出のために、こういったサービスを導入するのも効果的でしょう。効率的な職場環境を整えることは求職者に対しても大きなアピールポイントとなります。

介護サービス周辺業務の効率化

現状

介護従事者の方は、利用者がなるべく自分らしい生活が送れるよう、またQOL(Quality of Life)を保てるよう尽力したい、と思っているにも関わらず、「介護以外」の仕事に多くの時間が割かれていると思っている方が多いのではないでしょうか。

全国老人福祉協議会が実施した調査によると、介護職員はトイレ介助と食事介助にそれぞれ業務時間の17%を使っている一方、書類作成には13%もの時間を使っていることがわかりました。

作成する書類は大きく分けて事業所が独自で作成するケア記録等の提供サービス関連書類と、行政が求める更新申請や請求等に関連する書類の2種類に分けられます。行政関係の書類は自治体によって異なり、自治体によっては100枚以上の書類作成が必要だったというアンケート結果もあり、さらに日々のケア記録も作成するとなると書類作成の負担は相当なものとなっています。

この問題は国も把握しており、文書の簡素化に関して議論を進めているのは皆さんがご存じの通りです。

一人当たり総計の職務時間のグラフ。トイレ介助が計17%、食事介助が計17%、書類作成・記録関係が計13%。

10施設249名入居者一人当たり総計の職務時間(出典:全国老人福祉協議会「全国老施協における生産性向上(業務効率化)に向けた取り組み」)

書類作成に関するお悩みポイント

サービス提供者側は以下のような悩みを抱えていることが多いのではないでしょうか。

  • ケア記録を作成するために、わざわざ事務所に戻る必要があり、時間や工数がかかる

  • 重複するような書類を何枚も書くことになり、残業が増えてしまう

  • 保管すべき書類が多すぎて、保管するスペースに困っている

  • 必要な書類を探し出すのに時間がかかり、正確性にもかける

どういうツールがオススメか

すでに述べてきたように、福祉介護業界の電子化が遅れている大きな要因は、紙ベースでの書類作成でしょう。そのため、この業務を電子化することが業務効率化の大きなポイントとなります。

オススメ業務効率化ツール

【ケアコラボ】

ケア記録に特化したクラウド型のICTツールです。介護従事者がスマホを使って、簡単にケア記録を作成することが可能です。FacebookやTwitterのように簡単に情報を共有できるシステムで、サービス利用者を中心に情報が記録され、テキスト以外に、動画や写真でもケア記録を保存する機能もあります。

ケアコラボの大きな特徴はあえて「請求」とは連動させていない点です。ケア記録と請求が連動しているシステムが一番効率の良いシステムと思われがちですが、請求に重きを置いてシステムを構築すると、請求には直接関係のないケア記録がそこから漏れ、情報が分断されることで、情報共有の面で非効率になるデメリットがあります。ケアコラボは「実績と請求は分けるべき」という方針で運営している分、効率的なケア記録ツールを提供しているといえます。

また、利用者の声を頻繁に反映していること(システムリリースから300回以上の改修を実施済)、初期費用無料・職員の人数分のみ月額制で費用が発生、という点も大きな特徴です。

【その他】

ケアコラボ以外に、介護記録システムNoticeも介護記録に特化したシステムを提供しています。

介護サービスの提供にあたっては、ケア記録の電子化以外にも、インカムを使った情報伝達の効率化、排泄予測デバイス、見守りセンサーを使った介護従事者の心理的・物理的負担を軽減する取り組みを実施している事業者も多くなってきました。

介護サービス評価見直しの業務効率化

現状

提供した介護サービスが利用者にとって最適なものであったか評価・見直しをするために、ほとんどの施設ではサービス担当者会議やケアカンファレンスを定期的に開催しています。

スタッフ同士が定期的にコミュニケーションを取ることで、利用者についての理解が深まり、より最適なケアプラン作成の手助けとなります。また、こうした取り組みはスタッフ同士の相互理解や新人育成・フォローアップの機会としても活用することができるでしょう。

一方で、多くの福祉介護施設では「業務マニュアル」が整備されていません。先輩から口頭伝承的に受け継がれてきたローカルルールもありますし、場合によっては担当者個人のマイルールが存在していることもあります。また、先のセクションでも触れた「ケア記録」が標準化されていないことも相まって、カンファレンス等のミーティングを開催した際、担当者間の認識相違が起こり、しかもそれが「公式化されたルール」によるものかの判断基準が存在しないため、有益なミーティングにならない、という事象も見受けられます。

情報共有に関するお悩みポイント

サービス提供者側は以下のような悩みを抱えていることが多いのではないでしょうか。

  • 人員不足や多忙により、ケアカンファレンスやケアプランの重要性が認知されていない

  • 申し送り、ケアカンファレンスで話し合ったことが実行されていない。また、話し合っていないことが実施されていて、それがあとで発覚する

  • 各担当で状況把握ができているのかもしれないが、情報が担当者で止まってしまい、共 有されていない

どういうツールがオススメか

課題に共通して見えてくるものは「人員不足による多忙」、「情報共有不足」です。各スタッフが日々の業務に追われ、ケア記録がおろそかになる、結果として情報共有もおろそかになり、仕事を抱え込んで多忙になる、といった悪循環も推測できます。

「仕事を抱え込むこと」は介護従事者の方々の強い責任感からくるものかもしれませんが、これは決して好ましい状態とは言えません。ケア記録のツールとも重なる部分はありますが、ここでは「標準化されたケア記録の作成」、「効率的な情報共有」、「業務の見える化」がポイントとなります。

