事例集

2023.03.09 06:00

課題は運行と労務管理データの連携、2024年問題への対応を練る 山信運輸(長野県)

課題は運行と労務管理データの連携、2024年問題への対応を練る 山信運輸(長野県)
関連記事のお知らせを受け取る
問い合わせをする

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

2024年4月から運輸業界の残業規制が始まる。トラックドライバーの残業時間に上限を設けるという新ルールだが、対応に苦慮する運送会社は少なくない。長野県を中心に一般貨物や食品の冷凍・冷蔵輸送を展開している株式会社山信運輸に現状を取材した。(TOP写真:株式会社山信運輸を率いる滝澤正明代表取締役)

36歳で運送会社トップに就任、「世間に恥ずかしくない会社」めざす

株式会社山信運輸は1969年創業、代表取締役は滝澤正明氏(68歳)だ。創業者の父が病を得て46歳で早世した時はまだ学生で、父の部下だった2人のトップを中継ぎに、4人目の社長に就任したのは36歳の時だった。

社長就任後、最初に手をつけたのが「普通の会社にすること」だった。「当時は、今の3分の1の規模で、トラックで荷物を運ぶだけ。福利厚生も含め、会社としての組織づくりができていなかった」という。新社長は「きちっとした組織をつくって、世間に恥ずかしくない会社にしたい」と、有限限会社から株式会社に移行。創業当時から得意としてきた乳製品の配送のほか、一般貨物の取引先も開拓して事業を広げた。

現在、同社の従業員数はアルバイト・パートを含め約120人。うち約55人がドライバーで、保有トラック数は約50台。売上比率は主力の全農向けの食品が6割弱、次いで八ヶ岳乳業が約2割、雪印メグミルク関係などが2割弱だ。「ちょっと偏りがあるので、主力を減らすのではなく他の分野の売上を増やしていきたい」と滝澤社長。強みを持つ食品の冷凍・冷蔵運送を中心に売上を伸ばしていく考えだ。

信頼する横山誠専務(左)と笑顔で話す

信頼する横山誠専務(左)と笑顔で話す

2024年問題に直面、「運送会社にできることは限られている」

業容を順調に伸ばしてきた同社は今、「2024年問題」に直面している。国の働き方改革で、これまで据え置かれていた自動車運転者(ドライバー)の時間外労働(残業)が2024年4月から一般業務と同じ年960時間に制限されるのだ。残業時間が短縮できないと、労働基準局の罰則規定が適用になる。最悪の場合は車両運行停止ということにもなりかねない。

「ハードルはむちゃくちゃ高い。2024年までに実行できる運送会社はほとんどないのではないか」と懸念を隠さないのは同社の横山誠専務執行役員だ。トラックドライバーには、走るだけではなく積み下ろしの付帯作業がある。「荷下ろしのために列を作り、ただ待っているだけという時間も多く、これがすべて拘束時間になる。この時間を縮めることができるのは荷主さん次第なのです」と話す。滝澤社長も「運送会社はお客さんである荷主さんありきなので、我々の努力でできる範囲は限られてしまう。まず荷主さんがしっかりと理解してくれた中で一緒に整備していかないと」と補足する。

規制強化の影響で売上・利益減少やドライバー士気低下の可能性もあり、しっかり対応していく

残業規制強化の影響は少なくない。ドライバー1人あたりが運ぶ荷物量が減り、売上や利益の減少が予想される。同社はドライバーの残業代にかかる人件費が、荷主からもらう運賃における人件費を上回ったとしても、ドライバーにはかかった残業代を支払っている。昨今の燃料費の高騰で、燃料単価が1円上がると車両にかかる燃料経費が年間80〜100万円に膨れ上がっており、ただでさえ綱渡りの資金繰りが、さらに苦しくなる見通しだ。

「規制をクリアするには、現在の配送コースを見直して運送時間を短縮し、ドライバーを増やして1人あたりの分担を減らすことです。ただ、残業時間が減るとドライバーの給料が減る。稼ぎたい人からみれば稼げなくなる」と横山専務。ドライバーの士気低下や離職につながる恐れもあり「しっかり対応していきたい」と語る。

2024年問題は、グループ会社の食品会社運営と運送という良さを生かして荷主と連携を深めていく

運送会社でありながら食肉加工のサンフレッシュ食品をグループ会社に持つ

運送会社でありながら食肉加工のサンフレッシュ食品をグループ会社に持つ

山信運輸の対応策について横山専務は「まずは何が障害になるのか、社内であぶり出しを始めたところ。そのうえで荷主さんにお願いしなきゃいけないところを早めに提案していく方針です」と話す。

