事例集

2023.03.28 06:00

成形機をネットワーク化し全天周カメラも設置 機械と人の“見える化”を進め生産性大幅向上 笠原成形所(新潟県)

成形機をネットワーク化し全天周カメラも設置 機械と人の“見える化”を進め生産性大幅向上 笠原成形所(新潟県)
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新潟県でも豪雪地帯の南魚沼市にあって、最先端の医療を実現する手術支援ロボットに部品を提供しているのが、プラスチック部品の射出成形を行っている株式会社笠原成形所だ。「2年ほどかけて開発に携わらせていただいたもので、この夏対応する症例の手術に私たちの作る部品が使われました」と取締役専務の関正隆氏は解説する。「体に直接触れる部品だったため、安全性が求められました」(関専務)。取引先の要望に添って難しい部品を精密に作り上げ、厳重な検査を経て送り出す体制が、同社にはしっかりと整っている(TOP写真:オフィスでは正面のモニターで工場の様子が常に見られる)。

自動化と見える化でシンプルな工場

成形機が並んだ笠原成形所の本社工場

成形機が並んだ笠原成形所の本社工場

1973年創業の株式会社笠原成形所が、市内に2ヶ所ある工場で製造しているのは、自動車の電装部品に使われるコネクター類や半導体関連のICソケット、そして医療用ロボットの関節部品や内視鏡カメラの先端部品など医療関係の成形品。自動車、半導体、医療が3割ずつで他が1割といった割合だ。

手掛ける製品は年間で500種類と多岐に及ぶ。工場内もさぞや多くの成形機と従業員であふれかえっているかと思いきや、機械こそ建物の中いっぱいに置かれているものの、人は少ない。30台の成形機に対して従業員数は45人で、この中には検査を専門に行う人や、営業・事務といった人たちも含まれている。ほとんど成形機1台に従業員1人といった状況で工場を稼働させられるのも、「自動化と製造現場の “見える化”に取り組んだからです」(関専務)。

生産管理システム、プロジェクト管理システム、品質管理システムの全てを統合で管理し、即対応できる体制を構築

データに基づく生産体制の構築を徹底して行っている。同社では生産管理システムやプロジェクト管理システム、品質管理システム、そして業務の流れを一括で管理する統合管理システムを稼働させた。受発注から生産・検査を経て出荷まで、人の動きも含めたすべてを把握して、問題があればすぐに対応できるような体制を作り上げた。

成形機が並んだ笠原成形所の生産センター内

成形機が並んだ笠原成形所の生産センター内

生産管理システムでは、生産計画や稼働の実績を成形機の1台1台について記録しており、それらを分かりやすい図表にして表示できるようになっている。「以前は、機械が動いているか止まっているかを見ていただけでした」(関専務)。これを徐々にカスタマイズしていき、どれくらいの効率で生産しているかを “見える”ようにした。

品質管理システムでは、成形機をネットワーク上で接続して、稼働状況のログを常時記録できるようにした。どのような条件でどのような結果となったかもすべて把握し、最適な条件で生産することで品質の向上を目指している。取得したデータを分析することによって、成形業界向けの汎用的な品質診断AI生成を目指すデータサイエンス的な取り組みも、NTTデータの子会社と進めたという。

なぜ経営理念が「21世紀型職人を目指します」なのか?

上記のことから見えるのは、常に最高の結果を出すために、職人技に頼らず、個々の技術の蓄積を最初から徹底した仕組みとシステムにすることを基本に進めていること。一般的には、部分最適化では素晴らしいが、全体最適化では「?」という会社が多く、それが日本全体の生産性の低さにつながっている。しかし、笠原成形所では最高の結果を出すための全体最適化を一番に考え、そのための部分最適化を求めている。当然ハードルは非常に高いが、組織をシンプルにしながら、「できる!」という信念を持って粘り強く実行している。経営理念の「21世紀型職人を目指します」という言葉通りの経営が実践されている。

全天周カメラで人の動きを記録しアクシデント時に活用

「機械の情報はつぶさに吸い上げることができる体制になりました。次の段階として、人の動きが品質に影響する部分を調べて、生産に反映させられるようにしました」(関専務)。機械だけでなく人の動きも把握することで効率化に役立つような取り組みで、1年ほど前に工場内に全天周カメラを設置して、人がどのように動いているのかを常に記録できるようにした。

常に見張られているという状況もあって、「管理強化になるのではといった声も最初はありました」(関専務)。もっとも、狙いはそうした勤怠管理ではない。効率的な動き方を見つけ出して、生産性に反映させようという目的だ。「射出成形という作業は、成形機単体では成り立ちません。1台の成形機に対して様々な付帯設備についても設定を行う必要があります。金型を温める温度をコントロールしたり、充填する樹脂をあらかじめ乾燥させておいたりといった準備も必要です。できあがった製品を取り出して搬送するコンベアも連動しています」(関専務)。

