コラム

2021.03.29 06:00

旧来の問題が加速した2020年度。2021年度に考えるべき戦略とは?

第8回 坂口孝則の今伝えたい経済トレンド
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執筆者

坂口 孝則

未来調達研究所株式会社所属。経営コンサルタント。コスト削減・原価・仕入れ等の専門家として企業向けコンサルティングや講演をおこない、日本テレビ「スッキリ」などテレビ・ラジオ等にも出演。著書は34冊を超える。近著に『未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019-2038』(幻冬舎刊)など。

コロナ禍は新たな問題を提示したか

数年前、忘年会スルーという言葉を聞いたときは衝撃的だった。私は会社員のとき同僚と飲みに行くのは苦手だったが、それでも忘年会と新年会くらいは参加した。それすらも断るとは……。実際に断る若手は多くなったように思う。

話は変わるようで変わらない。私は経営者に「今度、就職面接に来た学生に『うちは数ヶ月の売上がなかったらすぐに倒産するけど、それでも入社してくれるか』と質問したらどうでしょう」とアドバイスする。経営者たちは学生が正直に話してくれない、と不満を漏らすけれども、自分たちも事実を語ってはどうだろうか

全企業平均でいえば、1~2ヶ月の月商分しか現金を有していない。さらに、30%ほどの売上が減ったら赤字に陥る。これが日本企業の実態だ。

これまた、話は変わるようで変わらない。国土交通省の「都市における人の動きとその変化」という調査報告がある。80年代と現在を比較すると、コロナ禍に関わりなく、外出率、外出回数ともに減少傾向にあるとわかる。

少子高齢化によって、国民全体が加齢した側面はあるだろう。くわえて、移動をする必要がない社会がネットやスマホによって実現した。それによってECが流行・興隆していった。

さて、ここで、ここまでの事例をあげた意味を回収したいと思う。順に、忘年会、中小企業の経営体質、移動しない日本人、だった。これを現代の問題に結びつけるのであれば、居酒屋不況、中小企業の休廃業・倒産、リアル店舗の凋落、となるだろう。

現在、コロナ禍で居酒屋などの集団的飲食が危機にさらされている。中小企業も経営的な危機に陥っている。じゃぶじゃぶの融資でなんとか最悪時をしのいでも、今になって廃業の道を選択する経営者は多い。さらに、百貨店のような小売業は、顧客に訴求できず厳しい状況にある。

ここからわかるのは、一つの「不都合」な事実だ。それは、新型コロナウイルスは、新たな問題を提示していない。新型コロナウイルスによる自粛要請やら在宅やらは、旧来からの問題を加速させただけだった。

これまでも居酒屋的なビジネスモデルは再考が必要だったし、もともと中小企業の財務体質は危ういものだったし、小売のリアルからECへの移行は必然だった。重要なのでもう一度だけ強調すると新型コロナウイルスは旧来からの問題を加速させただけだった。

1という数字が一番悪い

いまだに新型コロナウイルスの発祥地は中国・武漢と認定できないが、事実として中国・武漢から新型コロナウイルスが騒がれだした2020年度のはじめ頃は大騒ぎだった。中国の工場が止まって、生産できない。運べない。それゆえに、日本へ輸出できない。

どうすればいいか。日本のなかではサプライチェーン関係者が侃々諤々の議論を交わした。やはり、中国への依存はいけないという意見が大半だった。日本に生産回帰するべきと主張する人も多かった。

しかし、その後にメキシコとブラジルをコロナ禍が襲い、中国以上の被害をもたらした。自動車産業に属している方であれば、生産が6月あたりまで止まり大被害だったとご記憶にあるだろう。皮肉なことに、いっぽうで、中国の生産は復活し、むしろ世界から命綱と考えられるようになっていった。

おそらくメキシコとブラジルは新型コロナウイルスの発祥ではない。しかし、もっとも影響を受けた。これは、示唆的だと私は思う。つまり、中国かどこかという二項対立ではない。分散が正解だと新型コロナは教えてくれた。

私の尊敬するマーケッターは「1という数字が一番悪い」と教えてくれた。一社だけの販売先、一社だけの仕入先。そのように集中していたら危機に弱い。もちろん、一社だけに販売したほうが、販売費や間接費は効率化して利益率は上がるかもしれない。ただリスクマネジメントとしては、販売先であれ調達先であれ、分散が何より正しい

2021年度に考えるべき戦略

2021年度の戦略、ならびに経営戦略はどう考えればいいだろうか。

いまさらながら、コロナ禍以前から認識していた問題を再認識したうえで解消することだ。そして1という数をできるだけ排除することだ。

政府や行政のコロナ対策でも再認識できたとおり、日本人は決めるのに時間がかかり、決まったことを修正するのはさらに時間がかかる。でも私たちに得た教訓を活かそうとすれば、2021年度にもっとも必要な経営戦略はレジリエンス(しなやかさ・柔軟さ)にほかならない。

私たちは実務家だから、まず見たくない現実を見ること。そして、これまで回避してきた問題に取り組むこと。トレンドなどは犬にでも食わせておけばいい。問題はそれぞれの会社に固有のはずだ。経営は勝つゲームではなく、負けないゲームだ。とにかく生き残ろう、稼ぐのはそれからだ。

ところで一つ問いたい。あなたの会社は目を背けずに、これまでも意識していた問題解消に取り組んだだろうか。2020年度の教訓があるとしたら、そのような形でしか、私はもはや信じることができない。

※本記事に掲載の会社名および製品名・ロゴマークは、それぞれの各社の商号、商標または登録商標です。

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