事例集

2023.03.03 06:00

震災乗り越えた年中無休の眼科病院 院内のデジタル化は待ち時間減少に一役 新長田眼科病院(兵庫県)

震災乗り越えた年中無休の眼科病院 院内のデジタル化は待ち時間減少に一役 新長田眼科病院(兵庫県)
関連記事のお知らせを受け取る
問い合わせをする

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

山中弘光理事長が1978年に開設した眼科医院が母体の医療法人社団新長田眼科病院は、1995年の阪神淡路大震災で診療所ビルが全焼した。山中理事長の脳裏には「再開不能」との思いもよぎったが、「年中無休」の診療体制は地域に必要不可欠な存在。不屈の精神で1年後にビルを新設し、2012年には研修医を受け入れる眼科専門病院となった。電子カルテ全面導入などICTの充実もめざましく、2023年春には緑内障など3つの専門科外来を設けてより多くの地域貢献を目指している。(TOP写真:5階建てのビルに病床が20床ある新長田眼科病院)

神戸大眼科講師を経て眼科医院開設

山中眼科医院を開設した山中弘光理事長

山中眼科医院を開設した山中弘光理事長

山中弘光理事長は神戸大学医学部卒業後、同大眼科助手、講師を経て1978年4月に神戸市長田区のJR新長田駅近くのビル一室に山中眼科医院を開設した。1人で外来診療を行う中、入院手術の必要性を感じ、医院に近い土地を購入して地上5階地下1階のビルを新設。1989年に神戸大学出身の門田正義医師を迎え、19床の有床診療所の新長田眼科を開設した。
休日の眼科診療が不足していたことから、長田区医師会会長の依頼を受けて外来診療は年中無休にすることを決断。神戸大学眼科医局からの医師の応援も得て、年中無休の診療所は地域にとって欠かせない存在となった。

阪神淡路大震災で診療所ビルが全焼

しかし、1995年1月17日午前5時46分に状況は暗転した。六甲山麓にあった山中理事長の自宅は阪神淡路大震災の強い揺れにも耐え、山中理事長はすぐにマイカーに乗り込んだ。診療所に向かう道中、停電により信号機は作動せず、道路はあちこちで陥没。倒壊した建物も多くあった。幸い、診療所の5階建てビルは倒壊することなく、15人の入院患者は着替えを済ませて待合室に座り、当直の看護師が負傷した近所の人たちのケガの処置などをしていた。各階では備品が倒れ、5階の事務室は足の踏み場もない状況だったが、倒壊を免かれただけでも幸いといえた。

震災直後の診療所

震災直後の診療所

しかし、100メートルほど東側で発生した火の手は容赦がなかった。山中理事長らが近所の人たちと協力して被災者の救出作業にあたっているうちに猛火が間近に。入院患者らを中学校に避難させた直後には類焼を免がれない状況になっており、貴重品などを持ち出すのがやっと。診療所のほぼすべてが灰塵(かいじん)と化してしまった。

解散危機を乗り越え、翌年4月に再建

本格再開当時のビル

本格再開当時のビル

電気、水道、ガス、電話の全てのライフラインが途絶した中、後片づけ、清掃と並行して知り合いの電気工事業者、設備工事業者に突貫工事を依頼。2週間後の2月1日、焼け跡の1階だけを使い、ガス・水道・電話もない状態で外来診療を再開させた。ただ、すぐに頭をもたげたのが、看護師らスタッフのこと。入院治療再開のめどが立たない限り、スタッフの将来不安につながる。
「3月末までに本格再開の可否について結論を出す」
「最悪の場合、解散するかもしれない」
スタッフを前に山中理事長は正直に語り、再建場所の確保などに奔走。幸い元の場所近くに土地が見つかり、19床の同規模の7階建ての建物を建設。1年余りで本格再開させることができた。