荷主との連携では2012年に設立したグループ会社、株式会社サンフレッシュ食品の運営が役に立つ。長野県農協直販株式会社の協力会社として信州産の食肉や牛乳・卵などを地元飲食店や宿泊施設に卸す総合食品会社で、食肉加工・販売・物流事業を展開している。同社の企画管理部長も兼ねている横山専務は「運送だけじゃなく、同じ荷主でもある。両方の立場で話ができる。トラックがスムーズに動けるようにお互いが話をして、新たな物流網を一緒に構築していく流れにしたい」と考えている。

グループ会社のサンフレッシュ食品は、これから成長が期待される会社だ。2023年春先の完成を目標に新しくホームページを作成中だ。「ページを訪れる人たちが見たくなる楽しい画像や動画をたくさん取り入れたい」と横山専務。ホームページで同社をPRし、新規顧客の開拓のほか、同社で働く人材の確保に役立てたいと思っている。

今後の課題は運行管理と労務管理のデータ連携

2024年問題について滝澤社長は「会社の存続を考えると、多少背伸びをしてもクリアすべきものはしていかないと。『他社がこうやっているから、うちも』というわけにはいかない。しっかりと向き合っていく」と話す。

次の課題は運行管理と労務管理の連携だろう。同社はトラックの運行管理に自動的に運行状況が記録される「デジタルタコグラフ」を導入しているが、ドライバーの割増賃金の計算は総務課が手作業で行っている。運行データと労務管理の連携はこれからだが、残業規制が強化されれば、業務効率化のためにもドライバーの勤怠管理のデータ化は避けて通れない。2024年問題を機に同社のICT化はさらに進みそうだ。

交通事故防止へ「こどもミュージアムプロジェクト」に参加

保育園児の描いた絵でラッピングした同社のトラック

保育園児の描いた絵でラッピングした同社のトラック

1969年の設立から数えて50周年目にあたる2019年、同社は一般社団法人こどもミュージアムプロジェクト協会の会員になった。

この協会は子どもたちが描いた絵でトラックをラッピングする「こどもミュージアム」を全国の運送会社に広める活動をしている。運送業界には交通事故のリスクがつきもの。大阪府高槻市の株式会社宮田運輸では、あるドライバーが「お父さん、安全運転してね」と自分の子どもが描いた絵を運転席に飾っていた。同社トップは「その絵をトラックの車体に描けばもっと励みになるのではないか、全国の運輸会社に参加を募り、広げていきたい」と考えた。それが同協会の始まりで、現在の会員数は山信運輸を含め約300社にのぼる。

近所の保育園の園児たちが描いた絵をラッピングした山信運輸のトラックは現在9台。「ラッピング1号車を作って走らせたら、後続車にあおり運転をされることがなくなった。高速道路のサービスエリアで停まっていると、他社のドライバーたちが『何これ?』と子どもたちの絵を見に集まる」と横山専務。交通事故防止に向けた効果は上々のようだ。

プロサッカーチーム「松本山雅フットボールクラブ」もサポートしている

プロサッカーチーム「松本山雅フットボールクラブ」もサポートしている

目標はビッグカンパニーではなく「グッドカンパニー」

父親が亡くなった年齢をはるかに超えた68歳の滝澤社長だが、「父を超えたとは全く思っていない。親父がいなかったら運送会社をやるなんて考えもしなかっただろう」と話す。

その上で「僕はまだ辞めるわけにいかない。辞めてしまったら、今まで僕についてきてくれた社員はどうなる。荷主さんだって、『滝澤だから発注したのに』となる。いろんなことを考えると辞めるデメリットが大きすぎる」とリタイアはまだまだ先と表明。最後に「ビックカンパニーではなくグッドカンパニーを目指している。規模が小さくても、どんな波風に遭ってもびくともしない会社にしたい。そうしないと社員を護り養っていけないですから」とトップリーダーの覚悟を示した。

会社概要

会社名

株式会社山信運輸

住所

長野県諏訪市大字中洲5502番地21

電話

0266-53-5679

HP

http://yamashin-unyu.co.jp/

設立

1969年11月24日

従業員数

120人(アルバイト・パート含む)

事業内容

一般区域貨物自動車運送事業、貨物取扱事業、引越事業、農畜産物・青果物・水産物・加工食料品及び冷凍食品の販売、産業廃棄物収集運搬業、チルド輸送

関連記事のお知らせを受け取る
問い合わせをする