オススメ業務効率化ツール

【ケアビューアー】

「介護現場の生産性を上げる」をモットーに、スマホを使用したケア記録の作成はもとより、ケアプラン、バイタルグラフ、申し送り事項などの共有もできるICTツールです。ケアビューアーで標準化したケア記録を作成することで、スタッフごとにまちまちだった業務を標準化することが可能です。標準化した書式でケア記録を作成することは業務の見える化にも繋がります。

ケアビューアーの大きな特徴は「情報共有」で、ビジネスチャットツールの「Chatwork」やビジネス版LINEである「LINE WORKS」とも連携することが可能で、担当者間での情報共有に優れています。ITツールが苦手、という職員の方でも「LINEならできる」という方は少なくないのではないでしょうか。

無料プラン、さまざまな有料プラン(費用は職員の数だけ月額制で発生)が用意されていますので、自社の状況に合わせた最適なプランを選択することが可能です。

【その他】

「情報共有」、「ケア記録作成の負担軽減」はICTツールが一番得意とする領域ですので、各社さまざまなサービスを提供しています。自治体によっては「地域包括ケアシステム」を導入し、多職種連携型の情報共有ツールとして地域の事業者がそのシステムに参加していることもありますので、自治体に確認してみるのも良いかもしれません。また、情報共有には人材育成の面も含まれますので、介護人材の育成に特化したサービスも存在します。

介護保険請求/労務管理の業務効率化

現状

介護施設の経理関係の仕事は多岐に渡ります。内容はそれぞれの事業所によって異なりますが、大きなウエイトを占めるのが、国保連への介護保険請求、利用者への請求、従業員への給与支払いです。

人手不足の影響によりこれらの業務は経理専任の事務員ではなく、現場の職員の方がいわば、二足の草鞋で対応されているケースも多いでしょう。特に、介護保険請求は施設やサービスの要件によって細かな条件が定められているうえ、毎月1~10日までに国保連に請求しなくてはならないという決まりがあるため、金額算出・請求業務には大きな負担がかかっています。しかも、介護保険請求の遅延は施設経営の根底に関わります。

最近では各社から介護請求ソフトがリリースされており、業務効率化が進められているところで、多くの事業者で介護請求ソフトが導入されています。もちろん、介護請求ソフトを導入せず、国保連の伝送システムを活用している事業者も多く存在します。

経理に関するお悩みポイント

サービス提供者側は以下のような悩みを抱えていることが多いのではないでしょうか。

  • 介護従事の空き時間に保険請求、給与計算を行うため、結局業務時間外に作業を行うしかない

  • 月末月初の業務量が多く、オーバーワークになってしまう

  • どういう基準で介護ソフトを選べばよいのかわからない

どういうツールがオススメか

業務効率化の面では介護請求ソフトか国保連の伝送システムを活用することは必須です。これらは報酬改定にも対応しているため、請求金額計算時の人為的なミスを削減できることが強みです。国保連の伝送システムは導入時以外の費用は発生しませんが、対応できるものは「請求」のみです。

一方、介護請求ソフトを導入する場合、定期的な費用は発生するものの、請求業務以外に、給与計算、ケア記録の作成、シフトの作成といった関連する機能も利用できるのがメリットです。介護請求ソフトは多数存在しますが、選定基準は下記が参考となります。

・クラウド型かどうか

インストール型の場合、インストールしたPCでしか作業ができません。万一、そのPCが故障した場合、作業が完全にストップしてしまいます。クラウド型であれば、どのPCでも作業が可能です。ちなみに、国保連の伝送システムはインストール型です。

・サポート体制が整っているか、サーバーはしっかりしているか

業界シェアによるところが大きいです。サポート体制、サーバー増強にはかなりの費用が発生するため、ある程度業界シェアを獲得している会社でないと提供できません。

オススメ業務効率化ツール

参考としていくつかの大手介護請求ソフトを記載します。

【カイポケ(居宅・通所・訪問)】

【ワイズマン】

【ほのぼのNEXT】

【まもる君クラウド】

まとめ

福祉介護業はICTツールをうまく活用することで大幅な業務効率化が期待できます。一方で、ツールの活用を好ましく思っていない従事者が一定数いることも事実です。ICTツールを導入したものの、現場で活用されず宝の持ち腐れになっている、という話は後を絶ちません。

既存の業務フローにメスを入れるのは大きな労力が必要となりますが、

  • なぜこのツールを導入するのか

  • ツールを活用することで職場環境が改善されること

  • 結果として、利用者の方々によりよいサービスが提供できるようになること

を丁寧に何度も説明し、従事者からの理解を得ることが重要です。そして、ツールを活用するための研修体制を整備することも必須となります。

また、導入したツールが100%自社の業務フローにマッチすることはありませんので、許容範囲内で業務フローをシステムに合わせることも必要になります。現状では、単一のツールで一気通貫に施設業務全体をカバーすることは難しいこともご留意ください。

ICTツールは導入することが目的ではありません。自社にとって、何が業務効率化において問題となっているのか、そのために何をする必要があるのかをしっかりと把握したうえで、一番好ましいと思えるツールを小グループから始めてみることをオススメします。

各業務フローにおける、業務効率化のポイントや最適なICTツールを「お役立ち資料」として掲載しております。そちらも是非参考にしてください。

清野洋司氏の顔写真

執筆者

清野 洋司

きづき経営コンサルティング代表。クロースカンパニー共同代表。東京都中小企業診断士協会城南支部所属、中小企業診断士。1983年生まれ。長年、中小の出版社に勤務し、販路開拓、企画営業、新規事業立ち上げ、社内ITツール導入など、さまざまな業務を経験し、2021年独立。現在では、経営相談、事業計画作成支援、M&A支援、セミナー講師など、さまざまな分野で活動している。専門は出版、印刷、医療関係。

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