2009年の再移転時に電子カルテ一部導入、2019年にすべてが電子カルテに

2009年4月には現在地に19床の診療所ビルを新設、移転。5階建てのビルには手術室が3室あり、最新の眼科医療機器や電子カルテシステムも一部導入した。

広々とした待合室は、ゆったりした気分にさせてくれる

広々とした待合室は、ゆったりした気分にさせてくれる

電子カルテの旗振り役は、山中理事長の妻、山中陽子事務長。当初は病棟や手術記録だけだった電子カルテは2019年に全面的に導入された。椋野洋和院長は「山中事務長の積極性がなければ、早期の全面導入は無理だった」と話す。

ICT化の効果について話す吉富幸徳IT推進室長(左から)、寺田揺子外来看護主任、苅田美香医事課長、西谷聡美検査主任

ICT化の効果について話す吉富幸徳IT推進室長(左から)、寺田揺子外来看護主任、苅田美香医事課長、西谷聡美検査主任

電子カルテの全面導入などで、患者が何人来て、どんな検査で何人が待っているかがリアルタイムで把握できるようになった。寺田揺子外来看護主任は「診療や検査をスムーズに行えるようになった結果『待ち時間が長い』との声は減っていると思う」と話す。

手術同意書等の紙は複合機のバーコードスキャンで自動保存、は現場の発案

電子カルテの全面導入に際しては、現場の声も反映してICT化に取り組んだ。その一つが複合機のバーコードスキャン機能。手術同意書といった患者の署名が必要な書類など、医療事務にはどうしても紙が残る。そのデータをどうすれば電子カルテに効率よく確実に取り込めるかを考えた現場から、「個々の患者に設定したバーコードを読み取ってから同意書をスキャンすればいい」との声が挙がった。
この機能を複合機に追加したことで、同意書はスキャンするだけで特定の患者のフォルダに確実に保管されることになった。西谷聡美検査主任は「検査結果がデータで送られるようになったので、検査結果を4枚、5枚とプリントアウトして医師のところに持っていく手間がなくなり、次の患者の検査をすぐに行えるようになった」と話す。

複合機でバーコードを読み込ませることで、特定の患者のフォルダにスキャンデータが格納される

複合機でバーコードを読み込ませることで、特定の患者のフォルダにスキャンデータが格納される

バーコードを読み取れば、検査結果は個々の患者専用のフォルダに保管される

バーコードを読み取れば、検査結果は個々の患者専用のフォルダに保管される

地域医療の充実に加え、次世代育成にも貢献

ICT化に取り組む一方で力を入れてきたのが、次世代の育成。2012年に病床を1床追加し、有床診療所から眼科専門病院として認可を取得したことで、日本眼科学会専門医制度研修施設となり、後進の育成に本格的に取り組み始めた。

また、神戸大眼科出身の椋野院長が2013年に着任。専門の角膜の知識を生かし、2016年からは全身麻酔による角膜移植手術を始めた。部分麻酔だと起こりうる危険な合併症をほぼ避けられることが評価されており、地域医療の充実につながった。

全身麻酔で角膜移植手術ができる手術室

全身麻酔で角膜移植手術ができる手術室

3つの専門外来新設、将来は遠隔医療も

2013年から新長田眼科病院に勤務している椋野洋和院長

2013年から新長田眼科病院に勤務している椋野洋和院長

ICTによる効率性が高まる中、今春から新たに取り組むのが、神戸大眼科の医師に来てもらって開設する緑内障など3つの専門外来。椋野院長は「全体を見るのも大切だが、専門性を高めるのも大切。そのバランスを大事にして取り組みたい」と話す。

椋野院長がICT化に見い出している新たな可能性がある。遠隔医療だ。「今の遠隔医療は過疎地対策として考えられているが、自宅で計測できる脈拍などのバイタルデータが増えていけば、都市部でも使えるようになるかもしれない」と話す。
ICT化を進める新長田眼科病院の先進性は診療内容にとどまらず、診療方法でもますます高まっていきそうだ。

事業概要

病院名

医療法人社団 新長田眼科病院

所在地

兵庫県神戸市長田区腕塚町4-1-13

電話

078-631-1010

HP

http://ganka.jp/

開業

1978年4月

従業員数

常勤医師5名、非常勤医師1人名含め約70名

事業内容

眼科専門病院(病床20床)

関連記事のお知らせを受け取る
問い合わせをする