コラム

2021.02.15 06:00

RCEPの影響とは?中小企業に必要なグローバル経営

第6回 坂口孝則の今伝えたい経済トレンド
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執筆者

坂口 孝則

未来調達研究所株式会社所属。経営コンサルタント。コスト削減・原価・仕入れ等の専門家として企業向けコンサルティングや講演をおこない、日本テレビ「スッキリ」などテレビ・ラジオ等にも出演。著書は34冊を超える。近著に『未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019-2038』(幻冬舎刊)など。

トランプ、バイデン、物事は流転する

深夜まで酒を飲み交わし、未来の夢を語り合った人からあっさりと約束を破られた経験がないひとに、この感情を伝えるのは難しい。

20代のころ、中国の取引先を開拓して握手をした。相手はメーカー。しかし翌年には突然の取引停止の申し入れがあり、事情を聞くと不動産業に業態転換するという。類似例を何度も経験した。儲かりませんから、で終わり。もちろん、非合法ではなく倫理的に責める筋合いもない。

日本人は長期的な利益を追求しようという。ただ、投資と短期的な回収から事業を眺める人たちもいる。優劣はない。事実があるだけだ。

その後、独立して会社を作ってから「一緒に人生を賭ける」といっていた方々も離脱していった。「やりたいことが見つかりました。そもそも実は、今の事業はさほど興味がありませんでした。」

私は、このような経験から、物事が永続的だとはどうも信じられずにいる。

自慢だが、私は仕事の関係者から、常に新しいことをやっていますね、といわれる。ただ、それは現在が長続きするとはとても思えないからにすぎない。

話は変わるようだが、米国ではトランプ大統領からバイデン大統領になる。米国議会にトランプ氏の支持者が乱入し死者まで出た。そこから急速的にトランプ氏を支持していたメディアまでが批判にまわった。そしてリベラル派を中心に全否定となっている。

トランプ氏に名誉学位を与えていた大学すらも剥奪を検討するという。本来ならば、学問的な成果と現実の行動は関係がないにもかかわらず。さらに、世界への政策もあっさりと反故にされるかもしれない。

ただ、私からいわせれば、いつもの手のひら返しが起きただけのことだ。

国内回帰ではなく、さらに分散を

2019年から2020年に米中経済戦争が起きた際、「これからは中国ではなく、日本へ国内回帰するべきだ」と主張する人がいた。私は危ういと指摘した。

日本へ回帰するなら、日本の災害・為替リスクをすべて引き受けることになる。中国がダメだから他国へ移管すればいいわけではない。

おそらく新型コロナウイルスの発祥国ではないはずのブラジルやメキシコを見れば明らかではないか。彼らのほうが甚大な影響を受けている。サプライチェーンの世界では「1」がもっとも悪い数字といわれる。一つだけの販売先、一つだけの調達先、一つだけの生産地。

必要なのは、事業の安定化のための分散だ。私たちは商売人だから、目の前の相手にニコニコしながらも常に冷徹に代替案についても考えよう。投資の世界で「タマゴを一つの籠に盛るな」と至言がある。誰かのみに依存するのはきわめて危うい。信じるのは自社だけだ。

米国と中国の経済戦争の狭間に私たちはいる。しかし、味方と敵を決めるのは早い。現実は仮面ライダーとショッカーが闘っているわけではない。もっと複雑だ。いつ手のひら返しが起きるかはわからない。

思えば、ヒーローも悪玉も覆面を被っているではないか。覆面を見て、善と悪をわけるのは世論だ。商売人の私たちはふらふらと「戦略的どっちつかず」の態度をとるしかない。

RCEPと中小企業

分散や代替の意味でも、RCEP(※)は見逃せない。RCEPはASEAN10カ国等と結ぶ包括経済連携だ。品目数でいえば、対ASEANで88%、対中で86%、対韓で81%と輸入関税が大幅に撤廃される。

※:地域的な包括的経済連携(RCEP)協定(METI/経済産業省)

ただし、その恩恵を受けるためには輸入品の原産地認定等が必要になる。何をどこから調達すればいくらで、原材料や組み立てがどうなっているのか調査せねばならない。ただ、しっかり調査できれば強みだ。

あるいは取引先が日本国内の大企業としよう。大企業はRCEPを受けて、生産地がどこで、調達先がどこならばもっとも利益があるのかを模索している

組み合わせ次第では多数の選択肢がある。コストだけではなく、品質やキャパシティなども問題になる。答えはどの組み合わせか。どのように最適生産地・最適調達地をおこなえばいいか大企業は提案を待っている状況だ。

中小企業もRCEPの影響にしっかり取り組めば、便益を享受でき大企業へのPRに使える。時代の変化を好機に変えよう。

ところで「自由」という言葉を、好き勝手に振る舞う権利と勘違いしている人がいる。企業の「自由」とは、どんな状況でも、他社の奴隷にならずに経営の独立性を保つことにほかならない

その意味で選択肢を増やすために、販売・調達・生産の分散やRCEPの対応がある。

また製造業でなくてもさまざまなツールが充実してきた。有名なAmazonやeBayなど越境ECはあふれているし、YouTubeで動画を作れば多言語へ翻訳もしてくれる。また、Papercupなどネイティブがチェックしてくれる吹き替えサービスもある。

これらを中小企業は活用すべき時代に入っている。そして、なんとか国内でも販売先を分散するだけではなく、海外にも分散して経営基盤の強化を狙おう。

自主性を意識しなければ他社(者)から振り回されるだけだ。そうそう、自由=FREEには、他社から「タダ」で使われる意味もあるとお忘れなく。

※本記事に掲載の会社名および製品名・ロゴマークは、それぞれの各社の商号、商標または登録商標です。

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