工場内の様子がカメラで捉えられ記録されてい

工場内の様子がカメラで捉えられ記録されている

それだけの手順を踏んで、ようやく1台の機械を動かせるようになっているラインが止まってしまった時、どのような手順で再起動をかけるかが問題となる。「手順を間違えると大きな事故につながるからです」(関専務)。どのような手順でエラーを処置していったかをカメラによって記録しておくことで、同じようなアクシデントが起こった時に対処できるようになる。「導入から1年も経つと、現場が自分たちはどのようなパターンで動いたのかを確認して、教育するツールとして積極的に活用するようになりました」(関専務)。

従業員一人ひとりに端末を配布し、現場から入力できるようにした

日々の業務をこなしながらシステムの更新を進めるのは大変だが、同社の場合はここに、コロナという事態が好機として働いた。仕事が減り、従業員が月に2日ほど休業することを1年ほど続けた。その間にデジタル化を進め、Wi-Fiを使ったネットワークを構築したのだ。「この先、仕事が元に戻らない可能性もあるわけです。それなら効率化のためのデジタル化が、より必要となってきます」(関専務)。ピンチをチャンスに変える発想で世紀の難事を乗り越えようとした。

従業員にタブレットを配布したのも、この時期だ。データを現場から入力できるようにしたことで、会社が日々変わる業務の進捗状況を把握できるようになった。現場でも端末でデータを閲覧して指示などに即応したり、従業員間でコミュニケーションをとったりできるようになった。
「定期的に昼休み明けにミーティングを開いたり、その日の生産を確認する上で、進捗状況を確認したりしています」と品質管理課課長の高橋真人氏。「工場が2ヶ所に分かれているのですが、会議のために行き来しなくてよくなりました」(高橋課長)。

笠原成形所の高橋真人品質管理課長

笠原成形所の高橋真人品質管理課長

端末は20台ほどを調達したが、部門によって機器を分けているのも特色だ。「成形品をチェックする外観検査員は仕様書の閲覧がメインの用途なので、キーボードがないタブレットタイプにしました。機器の点検もタブレットでチェックを入れていくタイプですが、現場で機械と向き合っているオペレーターは、状況を入力するためキーボード付きです」 (高橋課長)。一連のDX改革によって生産性は飛躍的に向上したという。

会社のスローガンは、「まず動く」

こうした積極的な改革が進むのは、会社を率いる笠原利博社長の強いリーダーシップがあるからだ。従業員が付けている社員証には、「まず動く」という笠原社長が掲げたスローガンが書かれている。「考えるよりまず行動して、失敗したら戻って違う方へと舵を切ればよいと言ってくれています」(関専務)。現場もそうした思想に沿って改革に取り組み、改良を重ねながら実績を積み上げてきた。

高額だが有用な検査機器を導入して検査効率を高めた

高額だが有用な検査機器を導入して検査効率を高めた

成形品の検査に使う高額な測定器の導入も、笠原社長の指揮によるものだ。ある部品の測定結果を出力すると、QRコードが表示される。次に同じ部品を測定する際にQRコードを測定器のステージにかざすだけで、同じ測定プログラムが呼び出せるという。「過去の記録をパソコンで検索して読み出すより、大幅な時間短縮につながりました」 (高橋課長)。これをさらに進めて、QRコードの情報を生産指示書にも添付して、現場でプログラムに沿った測定検査が行えるようになったという。

従業員のスキルアップのため資格取得を推進

従業員の資格取得も奨励している。業務に必要な射出成形の技能検定は合格するまで費用を会社が負担し、取得すれば給与に手当を上乗せする。また、「Microsoftの認定資格を全員が取得しようということで、5人から7人ずつのグループで半年間かけて教育を実施し試験を受けに行きました」(関専務)。急速に進むDX化についていくために欠かせないスキルと言えるが、「社長は、たとえ笠原成形所を巣立っても役に立つからと言って取得を奨めています」(関専務)。会社のためでもあるが、同時に従業員のためにもなる施策を通して、より結束力が高まるといったところだろう。

左から笠原成形所の笠原俊取締役、品質管理課の高橋真人課長

左から笠原成形所の笠原俊取締役、品質管理課の高橋真人課長

事業の柱の一つとして、取り組みの成果が出てきている医療関係を伸ばして将来に備えようとしている。笠原社長の子息となる笠原俊取締役も週のうちの半分は首都圏に出向いて、新規の取引先開拓に取り組んでいるという。取材の最後に笠原取締役と高橋課長が「これからもっと成長するために先行している企業の見学を積極的に行いたい」と語り、貪欲に学ぶ姿勢が見えた。システムの面でも人の面でも、次代に向けた取り組みが着々と進められているところに、同社の将来性がありそうだ。

株式会社笠原成形所

株式会社笠原成形所

事業概要

会社名

株式会社笠原成形所

本社

新潟県南魚沼市五日町335-1

電話

025-776-2141

設立

1973年

従業員数

45人

事業内容

自動車用部品、医療機器用部品等のプラスチック射出成形品の製造

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